旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第119話 絶望と憎悪の力

 

 

 女神の姿を取り戻したセレシア。だがその表情は未だ冴えない。

 

 衝撃で砕け散った強大なエルギオスの負の力の行方が、どうにも気がかりなのだ。

 地上へも降り注いだそれは、今もどこかで絶望と憎悪を放っているのだから…。

 

 

 セレシアは地上の守り人となったナインを呼び寄せた。

 

 

「以上の事、私としてはどうしても放っておけないのです。ナインよ、再び力を貸してはくれませんか」

「もちろんです女神様。今回もサチと一緒に…」

「いいえ。サチは呼びません」

 

「え?どうしてですか」

 

 

「ナインよ。あなたは地上の守り人であり勇者なのです。あなたの力があれば問題ありません」

「僕が勇者…ですか」

 

 戸惑いつつも、サチを巻き込む事を心苦しく思ったナインは、快く受け入れた。

 

「分かりました。どのように対処すればよいでしょうか」

 

 

「これをお持ちなさい」

 

 差し出されたのは細い一本の枝。

 

 

「これは世界樹の枝、私の体の一部だったものです。呪われた力の在り処へと導くでしょう。この枝に悪しき力を宿し、誰にも知られぬ場所へ封印してほしいのです」

「分かりました、お任せください。必ず成し遂げてみせます」

 

 

「神をも引き裂く力が、再び悲劇を起こさぬよう祈っています…」

 

 

 

 

 

 こうしてナインは再び役目を与えられ、世界中を旅する事となった。

 

 

「今回の旅は仲間なしかぁ。…まあ、仕方ないよね」

 

 

 一人で旅を続けるナインに突然後ろから声が掛かった。

 

「勇者ナインだね。キミに話がある」

 

 

 振り返ってすぐに気づく。例え人間になっても一目で分かるある事に。

 

「君は…もしかして天使?」

「ああ。私はラヴィエル。閉ざされた運命の扉をこの手で開く者だ」

 

「待って、天使は皆、とっくに役目を終えて星になったはずじゃ…」

「ここにいるのだから、そうならなかったのだ。それよりキミに頼みがある」

 

 

 若干不審に思うも、ナインは突如現れた元同族に興味が湧いた。

 

「僕に出来る事なら。っていうか、僕本当に勇者なんだね」

「??」

「ううん、こっちの話」

 

 

 ラヴィエルの話によれば、星の瞬きが何かを伝えようとしているらしい。

 それを知るため、神の国のセレシアに会って聞きたいのだと。

 

「私は自ら天使界を離れた身。かの国に赴く訳には行かない」

 

「分かった、聞いて来ればいいんだね。待ってて」

 

 

 

 

 ナインはすぐに天の箱舟で神の国へと向かう。

 

「とんぼ返りする事になっちゃったなぁ」

 

 

 

 行ってみれば、セレシアはナインがラヴィエルに会った事を知っていた。

 そして告げる。その星の瞬きは、エルギオスの無念であると。

 

 であれば、今回仰せつかったお役目を全うすれば無念も幾らか晴れるかもしれない。

 

 

 

 そんな訳で、ナインの旅にラヴィエルという仲間が加わった。

 

 

 

・・・

 

 

 

 枝の示す方へ足を進めるナインとラヴィエル。

 

 

 まずは草木も生えぬ大地だ。

 村人の話では、いくらこの地に作物を植えても枯れてしまうのだとか。

 

 やがて枝が光り出した。

 この地に呪われた力の一部が埋まっているようだ。

 

「見つけたね。で、どうすればいいんだっけ」

「知らないのか?」

「う~ん…」

 

 試しにナインは枝を大地に突き刺してみた。

 すると、力が枝の中へと吸い込まれる感覚が。

 

 

「できた!こういう作業をして回るって事だね」

「なるほど。さほど難しくはないようだな」

 

 

 とその時、一人の銀髪ロングの女性が現れた。

 

「大地に鼓動が蘇ったみたいね。私にはないものだけれど」

 

 

「キミは誰だ?」

「私はあるものを探して旅をしているの。残念だけどここにはなかったわ」

「探し物って?」

 

 

「これでここは緑豊かな大地に生まれ変わるでしょうね。じゃあ私はこれで」

 

 

 質問に答える事もなく立ち去った女性を見送りながら思う。

 不思議な雰囲気の人だったと。

 

 まるで同じ天使族のような?

 

 

 

「ところで、なぜラヴィエルは地上にいるの?」

「エルギオス様を知っているだろう」

 

「もちろん。大天使様だよね」

 

 彼が堕天使となった事はあえて口にせず。その他もろもろの諸事情についても。

 

 

「エルギオス様は人間を守るため地上に降り、そのまま戻らなかった。天使界は大騒ぎだったが、私はあの方を信じている。確かめるためにここへ来たのだ」

 

「ラヴィエルが星空の守り人にならなかったのは、真実を知るためだったんだね」

「私は後悔していない。人間を信じ正しく導く事こそ天使の本分。エルギオス様は最後までそれを全うしたかったはずだ」

 

「そう願いたいけどね」

 

 

「地上で暮らす人間のためにも、残された呪いを封印せねば。急ぎ次に行こう」

 

 

 

 

 こうして二人は世界中を巡り、ようやく全ての呪いが世界樹の枝に宿された。

 

 

 その枝はいつしか大剣のような見た目になっていた。

 それはまるで、世界を引き裂くために生み出されたような禍々しい剣に…。

 

 

「それだけ、宿された絶望と憎悪の力が強大なのだ」

「これは確かに、誰にも知られない場所に封印した方がいいね。でも、地に埋めても海に沈めても、いずれ誰かに見つかりそうだよ」

 

 

 そこでラヴィエルが運命の扉を開く事を決断する。

 

 それは天使しか開けない扉だ。

 今この世でそれができるのはラヴィエル、そして元守護天使で役目を与えられたナインだけ。

 

 

「エルギオス様の無念を晴らすためにも、私が責任を持って封じよう」

 

 

 

 こうして力は無事に封じられた。

 

 

 

・・・

 

 

 

 現在に時を戻す。

 

 世界樹の立つ浮き島にて。

 再び世界樹の姿となった女神セレシアは、世界の行く末を案じていた。

 

 

『出来る事なら永遠に封じておきたかった。ですが、あの力なくしては、この世界は恐らく…』

 

 

 

 

 

 

 

 

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