旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第24話 キングを射止めた女

 

 

 ボコタの案内でやって来た通称スライムの塔は、一見何の変哲もない塔だ。

 相手がスライムなだけに、おどろおどろしさを想像する者は少ないであろうが。

 

 

 そして一人、異様に目を輝かせている者が。

 

 

「ねえボシュ!アタシら、仲間と間違われるかもっ」

「ああ?何でまた。…あ」

 

 ピンクスライム帽を被り直した異様なハイテンションのリリ。

 戦いが始まる可能性を考え、自分も先ほどそれを被ったボシュ。

 

 

 リリが手首で揺れるスライムブレスレットを愛おし気に触れながら続ける。

 

「これも着けてるし、仲間だと思われるに違いない!サチ、アタシ交渉役やるから言ってねっ」

「交渉ったって、話の通じる相手なのか?あんなふざけたツラでも魔物だぜ?」

「むっ!今の発言は撤回願いたいっ」

「まーまー二人とも!リリ姉のスライム愛は分かったから。取りあえず暴走しないでくれると嬉しいな」

 

「…ゴメン、一人で盛り上がってた」

 

 

「あの!もういいでしょうか、早く中に入りたいのですが」

 

「ええ行きましょう。3人共、油断しないで。スライムは可愛いけど強敵よ」

「ああ。メタル系が潜んでたら厄介だからな」

「お兄ちゃんの剣と雨雲の杖があるから大丈夫だよ」

「動きが早いから先手を打たれる可能性もある」

 

「だから油断大敵って事ね。了解」

 

 

 

 踏み入れた先には、早速スライム兵士が待ち構えていた。

 

 

「何だオマエ達は。ニンゲンだな」

「ここはニンゲンの来る場所じゃないぞ!」

「ん?待てよ、オマエ見た事あるぞ。あっ、この間の盗っ人!」

「また盗みに来たのか!今度こそは逃がさないぞ!」

 

 

「おいおい、メチャクチャいるじゃねーか、スライム兵が」

 

「盗むだなんて滅相もない!私はただホコリを被って眠っていた可哀そうな宝達を、外の世界に連れて行っただけです」

「それはさすがに、こじ付けが過ぎないか?」

 

 

「そんな事誰も頼んでないんだよ!」

「そうだそうだ!」

 

 

 そこへ新たな魔物が登場した。

 それは扉のサイズよりも大きなキングスライムだ。

 

 

 ギュウギュウになって、ようやく扉を通り抜ける。

 

「キツイ。キツイのである!扉をもっと大きくしろと言ったはずだが?」

 

 

 その姿を見て、リリがテンションマックスになったのは言うまでもない。

 

「きゃあっ!キングスライムじゃない、超ステキ、たまんなーいっ」

 

 

 

「ん?今ワシを絶賛する声が聞こえたような…。誰じゃ、おぬしらは」

 

 スライム達に小言を言い終えたキングは辺りを見回し、サチ達の姿に目を止める。

 

 

「キング!こいつらは盗っ人だ。また宝を盗みに来たんだよ!」

「またとな?」

「あのオジンは前に来てるんだよ!」

「今度はぞろぞろ引き連れて来たんだよ!」

 

「あのピンク帽子の娘は?」

 

 思惑通り、キングだけはリリに興味を示している。

 

 

「アイツは知らない」

「知らない」

「知らない」

 

 この言葉はこだまのようにしばらく続く。

 

 いつしかホールにはスライム兵士が押し寄せて、足の踏み場もない。

 

 

「これでは隙を突いて抜け出す事もできないっ、勇者様、何とかしてください!」

「ざけんなっ、盗っ人の片棒なぞ担がんぞ、俺は」

「どうする?サチ…っ」

 

「キングスライムがリリ姉に興味を持ってる。リリ姉、私達は盗みに来たんじゃないって、話してみて」

「待ってました!」

「でも、それウソに…っ」

 

 アイミーの視線がボコタに向く。

 その目はすでに品を物色する目に変わっている。

 

 

「ボコタさん。あの水晶をこちらへ」

「はあ?なぜだ、これは私のですよ!」

「違うだろ、ちゃんと返せば何か別のくれるかもしれねーぜ?」

 

 冷やかしでしかないボシュのコメントに、サチが真面目な顔で頷く。

 

「魔物の持ち物を勝手に持ち出してはダメ。人間にどんな悪影響があるか分からないわ」

 

「悪影響ですって?そう言えば、これを持ってから商売が上手く行ってないような気も…」

「魔物に襲われる事が増えたのもですよね」

「神様は見てるって事だわよー」

「そんな事言ったって相手は魔物だぞ?奪ったって罪にはならん!」

 

 こうした場面では常に淡々と話すサチが、珍しく声を荒げた。

 分かりずらいが、これは海賊のれっきとした技の一つ、威圧である。

 

 

「私が言っているのは罪かどうかじゃない。人間が持ってはいけない物があるという事!」

 

 

 こんな会話も全てスライム達に筒抜けだ。

 

 サチの威圧に負けたボコタが、紫色の水晶を差し出す。

 受け取ったそれをサチがリリに託す。

 

「リリ姉。よろしくね」

「オーケー。行って来る」

 

 

 紫のオーラを放つ水晶に気づいたスライム達。

 道を開けてリリをキングの元へ誘導する。

 

 一筋の線がキングスライムへと繋がっている。

 

 そこを緊張した面持ちでリリが進み、ついに対面だ。

 

 

「それは大事な物でな。まさか人間に盗まれるとは思わなんだ」

「これ、お返しします。大事な物なら、たまにはホコリくらい払ってあげて?」

「そうじゃな。そうしよう。おぬしの名は何と申す?」

「リリです!ここだけの話、スライムって可愛くて大好きっ」

 

 敵に対してここまで誉め言葉を投げる者も珍しい。

 リリにウインクを飛ばされたキングの頬が、心なしかピンク色に染まる。

 

「何と健気な良い娘じゃ!リリよ、ワシの嫁になっ…」

 

 

 キングがここまで言った時、別の扉から新たな登場人物が。

 

 

「キツイのであるっ!ぐぬぬっ」

 

 

「何だか見覚えのあるシルエットだが」

「そうだね…って!ええっ?!」

 

 

「ジェネラルか?何百年ぶりじゃ」

「3百年は経っておろう。いつになったらこの扉は大きくなるのじゃ?」

 

 ようやく通り抜けたジョニーがキングと対峙する。

 

 

「ジョニじい?何でここに…」

「一応ワシも同種族。ここにはたまに来るのじゃ」

「待て、今3百年って言ったよな?お前ら一体何年生きてる?」

 

「そんな事は忘れたのである。それよりもキング。その美しい踊り子はサチ殿の大事なパーティの一員。おぬしなぞに渡す訳には行かぬぞい!」

「それをなぜおぬしが主張する?それこそ部外者じゃろうて!」

 

 

「ジジイ対決始まったぜ。それもリリ姉争奪戦!」

「お兄ちゃん、面白がってないで止めてよっ」

「いやいや。口挟んだら、若造は黙っておれ!とか言われるのがオチだって」

 

 

「「若造は黙っておれ!」食ってしまうぞ!」

 

 食ってしまうぞと続けたのはキングのみだ。

 

 

「ほらな?生憎、食われる前に倒しちまうけどなぁ」

「ボシュ!ダメ!絶対!」

「リリ姉、正気に戻れ。こいつらは敵。そっち取るならお前も倒さなきゃならなくなるが?」

「お兄ちゃんっ」

 

「リリよ、安心するのじゃ、ワシが守ってやるでな。さあさ、こちらへ…」

 

 臨戦態勢にあったボシュとリリ、そしてキング。

 

 

 間に割って入ったのはジョニーだった。

 

「その若造、もといボシュ殿も、口は悪いがサチ殿の大事な仲間。どちらにも手出しはさせぬ」

「ジェネラルよ。なぜ人間の肩を持つ?気でも触れたか!」

「この者達の真意に、おぬしはまだ気づかんのか?」

 

 

 キングはなぜか沈黙したままだ。

 

 

「もうよい。お前も耄碌したものじゃ!サチ殿。ここは魔物の巣窟、一掃するがよい」

「待ってジョニじい。キングさん、一つだけ答えて。この子達は、人間が宝を盗んだから怒ってただけ。私達が何もしなければ襲ってはこない。それで合ってる?」

 

「我々は人間になぞ興味はない。…ああ、そこのリリは別じゃがの!」

 

 

「マジでリリ姉気に入られたな…」

「うふっ、どうしましょっ」

 

「申し訳ないけど、私達にはやる事があるの。それが終わってからでもいいなら、考えておく」

 

「よかろう。して、おぬしらのやるべき事とは何ぞ?」

「この世を脅かす魔物を倒す事に決まっておるじゃろが?」

「それを魔物のラスボスのようなおぬしが言うのがおかしいと言っておるのであるっ」

「何がおかしい、言ってみるのである!」

 

 

「である、である、ってうるせぇー。一々耳に付くぜ、似たようなジジイ共め」

 

「ねえサチ。全部終わったら、ホントに考えてくれるの?アタシの嫁ぎ先」

「もちろん。リリ姉の人生だもの、私が判断する事じゃない。でも、この先にもっといい人いるかもでしょ?」

「それは一理あるわねー」

 

「私達若いんだし、そう急がなくたっていいよ。ね、アイミー?」

「お嫁さんの話?私なんて先の話すぎて全然想像もつかないよ」

「当ったり前だ!アイミーが嫁に行くなんて!」

「あら~?シスコン発言珍し~」

 

「シスコンじゃねー!」

 

 

 

 こうして、敵地に赴きながら一匹も仕留めずに帰還した初めての旅であった。

 

 

 

 

「トホホ…収穫ゼロ!もうあそこには行けない。次を探さねば」

 

「ボコタさん」

「っ、何でしょう!」

 

 一度サチの威圧を受けたボコタは警戒する。

 

 

「相手が誰であれ、商売してはいけないというルールはありません。ですが、交渉相手には十分注意してください。お金よりも大事なものの事を、よく考えて」

「お金よりも大事なもの?どうせ命とか言うんでしょ、だったら私はお金の方が大事ですよ!」

「バカか?カネはあの世に持って行けないぜ?」

 

「それで行くと何だって持って行けないでしょう」

 

「このオジサン、根っからの金の亡者みたい。もう何言ってもムダよ、サチ」

 

 そんな諦めムードの中、アイミーが口を開いた。

 

「私は、向こうに持って行けるかどうかじゃなく、最後の時に自分が納得できるかだと思う。だから精一杯生きて後悔しないようにする」

 

 アイミーが両手を組んで胸に当てる。

 

「さすがは元シスターね」

「ちなみに私が今一番大事にしてるのは、一人じゃないって事かな。皆と一緒なら、きっと最後の時でも笑っていられる」

 

「…お嬢さんはいい仲間に出会えたみたいだね」

「はい!皆が私の宝物です」

「アイミー…。もう、泣けてくるじゃないっ」

 

 リリがアイミーの肩を抱いて顔を俯ける。

 

 

 そんな二人の姿を眺めながら、ボコタがポツリと言う。

 

「私にもいたんだ。若い頃には競い合っていた連中がね。皆魔物に殺されちまって、そんな青春も忘れていたよ」

「そうだったのね…」

「勇者様方、魔物退治、必ずや成し遂げてください。私の昔の仲間のカタキ、取ってやってください。私ももう少しまともに商売してみますよ。最後の時に後悔のないように」

 

「交渉成立だな。任せろ」

 

 

 

 アイミーの言葉でボコタの目は変わっていた。

 

 

 

 

 

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