第16話:初めての転職
かくして盗賊をリーダーに迎え、新たな旅が始まる。
サチの下衣はロングスカートからパンツスタイルとなった。
そしてアイミーは、スライム帽を被りご機嫌に歩いている。
「あら?ボシュ、スライム被らないの?」
「戦う時だけ被る。何も常時被ってなくてもいいんだろ?」
「知らない。私はずっと被ってた」
「だってさ、どうするの?お兄ちゃん!」
ハメられた感満載だが、背に腹は代えられない。
ボシュは観念して帽子を頭に乗せたのであった。
そんなこんなで、遭遇した魔物にボシュが八つ当たりしながら進む事幾日か。
ついにボシュも転職の機会を得た。
「何だかんだ言ったが、効果は本物だった。これで晴れて戦士になれる!サンキュー、サチ!」
「こんなに素直なお兄ちゃん、久しぶりに見る」
「アイミーももうすぐじゃないか?楽しみだ!」
「まるで人が変わったみた~い」
「いいんじゃない?あの方が。ユア・ウェルカム?」
盗賊サチの頭にはターバン帽が乗っている。
そしてボシュのスライム帽はリリの元へ。
「こうなると、ボシュの頭が寂しく見えるわねぇ」
「お構いなく。俺は清々してる」
「ボシュも転職した事だし、防具屋さんで装備を新調しよう」
「それ賛成っ、私盾ほしい!」
「ところでジョニじいを最近見かけないけど」
「何か用事があるって、先に行ったわ」
「先に行ったって、次に行く場所決まってないだろ」
「よく分からないけど、行ってしまったものはどうにもならない」
両手の平を上に向けて広げ、首を傾げるサチ。
「言い分は間違ってないけどもさ」
「きっといつもみたいに合流できるよ。いい防具屋さん聞きたかったけど、自分達で探そ!」
「アイミーが珍しく積極的だ」
「よほどこの盾がお嫌いのようね。アタシなんか愛着湧いて来ちゃってるわよ?」
オレンジ色の厳つい顔が彫られた四角い盾を持ち上げてリリが言った。
今回立ち寄った防具屋は豊富な品揃えであった。
「二人にこれなんてどう?ちょうど二個あるよ」
サチが目を付けたのはプラチナ仕様の円形の盾。
「わ~キレイ!鏡になりそう。思ったより軽いわ」
「何かおススメの特殊効果とかあるの?」
「こちらは誰にでも使いやすい仕様になっております。仰る通り重量も抑えられておりますので、女性の方に最適かと」
「…。つまり特殊効果はない訳ね」
「ですが!盾としての守りの役目は十分に果たしますよ」
「そりゃそうでしょうよ?」
「私これがいい!」
「おい店主、こっちも説明頼む」
「はいはい、ただいま!」
奥からボシュが呼ぶ声が響き、店主はごゆっくりお選びくださいと言い残して背を向ける。
「リリ姉、今のの方がいいならそれでいいよ。ゆっくり考えて。ちょっとボシュのとこ行って来るね」
「うん。少し考える」
サチも去り、二人で鏡のような盾を見つめる。
「どっちが強そうかって、やっぱこっちなのよね~」
「強そうって、見た目?!」
そう言いながら後退ったアイミー。
手にしていた盾に太陽光が反射してリリの目を貫く。
「まぶしっ!これもある意味攻撃の一種だわね…」
「なるほど、反射だね。呪文とか魔力もある程度は跳ね返せるって、こういう事か」
「親分の威嚇なんかより、よっぽど実用的じゃん?」
「そうだよ、断然!」
話がまとまって、二人もボシュの方に向かう。
「いい感じのが揃ってるんだよなぁ。選べないぜ!」
「ここまで揃ってるお店は今までなかったよね」
「おい店主、これ3つ買うからまけろ」
「あーあー、お兄ちゃん!無理な事言ってお店の人困らせないでっ」
「何々、どしたの?」
ボシュの前に並んだ品を覗き込むリリ。
そこには大剣と盾、鎧が置かれている。
どれも青とシルバーが基調でそこに赤とゴールドをあしらった美しい品だ。
「失礼ですが、お客様方はどのような?」
「私達は、魔物に苦しめられている人々を助け、世界の平和を取り戻すための旅をしています」
ずずいと店主に詰め寄りサチが答える。
美しい若い娘に接近された店主。
伸びかけた鼻の下をどうにか維持しつつ大袈裟に頷いて見せる。
難色を示しかけていた表情はころりと変わった。
「やはり!そのようなオーラが見えておりました。これは闇払う光の大剣。そしてガイアーラの鎧に勇者の盾です。是非使っていただきたい、破格値でご提供いたしますよ!」
「良かった。それとこの盾二つもくださいな」
サチが神々しい笑みと共に言葉を紡げば、店主は毎度ありがとうございます!と紅潮した顔でテンション高くレジ打ちを始めた。
「ボシュ、戦士転職おめでとう。せっかくだからここで着けて行くといいわ。きっと似合うよ。その大剣も使いこなせるように特訓だね」
「そうだな!ちょっと待っててくれ!」
嬉しそうに試着用の個室に向かった兄を目で追いながら、アイミーの心配はこれだ。
「ねえサチ、お金、大丈夫なの?」
「それが、ボシュ結構持ってたよ。足りない分は私が。平気、あのオジサンいい人そうだし?」
「サチ、アンタ意外と侮れないね…。今度からオジンキラー・サチって呼ぼうかしら」
「私は本当の事を言っただけよ?あと、その呼び方はやめてね。カッコ悪いから!」
「じゃーん!どうだ?」
「お兄ちゃん見違えた、凄く強そうに見える!」
「おい待て、見えるじゃなくて実際強いんだが」
「い~や。まだだね。その大剣が見掛け倒しにならない事を祈るよ」
「うぐっ…事実なだけに言い返せないっ」
「ではお客様、こちらのプラチナトレイ2点と、大剣、盾と鎧のお買い上げで、お代はこちらになります」
電卓の数字を見たサチ。
財布を開くなり、わざとらしくアタフタし始めた。
「待って…あら、ちょっと足りないみたい。まあどうしましょっ」
「構いませんよ!あるだけで結構です!」
「そう?助かるわ」
こんなやり取りを見ていた面々。
「あれはもはや立派な特技だわねー」
「美人さんの得意攻撃だよ」
「今後のために、アタシらも学ぼう」
「リリ姉はできるでしょ?」
「あれだけ天然にやりこなせる自信はないなー」
「いや~、サチ様サマだな!足向けて寝れなくなったぜ」
「お兄ちゃん。お勘定終わったの?」
「ああ。あいつのお陰で全財産使い果たさず済んだ」
「こういうのはご縁だからね。見つけた時にゲットしないと後悔するよ」
リリとアイミーが盾を掲げてみせる。
「そうだな」
「さあ皆、それじゃ行こうか」
「よっしゃ!次はアイミーの転職だ!」
こうして一歩一歩、見習い冒険者は成長してゆく。