商人ボコタと別れ、サチ達の旅が再開する。
「アイミーったら、あんな説得の才能があったなんて!ビックリしたわよ」
「私、別に説得したつもりないけど」
「偽りのない言葉だからこそ、ボコタさんの心に刺さったんだよ」
「また成長したな、アイミー」
「ヤダ、皆してっ、照れるじゃない!」
隣りにいたボシュの背を力いっぱい叩くアイミー。
「いって!本気で叩くヤツがあるかよ」
「素手で良かったじゃん。雨雲だったらヤバかったよ?」
「勘弁してくれ…」
今や雨雲の杖はアイミーの武器となっている。
そしてまだ登場した事のないリリのオチェーアノの剣。
その時はすぐにやって来るであろう。
・・・
一行は深い森に差し掛かった。
不意に足を止めたサチの表情が何やら硬い。
「…疼いてる」
「ちょっと~なぁに?サチったら!こんな真昼間から欲求不満?」
「っ!お前らっ、何つー破廉恥な会話してんだっ」
たちまち真っ赤になったボシュだが、サチは真顔だ。
「…サチ?マジでどした?」
「これが…疼くの」
サチはポケットから光の玉を取り出す。
途端に玉は激しい光を放ち、一行の目を貫く。
「なんっ…?眩し!」
「ムムム、この現象は…っ」
「何なのさ?知ってるの、ジョニじい!」
やがて光が落ち着いて来るも、今度はサチ自身からオーラが立ち昇っている。
「ちょっとサチ!体から何かモヤモヤしたの出てるよ!」
「体が、何かに包まれてる感じがする」
「サチ殿の持つ光の玉が覚醒したようじゃ」
「覚醒だと?…」
サチがさらに強くなる事を恐れているボシュに、ジョニーが付け加える。
「ボシュ殿の黄竜眼のリングは、すでに覚醒しておるようじゃがのー」
「俺のも…?」
言われたボシュは自分の指に嵌まったリングを見下ろす。
「光ってないが?」
「光れば完成などと誰が言った?」
「単純だわね~、チェリー君は!」
「何だと?って、そのチェリー呼びやめろっ!」
「ジョニじい、私のイヤリングは?」
アイミーがボシュを押し退けて、耳元で揺れるイヤリングを示す。
「おお、アイミー殿の魔氷のイヤリングも出来上がりじゃ」
「やった、出来上がり!だから私、体力付いたのね」
「確かに俺の攻撃力も上がってる」
「やったじゃん、二人とも!」
「リリ姉のは?ジョニじい」
アイミーがリリの胸元に視線を送りながら尋ねる。
そこにはロザリオがあるのだが、服の中に仕舞っているため見えてはいない。
「おい。どさくさに紛れて別ンとこ見てんじゃねぇぞ?エロジジイが」
「はて。一体どこの事じゃろ?言ってみい」
「ま~た同じ下りやってる。これでしょ、別ンとこ見られるのもヤだから出すわよ」
鼻の下が伸びかけたジョニーが、やや残念そうに口をすぼめた。
「何拗ねてんだよ!」
「全く余計な事を、である!」
「もうっ、そんな話はいいから!ロザリオどうなってるか教えて、ジョニじい様?」
「おお…何と愛らしい。アイミー殿は可愛いくていい娘じゃのう。ワシの嫁に…」
「おい!どさくさが過ぎるぞ!」
「…もうどうでもよくなって来た。ねえサチ。これ、何か変わったと思う?」
言い合いが妙な方向に発展してしまい、途方に暮れたリリは後方でオーラを放ち続けるサチを振り返る。
「リリ姉のロザリオはパワーアップアイテムじゃないの。耐性が多少付く程度。お守りみたいなもの」
「そう言えば貰った時言ってたよね。はい解決ー」
不毛な言い争いに終止符を打ったのは、リリの一声ではなかった。
明らかに邪悪な空気が漂って来たのだ。
今ではサチやリリだけでなく、ボシュもアイミーもそれに気づけるだけの力を身に付けている。
「ちょうどいい、今回は物足りなかったんだ。俺が一気に片付けてやる」
「気を付けるのじゃ。ワシの勘では、これまでのとはレベルが違うようである」
「怖い事言わないで、ジョニじいっ」
「愛らしいアイミー殿を怖がらせたくはないが、事実なのじゃ」
そして悪の気配は背後に迫った。
反射的に振り返る一同。
そこには槍を構えた大柄の甲冑男が、微動だにせず立っている。
「背後を取られた。いつの間に…っ」
「鉄鋼魔人じゃ。なるべく距離を取るのである!」
ボシュが身構えるも、魔人はサチの方しか見ていない様子。
「どうやらターゲットはサチみたいね」
「もしかして…あの光の玉?」
「ニンゲンよ、その玉を渡せ。それは我らのもの」
「私はこれを然るべき人から譲り受けた。あなたの物じゃない!覚醒の炎!」
サチの得意技が炸裂した。それはこれまでとは別次元の威力となっている。
それでも一度よろめいた魔人は体勢を立て直す。
「この程度で勝てると思うな。愚かなニンゲンよ」
魔人が槍で激しく攻撃してくる。
盾で防御するも、弾かれて立ち尽くすサチ。
「玉を寄こすのだ」
「誰が渡すかよ!サチ、そのまましゃがめ!ギガ空裂斬!」
またもよろめいた魔人だが、再び立ち上がった。
「くっ、まだ倒れねぇか、しぶといぜ。アイミー!」
「任せて!落陽!」
上空に現われた巨大な火の塊が、魔人目がけて落ちる。
さすがに力尽きたのか、片膝を折った魔人はそのまま消えて行った。
「油断しちゃダメ!前方にまだいる…赤い何かが動いてるよ!」
「何だありゃ?」
「あれ、前にも見たような…ほら、土から出てきた…」
「「手!」」
「ブラッドハンドよ!増えたら厄介だわ、すぐにやっつけよう!」
木々の生い茂る薄暗い地面に、真っ赤な手がすでにいくつも突き出ている。
リリがオチェーアノの剣を引き抜いて構える。
「ここはアタシにやらせて。化け物覚悟!ウィンドスラーッシュ!」
「まだだわ、全然足りないみたい」
「…ゴメン、力不足で」
「気にすんな。ったく、気持ち悪いっつってんだろうが!これでどうだ、ギガ空裂斬!」
「まだみたい。私も行くわよ!覚醒の炎!」
消しても消しても、新たな手が次から次へと現われている。
「よぉし、今度は仕留めるよ。アイミー、雨雲貸してくれる?新技よ、食らえ、ざざん波!」
リリは雨雲の杖をアイミーから拝借して構える。
それはいつもの火ではなく、水が溢れ出す技であった。
鉄砲水と化したそれは、地面の土をえぐり魔物を根こそぎ一掃した。
「凄い、リリ姉!いつの間にそんな新技習得したの?しかも、威力半端ない…」
「実はさ、こっちの技の方が先に覚えてたんだよね。ほら、アタシがこれ振り回すといつも雨降る~って言ってたでしょ」
「言ってたな、そういや」
それはボシュとリリが偶然再会した早朝。あれから早半年となる。
「それを使えるだけの力を身につけたって事ね。リリ姉、頑張ったね。踊り子でも凄く頼りになるわ」
「ふふっ。でもやっぱキツイね。アイミーに伝授しとく」
「私にできるかな…」
「アンタは素質ある。文句なしにできるって!でも上級職になってからがいいかも。賢者になるんでしょ?」
「うん…そうだけど」
「それがいい。あと少しでアイミーもレベルアップできそうだしね。…あ、ボシュ!今のでマックスじゃない?」
何とボシュの経験値は振り切れている。つまり転職が可能になったサインだ。
「おお!って事は、俺もついに…」
「バトルマスターに昇格、おめでとう、ボシュ」
「おめでとう、お兄ちゃん!」
「やけに早くない?サチが昇格してまだそんなに経ってないよ」
「コイツのお陰だ。次はアイミーが被れ、ほら」
ボシュは被っていたスライム帽をアイミーの頭に乗せる。
「いいの?」
「早くお前がさっきの技使うとこ、見たいんでね」
「お兄ちゃん…っ」
「はいはい、兄妹愛を見せつけるのは後にして、早いとこ森を抜けよ。何だか気味悪いっ」
「そうね。今ので体力を消耗したし。陽の光も浴びたいわ」
そんな事を言うサチからは、光のオーラが相変わらず立ち昇る。
「サチのオーラ見てるだけでも癒されそうだけど」
「そう?気の済むまで見ていいよ!」
「なあ。誰でもその玉持ったら光るのかな」
「さあ。試しに持ってみる?」
「お、いいのか?」
「いいよ」
意外とあっさりサチは光の玉をボシュに手渡した。
「そう簡単に光らないでしょー」
「そうだよ、きっと特別な何かが…」
そんな事を話しながら、太陽が降り注ぐ開けた場所に戻った一行。
「どうだ?」
「う~ん、周りが明るすぎて分かんないね」
「もう一回森の中に行ってみる?」
「アタシは遠慮するー」
「やっぱ返すわ。俺が光ってもな」
「そういう特殊効果が似合うのはサチくらいだよね」
「どういう意味?」
ポカンとしながら玉を受け取るサチ。消えていたオーラが再び復活する。
「サチ殿は神々しいと言う意味じゃ!これは何かの予兆に違いない、素晴らしいぞよサチ殿!」
「ヨチョウ?」
「悪い方の予兆じゃなきゃいいけどー」
「変な事言わないで、リリ姉!」
「アハハ!」
この陽気さこそがサチのパーティーである。
「ひかりのたま」のオーラは、特定の装備と合わせて持つと現れます。
本当はボシュにもオーラが現れていたのですが…。