森の最奥に設置された誓いのほこらまでやって来るも、時すでに遅し。
そこには魔物が群れを成していた。
「ああ…何という事を!」
「王女様は?!一体どちらに!」
「サチ、私達だけじゃ無理だよ。お兄ちゃん達を呼ぼう?」
「魔物はもう一掃したはず。どうしてまたこんなに…」
「魔獣の牙を二本手に入れたからです。あれが復活すれば怖いものなし」
「勝利を確信して、再び集まったのでしょう」
「そういう事、か」
サチが納得した時、先の方から聞き覚えのある声が響いた。
「おーい!」
やって来たのはボシュとリリ、そしてマッテオだ。
「お兄ちゃん!どうして?」
「ほこらの話を聞いてな。やっぱりか…」
サチ達と共に来ていたエルフの一人がマッテオに気づく。
「そちらは、マッテオさんですね」
「あ、あなたは…王女様と一緒におられたっ」
マッテオは居住まいを正して再び口を開く。
「この度は何かと面倒をかけました。最悪の事態が起こっています。もう逃げない、僕もこの村の代表として戦います!」
「では共に戦いましょう。早速ですが、レチェア様がさらわれたのです!」
「何ですって?!それはいけない、すぐにお助けしなければっ」
またも前のめりになるマッテオを、ボシュが止める。
「待て待て。せっかく居合わせてるんだ、ここは一旦俺達に任せろ」
「勇者様!僕何でもしますので、おっしゃってください!」
「分かったから、取りあえず身を守ってろ。そっちのエルフ達もな!サチ、それでいいよな?」
「まさに言おうとしてた事よ。バッチリ。じゃあ行くよ!」
まずはボシュが得意技でもって集まっていた魔物達を一気に蹴散らす。
やがて奥に隠れていた大ヒョウが姿を現した。コウモリのような羽と赤い背ビレが付いている。
その両サイドに土気色の手と大盾を持った魔人。
「鋭い牙が二本、真ん中のあれがゲリュオンだわね」
「見るからに獰猛そう…可愛くないっ」
「ならぶっ潰せるな、アイミー!両脇のアイツらは以前倒した事ある、楽勝だよな?」
「う、うん…」
「そしてついに、俺の新技を披露する時が…っ」
「ボシュ、顔、笑ってる。気を引き締めて」
「あっ?分かってるさ、集中集中!」
「ここからは、ボシュは力温存しといて。私とアイミーで両サイド片付けるわ」
サチが構えながら告げる。そして横に並ぶアイミー。
「任せて。“手”の攻略は完璧だよ!」
「待ってアイミー、全力でやっちゃダメ、どこかにレチェア王女様が囚われているかもしれない」
「ねえ。レチェア王女って、もしかしてあの人?」
リリがしゃがみ込んだ姿勢で指で示す。
「リリ姉!そんな体勢で危ないよ、ちょっと押されたら転がっちゃうよ?」
「そうよ、ナイスリリ姉!いたわ!エルフの戦士さん達、王女様の救出を!」
エルフ達は口を揃えて返事をすると、気配を殺してその方向にソロリソロリと進む。
それを見届けたリリが立ち上がる。
「さてと。投げる石、探さなきゃ?」
「…」
「アイミー、もう手加減無用だよ、思う存分やって。アイミー?」
「あ、うん分かった!リリ姉の分もっ…え~い、ざざん波!」
するとなぜか、技がやまびことなって再び敵を襲う。
「2連発とは体力付いたな、アイミー!」
「…違う、1発しか撃ってない」
「アイミーおめでとう、賢者の技習得だね。やまびこって言って、同じ技が繰り返されるんだよ」
「そうなの?凄いのか分かんない、まだアイツ、倒れてない…」
そう、実際やまびこは有力な技なのだが、今の状況では実感も湧かないだろう。
「いよいよ俺の出番だな。いいか、見てろよ!食らえ、ギガブレード!」
一瞬ボシュの姿が本物の勇者に重なる。
そして放たれた強烈な一撃は、見事ゲリュオンに命中。
たまらず地面にバッタリ倒れた魔獣。
「…っ、復活を果たしてまだ間もないのに、無念…」
「まだ終わっておらぬぞ!早くヤツの牙を抜くのじゃ!」
「あ?じじい、いつの間に現れやがった」
「ほれボシュ殿!早くせんかい!」
「あ、ああ!」
ボシュが倒れて動かなくなった魔獣から二本の牙をもぎ取る。
「これでいいのか?」
「これを再び封印するのである、エルフの王女殿!」
ボシュから牙を手にしたジョニーは、その一つをレチェア王女に渡す。
「あ~今回ばかりはヤバいかと思ったわ。ありがと、人間に助けられるなんて思わなかった。あ、あなたは魔物か!」
ボシュ達を眺めた後に、視線を下に向けたレチェアがジョニーを目にする。
「魔物と普通に会話?!バカな…っ」
「あの、マッテオさん、この人は私達のお供なんです!」
「ジョニじい、封印の仕方教えて。あとは私がやる」
「そうじゃの。ワシはこの場に居らぬ方がよい」
一つはエルフ、そしてもう一つは人間が再び封印。
魔獣ゲリュオンは再び永い眠りに就いた。
その後急ピッチでほこらが再建され、今度こそ魔物達もこの場から消え去った。
改めて対面したレチェアとマッテオだが…。
「イヤんなっちゃう!あの妖精のせいよ?ホンット、迷惑なんですケド!」
「妖精とは?」
「あらマッテオ。ここまで来たなんて偉いじゃない」
「また上からっ、失礼では?」
「失礼とかあなたに言われたくないわ~」
「それは謝りましたよねっ?」
「部下達にでしょ。私は謝ってもらってないケド」
言い合いが始まってしまった。
それを見ていたアイミーはポツリと零す。
「何だか、お兄ちゃんとリリ姉みたい」
「案外いいカップルになるかもね」
「ちょっと?誰と誰がいいカップルですって?」
「誰って、王女様とマッテオさんだよ」
「誰だと思ったの?」
「なっ…二人してイジワルっ」
そう言って近くにいたボシュにしなだれかかるリリ。
「んだよっ、重い、離れろ。俺は今回の功労者だぞ?」
「私だって石投げて頑張ったよ?優しくしてよ~」
「命中率悪かったがな!」
「え~ん」
「ってリリ姉、レベルが上がってるじゃない!」
「そうなの。最後に石投げた辺りで?でももう少しやる。賢者の資格ほしいからさ」
「そうだね。あと少しだし」
「ボシュ君がガンガン強敵倒してくれれば一瞬よ!ヨロシクっ」
無言のボシュ。
いつも反論するボシュが答えないのは、力を使い果たしたからなのだが。
「お兄ちゃん、リリ姉の事受け入れてる…っ、やっと仲良くなったね」
妹にこう涙目で言われれば、真実など口にできまい。
こうしてまたパーティの結束が強固になった、事とする。
・・・
恒例の飲みの席にて。
ここは屋外のためジョニーの席も用意してあるのだが、まだ姿はない。
「で、結局村にいたずらしてたのは魔物だったのか?」
「それがね、多分違う」
「アタシ分かった!妖精でしょ!」
「正解、リリ姉良く分かったね」
「だってほら、王女様言ってたじゃん?あの妖精がどうとかって」
「妖精もイタズラ好きって言うしね」
「ボヨン!遅れたのである!」
「ジョニじい!来ないかと思ったわよ」
「それはないのである。今日は皆、申し分のない働きであったの!」
「オメーも上からだな。それってやっぱ年齢マウント取ってる感じか?」
「お兄ちゃん!ジョニじい様に向かってそんな言い方っ」
「アイミー殿、ワシは気にせん。もう慣れたのである」
「はっ!良く言うぜ。しょっちゅう突っかかって来るくせに?」
「ムムムっ」
「まあまあ!乾杯しよ、カンパーイ!」
身を乗り出したサチが無理やりにジョニーにコップを持たせ、音を鳴らした。
そして誰よりも早く口を開く。
「実はさ、私、以前に妖精の声を聞いた事があるの」
「え~マジ?空耳じゃなくて?」
「どんな声?カワイイ声?」
「ささやき声だったから、何とも言えないけど。それがさ、レチェア王女様の口癖覚えてる?」
「口癖?さあ…アタシはあんま会ってないから」
「あっ!分かった、ですケド!って言うのじゃない?」
「そう!その話し方を、妖精もしてたの」
「で?」
興味なさそうにグラス片手にボシュが先を促す。
「サチ殿は初めから妖精が絡んでおると見抜いておったようじゃのー。感心感心!」
「え~サチ、スゴイじゃん!」
「この森でずっと何か感じてたのは、妖精の気配だったのかも」
「でも何で妖精が私達に付いて回ってたのかな?」
「ゲリュオンの復活を知らせるためじゃ。ほこらが壊された事をいち早く知ったのはあの者達なのじゃ」
「じゃあ、王女様にもそれを知らせてたんだね」
「上手く伝わってなかった訳か。マッテオに負けず劣らず早とちりだな~」
「だからいいんじゃない!あの二人、お似合いよっ」
「二人が仲良くなれば、きっとまたエルフと人間も上手くやって行けるね」
「そりゃそうでしょ、だって王女と村長の息子よ?トップ同士!きゃっ、いいじゃない!」
「リリ姉、好きだね、そういうの」
「ときめくでしょうよ、女なら?ねえサチ!」
「まあ」
「残念ながら、あんまり響いてないみたいだぜ」
「んもう!自分だって王子様とのロマンス経験したくせに!…あっ」
「…」
「ええ?!サチ、王子様と恋に落ちたの?!」
「落ちてないよ。落ちたのは向こうだけ。私が一番尊敬するのは姉さましかいない」
意外とあっさり答えたサチ。その表情にも特に変化はない。
「…だからっ!その言い方だと誤解生むって!」
ここぞとばかりに話題をすり替えるリリ。
つい口が滑った。サチの過去をバラすのはきっと自分だ、それも時間の問題で…。
自分の口が恐ろしいリリであった。