「くらえ、ギガ空裂斬!」
大剣を右から左に振り抜き、魔物の群れをバッタバッタとなぎ倒して行くボシュ。
大型のお化け鳥からハチの化け物、ピンクの豚やら紫の化けネコが一瞬にして塵と化す。
どの魔物も攻撃の隙も与えられず消えて行く。
「こりゃいいや!最高だぜ!」
今回の武器はかなり相性が良かったらしく、向かうところ敵なしのボシュである。
「ちょっとー。たまにはアタシらにも出番くれない?つまんな~い」
「体力は無限じゃないよ。程々にしないと」
「水を得た魚というよりは、バカの一つ覚え、である!」
ジョニーの一言にピクリと反応したボシュが、ようやく大剣を背に収めた。
「誰がバカだって?ちゃんと聞こえてんぞ!おいコラジジイ!」
「お兄ちゃんっ、落ち着いて?皆心配してるんだよ?」
「バカにしてるの間違いだろ。特にコイツはな!」
「そうじゃない。わざとだよ。ねえジョニじい?」
「そーそー。実際ジョニじいの言葉で戦うのやめたじゃん?」
魔物はまだいるのに、ボシュが戦いを中断してまでしたかった事。
それはジョニーへの反撃である。
「覚醒の炎!」
視界に入っていた敵が、一瞬にして光に包まれる。
そして空間を切り裂く音が響いたかと思うと、魔物は一匹残らず炎の中で塵となった。
「お見事、サチ!」
「相変わらず凄い技だね…」
「そうだ、今度の敵はアイミーがこの雨雲でやっつけてみてよ」
「え~っ、無理だったら!」
「決めつけないの。少しずつやって行かないと。アタシがいなくなったら、この杖宝の持ち腐れだよ?」
「いるもん。リリ姉はずっといる!」
「まあいるけども。踊り子は魔力少ないのよ。アタシに無理強いさせる気?」
こう言われてはアイミーは言い返せない。
「でも私の魔力だってまだ少ないよ」
「そのために俺がいるんだろ?これのお陰で無敵だぜ。今まではリリ姉に頼ってたが。これからは俺も頼ってくれよな?」
「お兄ちゃん…。分かった、やってみる!」
「何やら感動的シーンじゃのう。サチ殿は加わらなくて良いのか?」
「…私だって感動してるわ。っ皆が、こんなに立派に強くなって!嬉しくて泣きそう」
グスっと鼻を鳴らすサチの背に、ジョニーはそっと密着してみる。
「どさくさに紛れないで?」
「いやぁ!パンツスタイルはヒップラインが際立って非常に良いのである!」
「おいジジイ。いい加減にしないとコイツの餌食にするぞ?」
いつからいたのか、ボシュがサチの横で低音ボイスを響かせる。
「それは堪忍である。それで攻撃されればワシでもただでは済まんじゃろうて」
「ジョニじいでも?」
「ボシュ殿。その闇払う光の大剣はなかなかの武器じゃ。使い道を誤らぬよう気を付ける事だ」
「そんなの分かってる」
「あの!サチさん!」
「ピートさん。どうかしましたか?」
「僕に稽古をつけてくれませんか!」
「は?俺じゃなくてサチに頼むか」
「…えっと、会話から何となく、ボシュさんもサチさんに教わってるのかなと思ったので」
「あー、分かっちまったかぁ」
大剣の扱いについて、ボシュがサチからアドバイスをもらっていたところを、ピートは抜かりなく見ていた。
「それでサチさん…どうでしょう?」
「そうね。力を付けてムダになる事はない。いいわ。ただし、私の稽古は厳しいわよ?」
「そうだぞ、コイツ見かけに寄らずスパルタなんだ」
「そうなんですね。見た目は天女様なのに」
「天女かどうかはさて置き」
「何よボシュ。いいじゃない、天女で!ほら、この辺とか」
サチはエメラルドグリーンの袖口の薄衣をひらめかせ、クルリと一回りしてケープをはためかせた。
「おお!美しいっ」
「そうかぁ?」
「ボシュ殿は見慣れてしまったようじゃ。慣れというものは恐ろしいのー」
「恋人づくりに苦戦しそうね。アイミー、ドンマイ」
「なっ、何で私に言うの?」
「兄貴の婚期が遅れるって事は、妹にも影響ありって事じゃん」
「ええ~っ、それは困るよ?お兄ちゃん!」
「そこ!勝手に話を膨らませるな!」
「さ、ピートさん。あっちの話は気にしなくていいから早速始めよう。剣はどのくらい使える?」
「ええと…子供の頃に学校の授業で習ったくらいで」
いつしか二班に分かれ、旅は続く。
出くわした小物を相手にピートの稽古が始まる。
「今度の敵は少々手強そうじゃぞ、ご一行」
「ギョっ…気味悪っ!人っぽい魔物が一番気味悪いよね」
「それって幽霊さんを連想させるからだよ、リリ姉」
「おいおいアイミー、幽霊にまでさん付けなくていい!」
現われたのは土気色をした巨人。一見人間だが、どう見ても死人の色だ。
大きな盾を両手に持って、ガシャンガシャン音を鳴らしている。
「うるさいなぁ…。早く黙らせよう。ピートはお休みね。アイミー、リリ姉の雨雲持ってここへ」
「あ、はいっ!ついに来たのねっ」
「大丈夫。いつもリリ姉がやってたところ見てたでしょ。まずは同じようにやってみて」
後方には、いつでも応戦できるようにボシュとリリが控えている。
二人がいてくれる強みを胸に、アイミーが意を決して構える。
「よおし、行くよ、落陽!」
アイミーの掛け声と共に、上空に大きな火の塊が湧き出す。
リリのよりも大きさは劣るものの、魔物を倒すには十分の威力だった。
「ふう…。どうかな、やった?」
「お見事。よくできました!」
「きゃ~、できたよ、リリ姉!お兄ちゃん!」
「上出来だ」
「魔力を上げて行けば、アタシと同レベルの玉が作れるようになるよ。って、大丈夫?息が切れてるよ」
「これ、結構体力いるね…。ちょっと休憩させて」
「しばらく休んでて。後は私達で片付ける。ボシュ、」
「おうよ!」
盾の魔人の次は、黒い影のようなものが現われる。
体力が回復してきたボシュが一気に蹴散らす。
「凄い、皆さん、桁違いの強さですね…」
次々に現れる敵をほぼ一瞬で倒して行く面々に、ピートが驚きを隠せない。
「また化け物が出た!今度はガイコツに包帯男っ」
「ったく、ハロウィンの仮装かっつーの」
「私にやらせて。これで終わらせる、覚醒の炎!」
目的の地に近づくにつれ、魔物の数が増えて行くのはいつもの事。
そしてどんどん強くなって行く事も。
「ミニデーモンがつるんでいるのは、確かボーンナイトとハートナイトじゃ。それからリザードマンもいたかの」
「ナイトっていい響きだけど、どうせロクなヤツじゃないよねー」
「そうだよ、どうせさっきみたいな幽霊さんよ」
「何だ、リリ姉。イケメンなら魔物でもオーケーってか?」
「そんな事言ってないし!」
「好みのタイプだったとしても言えるか?」
「うう…それは」
「心配無用。どちらもリリ殿のお眼鏡に叶うような輩ではない。ガイコツとワシの親戚じゃ」
「ジョニじいの親戚の人?」
「人ではないがのー」
「それなら戦う必要ないんじゃ?」
「親戚とは言え、話の通じる相手ではない。単に同種族という意味である」
「なぁ~んだ。で、石にするのがお好きな魔物ちゃんのつるむ相手なら、そいつらも石好き?」
「石もそうじゃが、固いものが好きじゃな。よう言うとったわ、人間はヤワヤワで嫌いじゃと」
「ふざけた言い草ね!今すぐ殺したいわ、早く出て来なさーい!」
「サチったら、いつになく過激だわね」
「だって盗賊だぜ。このくらいじゃないと?」
「…今なんて?盗賊って聞こえましたが」
「ああ。アイツは今盗賊だ」
「えええっ、天女様はいずこへ!」
「ピートさんが幻滅しちゃうよ、サチ、穏やかに行こう!」
「何だろうがこの大剣で切り裂いてくれる!」
「まあ…あの程度ならば問題なかろう」
そうして待ちに待ったナイト組が現われた。
「生きてた時はイケメンだったって線もあるけど…考えないようにしよう」
馬に乗ったガイコツを前にリリがつぶやいた瞬間、ボシュのギガ空裂斬が真横に走る。
空間をも切り裂く強烈な一振りで、ガイコツ騎士達は言葉を発する暇もなく消えて行った。
「呆気ないぜ!ジジイ、悪いな。アンタの親戚なのに?」
「気にせんでくれたまえ。所詮は小物じゃ」
道を進んで行くと、開けた場所に出た。
「良かった、町がありそうだよ!」
「山で野宿はヤダなって思ってたとこー」
「日も暮れて来たし、あの町で一泊しよう」
一同が気を抜いた時、上空が急に暗くなった。
「何だ?急に暗く…」
「きゃっ!」
「サチさん危ない!」
気づいた時には、上から羽の生えた鋭い牙の青い魔物が迫っていた。
サチは剣を構える暇もなく盾で身を守るも、諸共押し潰される。
一番近くにいたピートが慌てて持っていた剣で魔物を一刺しするが、当然そんな一撃で倒せるはずもなく逆に暴れ始める。
「バカ野郎っ、サチ、俺の手に掴まれ!」
下敷きになったサチをボシュが引きずり出した瞬間、ジョニーが青い物体に勢いをつけて圧し掛かった。
体格的にはジョニーが上だが、見た目が柔らかそうなため押し潰せるのか疑わしい。
だが、鳥は全く動く気配がない。
「…やったの?」
「当然じゃ、リリ殿。コイツはリザードマンじゃな」
魔物は瞬間的に圧死していた。
「じいさんが言ってた魔物、全部出て来たな」
「そうすると、ミニデーモンも来るのかな…」
辺りを用心深く見回す面々。魔物の気配は今のところない。
「ピートさん、ありがとう。助かりました」
「いいえ、サチさんが鍛えてくれたお陰です」
「まだまだだな。急所を狙わないからこうなるんだ。余計にサチが苦しんだぞ?」
「私は大丈夫だから。勇気を出して戦ってくれた事に意味がある」
「お兄ちゃんたら、自分が散々サチに言われて来た事言ってる」
「言わせといてあげなって」
こそっと交わした二人の会話は、幸いボシュには届いていない。
「今のはワシも焦ったわい…しかし、あやつは人間を切り刻むのが好きな魔物。上から押し潰してくるとは意外じゃった」
「そうなんだ。ジョニじいもありがとう。やっぱり強いんだね」
「いやいや。年には勝てんよ。これからは気を抜くでないぞ?若者達よ!それではワシは一足先に町の酒場でやっとるぞ~い」
「分かった。あんまり飲みすぎないでね」
先ほどの緊迫感はどこへやらで、陽気に弾んで行ったジョニーにサチが手を振る。
「サチ、ケガは?」
「平気。ちょっと呼吸が止まっただけ」
「それ平気って言わないから!すぐに薬草煎じてもらいな」
「済みません…僕のせいで」
「あなたのせいじゃない。油断した自分のせいよ。アイミー、宿に着いたらでいいか…」
サチが振り返ると、すでにアイミーの手には煎じた薬草が載っていた。
「はい。飲んで。今すぐ!」
「ら。アイミー、人の話は最後まで聞くものよ?」
「時と場合によるの!ジョニじいも言ってたでしょ。またいつ魔物が襲って来るか分からないんだよ?」
有無を言わせぬ態度で迫るアイミーには、サチも反論できず。
大人しく出された物を口に放ったのだった。