次なる戦いに向け、サチ達一行は行く手を阻む魔物達を倒しながら、順調に経験値を積み上げて行く。
そしてついにアイミーにその時がやって来た。
「アイミー、魔法使いに転職おめでとう!一緒にガンバろっ」
リリに肩を抱かれて激励されたアイミー。はにかみながらも頷いた。
気弱な自分を卒業しようとここまで旅を続けて来た。
兄やサチ達に助けられながら、確かに自分は成長している。
まだ自信はないが、やれるだけの事をやろうとあの夜に誓った。
「私頑張る。いろいろ教えてね、リリ姉」
「もちろん。この雨雲の使い方もね」
「え!それはダメだよ、リリ姉の得意武器なんだから!」
「だから、交換しよって意味。ほら、アタシが踊り子になったら魔力も減るし。アイミーが持ってた方が役に立つのよ。ねえサチ、そうでしょ?」
前方を歩くサチに話を振ると、振り返ったサチが大きく頷く。
「そうよ。臨機応変。どんな武器も使いこなせるようになった方がいい。私の剣もね。ボシュの大剣は…ちょっとキツイけど、オチェーアノならリリ姉も使えるよ。踊り子に最適かも」
「アタシが剣かぁ。意外とサマになるかも?」
「リリ姉カッコいい!」
「まだ使ってないんだけども」
「ううん、想像しただけでカッコいいの!」
「使ってくれ使ってくれ!何なら槍も貸すぞ?これ以外なら何でもな!」
ボシュは、背にした大剣をチラと見ながら言う。
真新しい鎧を身に付けた姿がとてもまぶしく映る、のだが。
「う~ん…何かしっくりこないのよねぇ」
「リリ姉?どうかした?」
腕組みを始めたリリに、首を傾げる面々。その瞳はボシュを映している。
「うん、やっぱりしっくりこない!ねえ、ボシュって髪型にポリシー持ってる系の人?」
「あ?髪型?別に。何でだよ」
いそいそとリリがボシュの横まで移動する。そしておもむろに髪に手を伸ばした。
「ならちょっと失礼っ」
「だから何だって…っ、おい!」
「ほら!どう?」
「あら。雰囲気変わったね」
「いい!ステキよ、お兄ちゃん!」
リリはボシュの分け目をセンターから少し左にずらしたのだ。
「そっ、そうか?」
「どうしても田舎の兄ちゃんっぽさが気になってさー」
「…ああそれね」
「サチも思った?立派な鎧着けたら、さらに際立っちゃって!」
「うんうん、分かる。でもこればっかりはって思ってたよ。リリ姉さすが!」
「二人とも言いたい放題ね…私も若干、鎧が似合ってるのか疑問なところがあるにはあったけど」
ボソリと小声で同意を示しながら、恐る恐る兄を覗き見るアイミーだが。
ボシュは気にした様子もなく、アイミーの盾に自分を映して満足げだ。
「へ~。これだけでこんなに変わるんだな。よし決めた、バトルマスターになった暁には、またイメチェンするぞ!そん時はアドバイス頼むな、リリ姉」
「お安い御用よん♪」
「え~いいな~、私もイメチェンしたい!リリ姉、私はどういうのが似合うと思う?」
兄妹というものは何かと羨ましがるものである。
一人っ子だったリリはちょっぴり羨ましい気持ちになった。
「動きやすいように、ポニーテールにでもしたら?」
「それだとサチと被らない?」
「じゃあツインテールは?やってあげる。後ろ向いて」
リリは器用にアイミーの髪を二つに分けて結い上げた。
「こんな感じでどう?」
「えへへ…何か落ち着かないけど、雰囲気は変わったかな」
「うん、カワイイ魔法使いさんだね!」
「露出も少なめで健全な魔法使いだな」
「何よ、それじゃアタシが健全じゃないみたいじゃない?」
「そんなヘソ出した魔法使いがいるかよ」
「いるじゃん、ここに。踊り子の衣裳よりは全然肌も出てないけど?これだからチェリー君は!」
「まあまあ二人とも!個性は大事にしないと、ね?サチ」
「そうだよ。似合ってるんだからいいじゃない。それに尽きる!」
「…ま、今回は折れてやるよ。借りもあるしな」
「オホホホ!」
こんな楽し気な会話を繰り広げながら、再び歩みを進める一行。
しばらく進むと、丘の上の木の下に、人影らしきものを見つける。
「おい、あそこに誰かいるみたいだぞ」
「怪しい気配は感じない。見たところ人間みたいだわね」
「何か困ってるのかな。聞いてみる?」
「そうだね。行ってみよう」
周囲に村はない。どこからやって来たのか、疲れた様子で木陰に座り込んでいる。
相手が男性だったため、ここはボシュが声を掛ける事となった。
「おいアンタ、どうかしたのか?」
「誰ですか?その出で立ちは、もしや勇者様!おお、僕は何て運がいい!どうかお助け下さいっ」
「あー、いや。勇者っつーか何つーか。なあ?」
困惑気味に後からやって来た女子3人を見るボシュ。
「いいじゃない。見た目は十分勇者様よ?私はサチ。こっちはボシュです」
「やっぱこの格好は、俺だけ目立ちすぎか…」
自分以外の装いを見てボシュは思う。
サチの出で立ちはパンツスタイルになった事で、清楚なご令嬢から風変わりな令嬢に。
もちろん勇者にも盗賊にも見えない。
アイミーは逆にパンツスタイルから紺系のロングスカートに衣裳替えし、余計にシスター感が出てしまった。
リリに至っては色気漂う酒場の占い師か。
困惑が消えないボシュを押し退けて、サチが話を進める。
「何があったか話してください」
「僕はピートです。護衛の仕事をしている友人が、魔物に石にされてしまって…国の兵士達も全員です!」
「あなたはなぜ助かったの?」
「僕は兵士ではありません。戦う術を知らず、単に逃げ出したんです…」
「そんなに大勢が魔物に…。どこまで人を苦しめれば気が済むの?許せないっ」
「サチ、アタシも同じ気持ち。協力してあげよう?あ、アタシリリ、ヨロシクね」
珍しくサチから怒りの気配を感じる。それを見て、リリも同意を示した。
サチもリリも魔物に大切な者の命を奪われている。
「どうせいずれは討伐するんだしな。どこから退治しようが同じ事だ」
「ありがとうございます、これ以上心強い事はありません!」
「私は元僧侶のアイミーです。衰弱が激しいようです、今薬草をお出ししますね」
「これはご親切に…っ」
アイミーはカバンから薬草を出すと、魔法で煎じて差し出した。
サチが話の続きを聞き出す。
「それで、国が襲われたのはいつ?」
「3日ほど前です。国で動ける男は僕だけ。途方に暮れてしまって…」
「全く。人と交渉しようとしたり石にしたり、何がやりたいのかしらね、あの連中は!」
「翻弄して楽しんでいるだけよ。この世界が自分達のものだと思ってる。何をしてもいいとね」
「冗談じゃないわね」
「ぶっ殺してやる!」
「今回ばかりはお兄ちゃんに同意!」
諦めかけていたピートも、一行の血気盛んな様子に感化され次第にやる気を取り戻して行く。
「ピートさん。諦めたらそこで終わりよ。希望は最後まで捨てないで」
「サチさん…ありがとう。まるで天女様だ!」
羨望の眼差しでサチを見るピート。
期待に応えるように一度頷くと、サチは踵を返す。
「さあ皆。次のターゲットを見つけたわ。準備はいい?」
「この大剣の実力を試せるいい機会だぜ。ワクワクするな!」
「アタシだって。この雨雲が暴れたくてウズウズしてるんだから?」
「あの、取りあえず私はまだ、引き続き皆のサポートで、…いいよね?」
「そうだね。アイミーはピートさんを守ってあげて」
「待ってください!僕も男です、戦えます!」
薬草効果ですっかり元気になったピートは、立ち上がって訴える。
良く見れば腰には剣が収められている。
「これは友人の剣です。拝借してきました。大の男が女性に守られるだなんて、友人に笑われてしまいます」
「戦いに加わってもらうかは追々見極めます。すぐに発てますね?」
「もちろんですが、あの場所に戻っても奴らはいませんよ。どこからやって来た魔物なのか…」
「それは心配ないみたいよ?」
リリが示した先で、赤い物体がボヨンボヨンと跳ねているのが見えた。
「何です?あれは」
「頼もしい私達の仲間です」
「人には見えませんが…大丈夫なんですか?」
「まあ、男には無害だ。良かったなお前、男で!」
「はい?」
「久しぶりなのである!これはボシュ殿。何やら雰囲気が変わられたのー」
「お。分かるか?戦士らしくなったろ」
「立派な見た目なのである!して、そちらのお方は?」
「ちょっと待て。見た目って強調すんじゃねー!」
ボシュの反論は誰も聞いてはいない。
サチが淡々とピートを紹介し、状況説明をする。
「という訳なの。ジョニじい、人間を石にできる魔物に心当たりある?」
「それは恐らくミニデーモンじゃな」
「ミニってチビって事か?大した敵じゃなさそうだな!」
「侮るなかれ、である。奴らは固いもの好きの魔物達とつるんでおる。そ奴らが厄介なのじゃ」
「なら、固いものが好きすぎて人を石にしたとか?単純すぎっ」
「イタズラ好きの性分が出ただけじゃろ」
「だから言ったでしょ。翻弄して楽しんでるって」
怒り心頭のサチを、ジョニーが珍しそうに眺める。
「サチ殿はご立腹の様子じゃの。その不服そうな顔、妙にあやつに似ておるのー」
「それって、もしかして姉さま?似てる?ホントっ」
途端にサチの機嫌が良くなる。怒りはいずこへ?
「凛としていて、近寄りがたい感じ、確かに似てるね」
「ホント?アイミー!リリ姉もそう思う?」
「あそこまで威圧感はないけど。まあ、そこそこ?」
「俺はどっちも、全然怖くねーがな!」
「あのぉ~…」
「あっ、話が反れた。それじゃジョニじい、その魔物の住処に案内して!」
「了解したのである」
ジョニーはそれ以上ピートに深入りする事もなく、サチにだけ頷いて先頭を歩き出した、改め弾み出した。