出くわした魔物を倒しながら目指す村に到着する頃には、リリは遊び人への転職を済ませる事ができた。
少しでも変化を加えたいと、リリは手持ちのオレンジのバンダナを頭に巻く。
「ようやく着いたぜ」
「ここで何かゲットできたらいいな~」
「それ必要か?上級職になったらでいいだろ」
「だ~って。これじゃ遊び人っぽくないじゃ~ん!」
「リリ姉の遊び人、たぶんすぐに終わるよ」
「そうだよ。上級職3人もいるんだぞ?」
「はーい。アタシは遊んでまーす」
すねた様子で道端の小石を蹴るリリ。
「すでに遊び人に徹してるぜ」
「さ、私達は村長さんに挨拶に行こう」
向かった村長宅では、ちょっとした親子ゲンカが勃発中であった。
「父さんは甘いんだ!僕が行って来る!」
「マッテオ!待ちなさい!」
一行と入れ違いで家を飛び出した村長の息子マッテオ。
サチ達の前を勢い良く走り抜けて行った。
「あの。ごめんください」
「おお、お客人にみっともない姿を見せてしまった。済まないね」
「いいえ。何かあったんですか?」
「息子と話が合わなくてね。困ったものだよ」
聞くところによると、最近村で盗みやら放火が頻発しているそうだ。
治安の悪化はエルフの仕業だとの噂を信じきっている息子が、エルフの長に苦情を言いに行ったのだとか。
「確かにエルフはいたずら好きで有名だが、人間に危害を加えるような事はしない!」
「そうですね。エルフはとても長寿な種族。性格も気長で温厚な人達が多いですし」
「よくご存じで!ええとそれで、あなた方は?」
「済みません、突然首を突っ込んで。たった今この村に着いた旅の者です」
「おお、それはそれは!もしや、魔王の使いを倒したという勇者様ご一行では!」
「勇者一行ではないが、魔王の使いとやらは倒したぜ」
「そうですかそうですか!そんなお強い旅のお方がこの村に!有り難い事です…」
ボシュの手を固く握って涙ぐむ村長。
「そっ、そんなにか?」
「実は、村へのいたずらの他にも困っている事がありまして…」
「どんな事ですか?」
「はい、かつてエルフと人間が力を合わせて倒した魔物がいるのですが、それが近々復活するとかしないとか。確かめる事さえ恐ろしく、かと言ってこれ以上村の混乱を放置する訳にも…もうどうしたらよいか…」
「どうして急にそんな事に?」
「きっと我々の仲違いが原因で、魔物を封印する力が弱まっているのです」
「それはいけません、早く仲直りしないと!」
「その矢先にバカ息子が乗り込んで行きました…」
がっくりと肩を落とす村長。
「話し合い、必要ですね。私達もエルフの森に向かって、息子さんを止めて来ます」
そういう事になった。
・・・
「村長の息子、マッテオだったか?早とちりもいいとこだな!」
「あの勢いじゃ、ある事ない事言い散らすだろうねー」
「増々仲が悪くなっちゃう!」
「皆、急ごう」
早足で息を切らしながら語る面々。
眼前に広がる森は、どこかおどろおどろしい雰囲気が漂っている。
「ここがエルフの住む森?アタシもっと綺麗な所想像してたわー」
「ホント。もっとこう、童話の世界みたいなでしょ」
「何かおかしい。気を抜かないで。エルフの他にも何かいるかも」
「何かって、まさかの魔物か?」
ボシュが剣の柄に手を回して言う。
「これは間違いなく魔物の瘴気よ」
「だわね」
「うん。私もそう思う。気を付けよう」
さらに奥へと進むと、予想通りに魔物が現れた。
「メイジキメラ!虫みたいだけど危険なやつよ、気を付けて!」
「ガの幼虫か?気色悪ぃ、食らえ、さみだれ斬り!」
「中途半端な攻撃じゃダメ、アイツ回復魔力持ってる。ライデイン!」
サチの的確な措置で、魔物を討伐し終える。
「小さいのに手強かったね。そんな魔物もいるんだって勉強になった」
「だわね。一々回復されたんじゃ、ムダに時間も体力も使っちゃう」
「だから一気に片付ける」
「ああ。見た目にだまされた、次からは注意する」
ボシュが珍しく反省の言葉を口にした。
「さあ急ごう。ここにマッテオが一人で入ったなら危険だわ」
「そうだな。こうなると、エルフ達が無事なのかも気になるな」
「皆魔物にやられちゃってたりしないよね…?」
「ねえサチ。エルフって強いの?」
「生命力的には強いよ。だから長寿なんじゃない」
「リリ姉は戦闘能力があるのかって聞いたんだろ」
「…まあね」
サチが目を瞬く。
「良く分かってるね、リリ姉の事」
「別に!この流れなら誰だってそう考えるだろ!」
「そっか」
「で?強いの?」
「エルフが温厚だっていうのは知ってるよね?彼らは争いは好まない」
「それはつまり弱いって事?」
「いいえ」
「じゃあ強いんだ!」
「戦ってる姿を見た事ないから、知らなーい」
このセリフを聞いて3人がコケた。
「ヤダ!二人ともそのコケ方上手~い、遊び人に即転職できる~」
「するかよっ」
「この流れだと答えをもらえると思うじゃないっ」
「いくらサチでも全てを知ってる訳じゃないっしょ。ジョニじいなら分かるかもね~」
「こういう時にアイツ、どこに行っきやがった?」
急ぎ足で向かった先に、見るからに城と分かる建物が見えて来た。
「きゃっ、こっちは理想的!やっぱこれよ、こういうお城にスライム侍らせて住みた~いっ」
「スライム?マジかよ…。あんなののどこに魅力を感じるのか理解できん…」
「女の子はね、丸っこいツルんとしたのに心躍るのよ」
「ザッツライっ!サチなら分かってくれると思ってた!」
リリがサチに抱きついて言った。
アイミーはイマイチ分かっていないようで、あえて話題を変える。
「あのお城にエルフの王様がいるって事だよね?マッテオさんもあそこにいるかな」
「だといいが。行き着いてない可能性もある」
さらに足を進めて城へとやって来た。
城門は鍵もかかっておらず門番もいない。
「全く無警戒だな」
「きっと魔物の群れがやって来て、皆慌てて中に逃げ込んだんだよ。勝手に入っていいのかなぁ」
アイミーが悩む側から、サチがズンズンと中に進む。
「あっ、サチ!声くらいかけた方がっ」
「この緊急事態に、声なんてかけても無意味よ。行くわよ、皆!」
「それでも一応、礼儀ってものがさ?」
アイミーがこうつぶやきつつも先に進もうとした時、後ろから声がかかった。
「お待ちください、あなた方はどちら様です?」
「あっ、ほら、やっぱり勝手に入っちゃダメだよ!済みません、怪しい者じゃないんです!」
「エルフの長の方にお会いしに来ました。先に村長の息子さんも来てると思うんですが」
「ああ、人間の。先ほど怒鳴り込んで来た青年ですね」
「良かった、無事に来てたわねー」
「まだいますか?」
「いいえ、すぐに帰られました。レチェア王女に散々言い散らして」
「想像通りの展開だな」
一瞬すれ違っただけだが、マッテオの形相を見ている一行には想像できる。
「きっと王女様困惑してるよねー。温厚な人にそこまで強く言ったとしたら?」
「可哀そうだし申し訳ないっ!」
「今回の件、いろいろ行き違いが起きているようで、私達が仲裁のために来たという訳です」
「行き違い、ですか。ですが、今の状況では王女様が人間にお会いになるか…」
「そこを何とか!」
「おい、あんまりグイグイ行くなよ」
「ボシュもお願いして!」
「…。しゃーねぇな、ええと、ここは冷静な話し合いの機会をいただきたく?」
リリとアイミーも続けてお願いしますと頭を下げる。
「わたくしには判断致し兼ねますので、王女様に聞いて参ります」
幼そうに見える小柄な女性エルフの後ろ姿に、再びお願いします!と揃って頭を下げた。
すでに門は抜けており、敷地内にて足止めとなった一行。
「あいつも子供みてーに見えたけど、年は行ってるんだろ?エルフって不思議な生き物だわ」
「お兄ちゃん。あいつとか不思議とか言わない!」
「女性の年の事は言わない!」
「チっ、うっせえなぁ」
「ボシュ」
「んだよ、お前まで説教か?サチ。何だよ、早く言えよ」
オーラを放ちながら無表情で立つサチは妙に神々しい。
果たして何と言われるのか。ボシュは少しだけ緊張するが…。
「あの人の、いや人じゃないか、年は恐らく200歳は軽く超えてるはずよ」
「…」
「何で分かったって?王女様の侍女的な立ち位置みたいだったから、子供ではないよって、聞いてる?質問に答えたんだけど」
無言のままのボシュにサチは首を傾げる。
「あ、ああ!そうか、俺質問したんだよな」
「自分の発言も覚えてないの?大丈夫?」
「大丈夫だ。ここにお前みたいなヤツがいて救われたぜ…」
「ん?」
「何でもない。それより、ここの城主は女って事か」
「そうみたいだね」
「あ、さっきの人戻って来たみたい」
「お待たせしました。通して良いとの事です、付いて来てください」
「「ありがとうございます!」」
「お兄ちゃんは王女様の前でしゃべらないでね」
「あーあー。殺し合いにならない限りは出しゃばらねーよ。精々お前らで説得してくれ」
「ボシュ君たら、すねちゃった~」
「リリ姉、王女様の前で居眠りしたり蹴つまずいたりすんなよな?」
「うぐっ…。それは不可抗力でやってしまうのっ」
「ボシュとリリ姉は控室で待ってて。私とアイミーで行って来る」
「それがいいね。待ってる間にケンカしないでよ?」
「バーカ、そこまで子供じゃねーし」
「右に同じ」
サチの提案で、王女の間には二人で行く事となる。
「あの二人、仲が悪いよね…困っちゃう」
「そう見えるけど、案外意気投合する時もあるじゃない」
「そうだけど、何だか心配!」
「ならアイミーも待ってる?いいよ、それでも」
「ううん、私も行く」
そしてついに王女と対面する。
興奮冷めやらぬ様子の王女はとても若く見える。
美しいドレスをまとい、気品のある動きで室内を行ったり来たりしている。
がしかし、口調はギャルであった。
「何か、私の思ってた人と違う…」
「そうだね。かなり怒ってるみたい」
「ホンっト超ムカつくんですケドっ!これだから若者はイヤ。こんな時だっていうのに…。あなた方も若いわね。まだ言い足りないの?」
「初めまして。私達は旅の者で、サチと言います。こっちはアイミー、外であと二人待たせています」
「そんな大勢でまた文句?だったら今度はこっちだって黙ってないから!」
「今度は、と言うと、マッテオの言葉は黙って聞いてくださったのですね」
「そうよ!口を挟む暇がなかっただけだケド」
「それは本当にごめんなさい…!」
「何であなたが謝るの?文句言いに来たんでしょ」
「違います!村で起こるいたずらがエルフさんの仕業だなんて、私達は思ってませんから」
「あら。話が分かる人間もいたみたいね」
「本当に村に何もしていないのですね?」
「当たり前でしょうよ、魔物に森を奪われてる状況で、一体何のためにやる訳?それどころじゃないっつーの。意味分かんないんですケド!」
整った顔が真っ赤に染まる。腕組み姿で頬を膨らませる王女。
「やっぱり魔物が森を占領してるんだね…」
「先ほどの村長の息子さんは勘違いしてしまっているのです。私達がきちんと説明しますので、どうか許してもらえませんか」
「って言われてもねぇ。実際誰かが村にイタズラしてるんでしょ?真犯人を突き止めない限り納得しないんじゃない、あのガキンチョは!」
「がきんちょ…」
「私達が真犯人を突き止めたら?」
「そうね。でもそんな事より、私達としては魔物から森を奪い返してもらった方が有り難いわ」
「でしたら、それも引き受けます」
「え。マジ?嬉しいんですケド!あなた若そうだけど天女の生まれ変わりとか?」
「私はただの人間です。ではまた来ます」
サチに続きアイミーがペコリと頭を下げ、王女との謁見を終えた。