第27話:身も心もワイルドに
兄妹ほぼ同時に上級職へと昇格を果たしたボシュとアイミー。
恒例の衣裳替えが行なわれた。
ボシュは鎧を上下とも脱ぎ去り、上衣はダークグレーのラフなタンクトップに胸当て。
下衣は同色系のマント付き。軍隊風のブーツでキメる。
さらに髪型もガラリと変え、下ろしていた髪を逆立ててバンドで留めたスタイルに。
一気にワイルドな男に変身だ。
一方のアイミーも、これまでの大人しめスタイルからギャル系へと変身。
上衣は赤系のジャケット、下衣は青チェックのプリーツミニスカート。
お揃いの生地であつらえたショートブーツの履き口部分がオシャレさを惹き立てる。
ついでにサチもエメラルドグリーン調の衣裳からダークトーン調に衣替え。
上は獣の毛で作られたベスト。下はこれまた獣皮の腰巻でワイルドな仕上がりだ。
「アイミー、スカート短すぎるんじゃないか?」
「出た、兄貴チェック!全く過保護ね~。サチだってヘソ出しルックよ?そっちは?」
「別に誰がどんなの着ようが関係ねー!過保護とかそういう訳じゃなくてだなっ…」
「そうだよね、短いよね、私もちょっと思った。だって賢者だよ?もっとこう清楚な方がさ」
「あらいいじゃない。職はどうあれ、そういうの楽しめるのはね、若いうちよ?期間限定!」
「あとキャラにもよる」
それな、とリリがサチに同意を示す。
「サチだってリリ姉だって着こなせるでしょ。若いんだし」
「ノーとは言わないけど、私は着ないな」
「アタシもー。せめて20代前半だったらねー」
「あんまり変わらないと思うけど!」
「リリ姉は美脚なんだから、着ていいと思うよ?」
「美脚は否定しない。あのね、20代の前半と中盤には大きな溝があるんです。まー、どうしてもって言うなら着るよ。タイツなしでね!」
アイミーは黒タイツも装着している。
「えー凄い、私はタイツありだから履けてるよ」
「タイツ姿に燃える男もいるからね~、気を付けなよ、うら若いお嬢さん?このカッコならツインテールも生きたわね。若い若い!」
リリのセリフが耳に入ってしまったボシュ。
タイツが破られたその先の、生娘の白い生足なぞを想像し一人真っ赤になる。
ちなみに現在ジョニーとは別行動中である。
二人が衣裳替えをする時まではいたので、アイミーのタイツ姿はしっかりと見ている。
そのすぐ後に用事があると言って消えて行ったのだ。
「今じじいがいなくて良かったぜ。アイツまさか、タイツフェチだったり?なあアイミー、タイツはやめた方が…」
「あらん、ボシュ君!生足の方が好きって?そっかそっか、どうする?アイミー」
「はあ?!いや違うっ!そうじゃなくて!」
「お兄ちゃん、私タイツなしでミニスカは無理だよ。戦ってる最中にめくれたらって気になって、集中できなそう!」
「姉さまのパーティにいるララも賢者だけど、生足でミニスカ履いてたよ。ガーターベルト付きでね」
「あー、ボシュの事妙に気に入ってた人ね。迫られて直視できないでいる光景、傑作だった!」
リリとサチが思い出して笑い転げる中、アイミーは真剣だ。
「お兄ちゃんの言う通りにするよ。どうしたらいいかな、私」
「いや、俺の言い分なんていいんだ。俺はただ、世の男共の目が気になっただけで…」
「優しい兄貴だね~。アタシもそういう兄さんほしかったな」
いつもの冷やかしとは違う切なげな顔で呟くリリ。
「アイミー自身は気に入ってるの?」
「こんなカッコした事なかったから戸惑ってる。でも変わりたいってずっと思ってたし、これでやってみようかな」
「なら決まりね。大丈夫、今までの服も持ってるし、この先で他にいいのあるかもだしさ」
「そうよ。嫌になったらアタシが貰うかもだし?」
「タイツなしでね」
「そうなった時のために、リリ姉用にガーターベルト入手しとく」
「きゃ~カッコ良さそう!見てみたい」
「こうなったら、ファッションショーでも開く?」
「いいね、楽しそう!私被りものもイケるよ」
「待ってよサチ。被り物って、アンタ一体どういうショーを想像してる?」
「だってそうしないとボシュが見に来てくれないでしょ」
「え、お兄ちゃんのためなの?サチ優しい、ありがとっ」
アイミーがサチに抱きつく。
「盛り上がってるとこ悪いが、こんなとこで道草食ってていいのか?俺は先に行くぞ」
「そうよ、先に進まなきゃ、待ってよボシュ!」
サチがボシュの隣りに並ぶ。
ワイルド系がこう揃うと、後方の二人は一層付き人感が倍増か。
「…なんかアタシら、相変わらずまとまりない格好だわねー」
「見た目なんてどうでもいい。気持ちが同じ方を向いていれば。サチも言ってたでしょ」
「だね。ホント大人になったね、アイミー!このこのっ」
「リリ姉ったらやめてよ、スカートめくれるっ」
「着慣れないの着ると気ィ遣うよね~」
「そう思うならやめてってば!」
いたずら心が湧いたリリは、アイミーのスカートをめくろうと手を伸ばす。
「もうっ、ジョニじいみたいよ?」
「こうされた時の対処法を学ぶべし!」
「着慣れてないのに、対処法なんて分かんないっ」
「お手本を見せてあげたいのは山々だけど、みんなパンツスタイルなんだよねー」
「ずる~い、リリ姉もスカート履いて!」
「ロングしか持ってませ~ん」
ロングはさすがの男達もめくろうとは思うまい。
こんな会話は先を行く二人にも当然届いている。
「おい、不毛な会話がまだ続いてるが、ほっといていいのか?」
「いいじゃない。嵐の前の静けさ、またすぐに強敵がやって来る。今のうちだけよ」
はは!と乾いた笑いを一つ零し、ボシュが両手を頭の後ろで組み空を仰ぐ。
「確かに。いー天気!平和な証拠だ。この先の村は確か、エルフも住んでるんだよな?」
「そう。昔は円満に共存していたらしいけど」
「けど?今は違うのか」
「異種同士は何かとすれ違ってしまうものよ」
「やけに説得力あるが、そういう経験でも?」
ややおどけ気味にボシュが問う。
「男と女だって異種同士よね」
「なっ、何だよ急に!」
立ち止まったサチはボシュを至近距離で見つめる。
「考え方が違う人同士は、分かり合えないのかな」
「そんな事はないだろ?ちゃんと話し合えば」
「そうだよね。話し合わないとだよね」
「ただ、本当に相容れない連中ってのもいるからな。そういう奴らと分かり合おうとしたってムダだ」
「その見極めが難しいね」
「難しくなんてないさ。考えるな、感じろ!って言うだろ?」
「なになに、ボシュったら見た目がワイルドになったら、中身までワイルドになった?」
「リリ姉、待ってよぉー」
パタパタと二人が距離を詰める。
ボシュの突っ込みどころ満載のセリフが聞こえて来たからだ。
「俺はもともとこういう人間だが?」
「え~そうだっけ。もっといろいろ、ちっさかったよね~」
「何が小さかった?」
サチが改めてボシュを上から下まで眺めて言う。
「って、どこ見てんだよ!」
「どこって全身だけど。どこだと思ったの?」
「ここはチェリー君の名誉のために、あえて指摘は控えようよ、サチ」
「だから!どこだよ!」
「うつわ?」
アイミーの一言に固まる一同。
「あ、えっと、体って意味だけど。ほらお兄ちゃんって男性としては体格的に小さい方でしょ?」
「ビックリしたー…。そっちね」
「全く持って。時々際どい発言するからね」
サチとリリがこそこそと話しているのを、アイミーが不思議そうに見る。
「どうしたの、二人とも。早く行こ!」
「そうだそうだ、行くぞ!で、何の話してたっけ?」
再び歩みを進める一行。次の目的地はすぐそこだ。
「エルフは今、人間を警戒してる。慎重に接触しないといけない」
「アタシらがさらに亀裂深めたなんて事になったらマズいもんねー」
「仲直り、してもらえるといいなぁ」
「今回もアイミーの言葉で改心してくれるといいんだがな」
「有り難~い神のお告げ的な?」
「イヤだ、神だなんて恐れ多いっ。そもそも天女様って言われてたのはサチだよ」
一同がサチを見る。
今のサチは海賊、というよりも山賊か。
「ん?何?」
「そのモヤモヤが後光だって言い張れば通用するんじゃね?」
「でもサチの演技力微妙だわよ?あ、玉をアイミーが持てば?」
「それだ!アイミー、光の玉持ってみろ」
勝手に話が進み、あれよあれよとサチの玉がアイミーに渡るも…。
「何も変わってる感じしないけど」
「光らないねー」
玉はすぐにサチに返され、瞬間にオーラが復活。
「サチの何かに反応してるんだよ、きっと」
「何かって?」
「血筋とかか?実はお前、どっかの王族の娘だったりして!」
この言葉にギクリとしたのはリリだ。当の本人は至って平然としている。
「私が?そう見える?」
「冗談に決まってんだろ」
「ビックリしたー、一瞬そうかもって思っちゃった」
「ね、ね~!」
ここは話を合わせようとリリも加わる。チラリとサチに目配せをしながら。
この機会に打ち明けてはどうかと心から思う。
だがサチは何食わぬ顔で微笑むばかりだ。
「ま、アタシがどうこう言う事じゃないかー」
「リリ姉、何か言った?」
「何でもない!さあアイミー、賢者一発目の大仕事が待ってるよ、ガンバだね!」
「プレッシャー掛けないで?リリ姉ももうすぐ次の転職控えてるんだからガンバだよ」
「アタシはお気楽よ。次は遊び人だもーん」
「しっかし、遊び人って職があるとは驚きだよな」
「侮るなかれ。遊び人のレベルを通常よりも上げると、賢者になれるんだよ」
「マジか?遊び人恐るべしだな。俺もなるかな~」
「なってもいいけど、今みたいに敵をガンガン倒せなくなるよ?」
「そうそう。だって遊び人だもん。居眠りしたり転んだり?」
「でも、転ぶのは技にもなるんだってね。あと石投げたり!」
「やっぱ俺はいいや。性格的にアイミーも無理だな。リリ姉、健闘を祈る」
「おうよ!とすると、サチもなれそうよね」
「もち。でも私はいいかな。賢者よりもレンジャーになりたいので」
「異議なし」
「おや~ボシュ君珍しい、いつも反対するのに?」
「レンジャーには興味あるが、俺はパラディンからのゴッドハンド狙いだからな」
「あれ、サチはドラゴン目指してるんでしょ?レンジャーだとニンジャじゃない?」
「まものマスターやってドラゴンにもなるよ」
「スゴっ、特級職2制覇する気?」
「あと、守り人と天地雷鳴士!姉さま魔剣士目指してるって言ってたからそれも気になるなぁ」
「いくつ制覇する気!?」
楽観主義とは恐ろしいものだ。
言い換えれば頼もしいリーダーである。
そう思うようにする3人であった。
ドラゴンという職業について。この時はまだ誰でもなれる職ではなかったのですが今や…