旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第20話:石解きの錫杖

 

 

 迎えた翌日。

 

 早朝からすでにジョニーの姿はない。とはいえ大抵ジョニーは後半しか現れないのだが。

 

 

「で、あの小悪魔野郎はどこにいるんだ?」

「ここで待ってるだけじゃアレだよね」

 

 準備万端で立ち尽くす一行プラス一名。自然とサチに視線が集まる。

 

「昨日みたいに人間に化けて、その辺にいるかもしれない。気を抜かないで」

「そうよ。ちゃんと見抜かないとだわね」

「そうだよね。あぁ、怖いなぁ…」

 

 不安そうなアイミーの背に手を当ててサチが微笑む。

 

「皆これまでたくさん魔物に遭遇して来た。察知する力も身に付いてる。大丈夫」

 

 

 不意にリリが持っていた武器をアイミーに突き出す。

 

「アイミー、雨雲持ってて」

 

 

「え?何で…」

「その聖風の杖、借りるよ~!」

 

 リリは返事も待たずにお互いの武器を交換してしまった。

 

 

「サチ…っ」

「そろそろリリ姉を転職させてあげなきゃ。アイミー、やれるよね?」

「…。そうだよね、私、頑張る!」

 

 

 サチはリリと目を合わせて頷いた。

 

 とその時。

 

 

 

「きゃーっ!!」

「また出たぞ!逃げろ!」

 

 不意に人々の悲鳴やら叫び声が響き、辺りは騒然となる。

 

 

 

「何事だ?」

「行ってみよう」

 

 

 

 サチを先頭にその場へ向かう。

 

 そこは昨日までの長閑な風景はどこへやら、逃げ惑う人々で溢れていた。

 町の空気までもが様変わりしている。

 

 

「いや~っ!助けてっ」

 

 人の減った道の真ん中で、一人の女性が倒れ込んでいる。

 

 

「大変、ケガでもしたのかしら」

「私行って来る!」

「待って、アイミー!」

 

 駆け出そうとするアイミーを瞬時に止めるサチ。

 

「魔物の気配…だわね」

「どこだ、どこにいる?」

「ピートはここにいて。絶対に勝手に動かないで。いい?」

「わ、分かりましたっ」

 

 

 良く見れば、女性の足に道の土埃に紛れた何かが絡み付いている。

 

 土埃が風で流され、ようやく実態が見えた。

 

 

「気味悪ぃ、あれ、手じゃねーか!」

 

 黄土色の“手”が女性の足首を掴んでいる。

 その周辺に同じようなうごめくものが確認できた。

 

「クソっ、これじゃ俺の技は使えない…っ、どうする?」

「何とかしてあの人を、あの場所から移動させられればいいんだけど…」

 

 

 その時、通りの向こうから何かが飛んで来て“手”に当たった。

 

 それが直撃して力が弱まったのか、女性が解放される。

 必死に這いずって魔物との距離ができた。

 

 

「今よ!」

「よし来た、任せろ!ギガ空裂斬!」

 

 

 再び土埃が舞い上がったが、それが落ち着く頃にはすでに魔物の姿は消えていた。

 

 

「倒したね!」

「うん!私、あの人の所に行って来る!」

 

 

 アイミーが駆け寄り女性に声を掛けていると、向こうから男の子が走って来た。

 

 

「お母ちゃん!」

「おお坊や。無事だったかい、良かったよ…っ」

「もしかして、君が石を投げてくれたのかな?」

「そうだよ!お母ちゃんに当たったらどうしようって思ったけどね」

 

「コントロール抜群だったわよ、少年!」

「母親を守るなんて偉いじゃないか。俺の子供の頃そっくりだなー」

 

 

 気分良さげに語るボシュを横目に、リリが中腰になってアイミーにこっそり聞く。

 

「…そうなの?」

「一応、うん、って言っておく」

 

 

 サチもアイミーの隣りにしゃがみ込み、男の子に事情を尋ねる。

 

「ねえボク、こういう事は頻繁にあるの?」

「しょっちゅうさ。地面から突然生えて来る化け物、マドハンドって言うんだ。他にもいっぱい気持ち悪いのが出て来るよ」

「もっと気持ち悪いのがいるのか?最悪だな!」

 

「あのまま土の中に連れ込まれた人が何人もいるのです。助けていただいて、本当にありがとうございました」

「どうしてこの町に執着するのかしら」

 

「一度でも魔物と取引してしまえばこうなるんでしょう。もうどうしようもありません」

 

 リリの疑問にそう言い返すと、母親はもう一度深々と礼を述べて子供と逃げるように去って行った。

 

 

 

「これは全滅させるしかないな」

「そうね。ちょうど人も引き払ってる事だし、手っ取り早くここに魔物を呼び寄せよう!」

「匂い袋でしょ?この間露店で買ったヤツ!ホントに効果あるのかしら」

 

 町に寄る度に変わった品を買い漁るサチ。

 いつしかリリも興味を持つようになった。

 

「お、俺の眉唾疑惑癖がリリ姉にも移ったな」

「だってねぇ。あれはさすがに?」

 

「ものは試し!それじゃやるよ?皆、鼻摘まんで!」

 

 

 サチは麻の袋の口を目いっぱい開く。

 

 すると紫色の気体が辺り一面に漂い出した。

 

 

「じじいが一番に吸い寄せられて来たりしてな!」

「それは困る。ちゃんと錫杖を持ち帰って来てくれないと?」

 

 

 

 こんな軽口を飛ばし合っているところに、早速1体の魔物が現れた。

 小さな紫色のそれは一つ目で、赤いとんがり帽子を被って宙に浮いている。

 

 

「ピエロみたいでちょっとカワイイかも」

「アイミー、頭変になった?魔法掛けられてないよね?」

 

 

 さらには背後からも。カキン、カキンと金属がぶつかるような音がする。

 

「何だ?!刀の化け物だ!」

 

 

 そして左右には黄色の歪な塊が近づいて来ている。

 

 

「ひいっ、何あのモヤモヤ?効果てきめんだわよ、数が多すぎる!サチ、先手必勝…」

 

 本当は自分が一気に倒したいところだが、愛用武器はアイミーに渡している。

 サチに託そうとしたリリの言葉を遮ったのは…。

 

 

「私にやらせて」

 

 ここで一歩前に出たのはアイミーだった。

 

 

「いきなりこんなに一遍は無理だよ!」

「リリ姉、私やってみたい。取り零した時はお願い」

 

 アイミーの表情は凛としていて、リリは初めて頼りになる、と思えた。

 

「よし。そんじゃ任せたよ」

 

 

「えーい、落陽ー!!」

 

 

 凄まじい熱量と轟音を肌で感じながら、魔物達の全滅を確信。

 想像通りの結果となった。

 

 

「お見事。完璧な落陽だった。ねえリリ姉?」

「うん。文句なし。それにまだまだやれそうじゃない?アイミー」

「大分体力も付いたみたい。皆のお陰だよ!」

 

「そんじゃ、そろそろリリ姉も転職だな」

「この件が片付いたらね。ほら、また何か出て来てるよ!」

 

 リリの指が示した先で、何かがいくつもうごめいている。

 それに続き鼻を突く悪臭が漂い始めた。

 

 

「これは、俺の大キライな…」

「お兄ちゃんの嫌いな玉ねぎ、しかも腐った臭い!」

「耐えられねぇ、瞬殺だ!ギガ空裂斬!」

 

 

 あっさり消されたそれは一体何だったのか、良く分からずに終わった。

 

 

「へ~、ボシュって玉ねぎ苦手なんだ」

「悪いか?お前だって嫌いなモンの一つや二つあんだろ」

「アタシはないかな~。悪いけど」

 

 偏食もせず大人達に迷惑をかけぬよう生きて来たリリには、ボシュが子供に見えてしまう。

 

「私はバナナが苦手かなぁ」

「えっ、サチ、そんな高価な物が?私は食べた事ないから好きか嫌いかも分かんないよ」

 

 バナナといえばこの世界では高級品。

 姫だからこそ身近なのであって、一般庶民が目にする事はないシロモノである。

 

 サチが姫である事を知るのはリリのみ。

 何でそれ言うかなーと、一人心の中だけで突っ込むのだった。

 

 

 

 長らくギャラリーと化していたピートが声を発する。

 

「っ皆さん!上!」

 

 

 真上に影が迫っていた。それは大きな翼を持った青い鳥だ。

 

 

「アイツもバケモンって事でいいんだよな?」

「あの大きさ、ただの動物じゃないでしょっ、魔力もビンビン感じる!」

「まずい、皆、ここで固まってたらダメ、散って!」

 

 サチの合図で四方に駆ける面々。

 

「あ、ピート!」

 

 

「うわぁっ!」

 

 遅れを取ったピートが鳥に押さえつけられている。

 

 

「ピート、姿勢を低くしててね!覚醒の炎!」

 

 

 サチは叫ぶと、剣を高々と天に向かって掲げる。

 

 湧き出した光が物凄い音を発して剣から天へと立ち昇る。

 サチは魔物に向けて、剣を左から右へと振り抜いた。

 

 

 真っ二つになった巨大な鳥は、その場で塵と化した。

 

 

「ピート、大丈夫?」

「かすり傷で済みました。足がもつれてしまって…情けないです」

「手、掴んであげれば良かった。私も悪かったわ」

 

「えっ、サチさんと、手を、繋いで…」

 

 

「おい。変な妄想が俺の目に映ってるんだが、気のせいだよな?」

 

 

 顔を覗き込まれたピートは、慌てて立ち上がる。

 

「気のせいですよ!僕は自分の不甲斐なさを嘆いていただけで…」

 

 

「サチ殿、相変わらずお見事じゃった!今のはホークブリザード。なかなかの強敵じゃぞ?」

「ジョニじい!もう帰って来た!」

「マジで匂い袋効果だったりして…」

「いい香りが漂っておるわい!ほれ、土産物じゃ」

 

 疑惑の目を向けたリリに、錫杖が渡される。

 

「これが例のブツ?」

「そう、ブツである。ボヨン!」

 

「本当ですか!それで皆を元に戻せるのですね!」

「さよう。疑うならば、この町の石にされた者達で試してみるがよい」

「ジョニじい、試すって言い方は良くないよ?」

「おお、これは申し訳ない、言葉を間違えたわい」

 

 

「よし、早速やってみよう!ピート、あなたがやるのよ?」

 

 リリから錫杖を奪ってピートに持たせるサチ。

 

「え、ですが…」

「何のためにここまで来たの?国の人達を、友人を救うためでしょ」

「サチさん…ありがとうございます!」

 

「ジョニじい、使い方は?」

「掲げて念じるだけじゃ」

「誰にでもできる?」

 

「やってみれば分かるじゃろ」

「それもそうだ」

 

 

 

 

 

 促されて一人石像の前に立たされたピート。

 

 ぎこちなくも錫杖を掲げ祈った。が、何も起こらない。

 

 

「戻らないみたいだが」

「おかしいのー。使い方が間違っておるのかも?」

「おい!ちゃんと使い方も聞いて来いよ!」

「お兄ちゃん!そんな言い方っ」

 

 

 途方に暮れたピートは、そっと錫杖で石像を撫でてみた。

 すると見る見る肌の色が戻り、像が人間に変わったではないか。

 

 

「あれ?俺何してたんだっけ?って、アンタ誰?」

 

 

「戻った!ああ良かった…っ」

 

 

 感謝の言葉もなく、人間に戻った男は首を傾げながら去って行った。

 その後も次々と石像を人間に戻して回り、ついに全員を戻し終えた。

 

 

 

「案外あっさり終わったな~。そんじゃ、早くピートの国に行くとするか」

「そうね。ここにはもう当分魔物は来ないでしょう」

 

 

 

「あなた方!お待ちください!」

 

 頷き合った面々に後ろから声が掛かった。

 

 

 振り返ると、サチには見覚えのある初老の男性の姿が。

 さらにたくさんの町民がいつの間にやら集まっている。

 

 

「この度の事、皆から聞きました。私はここの長です。本当に何と礼を言ったらよいか…」

 

「あ。あの時の」

「そうです。名乗らずに済みませんでした。まさかあなたが勇者様御一行の方とは思わず」

 

「僕は勇者様一行のメンバーじゃありません!」

「いいじゃない。今回はそういう事にしておけば?」

「しかし…」

「いいんだよ。説明がめんどくせぇだろ」

 

 ボシュのコメントは素っ気ないが不満はなさそうだ。

 

「実際、石にされた人達を元に戻したのはピートなんだし。ね?」

 

 加えられたサチの言葉に、皆も頷く。

 これを聞いた町長はピートに注目する。

 

「おお!あなたが!魔力を掛けられていた者達の記憶がなく、お礼も言わずに去ったそうで。その節は大変失礼いたしました」

「いえそんな!お礼を言いたいのは僕の方です。僕の国の人達も石にされていて、治す方法を探していたので」

 

「そうでしたか。ではすぐにお帰りに?」

「はい。これから発とうとしていたところです」

 

 

 町長は控えていた部下から袋に入れられた何かを受け取る。

 

「荷物になるかもしれませんが、どうぞこちらをお持ちください」

「これは何ですか?」

 

 受け取ったサチが袋を覗き込む。

 中には透き通った石の欠片のようなものが大量に入っている。

 

「それは魔物との取引の時に使っていた物です。魔力を持つ道具と交換したりもできます」

「それってつまり、お金みたいなものですよね?そんなの貰えません!」

「我々にはもう必要ないものですから。あってもゴミになるだけです。勇者様にならきっと使い道があるはず」

 

 

 魔物を成敗したこの町ではもう使い道がない。もっともとである。

 

 

「貰っとこうよサチ。この重さ、ボシュの筋トレにちょうどいいじゃん」

 

 サチからリリへと渡った麻袋。それなりにズシリと重みがある。

 そしてボシュへと渡る。

 

「どれ?おお、なかなかの重量だ。いいじゃないか!」

「捨てるよりは使えそうな私達が持ってても、いっか」

「まあ、そうだね。お兄ちゃんも喜んでるし、いっか」

 

「アタシの読み通り、アンタの兄貴は清らかだった。結構結構!」

 

 

 そんなこんなで、ボシュの筋トレグッズと化した“導きのかけら”なる物も入手。

 

 

 

 一行は次なる目的地、ピートの国へと歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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