王様は苦痛の表情で語り始めた。
「話はさかのぼり、チョザレの生まれた時の事です。難産で王妃は死んでしまい、息子も危険な状態でした」
その時、悪魔の声が頭の中に響いてきて、子供だけでも助けてやると言われたそうな。
その見返りに、子が18になったらその魂を貰い受けると。
「その時は必死でした。18年間だけでも生きてくれるならと、約束を交わしてしまったのです」
そして王子が18を迎えると、王は生きた心地がしなかった。
理由は告げず息子を洞窟に隠し、偶然やって来た勇者一行に護衛させようと考えた。
「そういう話だったら初めから説明してくれればいいのにさ?」
「全くだ。こっちは訳も分からず振り回されて、いい迷惑だぜ!」
「本当に済まない事をした…。だが、悪魔と約束を交わしたなど国王として落第。打ち明ける事ができなかったのだ」
「サチが言ってた、体裁ってヤツか」
サチはあえてそれに同意を示さずに質問する。
「約束を交わした悪魔というのは?」
「今しがた倒していただいた魔物とそっくりだったのだが…」
「だが、何かあるの?」
「どうにも胸騒ぎが消えぬ。それにずっと感じている視線も、まだ消えぬのだ…」
「その視線、アタシもさっき感じた」
「サチも言ってたよね」
一行は口を閉ざし、周囲を警戒する。
「もしかして、姿の見えないっていう妖精じゃないのか?」
「うう~ん…」
サチは難しい顔で小首を傾げるばかり。
そこに突如現れたのは、タコのような多足の魔物であった。
「ブブー!妖精じゃないよ、オレ様だよーバーカ」
「なっ、何だお前は?!」
「オレ様はメーダロード。ずっとお前達を監視していたのさ。しかし、ヘルビーストとホラービーストがやられるなんて?ビックリだね」
「ま、また魔物が…っ」
「オマエ、往生際が悪いね。約束を破る気か?ボスが黙ってないぞ!」
「ひいっ…!」
青色のタコ足から放たれた電撃が王様に向かって走る。
サチはそれを透かさず防御して言う。
「王様は隠れていてください。リリ姉お願い」
頷いたリリが王様を魔物から遠ざける。
「確かに交わした約束は守るべきだわ。でも理不尽な内容で、しかも詳しい説明もなしに行われた取り交わしは、場合によっては無効になる」
「はあ?オマエもバカだな!そんな事をバカが決められる訳ないだろ?バーカ!」
「ムカっ…減らず口叩きやがって、このっ」
ボシュのこめかみに青筋が立つ。再び怒りが発動か。
対してサチからは何の感情も読み取れず。
それに気づいたボシュが若干冷静になる。
「お前、あんだけバカバカ言われてて腹立たないのか?スゲーな」
「魔物の言葉になんて、一々何も感じない」
「ムカムカーっ、オマエ凄くムカつくな!」
サチ目がけて電撃が猛スピードで一行の前を駆け抜ける。
「マズい、サチ!避けろ!」
「ダメ、間に合わない!サチっ…」
ざざん波で雷が消せるかもと考えたアイミーが雨雲の杖を構えるも、その時間もない。
サチはその場から微動だにせず言い返す。
「バカはどっち?私の得意分野もデイン系なの。ライデイン!」
襲って来た電撃諸共吸収し、サチの剣に蓄えられる。
そしてさらに強烈な雷電となって魔物へと襲い掛かった。
「バ、バカな…ぐぐ、無念」
魔物はつぶやきを残してチリと化した。
「ナ~イス、サチ!超絶カッコ良かったぞ~!」
「今回ばかりは焦ったぜ…」
「王様、まだ視線は感じますか?」
「いや…だが、まだ胸騒ぎは消えない。早く城へ戻りたい」
「そうですね、王子様が待っています。全部話してあげてください」
こうして一行は、王と無事に目覚めた護衛の兵と共に城へと戻った。
「帰ったぞ。お前を残して行って悪かったな」
「そんな事よりも大変ですっ、王子がっ!」
「何を慌てておる?」
「チョザレ王子が魔物になって暴れているのです!何が起きてるやら、もう手の付けようがっ」
「魂を貰い受けるとは…そういう事だったか。何たる事!」
「どうするサチ。ぶっ殺す訳にも行かないぜ?」
「命は取らないで倒すしかない。ボシュと私の技は使えない。魔法で対処しよう」
魔物となったチョザレは広間を飛び回りながら、あらゆるものを破壊している。
それを目で追いながら、サチが指示を出す。
「ねえ、あれの似たようなの、前に戦った気がしない?」
「前のはピンクの角だったろ。アイツは青だ。それにコウモリの羽まで付いてやがる」
王子の着ていた紫色の衣服と持っていた剣はそのままに、角とくちばし、羽が生えている。
「よし、私がやる。リリ姉、聖風の杖貸して」
「お、久々登場だわね!」
「風で攻撃するのが安全でしょ。バギクロス!」
たちまち竜巻が起こり、ガーゴイル改め王子チョザレの体がグルグルと渦に飲まれる。
たまらず目を回し、ドサリと床に落ちて来た。
「アイミーお見事!申し訳ないけど縛り付けておいてください」
「息子は元の姿に戻るのか?おお、哀れなチョザレよ…」
「こういう時の戻し方だな、問題は」
「学習したね、敵を倒せば自動的に戻るって思ってた人?」
「誰の事だ?知らんなー。第一今回の場合、すでに敵は倒してる」
とぼけたボシュ。なぜか胸を張って主張する。
「確かに倒したけど、これで本当に終わりなのかな…どうして胸騒ぎが消えないんだろう」
「サチも?王様が言ってたのと同じって事?」
「王様の胸騒ぎはアレっしょ、王子が魔物になってた事」
「約束ってのが王子を魔物にする事ならもう目的達成だろ。これ以上何かあるのか?」
「王子を使って何かをする気とか」
「だけどその王子サマはこんな状態だわよ?」
王子こと、魔物は縛り付けられている。
「ならやっぱ解決か?」
「バカ!王子様を人間に戻さなきゃでしょ」
「ったってなぁ。魔物なんかとそんな約束交わしたのが悪くないか?」
「お兄ちゃん、酷いっ…」
「ね~。血も涙もない。過ちの一つや二つ誰だってあるだろうに?」
またもボシュの味方はいないかに思われたその時。
「約束を交わす相手に気を付けろ。その願いは叶っても、大抵は対価で自らが滅ぶ事になる」
「え…サチ?」
「姉さまが言ってた。私が少しでも早く一人前になりたいって焦って、悪魔から書物を買おうとした時に」
「悪魔から買うって、どんなシチュエーション?!」
「やっぱお前ぶっ飛んでるぜ!言っとくが誉め言葉だからな?」
「もし私が約束を交わした魔物なら、何が起きてるのか見に行く」
「サチっ、怖い事言わないで?」
「ここにホンボシが乗り込んで来るってか。面白ぇじゃねーか!」
「また何かやって来るというのか?おお、私の城が…っ」
「もう諦めて一から建て直す事だわね」
そんな会話をしていた一行の背に悪寒が走る。
「今なんか、背筋がゾッとしたんだが…」
「アタシもっ」
「凄い瘴気…気分がっ」
「皆、気を付けて。来るよ!」
壁をすり抜けて音もなく現れたのは、馬に乗ったガイコツ騎士ボーンナイトだ。
「ヒヒヒ。お前達か。ひ弱そうな人間共だ。俺が出向く事もなかったな」
「この声だ!あの時に頭に響いて来たのは!」
「ああそうさ。お前の元に向かわせたのは俺の手下。こうしてわざわざやって来るボスなんて、あんまりいないぜ?」
「何をしに来た?」
「貰い受ける約束と言ったろう。王子を渡せ」
「断ると言ったら?」
「言わせない。殺すだけだ」
「待って。その約束だけど、もう一度きちんと聞かせてほしい」
「あ?部外者は黙ってろ!」
サチに強力な呪文攻撃が降りかかる。
「くっ」
「サチ!私のプラチナトレイ持って、ミラーシールド!」
アイミーが自分の盾をサチに持たせる。
間一髪で呪文を跳ね返した。
「…。まあいい。俺は忙しいんだ、お前らと遊びに来たんじゃない」
「魔物に変化させたのだから、もう魂はここにはないだろう!帰ってくれ!」
「生きている限り魂はある。そいつはまだ生きてるだろう」
「そんな…っ」
「王族の魂は一級品でね。手に入れたかったのは王妃の魂だったんだが、小賢しい術使いに邪魔された。挙句死んでしまった!で、息子で手を打ったのさ」
「待て。術使い?どういう意味だ?息子が生まれる前から何かしていたのか」
「ああそうさ!元々の狙いは王妃だった。身籠っているのは予想外だったが」
「…つまり、王妃はお前が殺したと」
「まあそういう事になるかねぇ」
「代わりの魂を手に入れるために、息子を生かしたと…」
真実を知った王はその場にくず折れる。
「つまり、例の約束は口実って事ね」
「口実だろうが何だろうが、約束は約束だ」
「いいえ。そんなのは無効よ!」
「何が無効だ。息子は助けた」
「助けたんじゃなくて殺さなかっただけだろ、クソが」
「それを助けたと言うのだろうが?クソはお前だ!」
「こじつけ!やっぱ魔物だわね、まともに交渉事なんて絶対に無理!王様、気にする事ないわ、そんな約束ムシムシ!」
約束は仕組まれていた。
王妃の死は魔物がもたらしていたのだ。
「酷い、酷すぎる。許さない!皆、コイツは私にやらせて」
「分かった。援護するわ。先手必勝よ、アイミー!」
アイミーを残し3人は後方に下がり身構える。
そしてアイミーは聖風の杖から雨雲の杖に持ち替え、前方を睨み据えた。
「王妃様の想い、それから王様の無念、人をもてあそんだ罰よ!え~い、落陽!加えて追撃レインボー!そしてさらにやまびこー!」
雨雲から放たれた巨大な炎の塊は、二度三度と敵に降りかかった。
「人間の小娘にこんな力が秘められているとは!お前の魂が欲しかった…っ、やられた」
魔物は捨てゼリフを残し、灰となって消えて行った。