第22話:護衛の仕事
「リリ姉、踊り子に転職おめでとう!」
「サチも海賊に昇進おめでとう!その海賊ターバン帽がようやく活躍するじゃん?」
「リーダーさんがまたパーティ初の上級職だね!」
「リリ姉のは転職っつーか、元サヤに収まっただけ感満載だがなー」
「ノンノン。今までの踊り子とは訳が違う。これもれっきとした転職だわよ?」
「そうだよ。私のせいで、転職が遅くなっちゃってゴメンねリリ姉…」
ようやく転職を果たしたリリ。
他の3人とはかなりレベルの差が開いている。
その上リリの目指すスーパースターは、踊り子に加えもう一つ職を積まねばならない。
「謝らないで。これ被ってバンバン挽回するんだから?ね、ボシュ!」
「おうよ。俺もあと少しでバトルマスターだ!背に腹は代えられねぇ」
平時の今もボシュの頭にはスライム帽が乗っている。
突然現れる魔物にも対応するためだ。
現在一行はリリの衣装探しのため、通りかかった町に寄っている。
女性ものの衣服売り場を見つけ、女3人がいそいそと店に入って行く。
「あんまりいいのないね、ここ」
「でもアタシは何かしら替えたいんだよね…ん~と、取りあえずこれと、これでいいや」
手にしたのは濃いグレーに緑のラインが入った、ホルターネックのメンズライクな胸当て。
そして白地に群青と金の模様が入ったパラシュートパンツ。
赤の布ベルトはリボンのように見える。
これまでのヘソ出しに加え、肩からデコルテラインまでもがさらされている。
「結構肌出るね…お兄ちゃん大丈夫かな」
ちなみにボシュはジョニーと外で待機中だ。
「リリ姉、これもどうかな!」
サチがどこからか持って来たのは、キツネ耳のカチューシャ。
額にワンポイントが付き、さらにイヤリングまでセットになっている。
「へ~カワイイ、こんなのどこにあったの?」
「お店の人に出してもらった」
奥で店主らしき年配のオジンがこちらを見てニヤケている。
「相変わらずやるねー」
「これ着けてるとね、魔力がちょっとプラスになるらしいよ」
「いいじゃん!買う!」
「リリ姉ったら、すっかりそういう系信じるようになったね」
リリの目が、何か?と訴えて来る。
その少し上に視線を向ければ、スライム帽が呆けた顔で笑っている。
「サチも職変わったんだし何か買えば?」
「私はこの海賊ターバンで満足。サイコー!」
クルリと一回転して小首を傾げる姿は、どう見ても海賊ではないのだが。
「じゃあじゃあ、アイミー、何か買わない?」
「私もいい。髪型変わって満足してるから」
「全く欲のない子達だわね~」
「そのうちいいのあったら買うよ。いつでも」
「アタシ衣裳替えしすぎかなぁ」
「大丈夫。お兄ちゃんが一番お金かかってる人だから!」
だね~と、笑い合う。
「リリ姉の武器だけど、ボシュが前に使ってたオチェーアノの剣でいい?」
「いいよ。このカッコなら細身の剣が似合いそうっ」
案外見た目重視のサチパーティである。
早速着替えて店を出る。
リリの姿に、待ち構えていたボシュが目のやり場に困ったのは言うまでもない。
「踊り子というより仮面騎士じゃな。凛々しいのう…もっとよく見せてほしいのである!」
「ジジイ、セクハラだぞ」
ボシュが大剣をキラリと反射させて威嚇すると、ジョニーとリリの距離が一気に開いた。
「さ、それじゃ次の町に向かおう」
「ジョニじいと一緒に進むの久しぶりだね!」
「いつもどっか行ってるもんねー」
「リリ殿の転職後の姿を真っ先に見たかったのでな」
「あら嬉しい。喜びの舞いでも披露しようかしら!」
早足で少し前まで進んだリリが、前方で舞う。
それを眺めながら3人プラス1が近づいて行く。
「やっぱリリ姉の踊りはステキ。私も踊りたくなるっ」
「うん!軽やかだし華やかだし、キレも加わった?」
「魔物との戦いで、俊敏さとか筋力が付いたんだろ」
そうコメントしつつ普通にリリを見ているボシュに、アイミーが突っ込む。
「あれ、お兄ちゃんリリ姉の事見ても平気なのね!良かったー」
「っ!俺とした事が、気づけば普通に見てたじゃねーか!」
「いいじゃない。見てあげてよ。踊り子は見られるのが仕事なんだから?」
続けてサチがボシュにウインクを飛ばす。
ダブルパンチを食らったボシュであった。
・・・
賑やかな道程が続き、次の町へとやって来た。
「そこを何とか!」
「無理なものは無理。最近魔物が増えすぎてこっちが手を借りたいくらいだ。他を当たれ」
「他ったって、そんなのいないの分かってるでしょうが?…チっ」
城の門前で男と兵士が言い合っている。
「揉め事か?あれは人間同士って事でいいよな」
「そうだね。どっちも人間みたい」
「あのオジサン、兵士に門前払いされた感じだわね」
「声掛けてみよう!」
「またサチ、そうやって首を突っ込む!やめとけ、変なヤツだったらどうする?」
「変なヤツって?」
「このジジイみたいなスケベとか?」
ジョニーを見てこんな事を言うボシュ。
「失敬であるっ!」
「って言いながら、横でリリ姉の事ばっか見てるじゃねーか。どこ見てるんだ?え?」
「どこだと思う?言ってみるのである」
「そりゃ後ろからじゃねーから胸だろーが。むっ…むねっ?!俺は見てねーぞ!」
自分の発言にさえ照れまくるボシュは、やはり初心である。
「いつになったら慣れてくれるんだろうね、君は」
リリがポツリと呟いた。
「あの、どうしたんですか?」
「君達は旅のお人かい?」
「はい、今この町に来ました」
そして商人の男性は、後からやって来たボシュを見るなり目を輝かせる。
「もしやあなた方は勇者様ご一行とか!」
「またこの下りか…」
「はい!」
「おい、サチ!」
「いいじゃん、もう観念しな」
「そうだよ、お兄ちゃん?」
「俺のせいだ…この格好のっ!」
一人だけ鎧に身を包むボシュの嘆きなど誰も耳に入れず、商人の話に耳を傾ける。
「私は行商をしているのですが、ここ最近魔物に狙われる事が多くて困っているのです」
「ここでも魔物のせいで困っている人がいるのね」
「兵の人に護衛を頼んだのですが、魔物の相手でそれどころではないと断られてしまって…」
「兵隊は王様を守るのが仕事だからな」
「国民だって守るでしょう?私はここの民ですよ!」
国に雇われている兵士の本分を知るサチだけに、ここはキッパリと伝えたい。
「兵士は民間人一人の護衛はしないわ。よければ私達が護衛しましょう」
「おお!勇者様に護衛していただけると?それは有り難い!」
「ずっとは無理だけど、ここにいる間なら。ね、皆」
「別に構わねえよ。魔物がアンタを狙ってるなら、一緒にいた方が遭遇率も上がる」
「アタシら、魔物退治して歩いてるので」
「私達でよければお供します」
商人は一行に向けて深々と頭を下げる。
「お願いします!私はボコタと言います。では早速、仕入れ先に向かいたいのですが」
「行きましょう」
「あれ。ジョニじいがいない」
「いつからいないかも分からなーい!」
「まあいいじゃねぇか。アイツがいるとこのオッサンも怖がる」
町に着いて早々、一行は次の場所へ移動となる。結局ジョニーは別行動となった。
そして向かう先はなぜか山だ。
アイミーがさり気なくボコタに尋ねる。
「あの、仕入れ先って、隣りの町とかじゃないんですか?」
「ええ。今日仕入れるのはキノコです。重宝されるヤツがこの山に生えていましてね!あ、誰にも言わないでくださいよ?横取りされたら商売できなくなる!」
「安心してください、アタシら、ここに長くいるつもりないので!」
リリの返答に安心した様子のボコタを見て、サチと並んで歩くボシュが耳打ちする。
「あいつガメついな~。欲に溺れてそうな顔してるもんな」
「商売人は皆そんなものよ」
「そうかぁ?何で狙われるって、自分から魔物の住処に足突っ込んでるだけじゃねぇの?」
「それもあるんだろうけど、それだけかな…」
サチは何か引っかかりを覚えた。
やがて目的地に着き、ボコタは慣れた様子でキノコを見つける。
探し方を教わり、アイミーとリリも手伝い始める。
そんな折、草むらがガサガサと言い出す。
深い緑の中に、黄色と黒の玉模様が視界に入った。それも一頭ではない。
「出た!キラーパンサーだ!」
「ボコタさん、私達の後ろに避難を」
「お願いします!あ、キノコ、できるだけ潰さないでくださいね?」
「ふんっ、そこまで面倒見られるか、ギガ空裂斬!」
一瞬にして魔物は塵と化した。
「素晴らしい、さすが勇者様だ!また魔物が来ないうちに、さあさ、お嬢さん方も手伝ってくださいな!」
「それってウチら?」
「みたいだね。私達お兄ちゃんの付き人と思ってるかも」
「ならサチも?」
難しい顔で腕組みをした今のサチは、どう見ても付き人には見えず。
「ありゃ現場監督って感じかー」
「あの海賊ターバン帽がヘルメットだったら完璧だね」
「ぷぷっ、笑っちゃうじゃない、アイミーっ!」
「リリ姉が先に言い出したんでしょ」
「お嬢さん方、おしゃべりは後でね!」
「「はい!」」
二人の声がハモる。
こんな調子で手伝わされたリリとアイミー。何だかんだとキノコ採りを楽しんだ。
「次はこれを町に戻って売ります。さっきの兵士達も買いたいと言っていたので、まずは城へ行きましょう」
「ただで手に入れた物を売るとは!兵隊と商売の話までしてたとか、抜かりないな」
「きっとやり手なんだよ」
「サチさんは見る目あるね!そう、私はやり手の行商、だから魔物が邪魔しに来るんだろうね」
「いや。それは絶対違うと思うぜ?」
その後キノコは飛ぶように売れた。
冷やかしていたボシュもキノコが気になり出す。
「なあそれ、そんなに美味いのか?」
「そりゃもう!勇者様も召し上がってみますか」
「あっ、いや遠慮しとく。あと、俺は勇者じゃ…」
「さあボコタさん、次は?」
さり気なくサチが遮る。ここで否定されるとややこしくなるので。
「おっと。そうだった、時間がもったいない。次は別の町で紙芝居をやる予定だ」
「紙芝居?今時?アタシ子供時代すらあんまり経験ナシだわ」
「おや、そうなのですか?これは私のお手製ですよ!」
ボコタが布袋から四角い木箱をチラと見せた。
「ま~た金かかってねぇじゃねえか。やり手というよりセコイんだな、根本が!」
ボシュは呆れ顔だが、アイミーは目を輝かせて覗き込む。
「私、紙芝居好き!どんな話なんですか?」
「そういや、お前は昔からそうだったな~」
「一緒に見に行っても、お兄ちゃん最後まで見た試しないよね。いつも途中で飽きて筋トレ始めるんだもん」
「何かそれ想像つくわ~」
「さあさ、町に着いてからのお楽しみって事で、すぐに向かいましょう」
ボコタを先頭に、一行は再び歩き出した。