夜が明けて、改めて挑んだ第二戦。
サチの戦法は功を奏した。ダメージを受けてはアイミーが治し、少しずつ3人が力の限り敵にヒットポイントを与え続けて、ついに勝利した。
キラーマシンに囚われていたティルの母親も無事に戻り、涙の再会を果たす。
「皆さん、本当にありがとうございました…この子の事も救っていただいていたのですね」
「回復させたのは、あのバスケットだけどね~」
「あれをどこで?」
「やっぱそれ聞くか、サチ!」
「私の家系は、古来より魔物と人間の橋渡し役として勤めて来ました。ですがここ数百年は関係がこじれ、もはや絶望的状況です」
母の目がジョニーに向く。
「ですが、希望もありそうですね」
「希望?」
「再び昔のように、魔物と人間が共存出来る世界になってほしいものです。あのバスケットの他にも、魔物から物々交換したものが幾つか家にあります」
「えっ!あの!それってどういうのですか?」
やはり食い付きがいいサチ。その手のブツに目がない。
母親は苦笑しながら、後で家に来るようにとこっそり誘ったのだった。
一旦親子と別れて、一同は宿へと向かう。
しばしの休息を経て再び集まったのだが、気づけばサチの経験値が一人だけマックスになっているではないか。
「マジかよ、その帽子、ホントに効果あったんだな」
「凄いじゃない!これで転職できるよ、サチ。戦士から何になるか決めてる?」
「うんうん、皆を引っ張って行くリーダーが一番って大事だよ」
戦闘の勝利で得られる経験値がある値に達すると、自由に職を変えられるシステムになっている。3段階あり、条件をクリアすれば上級職、さらに特級職へと昇格可能だ。
現在は全員基本職で、サチが戦士、ボシュは武闘家、アイミーが僧侶でリリは魔法使いだ。
「私、盗賊になる!」
「…は?冗談だよな?」
「冗談じゃないよ。盗賊になって海賊を目指す事にした」
「事にしたって、いつ?」
「さっき」
「何で?憧れのお姉さんは確か、バトルマスターよね?それ目指さなくていいの?」
「俺もてっきりそう思ってた。俺がバトルマスター狙ってるから、被らなくて助かるが」
「そういう問題じゃないっしょ!」
サチは帽子を脱いでアイミーに被せる。
「あっ…」
「あらカワイっ」
「実はさ、気になる帽子があって…」
「お前、帽子好きだなぁ」
「これじゃなくて?」
自分の頭に乗ったスライム帽に触れながらアイミーが尋ねる。
それに首を大きく左右に振ったサチ。
「これ!」
どこからかターバン風のミントグリーン調の帽子を披露した。
「へ~ステキ!それどうしたの?」
「さっきティルのお母さんにもらった。他にもあるよ。ちょっと待ってね…」
サチはおもむろに下衣のポケットを探る。
そして取り出したのは、どれも古ぼけたシロモノだ。
そのうちの一つ、木彫りのロザリオを摘まんで目の高さに持って行くリリ。
「言っちゃ悪いけど、アンタの帽子以外はガラクタみたいね」
「子供のおもちゃだろ」
「あっ、でもこれはちょっとキレイかも」
アイミーが見ているのはイヤリングだ。透明の飾りが心なしか光って見える。
それをサチが手に取る。
「これはね、魔氷のイヤリング。ここにあるのは確かに今はまだガラクタ。でも身に付けて戦って行くうちに鍛えられて、本来の力を発揮する」
「まーた始まったよ!俺はパス。第一男はアクセサリーなんて付けない」
「ふう~ん。いいのかな~ボシュ君。この黄竜眼の指輪は、上手くすれば化けるよ?」
イヤリングをアイミーに着けてやりながら、サチは黒ずんだ男性ものらしき指輪を手に取る。
「どう化けるって?一応聞いてやる」
「攻撃力がアップする。それから一部耐性も付くらしい」
「らしいってのが怪しい。試したヤツいるのかよ」
「そこまでは聞いてない。くれるものは貰った方がいいでしょ」
「全くその通り。で、これはどんな効果あるの?」
リリは持っていたロザリオを揺らして尋ねる。
「それはね、パワーアップはしないけど持ってるだけで即死耐性がちょっとだけ上がる」
「それならリリ姉が持ってた方がいいね!」
「今回はあのマシン野郎に瞬殺だったしねー」
「全くもって信じがたい」
「お兄ちゃん。信じる者は救われるって言うでしょ」
サチが強引にボシュの手を掴んで指輪をはめる。
「…おい、勝手に何しやがる?」
「案外似合ってるじゃん。そのくらいの洒落っ気あった方がいいよ?いつまでも田舎者ではねぇ、男前なのに!」
「田舎者で悪かったな!」
「サチ、本当に貰っていいの?」
「皆の分にってくれた物だよ。本当は直接渡したそうだったけど、まだ体調が良くないみたい」
「それはそうだよ。ずっと魔物に捕まってたんだから」
「にしてもいつの間にこんな取引を?」
「部屋で休んでなかった証拠だな。あんだけボロボロになってたクセに?」
ボシュのコメントには、自分がバタンキューだったため妬み的な感情も含まれる。
「体はガタガタだったけど、興味の方が上回った」
こう言いながら肩をすくめて笑う姿に、サチの好奇心は留まる事を知らないのだと3人は思い知った。
「ホ~ント、サチって凄いよ、いろんな意味で?」
「私も同感」
「左に同じ」
「何よ、皆して」
「ま~ま~。褒めてるのよ!あともう一つ残ってるよ?この紫の玉は?」
「水晶みたいだね」
最後の一つ、一回り大きいビー玉サイズの紫の球体をサチが手の平に置く。
「これは闇の玉。今は闇だけど、鍛えて行くと光の玉になる。一番強力よ。持っているだけで体力と魔力、そして守備力がアップする。鍛えれば鍛えるほど数値が上がる」
「ならそれはサチが持ってな」
「え、でも私は先にこの帽子貰ってるから…」
「いいの。リーダーが強くあってくれた方が頼もしいし。ね、お兄ちゃん?」
「そもそも効果を疑ってるヤツには口出す権利はない。好きにしろ」
「満場一致ね。サチ、まだ文句ある?」
少し考えていたサチだが、顔を上げると、明るく答えた。
「いいえ。ありがとう、皆」
「その帽子似合ってるじゃないか。そっちの方がいい」
「なら私、これ借りちゃおっかな。一人だけ経験値低いし。挽回しないと」
「うん。だからアイミーに被せた。文句は?」
「ありません!ところで、これもう一個あったよね?」
そう言いながらボシュを見るアイミー。
「まさか、俺に被れって言わないよな?」
「そのまさかでしょ。それともアタシが被って、一人だけ置いてけぼり食ってもいいって?」
「それは阻止する!俺は自力でだな…」
「意地張らないで、被った方が早いって」
またもどこからか、もう一つのスライム帽を取り出したサチ。
ボシュの頭にポンと乗せる。
目前でピンクスライムが二つ、並列した。
「こうやって見ると、これが普通って気がして来た。サチ、もう一個ないの?」
「ゴメン、二個しか。またどこかで入手できるといいんだけど」
「いや、いらんだろ!俺はいいからリリ姉が被れって」
「うん。そうする。早く転職したいし!」
一番背の高いリリが、ボシュの頭からスライムを奪う。
「真っ先に上級職のスーパースターになるぞ~」
「待て!やっぱり俺が被る。真っ先にバトルマスターになるのは俺だ」
「リリ姉、そんなに強いのに、本当に魔法戦士にならないの?」
アイミーの声がやや不安そうだ。
「どうしたアイミー。俺がいれば敵は全部倒せる。リーダーが盗賊だろうが問題ない」
「そうかなぁ」
「何だよ、俺が頼りないとでも?」
「ちょっと!兄妹ゲンカは後でやって?そういうアイミーはどうするの?」
「私は、もう少し魔法を勉強して賢者になる」
「いいと思う!上手く分かれたね。これから先は効率よく職を替えて行かないと」
「だからさ、」
「うん?何、アイミー」
「そうするとよ?リリ姉がまず踊り子に戻るじゃない?で、お兄ちゃんが戦士でサチが盗賊。私は魔法使い」
「いいんじゃない?」
「良くないよ!私がリリ姉の後を継ぐ形よ?私にそんな力ない!ムリだよ…」
アイミーは下を向いてしまう。
隣りにいたリリがそっと背に手を当てる。
「無理じゃない。決めつけたらダメよ?大丈夫。ちゃんと力が付くまではアタシも魔法使いやるから」
「でもそうするとリリ姉が遅れを取っちゃうよ」
スーパースターへの道のりは他よりも一つ長いのだ。
踊り子の他に遊び人も経験しなければならない。
遊び人はもはや職業とは言えない気がするが。
「いいって!その帽子借りるし?踊り子に戻れる上に、遊び人になって悠々自適に過ごせるんだもの。逆に申し訳ないくらい」
「アイミー、心配しないで。皆でフォローする。私達はパーティ、家族なんだから」
「お前の成長ぶりはなかなかだ。母さんが見たら驚くだろうぜ」
「え…っ、お兄ちゃん…?」
滅多に妹を褒めないボシュが、今面と向かって褒めている。
アイミーは驚きのあまり言葉が出ない。
「だがこれで終わりじゃない。まだまだ上に行くんだ、皆でな」
「いい事言うじゃないっ!ボシュ~、リリ姉惚れちゃいそうっ」
「っ!お前に言ったんじゃない!離れろっ」
リリに抱きつかれたボシュは赤面してジタバタしている。
「まだダメか」
「これがお兄ちゃん、って事でいいんじゃない?」
「だね」
サチとアイミーは、じゃれ合う二人を見ながら会話する。
「それでアイミー。まだ不安?」
「全然、とは言えないけど、頑張るしかないよね。リリ姉にあんまり迷惑かけないようにしないとさ」
「良く言った!偉いぞ」
サチがアイミーの頭を撫でた。
「サチって、いつもはお友達感覚なのに、お姉さんみたいに感じる時もあるんだよね」
「ん?」
「あっ、ゴメン、年上なんだから当たり前だよね」
「こっちこそゴメン。嫌だったら言って?姉さまに良くこうやって撫でてもらってたからつい…」
「イヤじゃないよ。気にしないで」
「なら良かった」
「あのドラちんさんも、見かけに寄らずそういう事するんだね」
「姉さまは優しいよ?」
「…うん、そっか」
飽きずにじゃれ合っているボシュとリリを眺めながら、二人は笑い合った。