町に着いた頃には日も暮れかけていた。
「ん?子供がこっちに来るぞ」
「こんな時間に、迷子さんかな?」
大人達が足早に通り過ぎて行く。というよりも存在に気づいていない様子。
その子供は迷わず近づいて来る。
「おい坊主。早く家に帰れ。この辺は魔物が多いから、食われちまうぞ?」
「バーカ!ボクが食われるワケないじゃん。アハハ!」
「なっ、何だと?クソガキが!」
「お兄ちゃんっ、子供相手にムキにならないでっ」
「ボシュ、抑えて!この子なんだか様子がおかしいわ」
「そういえば、誰もあの子を見てない。見えてないの?」
「気を付けて!そいつ、魔物かも!」
リリが叫んだ時、子供が魔物の姿に変わった。
背格好は変化なし。小さな緑色のいわゆる悪魔だ。
「お前がミニデーモンね」
「ピンポーン!ボーンナイトとメタルライダー、それにリザードマンまでやられたって聞いて、思わず見に来ちゃったよ」
「見に来て損したな、死ぬ時が早まったぜ!サチ、下がってろ」
ボシュが背から降ろした大剣を構える。
「なるほどね。皆それでやられたのか」
「ボシュ待って!石にされた人達を元に戻す方法を聞き出してからだよ!」
「私達まで石にされないように、守りの盾でガードしよう!」
アイミーがボシュを、リリはサチをプラチナトレイで守る。
「ふ~ん。そんなのも持ってるのか。だけどアイツには勝てないよ!じゃ、バイバーイ!」
「あ、待て!ほら逃げられちまったじゃねーか!」
「だってまだ、戻す方法が分かってないんだよ?」
「大抵、敵を倒したら元に戻るんだよ」
「戻らなかったら?」
「うぐっ。だから、そんときゃそん時だろ!」
「考え無し!」
「何だと?」
「ちょっと二人とも!こんな道の真ん中でやめて。サチも何とか言ってよ、サチ?」
そこにいたはずのサチがいない。
「あれ、サチがいない。ピートさんも!」
「おいマジかよ…久々に放浪癖が出たか?しかも今回は道連れ付きで!」
「もう暗くなるよ。どうする?」
「どうするって探すに決まってるでしょ!」
「いや。安易に動き回らない方がいい。ピートだけが消えたならともかく、サチも一緒となれば魔物にさらわれた線は薄い」
「そうよ。とにかく宿を探してから、ジョニじいの待つ酒場に行こう」
「もう、サチったら…さっきあんな目に遭ったばかりなのに」
「アイツなら心配ねーよ。そんな気がするだけだが」
「アタシもそう思う。行こ、アイミー!」
一人で探しに行く事は避けたい。アイミーは二人の意見に従う事にした。
・・・
一方、サチとピートはボシュの読み通り、魔物にさらわれた訳でもなく、単に無断で別行動を取っていた。
「ね、サチさん、おかしいでしょう?」
「本当ね。町の中にこんなに石像が立っているのは不自然だわ」
「きっと魔物に石にされた人間なんですよ!」
「でもそうすると、普通に暮らしている人々が気になるな…」
皆石像になど目もくれず、至って自然な様子で行き交っている。
ピートが石像が多い事に気づき、サチに声を掛けた事から始まった別行動。
その数を数えたりしているうち、いつしか二人で別の方向に来てしまっていた。
「ここは思い切って、町の人に聞いてみよう」
「そうですね」
「あの、すみません!」
サチが声を掛けたのは初老の紳士。オジン・キラーの腕の見せ所である。
そうして、まんまと情報を得た。
町で一番繁盛しているという酒場の場所も抜かりなく聞き、二人は迷わずそこへ向かった。
「来た来た!こっちよ、二人とも!」
「リリ姉!やっぱりここであってたね」
「合流出来て良かったです」
真ん中の席を陣取ったリリが手を上げている。
ジョニーも堂々とテーブルの輪の中に加わっていた。
「驚きだろ?この広さ!リリ姉が働いてた店以来だぜ」
「感激である!さあさ、サチ殿。ワシの隣りへ」
「おい。さり気なく呼びつけて何企んでる?ピート、ジジイの隣り行け!」
「ええ…っ、僕ですか」
ジョニーが心なしかしょんぼりした事には、皆気づかぬふりだ。
「また何も言わずにいなくなって。心配したんだよ、サチ!」
サチはアイミーとリリに挟まれた。
「で?何か情報持ち帰ったんでしょう?」
「さすがリリ姉。お見通しだね」
「情報って?」
「おい、そっちでコソコソ話すな、共有しろ!」
「もちろん。ピートがね、町に石像が多い事に気づいて。町の人に聞いてみたら、やっぱりミニデーモンの仕業だった」
ジョニーは無言で酒をあおっている。
ヤケ酒なのか、はたまた余計な口を挟まぬためかは不明だ。
「どういう事だ?他の奴らは平然としてたぜ?」
「そこなのよ。それが、取引をしてるみたいなの」
「取引?相手は魔物だよね」
「信用できる訳ないっしょ!」
「もちろん、人を化かしたり石にしたりする魔物です。信用なんてできません。ですが、利害が一致すれば可能なんです」
「食料とかを渡すの?」
「それって人間じゃんか!まさか人柱立ててるとか言わないよな?」
「そのまさかよ。あの石像は、この町で犯罪を犯した人達だった」
「けど、そのうち悪人も尽きるでしょ」
「そう。だから町の人々は目立たないよう、目を付けられないよう、淡々と生活してる」
「そんなの平穏な暮らしって言える?おかしいよ!」
「だからあん時仕留めときゃ良かったんだ、あのクソ小悪魔!」
「だ~か~ら~」
「石化を解く方法だけど」
「ウソッ、分かったの!?」
サチはピートの方に目を向ける。それを受けてピートが説明を始めた。
「どうやら石解きの錫杖というのがあるようです。それを手に入れられれば皆を…っ」
「つまりあのチビを殺しても、石になった奴らは戻らないと…?」
だから言ったでしょ、とリリが視線でボシュに言う。
「おぬし達、よくぞそこまで答えを導いた。あの者達の振る舞いはワシとて許しがたい。償いに錫杖はワシが取りに行くのである!」
「待って、あの者達って、相手はミニデーモンだけじゃないって事?」
「ああ…。しまった、である」
「である、じゃねー!説明してもらおうか。それと、取りに行くってありか知ってるのか?」
「今晩は妙に酔いが回るのが早いのー。もう年じゃのー。ここらで退散するとしよう」
ボヨン、と一歩下がるジョニー。
「おい、逃げる気か?魔物って奴は逃げ足が速いんだよな!」
「お兄ちゃん!言いすぎだよ!」
「何でもいいじゃない。錫杖取って来てくれるなら有り難いわ」
「そうよ。これでアタシらは、あの小悪魔その他に集中できるし」
「わざわざ偵察しに来たくらいだもの。対策を練ってやって来るかもだよね」
「だな。せいぜい大勢引き連れて来やがれってんだ」
「何とも頼もしくなったの、ボシュ殿!では良い夜を~。ボヨン」
お休み~と女子3人の声がハモった。
「ねえねえ、今のさ、ニンジャのドロン、に似てない?」
「本日これにて。ボヨン」
こんなサチの一言に、一斉に笑い声が上がる。
今回も、決戦前夜を思わせない楽しい夜であった。