急ぎ足で向かったピートの国では、予想外の出来事が起きていた。
「なぜ魔物達がこんなに?僕の読みは外れた…。一体いつから!」
「兵士を石にしただけでは飽き足らなかったか。酷い話だぜ!」
国の中央にそびえる城は魔物達に乗っ取られていた。
あちこちに石にされた兵士が転がっており、国の民の姿は見られない。
「まさか全員餌食に…」
「いやっ…」
アイミーがたまらずリリの胸に顔を寄せる。
優しくアイミーの背を擦りつつ、リリは険しい顔で前を見据える。
「心配はいらん。人間の気配は感じる。全員ではないかもしれんが、無事じゃ」
「そう。少し安心した。ここからは手分けしよう。ピートは石にされた人達を戻して行って。私達は城の魔物を倒しに行く」
「分かりました。皆さん、お気をつけて!」
こうしてピートと別れた4人は城へと足を踏み入れる。
すぐさま門番をしていた直立不動の甲冑が3体近づいて来た。
「気を付けるのである、デビルアーマーじゃ。槍で滅多刺しにしてくるぞい」
「おい。お前らは人間だな。誰の許可を得てここへ来た?」
「これを持ってるんだけど。ダメ?」
サチは透かさず、ボシュが背負っていた麻袋からいくつかの欠片を取り出して見せる。
「導きのかけらか。ならば1000ほど置いて行け」
「今、千、って言った?これで足りるの?」
「分からない。ボシュ、全部こっちへ」
「ああ。ほらよ」
ドサリと転がった麻袋に、魔物が近寄る。
「今だ!覚醒の炎!」
サチが放った一撃を受けても、3体の甲冑は倒れない。
「何をする?小賢しい人間共め!」
「きゃっ」
「サチ!伏せろ!」
続いてボシュの必殺技が繰り出される。
サチに槍を突き刺す寸前、甲冑3体は掻き消えた。
「助かった、ありがとうボシュ」
「危なかったな。お前のあの技が効かないとは」
「敵が強くなってる証拠。ボシュの経験値も順調に上がってる」
サチがボシュの頭のスライム帽に目をやる。
「ああ!そんな気がするぜ!」
「サチ、回復魔法使う?」
「アイミー、待った!それは今アタシの役目よ?」
「ああ…そうだった」
「まだ平気。二人とも体力温存しといて」
分かった、と二人の声が揃って響いた。
「じゃ中に入るぞ」
「ワシはここで待つ。検討を祈るのである!」
薄暗い城の中は、魔物の気配で満ちている。
すぐに次の魔物が現れる。
「あれってジョニじいの親戚だわ!」
「あの黒い影も見た事あるよ!」
「こいつらは前回倒してる。俺に任せろ」
ボシュの技で見事敵を倒し、さらに先を目指す。
「今度は黄色い塊3体!これは私がやる」
続いて現れた人面岩のような黄色い魔物を、サチが一掃した。
「お見事だぜ。倒せるヤツと倒せないヤツがいるって、こういう事だな」
「そう。見極めて戦って行こう。いよいよ次がラスボスかな。アイミー、雨雲準備して」
「オーケー!」
「ケガしたらアタシがすぐに治すからね!」
向かった先で、王座の席に陣取っていたのは、千手観音のようなライオンだ。
「よくぞここまで辿り着いた。だがここまでだ。この国から石の王国を作り上げる!柔らかいものは全部殺す!」
「こいつも石信者なの?ライオンのくせに!」
「触ったら固いのかも」
「ってサチ、確かめに行くとか言うなよな。やっていいだろ?」
「もちろん。やって!」
「ギガ空裂斬!」
さすがに一撃では倒せず。
「アイミー、お願い!」
「任せて。落陽!」
それでも倒せない。さすがに皆の体力が限界に近づいて来た。
「こうなったら、これでどうだ、バギクロス!」
回復役のリリが攻撃に回る。
それでもまだ倒れない。
技を出す力を使い果たした4人。交互にボカスカと愛用の武器で叩きまくる。
ここでようやく魔物も勢いを失くし、ついに力尽き倒れた。
「…やったか?」
「お兄ちゃんの一撃が決め手!それよりリリ姉、バギクロスなんていつ覚えたの?」
「見様見真似ってヤツ?」
「さすがリリ姉だね。やったね、ボシュ」
「ちょっとサチ、大丈夫?」
「少し疲れたかな。へへ…っ」
「サチがおかしいよ!酔っ払ってる時みたい」
「まさか瘴気にやられたとか?」
「私ならともかく、サチだよ?とにかく外に連れて行こう」
ボシュに背負われたサチ。
魔物の気配が立ち消えた城から外へ出て、草むらに寝かせる。
「すぴー…。ぐすっ、…姉、さま、スースー…」
「なあ…もしかしなくても寝てねえか?」
「ずっと神経を張り詰めていたのじゃろうて。寝かせてやるのじゃ。皆、よくやったのである」
「サチ、ありがとう。そんなに無理してたんだね…」
「お疲れ」
「しょーがねーから運んでやるよ!」
再びボシュがサチを背負う。ちなみに大剣はアイミーが抱えている。
「お兄ちゃんの剣、超重いんですけど!」
「そんなの振り回してたら腕抜けそっ」
「お前らと違って、俺は長年鍛練してるからな!」
「武闘家だった経験が生きてるって事だわね」
「お前らだってそうだろ。分かんねーのはコイツだ」
「だね。こうやって急に寝ちゃったりとか」
「そうそう。忘れてたけど、サチって今盗賊よ?」
「勇者が盗賊だなんて言えるかよ。笑えないぜ!」
そんな会話をしている矢先に、ピートがやって来る。
「皆さん!ご苦労様でした!紹介します、僕の友人です」
「こちらの方々が!この度は本当に何から何まで世話になりました」
「あれ、サチさん?おケガでもされたのですかっ」
ボシュに背負われたサチを見て驚くピート。
「違うから心配しないで。ウチのリーダーはお疲れなのよ」
「こう見えて、一人でいろいろ抱えちゃう人だから。きっと今回も、凄く気苦労が多かったんだと思います」
「そうなんですね。是非ゆっくりして行ってください、すぐに宿に案内します」
「助かる。頼む」
頷いたピートはその流れでジョニーに目を向ける。
察したジョニーが先に言う。
「ワシの事は気にせんでくれたまえ!ちなみに、広い酒場はあるのかの?」
「ええと、屋外の飲み屋なら制限はないかと」
「おお!では今晩はそこに決まりじゃな。サチ殿が目を覚ましてくれるとよいが」
「無理に起こしたりしませんからね?」
「もちろんじゃ。ではワシはちょっくら失礼するのである」
ピシッと敬礼を決めたジョニーが弾んで遠ざかった。
「今日はボヨン、って言わなかったね」
「ジョニじい、ホントにサチの事好きだよね」
「あらアイミー、ヤキモチ~?」
「違うもん!」
案内された宿にサチを寝かせ、3人もそこで休息を取る事とする。
「俺はひと眠りする。腹減って起きるだろうから、そしたら飯食いに行こうぜ」
「了解。アタシも少し休もうかな。でもサチ一人にして大丈夫かしら」
「あ、私ここでサチと休む。私が見てるから」
「悪いね。じゃお言葉に甘えて」
こうして各々当てがわれた部屋へと向かった。
1時間程が経過した頃、ボシュが顔を出した。
「起きたの?もう少し寝てたら?」
「いやダメだ。腹減って限界。サチはまだ起きないか。リリ姉は?」
「まだみたい。向こうにジョニじいがいるはずだから、先に行ってていいよ」
「おう、ならそうするよ。お前はちゃんと休んだか?」
「うん。さっきまで寝ちゃってた」
「なら俺が起こしたようなもんだな…悪い」
「ううん。こんな時間に寝すぎは余計に疲れるから逆に良かったよ」
ボシュは頷いてから、お先、と言って出て行った。
その少し後に、リリが顔を出した。
「ふわぁ~あ、寝すぎた感じ。アイミー、代わるよ。アタシがサチ見てるから、食事か仮眠か、取って来て」
「もう仮眠は取った。じゃあ、先に行こうかな。さっきお兄ちゃんも行ったの」
「なら合流して。アタシもサチが起きたら行くから」
リリに軽く礼を言って、アイミーは出て行った。
一人になったリリは、変わらず穏やかな寝息を立てて眠っているサチを眺める。
「あどけない寝顔!…あんまり一人で抱えるな?」
事情は知らされていないが、一国の王の娘というからには何かしら抱えているのだろう。
世話焼き体質のリリは、そんなサチを放っておけないのだが。
「無理に聞き出すのも違うよねぇ…」
しばらくすると、サチが唸り声を上げ始めた。
「ゔぅ…、んっ」
「サチ?どうした?」
「姉さ、ま…」
「申し訳ないんだけど、アタシは姉さまじゃないよー」
そんなセリフが聞こえたのかサチがパカリと目を開けた。
そしてリリを見る。
「リリ姉?」
「そ。良かった、覚えててくれて!」
「やだな、忘れる訳ないじゃない」
「だってアンタ、寝言で姉さましか言わないからー」
「…そうだった?ゴメン、付いててくれた人に失礼よね」
「寝言は不可抗力っしょ!アンタの姉さま愛の深さはとっくに知ってる。しかし凄いね、そこまで慕う人、アタシにはいないよ」
「オーヴァがいるじゃない」
「あの人には育ててもらった恩はあるけど、そういうのじゃない」
「そういうの?」
「だから、寝言で呼んじゃうくらいって事」
サチがぼんやりしつつも、あーと言って頷いた。
「体調は?」
「良く寝た!腹減った!勝利の祝杯上げたい!騒ぎたーい!」
「元気になったみたいだね」
両手を天井に掲げていたサチが、パタリと下ろした。
「ゴメンね、心配かけたよね」
「そうだよ!急に倒れたから。まさか寝てただけとはね。もしかして、夜眠れてないとか?」
「そんな事ないよ。あのボスライオン倒せたら、気が抜けちゃったみたい」
「そんな限界まで頑張らないでよ!ボシュが負ぶってくれたのよ?あんなに嫌がってたのに、自分から運ぶって言ってね」
「そっか。お礼言わないと。あ、ほっぺにチューとかどうかな」
「やめときな、勘違いされるのも怖いし!」
「勘違い?」
「念のため聞くけどさ、サチはボシュに恋愛感情あるの?」
「ない。何で?」
「免疫ないチェリー君にそういう事すると、俺、好かれてるかも!ってなるって事」
「ああ…それなら経験あり」
「やっぱり~?だと思った!で?それっていつ?国にいた頃?」
「やけに食い付くね…」
「久々のコイバナだもの、燃えるじゃない!で?」
「うん。国にいた頃よ。幼馴染の隣国の王子様」
「きゃ~っ、王子様?!え、何、サチは恋してなかったの?」
「してない。ずっと友達って思ってた」
「王子の片思いかぁ。それなのに、サチの紛らわしい言動で惑わされてたと。罪な女だわね、アンタって!」
不意にサチが下を向く。
「あっ、別に責めてないよ?」
「分かってる。その子ね、魔物に殺されたの。私を庇って。弱いんだから私の後ろに隠れててって言ったのに、前に出て来るんだもの」
「男はさ、惚れた女の前ではカッコつけたいもんなんだよ。そっか…そりゃ辛いね」
「どうして自分は女に生まれたんだろうって、ずっと思ってる。逆だったら良かった。そうしたら、私があの子を守れた」
「おかしいよね、女は男を守っちゃいけないのかっつーの!それで家出したのか」
「魔物を全滅させて、元の世界を取り戻すまで、私は帰らない」
「そういう事ね。でもサチ、これだけは言わせて」
「何?」
「今アンタは一人じゃない。仲間がいるのを忘れないで。一人で抱え込まないで、皆に頼って」
「リリ姉…ありがとうっ、泣きそう」
「泣いていいよ。おいで」
うわぁ~ん!と声を上げて、サチはリリの胸に顔を埋めたのだった。
サチは本当に、良い仲間を手に入れた。