第120話 ただならぬ予兆
イフレムの国では、一大イベントの準備で大忙しであった。
「兄様、記念城で行われる式典の準備はお済みなのですか?」
「準備ったって、サチ達と記念日を祝ってお祭り騒ぎするだけだろ?ああ、酒の準備か!」
「はぁ…。おめでたい席とは言え、次期国王として、粗相のないように…」
こんな会話の最中、突然その場が揺れた。
そこへ兵が駆け込む。
「王子、王女!町が魔物に襲われています!」
「何だと?!今の揺れは魔物の仕業か?」
ブレズが慌てて窓に駆け寄る。
そこからは町で暴れる翼を生やした魔物が見えた。
「ウソだろ?あれってまさか…」
「兄様!危ないっ」
窓から飛び込んで来たその翼の魔物がブレズを襲う。
寸でのところでフラメがガードし、ブレズは床に転がされる。
「おいフラメ…!何で俺を庇った?バカ野郎っ」
次々と魔物が飛び込んで来て、フラメの安否も確認できないまま城内で戦いが繰り広げられた。
「クッソ!一体何がどうなっていやがる?」
・・・
その頃サチ達は、フォズの呼び出しでダーマ神殿を訪れていた。
正体不明の魔物の大群が各地を襲っており、救助を求める連絡が世界中から入っているのだとか。
「しかし、冒険者達が招集されて討伐して回る事態なんて始めてだな」
「そこまで魔物が増えたって事だわね」
「この先、どうなっちゃうんだろう…」
不安そうにする面々とは裏腹に、一人ウキウキしているサチ。
「姉さま来てるかなっ、来てる、絶対!」
サチの足はいつにも増して早い。
「ちょっとサチ!いくら何でも早すぎ、もっとペース落としてー」
「同感、付いて行けないっ、待ってー」
すでにアイミーは息も絶え絶えだ。
「二人はゆっくり来て!向こうで待ってるから!」
そんなこんなでサチとボシュが先にダーマ神殿に到着した。
そこに念願のパーティの姿があったから堪らない。
「姉さまーっ!!」
「おお。サチか。久しいな、変わらずの姿で…何よりだ」
「姉さまもお元気そうで。あの、ニンジャになるという話って…」
「ああ。一度考えたがやめた。今はまた魔剣士に戻った。なぜそれを知っておる?」
愛用武器の大剣を掲げて首を傾げるドラちん。
「そう、なんですか…。皆が言うように、あれはただの夢だったのね…」
「あら?サチじゃな~い!何か立派になった?どこがって言われても困るけど!ねえねえ、そっちのイケメン男子、名前何だっけ?」
あっさりララの視線はボシュに向く。
以前の奇抜な衣装ではなく、落ち着いた白系の大神官らしい格好になっている。
「ボシュ、っす」
「そうそう、ボシュ君!相変わらずカワイイ~っ、ちょっとあっちで遊ばない?もち二人でっ」
「…え。あっ、遊ぶ?!」
「おい。俺の弟子の初心なパーティメンバーをナンパするでない」
「フンだ、ドラちんたら。ナンパじゃないもん」
「そ、それよりララさん、その衣裳ステキ。大神官っぽい!」
「残念だけどアタシ、今大神官じゃないの」
「え。そうなの?」
「守り人やってまーす!ちなみに武器はこれね」
そう言って持ち出したのは何とゴツい鉄球。
二人が口を開けたまま呆然となったのは言うまでもない。
「俺達はすぐに発つ。サチよ、また会おう」
「え~!もう?まだ後の二人が到着してないの。もう少しだけ待って!」
「そう言えば姿が見えんな。別行動しているか」
「結果的にそうなった、だな」
不思議そうにするドラちんに、ボシュが解説を加える。
「姉さん愛の強さが原因で!…っ」
調子に乗って続けたボシュだが、無言になるドラちんに怖気づく。
気づかれない程度に距離を取った事には幸い誰も気づいていない。
「姉さまのとこの人達もいないわ」
「向こうにいる。アイツらはすぐに騒ぎ出すので好きにさせているのだ」
「変わってないね。ふふっ!」
ドラちんが顎で示した先に、見知った顔が二つ。別の冒険者達と会話している。
「姉さま、私達も話に加わろう!ほらボシュも行くよ!」
サチがドラちんの手を掴んで走り出す。もちろんボシュの手は掴まない。
「何でそっちだけなんだよ?」
ちょっぴり手を掴んでほしかったボシュであった。
向かった先では、タイタンとリョウが、レグナとラシーンを交えて語り合っていた。
「おーい!」
「ん?サチじゃねえか。お前まで駆り出されるとは、よっぽど人出足りてないんだなぁ」
「同感!お、少し成長したか?胸が」
「いや~変わってね~だろ?」
「何の話してるの?」
「何の話だ」
ドラちんに睨まれた二人はそっぽを向いてとぼける。
サチの胸の話などと言えばボコボコにされる事間違いなしである。
「真面目な話だ。なあレグナ?」
「…俺に振るな!サチ、いいところに。どうやら今回暴れ回ってる魔物共、少し前にお前達が戦った四天王に良く似てるらしいぜ」
「ただの偶然じゃなさそうだよ。何らかの関係があると思うんだ」
「どういう事?」
タイタンとレグナ、ラシーンの会話に女性の声が加わる。
新たな人物の登場だ。黄緑色のボブに、緑の瞳の活発そうな女性だ。
「四天王だか子煩悩だか知らないけど、悪いヤツはボコボコにしてやるわ!ねえドラちん?」
「ヴェル。お前も来ていたか」
「もちよ。世界の危機に登場しないなんてどうかしてる。ねえ?そっちのロングの子、初めましてね」
「俺の弟子だ」
「ええっ?!ドラちんの弟子?!ウソでしょ、あり得ないっ」
「驚きすぎだ。今はもう立派にパーティのリーダーをしている。サチ。自分で挨拶しろ」
「はい!初めましてサチです。こっちはボシュ。よろしくお願いします。ドラちん姉さまの、唯一の、弟子ですっ」
唯一、と強調して自慢げに胸を張るサチ。
「ふ~ん。ま。別にいいけど。私はヴェルよ。魔女の血筋だけど、魔女と思われるのはイヤなの」
「えっと…?」
サチが返答に困ってドラちんを見る。
「コホン…。要するにこ奴は反抗期なのだ」
「あー!ドラちん?それ悪口でしょー!」
「そうではない。ヴェル、向こうで誰かが呼んでいるようだぞ、行ってやれ」
「え、そう?私ったら人気者~♪じゃあね」
ヴェルと入れ替わりにリリとアイミーが遅れて到着した。
「着いたぁ…。マジ疲れたっ」
「あ、お姉さんっ」
「ドラちんさん…こ、こんにちは!」
「ようやく来たようだぞ、これでメンバーが揃ったか」
「二人とも、そんなに慌てなくても良かったのに」
「さっきまで早くしろってイラ立ってたぜ」
ギョッとするサチに、あろう事かドラちんが続く。
「俺に会わせたいから、とかな。会ったぞ、これで満足か?サチ」
「…姉さまもボシュもイジワルっ。でもイラ立ってはないからね?」
そこへタイミング良くフォズが現れた。
「皆さん。お集まりいただき恐縮です。急ぎ話を聞いてください!」
冒険者達が雑談をやめてフォズに注目する。
「すでに第一陣、第二陣の皆さんに各方面に散っていただいております。ついては、皆さんもそれぞれ担当を決めて魔物の制圧をお願いしたいのです」
「はい!私姉さまと一緒に…っ」
「話を聞いていたのか?散れと言われたのだぞ」
「でもっ」
フォズがサチに言う。
「サチさんは、是非イフレムの国に行っていただきたいのです」
「イフレムも襲われてるんですか?」
「はい。連絡が取れない状況なのです。何が起きているのか全く…」
サチは拳を握る。そして決意した。
「姉さま、また会いましょう。絶対にね?」
「無論だ。必ず生きて戻れ。命令だ」
「はい!行こう、皆!」
颯爽と言い切ったサチを、ドラちんはまぶしそうに目を細めて見守る。
そこにはシェントと大賢者の姿もあった。
「僕は大賢者とここに残って、魔物の事を調べてみます。何か記録があるかも」
「あー、ボクは寝るからね?用があった時に起こして。グーグー」
相変わらずのやり取りに、束の間肩の力が抜ける一行であった。