一行は慌てて谷の最奥に駆け込むも誰もいない。
「もしかして一番乗り?」
「なワケないって。どういう事さ?」
「あ、誰か来たみたい」
「あのオッサンじゃないな。もっと老人だ」
近づいて来たのは見覚えのある人物。どうやら村長のようだ。
「そなた達、よくぞここまで辿り着いた。村の宝は手に入れたのだろう?早く渡してもらおう」
「随分言い分がコロコロ変わるな。宝は地の底、もう見つけられないんじゃなかったのか?」
「そうよ。どうして手に入れたって断言するのさ?」
「村長さん、一人でここまで来たの?」
「来れるはずがない。この島までは魔力を持った船でないと渡れない」
サチの言葉が決め手となった。村長は突然くつくつと笑い出す。
「バレてしまったか。そうよ、こやつの体を乗っ取って戻って来たまで。バレてはもう用はない」
村長の体がゆらりと揺れ、実体のない影が浮き上がる。
たちまちくず折れた老体に見えない攻撃が迫る。
「ダメ!殺さないで!」
サチは意識のない村長の体に覆い被さる。
「サチ何やってんだ!」
「バカ!自分を盾になんてダメっしょ?!」
「サチっ」
サチ目がけて黒い攻撃が降って来るも、なぜか攻撃は跳ね返される。
「…何だ?お前の体から立ち昇るそれは…」
「光の玉が守ってくれたみたい。これはお前達が人間の魂を閉じ込めるために使う闇の玉よ」
「おい、持ってる事バラしたら奪われるぞ!」
「安心しろ、そんな小物になぞ興味ない。我が欲するはただ一つ、いにしえのオーブのみ!」
「残念だけど、私達は持ってないの」
「ではなぜここへ来た!ウソを言うな、早く出せ!」
「黒尽くめのオッサンが来ただろ。持ってるのはそいつ。俺らはそいつを追って来たの。分かったか?」
ボシュが丁寧に説明する。魔物には言葉が通じにくいとの認識によるものだが。
「人間共め。共謀して我を愚弄する気か。許さん!」
「やっぱダメかー」
黒い影が徐々に実体を整え始め、長身の人型となった。
肌の色は紺色で、青と黄のボロボロの僧衣と僧帽を身に付けている。
手に持った杖のヘッドには骸骨があしらわれている。
「お前が死霊の王ね」
「我はワイトキングなり。目障りな人間共め、もうよい。皆殺しにしてから宝を探すとしよう」
これまでの魔物とは別格の瘴気だ。
ゾンビ系はとにかくこれがキツイ。思わずアイミーが顔を歪ませる。
「大丈夫か?アイミー」
「うん…これでも結構免疫付いたのよ?獣臭さよりはマシっ」
「…っ」
ボシュは健気に強がる妹に掛ける言葉が見つけられなかった。
早々に決着を付けるべしと気持ちを改める。
だがしかし、ワイトキングは魔力も凄まじかった。
「ここは我のテリトリー。足を踏み入れたが最後、死あるのみ!」
「先手必勝!ジャッジパラライズ!」
「おお、新技か!」
サチが短剣を掲げ左斜めに駆け抜ける。
キン!と音が響いて闇の空間が切り裂かれた。
「なかなかやるな。だがそんな力では相手にならん」
「ムカつくヤツ、これならどうだ、ギガブレード!」
「ボシュ、最後の切り札はまだ早いって!」
リリの声は届かなかった。
ボシュの技は確かにワイトキングに直撃したかに見えた。
が、敵に変化は見られない。
「見てられん、手を貸してやる。有り難く思え?今ヤツは闇の衣という技を使っている、どんな攻撃も無意味だ」
突如黒の騎士が姿を現した。
「お…お前っ!隠れてやがったのか?」
「また小物が増えおったわ。ん?お前は確か…なぜここにいる?」
ワイトキングが首を傾げている。
正体を明かされるのを阻止するかのように、騎士がどちらにともなく声を張った。
「しゃべくってる暇があると思うか?」
「ボシュ!気を抜かないでガードして!」
離れた位置からサチも叫ぶ。
「まあどうでもよい、これで終わりだ。出でよ、凍える吹雪!」
辺りは見る見る銀世界となり、視界も奪われる。
「なんっだ、何も見えない!」
「きゃあ!」
「リリ姉!どうした!」
「今誰かアタシのお尻触ったっ」
「はあ?こんな時にそれかよっ」
「だってぇ!」
「全くのん気な者共だ。ぼやっとするな、敵の攻撃が来るぞ!」
「オジサン、どうして助けてくれるの?」
「さあな。食らえ、ダーククライ!おい女、今だ、攻撃しろ!」
「言われなくてもやる。きっとここでも…。マール・デ・ドラゴーン、来て!」
サチの声に反応したように大津波が押し寄せる。
「何だ急に?波に飲まれるっ、逃げろ!」
「大丈夫。皆ここにいて。ちょっと行って来るね」
「これは一体…っ」
「サチの、技なの?」
大波に乗って先ほどの海賊船が現われた。
瞬時に飛び乗ったサチの合図で、船は魔物をひき殺さんと襲い掛かる。
「何という破天荒な技っ…あのお方のために我らの世界をつくるはずが…口惜しや」
ワイトキングは海賊船と共に、波によってその場から姿を消した。
「凄かったね~、さっきの出来事がウソのように元通りだわ」
「あの船って、サチが呼べばどこへでも来るって事?」
「そうみたい。一か八かだったんだけど、当たりだった」
「それでジイさんが驚くなって言ってたのか。事前に聞いてても驚くよなーあれは!」
「魔物も驚いてたのには笑えたね!」
「破天荒なっ!てな。全く破天荒なサチにピッタリの技じゃないか」
「サチ、最初の剣からガラリとイメージ変わったね」
「アイミーだって、雨雲が似合うようになったわ」
「でもこれはリリ姉のっ」
「適材適所。いいって事よ。使ってやって、その杖も喜んでるわ」
「…ホント?」
「うん、ホント」
リリはにっこりと微笑んで答える。
大事な物でも仲間が使うなら何の問題もない。心から信頼する仲間なのだから。
「全くお気楽な者共だ。本当にお前らが選ばれし冒険者達なのか?」
「オジサン、さっきは手を貸してくれてありがとう。それで、いにしえのオーブはあなたが持っているのよね?」
「ああ。持っているとも」
「大ボスも倒した事だし、一件落着か?」
ボシュのコメントにリリとアイミーが同意を示した時、黒の騎士が鼻で笑った。
「お前達は何も知らないのだな。オーブはこのまま俺が持っていた方が良さそうだ」
「何だよ。つーかお前誰なんだよ?」
「チッ…面倒なヤツらめ」
「オジサンの言う通り、私達は何も知らない。だから教えてほしい」
サチが騎士の目を真っ直ぐ見ながら願い出る。
しばしそれを見返していた騎士。口を開きかけてやめた。
「俺はお前らと違って忙しいんだ。時間がない、もう行く」
それだけ言うと、またも素早い動きで一行の前から消え去った。
「逃げ足早えーんだよ、アイツ!」
「何者なんだろ」
「急に現われたり消えたり、幽霊、なんて事はないよね…透けてなかったし」
「アイミー的には、そこ基準なワケね」
「あーあ。なーんか後味悪いが。サチ、次はどうする?」
振り返ったボシュは、しゃがみ込んでいるサチに視線を移してある事を思い出す。
「いっけね、村長の事すっかり忘れてた!」
「そうだった!無事なの?」
「大丈夫みたい。リリ姉、目覚めの薬草飲ませてあげて」
「オッケー、ちょっと待って」
しばらくして村長が目を覚ました。
「んん…ここはどこじゃ?ワシはなぜこんな所におるのか」
「ここは魔物のすみかだった島よ。乗り移られて連れて来られたみたい」
「何じゃとっ…それで、どうなったのじゃ?!」
「魔物は倒した。宝は持ってかれたがな」
「でも魔物にじゃないよ?凄い剣幕で言い寄ってた男。敵か味方か分からないんだけどね~」
村長は発言者に順に目を向ける。
そして自分に寄り添い、一人だけ目線を合わせて膝を折っているサチを見た。
「お前さん方が、助けてくれたのか」
「私達は、宣言通り魔物退治をしただけ」
「だけ、じゃねーだろ。サチは体張って魔物からアンタを助けたんだ」
「…それは本当か?サチさんとやら」
「人間が魔物の犠牲になる事に耐えられないだけ。だから私は、仲間と共にこの旅を続けているの。村はもう大丈夫よ」
サチの微笑みに耐え切れず、村長は俯いて黙り込んだ。
地面がポツリポツリと涙で濡れて行く。
「数々の無礼、心からお詫びしたい…村だけでなく、ワシまで救ってくださるとはっ」
「頭を上げてください、早く村の皆に知らせてあげて。もう魔物に目を付けられる事はないと思います」
「断言はしないのね」
「今や至る所に魔物が蔓延ってる。悪の根源を断ち切らない限り、断言はできない」
「ごもっともじゃ。それで構わん。本当に世話になった。村に帰って是非おもてなしさせてくだされ」
こうして一行は再びサチのドラゴーンにて幻の海を渡る。
村長が突如現れた海賊船に肝を冷やしたのは言うまでもない。
この黒い騎士がドラゴンボールの某キャラの声と知り、ついそっち寄りの言動に…(汗)