旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第1話:選ばれし者たち

 

 

 この日アイミーは、いつものように実家である教会の手伝いを終えて外へと出た。

 暦は秋ながらその気配はなく、蒸し暑い空気が漂っている。

 

 

「暑~い、やんなっちゃう。…ん?人が倒れてる!」

 

 門を出ればそこにうずくまる人影が。

 チェリーピンクの美しいスーパーロングをポニーテールにしている。

 顔は見えないが、自分と同じくらいの体格。小柄な女性のようだ。

 

「もし、どうされました?大丈夫ですか?」

「うう…。水…。お腹空いた…」

「この暑さですもの。さあ中へ入ってください。ここは私の家なの。すぐにお水を持って来るわ」

「これはご親切に、神様仏様!ありがとうございますぅ…」

 

 

 

 教会の中はひんやりとしていて、水を3杯一気飲みしたサチは少し回復した。

 改めて目の前の女性を見る。

 青い髪が肩の辺りまで真っ直ぐに伸び、穏やかそうな顔立ちをしている。

 プラチナの瞳が美しい。

 

 

「お水でお腹いっぱい!生き返ったぁ。本当に助かりました。ええと…」

「私はアイミー。シスター、あ、僧侶の方が分かる?まだ見習いだけど」

「私はサチ。ここ、あなたの家って言ってたね」

「ええ。回復魔法とかも使えるわ。最近魔物が増えて来てるから覚えたの。こんなところで役に立つなんて!ねえ、どこかケガしてたりしたら言って?」

「大丈夫。ここに来るまでの魔物の群れは全部退治して来たらか」

 

「ええっ?!サチさんが一人で?」

「サチでいいよ。今は一人。今、仲間を探してるところなの」

「それなら、ウチのお兄ちゃんなんていいかも」

「お兄さんいるの?強いの?会わせて!」

「えっと、冗談、だったんだけど…」

 

 

 ここで長い影が通路に伸びた。

 入口に誰かが立っている。

 

「アイミー、まだこっちにいたのか。母さんが呼んでるぞ。…あ、ゴメン、お客さん?」

「噂をすればだね。取りあえず本人に聞いてみよう。お兄ちゃん!ちょっと来て」

 

 スクッと立ち上がったサチ。

 チェリーピンクの瞳をキラキラさせて、逆光の中に立つ人影を凝視する。

 

「ねえアイミー、お兄さんの名前は?」

「ボシュだよ」

「ボシュ君?私サチ、初めまして!君強いんでしょ?私の仲間になってくれないかな」

「…ド直球ね。何も知らないのにいきなり?ねえサチ、お兄ちゃんは武闘家で強いけど、まだ修行中の身で…」

 

 

 ようやく姿が確認できたその人物を、サチはまじまじと観察する。

 パッと見はアイミーとよく似ている。髪と瞳の色が同じせいか。

 それほど上背はなく、やや大人しめの顔立ちだ。

 トランクスヘアから覗く瞳にはしかし、強い光が宿っており意志の強い人間である事が窺えた。

 

 

「仲間って何のだ?茶飲み友達なら妹のアイミーで十分だろ」

「魔物退治の旅に出るの。世界平和のために」

 

 ここまでは聞いていなかったアイミーも目が点になる。

 

「お前が?魔物退治?夢でも見てるのか!」

「これは夢じゃない。だってこんなにお腹が空いて死にそうって感覚があったんだもの」

「何言ってんだ、お前?」

「あのねお兄ちゃん、サチ、ここに来るまでに魔物をたくさんやっつけたんだって。強いんだよ、多分だけど」

 

 

 淡いエメラルドグリーンの衣を纏い、ロングスカートを揺らす姿はどう見てもか弱い女性だ。

 腰に携える盾と、燃えるような赤の細身の剣がアンバランスだが。

 

 

「そのなりでか?俺だって魔物を倒した事くらいある。最近はこの町界隈まで降りてくるようになったからな」

「経験者大歓迎!ね、お願い、即戦力!」

「そりゃ喜んで付いてったね、お前が屈強な男戦士だったなら。俺も魔物共にはイラついてたんだ」

「男じゃないし屈強じゃないけど、私も戦士よ」

 

 またも教会内に沈黙が走る。

 

「ならさ、手合わせしてくれない?それで証明できるなら。あ、でももし叶うなら…先に何か食べさせてほしい、デス…」

 

 静かな教会内に小さなケモノの鳴き声が響く。サチの腹の虫であった。

 

「お水3杯じゃ空腹は満たされないよ。来て、食事、用意するから」

「いいの?」

「あなた面白いし、何かほっとけない」

 

 そう言って微笑んだアイミーの笑顔が眩しい。

 サチは瞬時に判断する。この子も仲間にすべしと。

 

 

 

 振る舞われた食事を平らげ、身も心も余裕が出てきたサチ。早速アイミーの勧誘に乗り出す。

 

 

「ねえアイミー、あなたも一緒に来ない?」

「ええ?!私も?そんな手当たり次第みたいなやり方、良くないよ」

「そういうつもりはない、全然。私に必要な3人の一人だって思ったから。ボシュもね」

 

 この場にいないボシュに向けてもこう口にする。

 彼はサチの手合わせの申し出を無視して、日課の鍛練に行ってしまった。

 

「…急には答えられない。けど、私が何かの役に立つなら、考えたいかな」

「うん。分かった。よし!それじゃ先に、サチ様の実力をボシュ兄貴に認めさせるべし!だね」

「それ、私も見に行っていい?」

「もちよ。ボシュの居場所も分かんないから、連れてってくれると有り難いな」

「だよね。了解!行こう!」

 

 

 二人の息はピッタリだ。すでにパーティの一員のような雰囲気であった。

 

 

 

・・・

 

 

 

 やって来たボシュの修行場にて。

 

 

「うぐっ…」

「ヤダ、手加減したつもりだったのに!大丈夫?避けてくれると思ったんだけどなぁ」

「クッソ…!」

 

 武闘家ボシュが主に素手での戦闘を好むため、サチも剣を置いての試合となった、のだが。

 

「おかしい…。その細腕のどこにそんな力が?お前、本当は男なんじゃ?なあアイミー、魔法で化ける事ってできるよな!」

「お兄ちゃん。見苦しいよ、言い訳なんて。素直に負けを認めなさい?サチ、ホントに強いんだね!カッコいいーっ」

「これも姉さまのお陰よ。役立たずだった私を変えてくれたの」

「サチにはお姉さんがいるのね」

「姉さまと呼んでるけど、正確には師匠かな。血は繋がってないから」

 

「何と…お前よりも強い女?これは負けてられん!おい、サチと言ったな。俺を仲間にしろ!」

「えっ、なってくれるの!やった!」

「でもさ~、もっと強い人入れた方がいいんじゃ?」

「おいアイミー、それは俺が弱いと言ってるのか。兄貴に向かって?」

「ま~ま~、ケンカしないで!ボシュには実戦経験がなさすぎる。初めから強い人なんていないよ。まだ何も始まってない」

 

 サチは真っ直ぐにボシュのプラチナの瞳を見て伝える。

 

 

 暗に弱い事を認める発言ではあるが、その眼差しには抗えない不思議な力がある。

 ボシュと同じ色の瞳をサチに向けたまま、アイミーは固まる。

 

「何なの、この説得力。さっきまでとは別人みたい」

 

 

 こう呟いたアイミーは、この人に付いて行きたいと心から思った。

 役立たずだった自分。サチからこんな言葉が出るとは思わなかったが、そしてサチは変わったと言う。

 

 ずっと自分を変えたいとアイミーは思っていた。

 変わるにはきっかけが必要なのだ。現状維持の毎日では、何も変えられないのだから。

 

 

「サチ!決めた、私も一緒に行きたい!」

「は?何を言い出すんだ、アイミー。お前は戦えないだろ。それに教会の仕事はどうする?」

「教会のお手伝いなら誰でもできる。サチが私を選んでくれるなら、応えたいの」

「だが、こいつは即戦力を探してるんじゃないのか」

「今はまだ回復魔法しかできないけど、基礎が出来てるし、訓練次第で戦えるわ」

「まさかお前も実戦で学ぶ気か?危ないからやめるんだ!」

 

 アイミーは兄の反対により迷いが出始める。

 自分がサチの力になれるのかは、正直分からない。

 

「今の世の中、どこにいたって危険よ。怯えて暮らすか挑んで行くかの違いだと思う。あと私、即戦力よりもっと大事にしたいものがある」

「戦力より?何だよ、それは」

「直感。二人に会って、ビビッと稲妻が走った」

「…。マジで言ってるのか?」

「大マジです。私は自分の直感を信じてる。そうやってここまで来た。それで二人に出逢った」

 

「恐れ入ったね…!」

「やる気さえあれば、大概できちゃうんだから。やる気があるかは、目を見れば分かる」

 

 

 サチのチェリーピンクの髪が風になびく。

 よくよく見れば容姿は抜群に美しい。行き倒れからの出会いやら言動によって半減していたが。

 

 

 

「降参だ。妹共々、これからよろしく頼む」

「お兄ちゃん、ありがとう!サチ、よろしくね!」

「こちらこそ!」

 

 

 

 

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