休む間もなく次の場所へ足を急がせる一行。
やって来たのは、これまた岩むき出しの山々が連なる地帯だ。
「自然を切り崩しすぎだ。欲深な人間共にはうんざりだぜ」
「うむ。ボシュ殿、珍しく意見が合致したのである」
「ギョっ、じじい、いつの間に?!」
振り返ればそこにジョニーの姿が。
「ジョニじい、来てくれたの!一気に心強くなった」
「ホント~、何だかんだ言って、やっぱ気になってたんでしょ。アタシらの事~」
サチも心のどこかでホッとする。
今回のトラブルは今までのよりも何倍も危険なニオイがする。
自分達が首を突っ込んで本当に良いのかと、内心迷いがあったのだ。
「着いたのはいいが、この鉱山跡地をどう進む?」
「魔物の居場所になら案内できるのである」
「本当?じゃあお願いしようかな」
「おいサチ!そうあっさり乗るなよ」
「あら、ダメ?」
「いいじゃん。どっちみち魔物退治するんだし」
「そうだよ。元々宝探しに来たんじゃないんだから」
「魔物あるところに宝あり、かもよ」
ジョニーの後を付いて行くと、削り取った山肌の合間にぽっかりと穴が開いている。
「トンネルってより洞窟だな」
「どこまで繋がってるんだろう」
「崩れたりしないよね…」
「ここ一帯は強固な地盤になっておる。そうそう崩れはせん。この中から気配がするのである」
「ありがとう、ジョニじい。皆行こう」
「ジョニじいは…入れないもんね」
「健闘を祈っておるぞ、アイミー殿、それからお三方」
「俺達、付け足しみたいに言われたぜ~」
「ジョニじいの今のお気にはアイミーか。な~んかちょっと負けた気分っ」
こんな会話をしつつ一行が奥へと足を踏み出した時、思い出したようにジョニーが声を張る。
「そう言えば、サチ殿の入手された水竜の短剣じゃが、マール・デ・ドラゴーンという海賊船がおまけに付いとった。この先で目にされても驚かんように。船長はサチ殿じゃからの!」
「船?私が船長…」
「おいおい、短剣のおまけで海賊船が付いて来るってどういう武器だよ!」
「分かった、教えてくれてありがとうジョニー」
「って、普通に受け入れやがった…」
呆気にとられるボシュ。気づけば皆から遅れを取っている。
「置いてくよー」
先を行くリリの声が岩壁に反響して美しく響く。
「お、おお!…」
あの日に聞いたリリの歌声が脳内で再現されて、意識が持って行かれそうになる。
足元の悪いこんな場所でぼんやり歩いていれば当然…。
「いって…っ!危ねーとこだったぜ」
蹴つまずいた。
「お兄ちゃん、足元暗いんだから気を付けてねー?」
「分かってるよ!」
「皆、光が見えて来た。何かいる」
先頭のサチが小声で言う。
狭かった穴の先は急に広々とした空間になっていた。
そこにいたのは、青い体躯に白の鎧を着た人型の魔物だ。
頭と膝辺りから炎が上がっているが、どこか弱々しく見える。
どうやらお疲れのご様子。
「…今度は何だ?またワイの縄張りに勝手に入って来やがった。いい加減にしてくれ!」
「いた、炎の戦士!」
「さっきのオジンもワイを知っていたな。ワイってば有名なのかぁ?うふっ」
「さっきのオジンってまさか」
「「黒い騎士!」」
「何でもいいが、倒していいか?全然弱そうだし」
「待って。聞きたい事がある」
サチはぐったりした様子の魔物に話しかける。
「はあ?誰に言ってんの、もしかしてワイ?」
「他に誰かいる?さっき来た人はどこに?」
「あいつめ、今度会ったら八つ裂きだ!」
「その人にやられたのね。もしかしてオーブの事と関係ある?」
オーブの名が出るや、魔物の態度が急変する。
「そっ、そんなもん知らねー!何でワイだけっ、やってらんねー!」
魔物が洞窟のさらに奥へと逃げ出した。
「おい待て!」
「追い駆けよう」
追って行くとさらに大きな空洞になっており、巨大な石像が直立している。
「さっきの野郎はどこ行った?」
「あの石像、息してない?胸の辺りが微かに動いてるよ…」
「寝てるみたいだわね。しー、起こさないようにっ」
恐る恐る前を通り過ぎようとした3人だが。
サチが足元にあった小石に思い切り蹴つまずいて声を上げた。
「うわぁっ、つまずいたぁー」
「おいっ、バカか?お前!」
「何よ、ボシュだって入口のとこでつまずいてたじゃない」
「状況が違うっつってんの!ってあれ見られてたのか…。おい見ろ、起きちまったぜ?」
「オレ様の眠りを妨げる奴は誰だ。生きてここから出られると思うな?」
ゴゴゴ、と地響きを伴って石像が動き出す。
「ちょっと聞きたいんだけど!」
「またそれかよ…」
サチが石像に話しかける。
「度胸のある人間だな。このオレ様に話しかけるとは?気に入った。言ってみろ」
「…マジかよ」
「ここに誰か来なかった?炎の戦士以外で」
「ああ、そういえばさっき、誰かが通り過ぎたような気はする」
「その程度って事は、黒の騎士は起こさずにすり抜けたのね」
「フツーの感覚のヤツはそうするだろ」
「サチはわざと起こしたって言うの?」
「ああ!そう思うだろ?リリ姉も」
「あまりにもわざとらしかったもんねー。サチに演技力ないって言うのは知ってたけど!」
「オレ様を起こしたのが運の尽き。おしゃべりは終わりだ!死ね人間共、押し潰してやる!」
「俺にやらせろ。ギガ空裂斬!」
何かとイラついていたボシュは、一太刀で石像を倒した。
「何度見てもスッキリするね~、ボシュ君のそれ!」
「むむむ…無念。人間なんぞにやられるとはっ」
「石像のオジサン。もう一つ教えてほしい」
「「石像の、オジサン?!」」
「何じゃ…」
「答えんのかよっ」
「しっ、静かに!」
「いにしえのオーブを知ってる?」
「知らん」
「じゃ、この先には何があるの?」
「この洞窟を抜けると孤島がある。我らが王様の城がな。人間には渡れん場所だ。悪い事は言わん、引き返せ」
「優しいのね、石像のオジサンって」
「優しい訳じゃない。オレはもう死ぬ。どうせなら最後くらい…役に立ちたい」
「俺ら敵だぜ?」
「見れば分かる。その敵と対等に話そうとするヤツは…ぐふっ」
「もうしゃべらなくていいんじゃない?」
「…お前が、気に、入ったから…だ」
真っ二つにされた石像は動かなくなった。
「ヤダ~、サチったら魔物まで射止めちゃった。さすがはオジンキラー!」
「そんな~。キングスライムの心掴んでるリリ姉には負けるよ?」
「どっちもどっちだ!」
「それより先に進もう?黒の騎士に宝を奪われちゃうよ!」
「そうだった、行くぞ!」
一行は洞窟のさらに奥へと進む。
「風が吹いて来てる…外に出られそうだ」
「潮の香り。海がある?」
風の吹き込む方へと足を進めると、開けた先には予想通りの海洋が広がっている。
遥か先にぼんやりと島らしきものが見えていた。
「あれか…」
「外に出られた!見晴らしいいねぇ」
「まさか海なんて…。これじゃ先に進めないよ」
ジョニーが残した言葉がサチの脳裏をかすめ、静かに短剣を手に取る。
「マール・デ・ドラゴーン…」
こうつぶやいてみるも何も起こらない。
今度は短剣を天に掲げ、大声で叫んだ。
「出でよ、マール・デ・ドラゴーン!我はここにあり!」
するとどうした事か、突然巨大な船が大波を立てながら目の前に現れたではないか!
「おお…スゲー」
「一体どこからやって来たの?こんな凄いの!」
「海賊が乗ってるのかな…」
「そうだとしても、船長はコイツなんだ、心配ない」
ここはもう受け入れるしかない。ボシュはそう思って前を向く。
何にせよこれで島へ行けるのだから。
「さあ皆、乗り込むよ。目指すは死霊の王のいる孤島の城!全速前進ー!」
水竜の短剣を掲げたままサチが甲板に立つ。そのやや後方に立った3名。
アイミーがきょろきょろと周囲を見回す。どうやら船内には人っ子一人いない様子だ。
「不思議…誰も乗ってないみたいなのに、どうして進むの?」
「それは恐らく魔力だな。そうだ、そうに違いない!」
「ボシュ、自分に言い聞かせてない?」
「現実は小説よりも奇なりって言うもんな!」
「お兄ちゃんも何とか納得しようとしてるんだよ」
潮風が皆の頬を打つ。船のスピードが上がっている。
「皆、島が見えて来たよ」
「洞窟がもうあんなに遠い。メチャ速くない?この船!ただの木造船とは思えない…」
「マール・デ・ドラゴーンって、まるでドラゴンって言ってるよな?ふざけた名前だが、今後役に立ちそうだ」
「サチは本物の海賊になった。リリ姉も本物のスーパースターに。私は、成長してるのかな」
「アイミー。大丈夫、ちゃんと成長してる。もう熟練の賢者だよ。ねえボシュ兄貴?」
「ああ!雨雲の杖が板について来た。頼りにしてるんだぜ?あのレインボーは最高だ」
「俺が俺が!って前のめりのボシュに頼りにされたんじゃ、本物だわね」
「この分だと、今回のボスを倒せば試練に合格できるかも。皆、力を合わせて頑張ろう!」
おー!という威勢の良い声が大海原に響く。
すぐに波音にかき消されたものの、皆の表情は自信に溢れている。
それぞれの顔を順に見ながらサチは思う。きっと大丈夫だと。
「ドラゴーン」を乗り物として使えるようにしてみました!