麓に降りて来ると、眼前に立派な王国が広がっている。
「今までのとこより栄えてそうだな」
「こっちの町の方がいいお店ありそうじゃない?リリ姉」
「エルフの森にはなかったからね~」
「衣裳替えはいいって言ってなかったか?」
「あの時は本当にそう思ったよ。でも時間があるならしたいな。だってスーパースターよ?」
「スターかぁ。手の届かない存在にならないでね、リリ姉?」
「約束はできない。な~んてね!」
「もう~っ」
キャハハッっとリリの高い笑い声が辺りに響く。
「ったく。お前らがこうやって騒いでないと落ち着かないってのが困るよな~。俺も大概毒されたな」
「私達に染まってくれてありがとう、ボシュ」
ボシュを見てウインクを飛ばすサチ。
たちまちボシュの顔が真っ赤に染まる。
「威圧じゃなくて、魅了って特徴があれば良かったなぁ」
「そりゃお前、完全に海賊じゃねーよ」
「だね、あはは!」
「大体、海賊って雰囲気ねーんだよな、お前。何で選んだ?」
「たまたまこのターバン貰ったのもあるけど、逞しくなりたかったから、かな」
「ふうーん。女なのにか?」
「女だからこそよ。きっとボシュには分からない」
「ああ。分かんねーな」
少し先を歩いていたサチが振り返って、今度はボシュの手を掴む。
「さ、王様に会いに行こう!困った事ないか聞かないとね。勇者様?」
「なっ、手、離せっ!あと、俺は勇者じゃねー!」
こんな光景を後ろから見ていた二人は…。
「あら~?何だかいい雰囲気っ、サチ、将来アイミーのお姉さんになるかもよ!」
「サチがお姉さん、ステキ!応援しちゃおうかな。でもリリ姉、いいの?」
「何でアタシに聞くのさ」
「だって…」
「アタシはスライム一筋でーす」
「それって本気だったの?!」
「ほら、早く行くよアイミー!」
「待ってよ~」
いつもの構図で距離が縮まり、一行は揃って王国の湖畔にそびえる城に辿り着いた。
「本当にここであってるのか?妖精がいるようには見えない荘厳な佇まいだが」
「レチェア王女様が、ここに妖精が行くって言ってたって。また何かをしに来たのかも」
「そうだろうね。妖精のお城にしては大きすぎる!」
「リリ姉、真面目な顔でその当たり前すぎる答え、ちょっと笑えるっ」
「いや。分かんないぜ?妖精でも巨大なヤツもいるかも」
「ヤダぁ~、夢が壊れるっ」
「それだと妖怪だわね。もはや敵。ってか、妖精って敵じゃないの?サチ」
「人間に悪さをすれば敵。しなければ違う」
「もっともだな!」
今度の城はたくさんの兵が門前に並んでいる。
「そうそう、これが普通だよな。ちゃんとしてるぜ」
「それだとエルフがちゃんとしてないみたいよ?」
「二人とも!静かに」
すでに前方にてサチが門番と話をつけている。
「皆、入っていいって!」
「あっさり許可下りたな」
「勇者様ご一行なら大歓迎、って」
「お、おい!まさか勇者だって名乗ったのか?!」
「名乗ってないよ。勝手に向こうが」
「いつものパターンだわね」
「だね」
中に入ると、兵達が一斉にひれ伏す。王の間までビップ待遇で案内された。
「これはこれは!魔獣ゲリュオンを倒した勇者様ご一行にお会いできるとは光栄だ!ようこそ我が王国へ。これから歓迎の宴を開こうぞ!」
グレーのヒゲを蓄えた大柄な王様はアルマンと名乗った。
一行も順に挨拶を終えて、あれよあれよという間に宴会が始まる。
「いいのかな、こんな接待受けちゃって」
「そうだよ、俺ニセモン勇者だぜ?詐欺罪とかにならないか?」
「分かんないよ…でもここまで来て帰りますって言えないよ」
ソワソワする3人とは相反し、サチは堂々と振る舞っている。
「皆どうしたの?もっとしゃんとして。魔物を倒したのは嘘じゃない。頼りになるって思われないと何も始まらないよ?」
「だよな!俺達は魔物退治に来たんだし。勇者だろうがそうじゃなかろうが関係ない」
「アタシはスーパースターよ!オホホホ!もっとスポットライト持って来て!」
「リリ姉、それちょっと違う気が…」
「さあアイミー。食べよう?大丈夫、毒は入ってないみたい」
「それは心配してないけど?!」
戸惑いはあれど、豪華な料理を前にどうでもよくなる。
気づけば皆普通に楽しんでいた。
「あ~腹いっぱい!満足満足」
「私もちょっと食べ過ぎちゃった」
「アタシもー。ここにいたら太りそう」
「同感…」
最後につぶやきつつ、ふと王様の方に目を向けたアイミー。
目が合ったのに王様は不自然に目を逸らした。
「どうしたの?アイミー。お腹でも痛い?」
「ううん。何でもない」
アイミーの視線の先を追ったリリだが。
そこにはアルマン王が気前よく酒をあおる姿があるばかりだ。
「どうかした?」
「何でも。王様がちょっとばかり気になっただけ」
「何かあったのか?」
そんな会話が耳に入ったかは定かではないが、王様が唐突に立ち上がった。
そして一直線にこちらにやって来る。
「不届き者らめ。即刻地下牢にぶち込め!」
「はあ?何だよそれ。俺ら今何かしたか?」
「歯向かう権利などお前達にはない」
「言ってる意味が分からんが、そっちがその気なら容赦しないぜ」
「ボシュ待って。ここは穏便に」
「何でだよ、いきなりこんな扱いされて黙ってられるか!」
「いいから。言われた通りにしよう」
サチは逸るボシュをなだめてどうにか剣を収めさせた。
そして一行は歓迎ムードから一転、牢屋行きとなる。
「何かゾッとする…ここ地下ってより洞窟だわね。奥に何かいそうっ」
「一体どういう事なんだろう。王様、最初の時と全然言ってる事が違う」
「ねー。まさかの二重人格?勘弁して!サチ、どうする?」
「見張りも大した事なさそうだし、突き破って脱出すればいい」
「お兄ちゃん!そうやってすぐに乱暴な手段に出ようとしないで」
「乱暴ってお前な、俺ら十分手荒な扱いされてんだぞ?」
「皆、静かに。気配がする」
「魔物か?」
「大きくはないみたいだけど…」
「けど?」
「場所も場所だし、最小限で退治した方がいいね」
ひそひそと話すサチ。
徐々に暗がりに目が慣れた3人にもようやくその姿が確認できる。
それは小さな可愛らしいイカのような魔物だ。
「ヤバい、ちょっとカワイイ…っ」
気づいた見張りの兵達が逃げ出すのは早かった。
「手慣れてんなー。さてはここに住み着いてる魔物か。あれで見張り務まんのか?」
「さあ…」
「リリ姉に情が湧かないうちにやっつけないと。ここは私がやる。斧まつりー!」
クルクルと器用に斧を振り回し始めたサチ。
牢の格子ごと弾き飛ばし、あっさり魔物を一掃。
「ああ…一瞬だった。もっと見たかった!」
「そんな事より、あっちの牢に誰かいるみたい!」
「僕はアルマンの息子、チョザレです。魔物を退治していただき感謝します」
「ええ?!息子っていうと王子様だよね?どうしてこんな所に?」
慌ててそちらに移動する面々。
「って、鍵掛かってないぜ?いくらでも逃げられんじゃねーか」
「さすがに兵達も、王子の僕を閉じ込める事ができなかったようです」
「どういう事ですか?」
王子の話によれば、王様の言動がおかしくなったのはある場所に行ってからだという。
「そうすると、その最果ての塔ってとこに行けば何か分かる?」
「あるいは。ですが行ってみたくても、あそこは魔物の巣窟で有名で非常に危険です」
「それなら問題ない。俺達が魔物を始末してやる」
「本当ですか?それは心強い!でしたら早速向かいましょう」
チョザレと一行は、あっさりと牢屋を抜け出したのであった。