楽し気なサチ達一行の声に混じり、どこからか不穏な声が響く。
それは光の玉の持ち主であるサチだけに届いていた。
『必ずや玉を我が手に…』
「ん?今誰か、何か言わなかった?」
「言ってないぞ。空耳じゃねーの?疲れてるんだよ、サチ」
「いや。空耳ではない。立て続けじゃのう…全く油断も隙もない連中じゃわい」
「何?また敵?」
「えっ、まだ皆回復してないよ、早く薬草飲んで!」
つい先ほど大量の赤い手の魔物を倒したばかり。
アイミーが慌てて革袋から薬草を取り出すも、手渡す前に何かに吹き飛ばされる。
「きゃあ~っ!!」
「アイミー!」
アイミーを受け止めたのはジョニーであった。
「ケガはないかの?」
「ジョニじい、大丈夫、ありがとう…」
「サチ殿、またしても狙いはおぬしじゃ。重々気を付けよ」
「そんな、サチまだ回復してない、これをっ」
アイミーが新たな薬草を手に立ち上がろうとするのをジョニーが止める。
「離して、ジョニじい!」
「おぬしは今魔法使い。僧侶の時とは違い回復魔力が弱い。今飲ませても即効性は期待できぬ」
「それなら私も戦うまで。行かせてっ」
アイミーの強い意思に、ジョニーが折れた。
「アイミー殿はたくましくなったのう…。分かったのである。気を付けて行くのである」
「ありがと、ジョニじい大好きっ」
こんな状況にも関わらずポッと頬を染めるジョニーであった。
いつの間にか空が暗黒に染まって、辺りは魔物の濃い瘴気が重く漂っている。
「その玉を寄こせ!」
姿を現したのは紫色の魔人。
4本伸びた腕にはそれぞれ剣、斧、こん棒を持っている。
「魔王の使いじゃ。かなりの強敵ぞ、気を抜くでないぞよご一行!」
傍観者と化したジョニーは姿を消す。
戦いにおいては一切手を貸さない。
「なぜこれを欲しがるの?」
「それに閉じ込めたるはニンゲンの魂。我らの糧じゃ。すっかり抜け殻になってしまったようだが、また集めればよい」
「あの紫の光は魂だったって事か」
「げぇ…気味悪っ、ボコタの玉見てゾッとしたのはそういう事かぁ」
「そして今の玉が、浄化された姿なのね」
「そうとなれば。サチ!絶対に渡しちゃダメよ!」
ここに一番勝負が幕を開けた。
まずは先手必勝で、サチとボシュが得意技を仕掛ける。
そこへ反撃の余地を許さずリリも参戦。
そして最後にアイミーの落陽をお見舞いする。
「諦めの悪いニンゲン共よ、魂をその玉に封じ込めてやる。潔く我らの糧となるのだ」
「断る!ギガ空裂斬!」
「覚醒の炎!」
「まだまだ甘い!」
魔人が斧を振り回す。サチとボシュが攻撃をもろに受けてしまう。
「サチ!ボシュ!二人に何するのさ!ウィンドスラッシュー!」
「お兄ちゃん、死なないで!落陽!」
泣きそうな顔になりながらも果敢に戦うアイミー。
そんな折、リリが無意識に踊り始めた。
「リリ姉、何してるの、今はそんな事してる場合じゃっ…」
「芸術って癒し効果、あるのよ、はいターン!」
「そうじゃ!リリ殿その調子じゃ、踊り子には回復の力が備わっておる。よくぞそれに気づいた」
「さすがアタシ!」
「凄い…知らなかった。私も何だか癒されてきた!ねえリリ姉、さっきの技今やってみていい?」
アイミーは雨雲の杖を握り締めて訴える。
「ざざん波ね。今のアタシじゃ無理だし。よし、それに託そう、構えはこうよ!行けアイミー!」
「え~い、ざざん波!」
掛け声と共に物凄い威力で水が溢れ出す。
アイミーが耐え切れずに尻もちを付きそうになるのを、後ろでリリが支える。
「何という事か…まさかここでニンゲンにやられるとは…無念。魔王様、申し訳ございま…っ」
魔物のつぶやきは濁流によって途切れ、流れと共に消え去った。
「…やった」
「やれたじゃない!凄いよアイミー!そんでもって、経験値マックス!」
「これでアイミーも賢者ね。おめでとう」
サチがボシュに肩を貸しながらアイミー達の元へ集まる。
「サチ、お兄ちゃん、ケガは?」
「大した事ない。それより、凄かったな今の。やったじゃないかアイミー」
「うん。リリ姉のお陰。リリ姉ぇ…っ」
後ろを振り返ってリリを見上げるアイミー。
「よしよし、よくやったよ。さて。二人分の昇進祝い、盛大にやろうじゃない?」
「もちよ。ついでに衣裳替えもね」
「おお!イメチェンするぞ!」
「え。お兄ちゃんまさか、また何か買うの?そんな立派な鎧持ってるのに?」
「いやだってな、これ来てると皆俺の事勇者だと勘違いするんだ」
「勘違いじゃないよ。ボシュは立派な勇者だもの」
「ダメなんだよ!俺だけがそう見えたら。4人で一つなんだから」
ボシュは最後まで声を張って主張した。
その直後にリリに背をパンパン叩かれ、発言の真意に気づく。
自分は今、物凄く熱い言葉を吐いてしまったと。
「嬉しい事言うね~、ボシュ君!アタシゃ泣きそうだよ~」
「って、全然泣く気配ねーだろ」
「お兄ちゃんも皆の事、宝物だと思ってたんだね。私も嬉しいっ!お兄ちゃん大好き~」
さらにアイミーに抱きつかれ、照れはピークに。
極め付きはもちろん、サチのウインクだ。
ボシュは頭から蒸気を噴き出してフリーズしたのだった。
「あれ、お兄ちゃんからもモヤモヤ出てる」
「おかしいね、玉はサチが持ってるよね?」
「俺は何も出してねーっ」
再び青空が戻った草原にて、こんなやり取りが繰り広げられた。