サチがマジンコアを叩き斬ったのと同時に、人間世界では神の軍団の動きに変化が現われていた。
ヴェル、ラシーン、レグナのグループが対峙する魔物達の勢いが弱まり出した。
「何これ、敵の様子がおかしいわ」
「混乱してるように見える。統率も乱れて動きが鈍くなった」
「そうか!サチ達がマジンコアの破壊に成功したんだ」
「やってくれたか。本当に大したヤツだぜ!」
これのお陰で制圧するスピードも格段にあがり、神の軍団は次々と倒されて行った。
・・・
ペルセリアの神殿にて、倒れ伏したペルセリアに背を向けたサチ達一行。
「早くあっちに戻ろう。私達も救助活動を手伝わなきゃ」
「だな。急ごうぜ」
「うん!」
「行こ行こー!」
「…待ちなさい、あなた達…」
「お前、まだ起き上がる力が残ってたのか」
ボシュがペルセリアに剣先を向けて構える。
それを無言で制するサチ。
「やってくれたじゃない?…でもこれで終わりだと思わない事ね。…むしろこれから始まるんだから」
その時、どこからか声が響く。
『もうおよしなさい、ペルセリア』
その声と同時に女神セレシアの姿が空間に浮き上がる。
「あら。…セレシアお姉さまじゃない」
『もう分かっているはずです。こんな事を繰り返しても、あなたの想い人は戻らないのですよ』
こんな言葉に、珍しく無言になるペルセリア。
そんな際どいシーンに割って入ったのはリリだ。
「あの!ペルセリアって本当にセレシアさんの妹なんですか?」
『そうです。人間達の文明が発展して大きく広がり、地上を見守るためと創られた二人目の女神です』
「そうそう。これでも昔はマジメに仕事してたのよ?」
「でもセレシアお姉ちゃんが追放したって、何やらかしちゃったワケ?」
言いにくそうなセレシアにペルセリアが言う。
「隠すような事でもないでしょ。もったい付けてるみたいでイヤだから早く言って」
『ペルセリアは…女神にあるまじき過ちを犯してしまったのです』
ここで再びセレシアは、一行に瞬間的に映像を見せた。語るより見るが早い。
「ペルセリア、私の目を盗んで地上の世界に降りている事は分かっています」
「バレちゃった?地上を見守る者として知るためよ。大事な事でしょ?」
「本当は他に目的があるのでしょう。例えば特定の人間と逢う事、とか」
「ええそうよ。私…あの人にぞっこんなの!」
予想はしていたのか、セレシアの表情は変わらず。
「とにかく、これがお父様に知れたら一大事です、対策を考えねば。私にだけは詳しい事を聞かせてください」
聞き出してみれば、それはビビビ…と来る出会いだったとか。
「胸がズキューンって、分かるでしょ?そういうの」
「まるで想像がつきません」
ただ相手は少し変わっているという。
本来人間には神の国の存在を見る事はできないのだが、ペルセリアの姿が見えるのだと。
「そんな人間がいるのですか…?」
「それだけじゃないわ。あの人は夢の中で未来を知る事ができるの!」
周囲の人間はその者を神の生まれ変わりだとか、奇跡の仔と呼んでいるそうだ。
「奇跡の、仔…?」
「お姉さま。あの人には特別な力がある。世界を変えられるほどの…。私はあの人の側にいて、それを見届けてあげたいの」
「あなたは地上を見守るべき女神なのですよ?分かって言っているのですか」
「もちろん分かっているわ」
「ならばその行為が許されない事も分かるはずです。お父様に知れたら…」
「お父様には黙っておいて。折を見て自分で話すから。お姉さま、私は本気であの人を愛しているの」
セレシアは何も言えなくなってしまった。
現在へ戻る。ペルセリアの神殿にて。
『お父様には…言えるはずもありませんでした。もし話せば、ペルセリアは重い罰を受けます…その前に考え直してほしかった』
「女神と人間の愛って、そんなにイケナイものなの?」
「まあ、どこの世界にもルールってもんがあるからな」
『ですが、お父様は私達の話を聞いてしまった。そのせいであの悲劇が起きたのです』
再び映像に切り替わる。
鋭い雷が轟いた事に驚いたセレシアは、急ぎ父グランゼニスの元へ。
「何事ですか!」
「我が娘セレシアよ。私に隠し事とは感心せぬな」
当然それは、ペルセリアが人間と恋に落ちた事であった。
セレシアは必死で庇う。
「あの子に自由奔放な一面がある事は認めます。でもそれは、純粋であるという証です。どうかご慈悲を…。私が過ちを正し、女神の本分を全うさせます」
「その必要はない。もうあの人間はこの世におらぬ。先ほど我がイカヅチで存在を消した」
「何ですって…?人間を、処分したとおっしゃるのですか…!」
「女神が人間と恋など愚の骨頂。身の程を弁えぬ人間には、戒めを与えねばならぬ」
「何という事を…!」
「ペルセリアも同罪だ。どうやら女神としては失敗作だったようだ。処分せねばなるまい」
「お待ちください!妹の不始末は、私の責任です。どうか…処分は私にお任せを」
セレシアは大急ぎでペルセリアを探しに向かう。
そして二人は口論となる。
「お姉さまね?お父様に告げ口してあの人を…!」
「ペルセリア…全ては、神がお決めになられた事です」
「神だからって、何をしても許されると思ったら大間違いよ!思い知らせてやるわ」
ペルセリアが背を向けた。
「どこへ行くのですか?」
「決まってるでしょう。お父様に復讐するのよ」
「お待ちなさいペルセリア!あなたを…神の国から追放します!」
「はあ?何ですって?」
「あなたは女神の力を一部失い、これから地上で生きるのです」
「冗談じゃないわ、ふざけないで!」
「父なる神に代わり私が決めました」
威厳を持って言い放たれ、ペルセリアは口を閉ざす。
「…分かったわ。こんな所、こっちから願い下げよ!でも忘れないで。私は絶対にあなた達を…この神の国を許さないんだから」
映像を見終えた一行が、現在に意識を戻す。
「そんな事があったのね…」
「そりゃアタシだって怒るわ」
「ペルセリアさん可哀そう…」
『ほとぼりが冷めたら、ペルセリアを神の国に呼び戻すつもりだったのですが…』
「それどころじゃなくなった、か」
『はい。父はあろう事か、人間そのものを抹消しようと言い出し、阻止するために私自身を木に変えてしまったので…叶いませんでした』
一連の内容を無言で聞いていたペルセリアが口を開いた。
「…で?カビの生えた昔話はお終いでいいかしら。今にして思えば、お父様はあの人の奇跡の仔の力を恐れていたのね。二度とそんな仔が生まれないよう、人間全てを滅ぼそうとした。ホント…、ちっぽけな神だこと!」
『あなたがお父様や私を恨む気持ちは分かります。ですが、これは神の国の問題、これ以上人間達を巻き込むのはおやめなさい』
「どの口が言ってるの!お姉さまこそいい加減人間を巻き込むのをやめたら?今まで一体何人の英雄達がその身を犠牲にしたのかしらね!」
セレシアの表情が強張った。
「いい機会だからハッキリ言わせてもらうわ。私はね、お姉さまの誰にでもいい顔する態度が大嫌いなのよ!その慈愛に満ちたお顔で、人間の最期を見届けるといいわ」
そう言ってペルセリアが何やらのボタンを押した。
すると砕けたマジンコアの破片が集まり、元の球体に戻り出したではないか!
「おいおい、何が始まった?」
「マジンコアが復活する!」
「ええっ、マジ!?」
「大変、復活を止めなくちゃ!」
「もっかいブっ壊した方がいいよな!」
「そうは行かないわ。悪いけどあなた方はこの子達と遊んでてちょうだい?」
ズシーン、ズシーンと地響きが聞こえて来る。
「何か来る…っ」
現われたのは巨大な金色の石像だ。それは二体でマジンコアの前に立ち塞がった。
「我は天の門番!我の鉄壁の守りを見るがいい!」
「私達を近づけさせないつもりね」
「そうは行くか!遊んでやろうじゃねーか?行くぞサチ!」
今やサチもボシュも神喰らいの大剣のお陰で無敵だ。呆気なく勝敗が決まる。
「鉄壁がこんなにもあっさり破られるとは…」
バターンと派手に地響きを立てて石像が倒れた。
「サチ!早くマジンコアを壊して!」
再び大剣を振り上げたサチ。
だがその瞬間、強烈な光を放ちマジンコアはサチを弾き飛ばした。
「「「サチ!」」」
「危ない危ない、もうちょっと遊んでてくれると思ったけど。でも間に合ったみたいね~」
「復活しちまったのか…?」
「しかも何か、前よりパワーアップしてない?」
マジンコアの禍々しさは勢いを増し、近寄る事さえはばかられるほどになっていた。