翌朝。ティルの家に向かった一行。
「ティルちゃん!目が覚めたんだね、良かっ…」
「全く面倒を掛けてくれる!さっさと元気になってくれないと困るよ!」
アイミーの声掛けを遮ったのは、世話をしに来ていた叔母だ。
あまりの辛辣ぶりに、一行は目を合わせて肩をすくめる。
その場の空気を読み取ったのか、ティルが言葉を発した。
「ごめんなさい、おばさん。私もう大丈夫だから、家に帰ってください」
「おやそうかい?ならそうさせてもらうよ!じゃあアンタら、どうぞごゆっくり。それとこのデカいピンクの帽子、アンタのかい?邪魔だから置いてかないでおくれね!」
「はい、それはもちろん」
「来てくれてありがとう、おばさん」
叔母はサチの返答にもティルの礼にも応じず、振り返りもせずに出て行った。
「…あ~あ!なぁんか増々親近感湧いたわ。ティルも大変だね」
「リリ姉?」
「ううん、何でも。ティル、本当に体は平気なの?」
「はい。これのお陰で」
ティルが見せて来たのは、枕元にあったバスケット。
離れた位置にいる訳でもないが、中身は見えない。
「やっぱスライム帽は役立たずか!で、何か入ってるのか?そのバスケット」
「食べちゃったから、もうスカスカなの」
「それ!すかすかバスケット!」
「何それ?」
「回復効果とか魔力がアップしたりするの」
「ま~た眉唾モンだな!」
アイミーが近づいてバスケットの中を覗く。
「でも実際ティルちゃんが元気になったんだから、効果あったって事じゃない」
「ねえティル、それをどこで手に入れたの?」
「食い付くな、サチ!」
「いつの間にかあった。お母さんが置いて行ったんだと思う」
「きっと、こういう事態を想定しての事よ」
一同は頷き合う。
「私、お母さんを探しに行かなきゃ!」
「私達も付き合うわ。付いてってもいいかな」
「え…本当に?」
「本当だよ。ここで会ったのも何かの縁。子供なんだから、一人でやろうとせずに頼れる時は頼った方がいい」
こんなリリの言い分に、ボシュは横にいたアイミーにさり気なく耳打ちする。
「何だか説得力あるな」
「きっとリリ姉は昔、一人で頑張っちゃったんだよ」
一人だけ真実を知るアイミーはそれだけ言った。
「よぉし、お姉さん達と行こう、ティルちゃん!」
「行くったって当てはあるのかよ」
「何か知ってる?ティル」
「あの森で魔物達はお母さんと何か話してた。姿は見えなかったけど、あれは絶対にお母さんよ」
「どんな話か聞こえた?」
「子供達に手を出さない代わりに、自分が行くって」
「どこへ?」
「分からない」
「行くって事はあの森からどこかへ移動したんだね」
「人間と交渉しようとするような魔物は、小物じゃない。次の敵はもっと手強いよ」
サチの一言に、一同が決意を固める。
「こんだけ首突っ込んどいて、逃げ出せるかっつーの。やるに決まってるだろ?」
「もちだわよ!こっちにはジョニじいという心強い味方がいるしね」
「そう言えば今日は姿見てないね」
「どーせ村の若い娘にでも鼻の下伸ばしてんだろ」
「もうっ、アタシという女が近くにいるっていうのに?」
「えっと…それ私も言った方がいいかな」
「私という女もいるのにっ」
アイミーよりも先にサチが声を上げた。
「ほらほら、ピーチク言ってないでとっとと行くぞ」
「ちょっとぉ、ピーチクでまとめないでくれる?」
ボシュが家の外に出て行ったのを追い駆けるリリ。
サチは手にしていたスライム帽を被ると、すかすかバスケットに目を向ける。
「ティル、もうバスケットは使えない。もしつらくなったらすぐに言って。こっちのお姉さんが治してくれるから」
「私アイミー。よろしくね」
「ありがとう!お姉さん達がいてくれて良かった」
笑顔で答えたティル。二人と手を繋いで外へ出る。
外ではリリとボシュがまだ何やら言い合っていた。
「お兄ちゃん!まだ自己紹介してないでしょ?リリ姉も!」
「おお。俺はボシュだ。ちゃんと守ってやるから安心しろ」
「リリよ。回復魔法は使えないけど、強敵メインでやっつける係よ」
「お姉さん…強いね。私、分かる」
「マジ?オーラ出てるって良く言われる~」
真顔で返され、若干照れたリリはわざとおどける。
見ただけで強さが分かるとは、この娘はただ者ではないと一同は思うのだった。
そんな一同の元に異様な影が迫った。
それぞれが身構えた時、飛び出して来たのは…。
「間に合ったようである!セーフ、である!」
「まぎらわしい登場の仕方すんなよ…敵かと思ったぜ?ようやく来やがった」
「ジョニじい、どこに行ってたの?」
ボヨンボヨンと軽快に登場したジョニー。
突然の魔物の姿に恐怖を感じたティルが、リリの後ろに隠れる。
「怖がらなくても大丈夫よ。あの人は私達の味方」
「知らぬうちに、小さき冒険者が加わったようじゃな!これまた勇敢そうなお嬢ちゃんである!」
「ティルっていうの。優しくしてあげてね、ジョニじい」
「ティル、あんまり近づくなよ。女に見境ねーからな、あのジジイは!」
「何やら聞き捨てならん事を言っておるのー」
ジョニーが口調とは裏腹な不穏な空気をまとわせた時、透かさずサチが前に出て声を張る。
「ジョニじい!待ってたのよ。これからティルの母親を探しに行くの。何か情報持ってない?」
「ジョニじい、何か知っていれば教えてください」
「ヨロシクっ」
最後にリリがウインクを飛ばす。
途端にジョニーの顔が見る見る緩んで行く。
「そこまで請われては仕方がない。東の地が何やら騒がしいようじゃぞーい」
「東…か」
一同は揃って東に目を向ける。だが視界がはっきりせず何も分からない。
「何も感じないけど。ジョニじいが言うならそうなんでしょ。じゃ、行く?」
「異議なし。ここに突っ立ってたって何も始まらねえしな」
「うん。そうだよね。ここの武器屋さんには残念ながら良さそうな物置いてなかったし」
アイミーの惜しむらくは、盾を新調できなかった事。
「次に期待しよう。不足分は私が補う。皆を守るわ」
「そうやって一人で抱え込むなって、アンタにも言わないといけない訳?」
ため息交じりにリリが言う。
するとティルがサチの手を握って見上げた。
「サチさん。私のためにありがとう。でも無理しないでね?」
「しっかりしてるわ、この子!だってさ。サチ、分かったの?何か言ってあげたら?」
サチは手を握ったまま、目線を合わせるためにしゃがみ込む。
「無理はしないよ。こちらこそ、心配してくれてありがとう、ティル」
こうして東へと足を進めた一行だが、サチの懸念は的中してしまう。
次なる強敵は物理攻撃をメインとする魔物だったからだ。
小人やら小悪魔やら小剣士を難なく倒す。
その先の、人食い箱とスライムタワーも蹴散らした。
オオタカの剣士から鳥型ロボット、縞模様の化け猫も下した。
こうして余裕で進んだ先に待ち構えていたのは、キラーマシン。
その名の通り、ロボット型の魔物で攻撃力が非常に高い。
「クッソ、手も足も出ねえ!アイミーに続きリリ姉まで、雨雲の出番なくやられるなんて!」
最初の斬撃をもろに受けた二人は、あっという間にリタイア。
そしてすぐにボシュもサチも力尽きる結果となった。
ジョニーと共に待機していたティルと合流する。
「皆さん、私のせいで…ゴメンなさい」
「いいのよ。冒険者はこうやって戦って強くなるんだから」
「そうよ。強くなる機会を提供してくれたって事だわよ?」
「むしろ今までの敵が弱すぎたんだよな。ほぼ瞬殺?」
「ね~。考えたら、まともな攻撃された事なかったんだから。大したモンよ、アタシら!」
「そうだよ。それに私達冒険者には生き返る特権も与えられてる」
瀕死状態にあっても、薬草やら魔法の聖水で回復可能、しかも一瞬である。
然るべき武器を持ち技を習得すれば、魔法によって生き返る事も可能になる。
それらが不足した場合は、時間をかけて癒して行くしかないのだが。
幸い今現在、薬草類は揃っている。
すっかり回復した一同は、ジョニーを交えて作戦会議を開く。
「しっかし、どうしたら倒せる?じいさん、何か助言してくれよ」
「おぬしにはせーん」
「んなっ…」
「まあまあお兄ちゃん、抑えてっ!とにかくまずは自分達だけで考えてみようよ」
「せめて、アタシが先手必勝で攻撃を仕掛けられればいいんだけど。素早さに欠けるのよね…ゴメン、トレーニング不足だわ」
「謝らないで。そのために私達がフォローしてる。でもそのフォローが足りてない」
サチは再び考え込む。
「何とかあの攻撃に持ちこたえられればいいんだけどね…」
「いやアイミー、それだけじゃダメだ。いくら耐えてもアイツは何度でもメッタ斬りにしてくる。倒さない限りな」
「そうよ、それよ!うん、それだ!」
「は?リーダー自らメッタ斬りをご所望か?ドMだな!」
「違うっ。アイミーは一切攻撃せずに、回復魔法だけに徹するの」
「そっか。アタシらだけで攻撃してく戦法ね」
「でも少しでも敵を弱らせた方が良くない?余力がある時は私も戦えるよ?」
「微々たるモンならなくても一緒だ」
「ボシュ!言い方っ」
アイミーが落ち込むだろうと思っての指摘だったが。
思いのほかアイミーはショックを受けていなかった。
「いいのよリリ姉。事実だし。自覚してる。分かった、私は攻撃じゃなくて回復に回る。それでやってみよう!」
「アイミー殿も大人になったのう…」
このままの装備でも、多分行ける。
サチはそう判断する。何せリリの雨雲の杖は今のところ無敵だ。
まだあれを試せていない。今諦めるのはまだ早い。
そうは言え、自分の力不足は否めない。最も戦力のはずの戦士なのに。
「ゴメンね。先手で私がもっと強烈な打撃を与えられれば…」
「それを言うなら俺だって!」
「やめやめ、そういうの!皆思ってる事だよ?」
「そうだね。うん。頑張ろう、皆」
おー!と声を揃えた一行であった。
この「すかすかバスケット」が錬金により「もりもりバスケット」にできる事を知ったのはかなり後でした。。。