この日アイミーは、いつものように実家である教会の手伝いを終えて外へと出た。
暦は秋ながらその気配はなく、蒸し暑い空気が漂っている。
「暑~い、やんなっちゃう。…ん?人が倒れてる!」
門を出ればそこにうずくまる人影が。
チェリーピンクの美しいスーパーロングをポニーテールにしている。
顔は見えないが、自分と同じくらいの体格。小柄な女性のようだ。
「もし、どうされました?大丈夫ですか?」
「うう…。水…。お腹空いた…」
「この暑さですもの。さあ中へ入ってください。ここは私の家なの。すぐにお水を持って来るわ」
「これはご親切に、神様仏様!ありがとうございますぅ…」
教会の中はひんやりとしていて、水を3杯一気飲みしたサチは少し回復した。
改めて目の前の女性を見る。
青い髪が肩の辺りまで真っ直ぐに伸び、穏やかそうな顔立ちをしている。
プラチナの瞳が美しい。
「お水でお腹いっぱい!生き返ったぁ。本当に助かりました。ええと…」
「私はアイミー。シスター、あ、僧侶の方が分かる?まだ見習いだけど」
「私はサチ。ここ、あなたの家って言ってたね」
「ええ。回復魔法とかも使えるわ。最近魔物が増えて来てるから覚えたの。こんなところで役に立つなんて!ねえ、どこかケガしてたりしたら言って?」
「大丈夫。ここに来るまでの魔物の群れは全部退治して来たらか」
「ええっ?!サチさんが一人で?」
「サチでいいよ。今は一人。今、仲間を探してるところなの」
「それなら、ウチのお兄ちゃんなんていいかも」
「お兄さんいるの?強いの?会わせて!」
「えっと、冗談、だったんだけど…」
ここで長い影が通路に伸びた。
入口に誰かが立っている。
「アイミー、まだこっちにいたのか。母さんが呼んでるぞ。…あ、ゴメン、お客さん?」
「噂をすればだね。取りあえず本人に聞いてみよう。お兄ちゃん!ちょっと来て」
スクッと立ち上がったサチ。
チェリーピンクの瞳をキラキラさせて、逆光の中に立つ人影を凝視する。
「ねえアイミー、お兄さんの名前は?」
「ボシュだよ」
「ボシュ君?私サチ、初めまして!君強いんでしょ?私の仲間になってくれないかな」
「…ド直球ね。何も知らないのにいきなり?ねえサチ、お兄ちゃんは武闘家で強いけど、まだ修行中の身で…」
ようやく姿が確認できたその人物を、サチはまじまじと観察する。
パッと見はアイミーとよく似ている。髪と瞳の色が同じせいか。
それほど上背はなく、やや大人しめの顔立ちだ。
トランクスヘアから覗く瞳にはしかし、強い光が宿っており意志の強い人間である事が窺えた。
「仲間って何のだ?茶飲み友達なら妹のアイミーで十分だろ」
「魔物退治の旅に出るの。世界平和のために」
ここまでは聞いていなかったアイミーも目が点になる。
「お前が?魔物退治?夢でも見てるのか!」
「これは夢じゃない。だってこんなにお腹が空いて死にそうって感覚があったんだもの」
「何言ってんだ、お前?」
「あのねお兄ちゃん、サチ、ここに来るまでに魔物をたくさんやっつけたんだって。強いんだよ、多分だけど」
淡いエメラルドグリーンの衣を纏い、ロングスカートを揺らす姿はどう見てもか弱い女性だ。
腰に携える盾と、燃えるような赤の細身の剣がアンバランスだが。
「そのなりでか?俺だって魔物を倒した事くらいある。最近はこの町界隈まで降りてくるようになったからな」
「経験者大歓迎!ね、お願い、即戦力!」
「そりゃ喜んで付いてったね、お前が屈強な男戦士だったなら。俺も魔物共にはイラついてたんだ」
「男じゃないし屈強じゃないけど、私も戦士よ」
またも教会内に沈黙が走る。
「ならさ、手合わせしてくれない?それで証明できるなら。あ、でももし叶うなら…先に何か食べさせてほしい、デス…」
静かな教会内に小さなケモノの鳴き声が響く。サチの腹の虫であった。
「お水3杯じゃ空腹は満たされないよ。来て、食事、用意するから」
「いいの?」
「あなた面白いし、何かほっとけない」
そう言って微笑んだアイミーの笑顔が眩しい。
サチは瞬時に判断する。この子も仲間にすべしと。
振る舞われた食事を平らげ、身も心も余裕が出てきたサチ。早速アイミーの勧誘に乗り出す。
「ねえアイミー、あなたも一緒に来ない?」
「ええ?!私も?そんな手当たり次第みたいなやり方、良くないよ」
「そういうつもりはない、全然。私に必要な3人の一人だって思ったから。ボシュもね」
この場にいないボシュに向けてもこう口にする。
彼はサチの手合わせの申し出を無視して、日課の鍛練に行ってしまった。
「…急には答えられない。けど、私が何かの役に立つなら、考えたいかな」
「うん。分かった。よし!それじゃ先に、サチ様の実力をボシュ兄貴に認めさせるべし!だね」
「それ、私も見に行っていい?」
「もちよ。ボシュの居場所も分かんないから、連れてってくれると有り難いな」
「だよね。了解!行こう!」
二人の息はピッタリだ。すでにパーティの一員のような雰囲気であった。
・・・
やって来たボシュの修行場にて。
「うぐっ…」
「ヤダ、手加減したつもりだったのに!大丈夫?避けてくれると思ったんだけどなぁ」
「クッソ…!」
武闘家ボシュが主に素手での戦闘を好むため、サチも剣を置いての試合となった、のだが。
「おかしい…。その細腕のどこにそんな力が?お前、本当は男なんじゃ?なあアイミー、魔法で化ける事ってできるよな!」
「お兄ちゃん。見苦しいよ、言い訳なんて。素直に負けを認めなさい?サチ、ホントに強いんだね!カッコいいーっ」
「これも姉さまのお陰よ。役立たずだった私を変えてくれたの」
「サチにはお姉さんがいるのね」
「姉さまと呼んでるけど、正確には師匠かな。血は繋がってないから」
「何と…お前よりも強い女?これは負けてられん!おい、サチと言ったな。俺を仲間にしろ!」
「えっ、なってくれるの!やった!」
「でもさ~、もっと強い人入れた方がいいんじゃ?」
「おいアイミー、それは俺が弱いと言ってるのか。兄貴に向かって?」
「ま~ま~、ケンカしないで!ボシュには実戦経験がなさすぎる。初めから強い人なんていないよ。まだ何も始まってない」
サチは真っ直ぐにボシュのプラチナの瞳を見て伝える。
暗に弱い事を認める発言ではあるが、その眼差しには抗えない不思議な力がある。
ボシュと同じ色の瞳をサチに向けたまま、アイミーは固まる。
「何なの、この説得力。さっきまでとは別人みたい」
こう呟いたアイミーは、この人に付いて行きたいと心から思った。
役立たずだった自分。サチからこんな言葉が出るとは思わなかったが、そしてサチは変わったと言う。
ずっと自分を変えたいとアイミーは思っていた。
変わるにはきっかけが必要なのだ。現状維持の毎日では、何も変えられないのだから。
「サチ!決めた、私も一緒に行きたい!」
「は?何を言い出すんだ、アイミー。お前は戦えないだろ。それに教会の仕事はどうする?」
「教会のお手伝いなら誰でもできる。サチが私を選んでくれるなら、応えたいの」
「だが、こいつは即戦力を探してるんじゃないのか」
「今はまだ回復魔法しかできないけど、基礎が出来てるし、訓練次第で戦えるわ」
「まさかお前も実戦で学ぶ気か?危ないからやめるんだ!」
アイミーは兄の反対により迷いが出始める。
自分がサチの力になれるのかは、正直分からない。
「今の世の中、どこにいたって危険よ。怯えて暮らすか挑んで行くかの違いだと思う。あと私、即戦力よりもっと大事にしたいものがある」
「戦力より?何だよ、それは」
「直感。二人に会って、ビビッと稲妻が走った」
「…。マジで言ってるのか?」
「大マジです。私は自分の直感を信じてる。そうやってここまで来た。それで二人に出逢った」
「恐れ入ったね…!」
「やる気さえあれば、大概できちゃうんだから。やる気があるかは、目を見れば分かる」
サチのチェリーピンクの髪が風になびく。
よくよく見れば容姿は抜群に美しい。行き倒れからの出会いやら言動によって半減していたが。
「降参だ。妹共々、これからよろしく頼む」
「お兄ちゃん、ありがとう!サチ、よろしくね!」
「こちらこそ!」