旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第35話:仕組まれた未来

 

 

 王様は苦痛の表情で語り始めた。

 

 

「話はさかのぼり、チョザレの生まれた時の事です。難産で王妃は死んでしまい、息子も危険な状態でした」

 

 その時、悪魔の声が頭の中に響いてきて、子供だけでも助けてやると言われたそうな。

 その見返りに、子が18になったらその魂を貰い受けると。

 

 

「その時は必死でした。18年間だけでも生きてくれるならと、約束を交わしてしまったのです」

 

 そして王子が18を迎えると、王は生きた心地がしなかった。

 理由は告げず息子を洞窟に隠し、偶然やって来た勇者一行に護衛させようと考えた。

 

 

「そういう話だったら初めから説明してくれればいいのにさ?」

「全くだ。こっちは訳も分からず振り回されて、いい迷惑だぜ!」

 

「本当に済まない事をした…。だが、悪魔と約束を交わしたなど国王として落第。打ち明ける事ができなかったのだ」

 

 

「サチが言ってた、体裁ってヤツか」

 

 サチはあえてそれに同意を示さずに質問する。

 

「約束を交わした悪魔というのは?」

「今しがた倒していただいた魔物とそっくりだったのだが…」

 

「だが、何かあるの?」

 

「どうにも胸騒ぎが消えぬ。それにずっと感じている視線も、まだ消えぬのだ…」

「その視線、アタシもさっき感じた」

「サチも言ってたよね」

 

 

 一行は口を閉ざし、周囲を警戒する。

 

 

「もしかして、姿の見えないっていう妖精じゃないのか?」

「うう~ん…」

 

 サチは難しい顔で小首を傾げるばかり。

 

 

 

 そこに突如現れたのは、タコのような多足の魔物であった。

 

「ブブー!妖精じゃないよ、オレ様だよーバーカ」

 

 

「なっ、何だお前は?!」

 

「オレ様はメーダロード。ずっとお前達を監視していたのさ。しかし、ヘルビーストとホラービーストがやられるなんて?ビックリだね」

 

「ま、また魔物が…っ」

「オマエ、往生際が悪いね。約束を破る気か?ボスが黙ってないぞ!」

「ひいっ…!」

 

 

 青色のタコ足から放たれた電撃が王様に向かって走る。

 

 

 サチはそれを透かさず防御して言う。

 

「王様は隠れていてください。リリ姉お願い」

 

 

 頷いたリリが王様を魔物から遠ざける。

 

 

「確かに交わした約束は守るべきだわ。でも理不尽な内容で、しかも詳しい説明もなしに行われた取り交わしは、場合によっては無効になる」

「はあ?オマエもバカだな!そんな事をバカが決められる訳ないだろ?バーカ!」

 

 

「ムカっ…減らず口叩きやがって、このっ」

 

 ボシュのこめかみに青筋が立つ。再び怒りが発動か。

 

 

 対してサチからは何の感情も読み取れず。

 それに気づいたボシュが若干冷静になる。

 

 

「お前、あんだけバカバカ言われてて腹立たないのか?スゲーな」

「魔物の言葉になんて、一々何も感じない」

 

「ムカムカーっ、オマエ凄くムカつくな!」

 

 

 サチ目がけて電撃が猛スピードで一行の前を駆け抜ける。

 

 

「マズい、サチ!避けろ!」

「ダメ、間に合わない!サチっ…」

 

 ざざん波で雷が消せるかもと考えたアイミーが雨雲の杖を構えるも、その時間もない。

 

 

 サチはその場から微動だにせず言い返す。

 

「バカはどっち?私の得意分野もデイン系なの。ライデイン!」

 

 

 襲って来た電撃諸共吸収し、サチの剣に蓄えられる。

 そしてさらに強烈な雷電となって魔物へと襲い掛かった。

 

 

「バ、バカな…ぐぐ、無念」

 

 魔物はつぶやきを残してチリと化した。

 

 

「ナ~イス、サチ!超絶カッコ良かったぞ~!」

「今回ばかりは焦ったぜ…」

「王様、まだ視線は感じますか?」

「いや…だが、まだ胸騒ぎは消えない。早く城へ戻りたい」

 

「そうですね、王子様が待っています。全部話してあげてください」

 

 

 

 

 

 

 こうして一行は、王と無事に目覚めた護衛の兵と共に城へと戻った。

 

 

「帰ったぞ。お前を残して行って悪かったな」

「そんな事よりも大変ですっ、王子がっ!」

 

「何を慌てておる?」

「チョザレ王子が魔物になって暴れているのです!何が起きてるやら、もう手の付けようがっ」

「魂を貰い受けるとは…そういう事だったか。何たる事!」

 

 

「どうするサチ。ぶっ殺す訳にも行かないぜ?」

「命は取らないで倒すしかない。ボシュと私の技は使えない。魔法で対処しよう」

 

 

 魔物となったチョザレは広間を飛び回りながら、あらゆるものを破壊している。

 

 それを目で追いながら、サチが指示を出す。

 

 

「ねえ、あれの似たようなの、前に戦った気がしない?」

「前のはピンクの角だったろ。アイツは青だ。それにコウモリの羽まで付いてやがる」

 

 

 王子の着ていた紫色の衣服と持っていた剣はそのままに、角とくちばし、羽が生えている。

 

 

「よし、私がやる。リリ姉、聖風の杖貸して」

「お、久々登場だわね!」

 

 

「風で攻撃するのが安全でしょ。バギクロス!」

 

 

 たちまち竜巻が起こり、ガーゴイル改め王子チョザレの体がグルグルと渦に飲まれる。

 たまらず目を回し、ドサリと床に落ちて来た。

 

 

「アイミーお見事!申し訳ないけど縛り付けておいてください」

「息子は元の姿に戻るのか?おお、哀れなチョザレよ…」

「こういう時の戻し方だな、問題は」

「学習したね、敵を倒せば自動的に戻るって思ってた人?」

 

「誰の事だ?知らんなー。第一今回の場合、すでに敵は倒してる」

 

 とぼけたボシュ。なぜか胸を張って主張する。

 

 

「確かに倒したけど、これで本当に終わりなのかな…どうして胸騒ぎが消えないんだろう」

 

「サチも?王様が言ってたのと同じって事?」

「王様の胸騒ぎはアレっしょ、王子が魔物になってた事」

「約束ってのが王子を魔物にする事ならもう目的達成だろ。これ以上何かあるのか?」

「王子を使って何かをする気とか」

 

「だけどその王子サマはこんな状態だわよ?」

 

 

 王子こと、魔物は縛り付けられている。

 

 

「ならやっぱ解決か?」

「バカ!王子様を人間に戻さなきゃでしょ」

「ったってなぁ。魔物なんかとそんな約束交わしたのが悪くないか?」

 

「お兄ちゃん、酷いっ…」

「ね~。血も涙もない。過ちの一つや二つ誰だってあるだろうに?」

 

 またもボシュの味方はいないかに思われたその時。

 

 

「約束を交わす相手に気を付けろ。その願いは叶っても、大抵は対価で自らが滅ぶ事になる」

 

「え…サチ?」

「姉さまが言ってた。私が少しでも早く一人前になりたいって焦って、悪魔から書物を買おうとした時に」

「悪魔から買うって、どんなシチュエーション?!」

 

「やっぱお前ぶっ飛んでるぜ!言っとくが誉め言葉だからな?」

 

 

「もし私が約束を交わした魔物なら、何が起きてるのか見に行く」

 

 

「サチっ、怖い事言わないで?」

「ここにホンボシが乗り込んで来るってか。面白ぇじゃねーか!」

 

「また何かやって来るというのか?おお、私の城が…っ」

「もう諦めて一から建て直す事だわね」

 

 

 そんな会話をしていた一行の背に悪寒が走る。

 

 

「今なんか、背筋がゾッとしたんだが…」

「アタシもっ」

「凄い瘴気…気分がっ」

 

「皆、気を付けて。来るよ!」

 

 

 壁をすり抜けて音もなく現れたのは、馬に乗ったガイコツ騎士ボーンナイトだ。

 

 

「ヒヒヒ。お前達か。ひ弱そうな人間共だ。俺が出向く事もなかったな」

 

「この声だ!あの時に頭に響いて来たのは!」

「ああそうさ。お前の元に向かわせたのは俺の手下。こうしてわざわざやって来るボスなんて、あんまりいないぜ?」

「何をしに来た?」

 

「貰い受ける約束と言ったろう。王子を渡せ」

「断ると言ったら?」

「言わせない。殺すだけだ」

 

 

「待って。その約束だけど、もう一度きちんと聞かせてほしい」

 

 

「あ?部外者は黙ってろ!」

 

 

 サチに強力な呪文攻撃が降りかかる。

 

「くっ」

 

 

「サチ!私のプラチナトレイ持って、ミラーシールド!」

 

 アイミーが自分の盾をサチに持たせる。

 

 

 間一髪で呪文を跳ね返した。

 

 

「…。まあいい。俺は忙しいんだ、お前らと遊びに来たんじゃない」

「魔物に変化させたのだから、もう魂はここにはないだろう!帰ってくれ!」

「生きている限り魂はある。そいつはまだ生きてるだろう」

「そんな…っ」

 

「王族の魂は一級品でね。手に入れたかったのは王妃の魂だったんだが、小賢しい術使いに邪魔された。挙句死んでしまった!で、息子で手を打ったのさ」

 

「待て。術使い?どういう意味だ?息子が生まれる前から何かしていたのか」

 

 

「ああそうさ!元々の狙いは王妃だった。身籠っているのは予想外だったが」

 

「…つまり、王妃はお前が殺したと」

「まあそういう事になるかねぇ」

 

 

「代わりの魂を手に入れるために、息子を生かしたと…」

 

 真実を知った王はその場にくず折れる。

 

 

「つまり、例の約束は口実って事ね」

「口実だろうが何だろうが、約束は約束だ」

 

「いいえ。そんなのは無効よ!」

 

「何が無効だ。息子は助けた」

「助けたんじゃなくて殺さなかっただけだろ、クソが」

「それを助けたと言うのだろうが?クソはお前だ!」

 

 

「こじつけ!やっぱ魔物だわね、まともに交渉事なんて絶対に無理!王様、気にする事ないわ、そんな約束ムシムシ!」

 

 

 約束は仕組まれていた。

 王妃の死は魔物がもたらしていたのだ。

 

 

「酷い、酷すぎる。許さない!皆、コイツは私にやらせて」

「分かった。援護するわ。先手必勝よ、アイミー!」

 

 アイミーを残し3人は後方に下がり身構える。

 

 

 そしてアイミーは聖風の杖から雨雲の杖に持ち替え、前方を睨み据えた。

 

「王妃様の想い、それから王様の無念、人をもてあそんだ罰よ!え~い、落陽!加えて追撃レインボー!そしてさらにやまびこー!」

 

 

 雨雲から放たれた巨大な炎の塊は、二度三度と敵に降りかかった。

 

 

「人間の小娘にこんな力が秘められているとは!お前の魂が欲しかった…っ、やられた」

 

 

 

 魔物は捨てゼリフを残し、灰となって消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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