第32話:気になること
エルフの森と別れを告げた一行が次に向かうは、山一つ越えた先の王国だ。
「ゴメンね皆。ちょっと確認したいだけだから」
「いいって!サチが気になるって事は絶対何かあるもの。ね、ボシュ、アイミー?」
「うん、全然。リーダーはサチだし」
「俺は強敵が倒せればそれでいい」
「でも妖精が気になるなんて、悪さしてた訳じゃなかったでしょ?」
「うん。だからちょっと確認したいだけって」
「だが、見えないんじゃ確認のしようがないだろ」
「でもサチ、声は聞こえるんだよね?」
「ですケド~ってヤツ、アタシも聞きた~い!」
「ホントにそんなしゃべり方すんのか?確認ってまさかそれじゃねーよな…」
サチは静かに首を左右に振って否定を示す。
「ねえリリ姉。サチ、何だか元気ないね。どうしたんだろう」
「…そう、だわね。何だろね~」
リリは、自分が軽率に口にしてしまった王子とのロマンス話を思い返す。
それが原因かは分からないが、一因ではあるかもしれない。
こんなムードでの山越えはしかし、それぞれの腕を磨くのに持って来いであった。
それはつまり魔物がわんさと住み着いていたからに他ならない。
ボシュの怒りのパワーとサチの威圧にて敵が怯む。
そして得意技が炸裂すれば敵はたまらない。
「ギガ空裂斬!」
「覚醒の炎!」
二人のこれだけで全てが終わる。
「サチ、何だか今日は技が冴えてるな!」
「ボシュこそ、またパワー上がったんじゃない?」
戦っている時のサチはいつも通りに見える。
むしろいつものほんわかな雰囲気が消えて、より海賊らしい。
忘れそうだが、サチは今海賊である。
アイミーとリリは二人が取りこぼした小物をちょこちょこ魔法で潰して行く。
こんな事でもそれぞれの経験値は確実に増えている。
「リリ姉!レベル55だよ!やったじゃない」
「ホント?これでスーパースターね、リリ姉!」
「ようやくか。俺達すでにレベル20間近だぜ」
「衣裳はいいから、今すぐに転職する!早く挽回しないと!」
どこか必死なリリに、3人が首を傾げる。
「そんなに慌てなくても平気だよ?」
「俺がまたいらん事言ったな。悪い、焦らせるつもりで言ったんじゃないぜ?」
「分かってる。ほらアタシ遊び人してたじゃない?いっぱい迷惑かけたから。あと、早く皆をダンスで癒したいって思っただけよ」
「リリ姉…っ、ありがと!嬉しいよ」
アイミーが堪らずリリに抱きついた。
よしよしと頭を撫でつつ、ボシュとサチを順に見る。
「気にすんなって言っても気になるよな。リリ姉は面倒見いいし。一番年上だし?」
「リリ姉、私からもありがとう。ボシュと私はきっと暴走するから、リリ姉やアイミーみたいなお守り役は絶対必要。頼りにしてる」
「うん、任せて!」
サチの変わらない笑顔がようやく戻って来て、リリだけでなくアイミーも一安心だ。
「よし決めた!このタイミングで、私達はより高みを目指す事にします!いい?」
「いいに決まってんだろ、リーダー?何だよ今さら」
「上級職レベル20に達したら、試練を受ける事ができるの。名付けてダーマの試練よ」
「それって大変なの?」
「必須ではない。挑戦したい者だけが挑める」
「俺は当然やるぜ。詳しく教えてくれ。山にでもこもるか?それとも100キロくらい走るか!」
ヤル気満々のボシュだが、当然アイミーは怖気づく。
「私はパスしようかな…」
「安心して。アイミーにもできる事よ。皆で頑張る事なの。スーパースターには試練がないから、リリ姉は見守り役なんだけど」
「アタシってばそういう役回りが板について来たね~。バックアップはお任せあれ!」
その後サチが試練の内容を説明する。
試練には4段階あり、最初だけはそれぞれの特性を試される。
バトルマスターは“怒り”を戦闘中に10回発動させる事。
賢者は“やまびこ”、海賊は“威圧”だ。
「楽勝じゃねーか!」
「お兄ちゃん、発動するのは戦ってる時だけだからね?これ以上怒りっぽくならないでね?」
「カワイイ妹に上目遣いでここまで言われたら、めったには怒れないね~兄貴!」
「うぐっ。お、おー…」
「だけど、どっちも強敵相手じゃないと発動しなそう。あっさり倒しちゃったらやまびこも威圧も怒りもないもの」
「そうなの。だからさらに気合を入れないと」
「…ねえサチ。もしかして、今までずっとそれの事考えてた?」
「考えてた。姉さまはまだ試練を受けてないって言ってたし。今はどうか分からないけど、私が先に行っていいのかな、とか」
「先っつったって、クリアできるのがいつになるか分からんぜ?」
「そうなの。それに、より立派になった姿を見てもらいたい。そう思って決めた」
そう言い切ったサチはスッキリした顔をしている。
「なぁ~んだ…そういう事?悩んで損した!」
「どうしてリリ姉が悩むの?」
「私達心配してたんだよ?サチが何か悩んでそうだったから」
「まあな」
「あらま、ボシュも気づいてたの?」
「俺だってそのくらい気づく。どんだけ一緒にいると思ってんだ?そこまで鈍感じゃねー!」
「みんな…ありがとう、心配してくれて!」
サチが3人まとめて引き寄せてギュッとする。
「あん、腕が短くて届かないっ」
「アタシがこうするよ」
一番リーチのあるリリが3人を抱き寄せた。
「ん~!最高!」
「もういいだろ、離せっ」
「お兄ちゃんたら照れてる~」
山越えだけに、それぞれが一山越えた有意義な旅路であった。