第43話:お供え物の中身
村長という人種はどこの村も似通ってしまうのであろうか。
「にしたって似すぎてねーか?」
「う~ん。確かに似てるよね」
「この年代の男性って皆こんなモンなんじゃない?」
サチ達が訪れているのは、山三つも越えた先の全く別の村落。
なのだが、今対面している人物は先日会った村長に瓜二つなのである。
「そんな事言われたってワシャ知らん。そんな遠くに親戚なんぞおらん!」
「済みません、そうですよね。もうやめよう皆。魔物が化けてる訳でもなさそうだし」
「んなっ、失敬な!」
「サチ…。とどめ刺したな」
「「済みません!」」
今度はリリとアイミーが揃って頭を下げる。
フォローし合う姿は微笑ましい、と影から見守るのはジョニーだ。
あまり人間の前に姿を現すのは良くないという事で、今回は距離を置いている。
にもかかわらず、結局先方の機嫌を損ねている一行であった。
ダーマの試練を経て、サチはレンジャーとなった。
武器はそのままに、海賊ターバン帽から濃いグレーのベレー帽。
毛皮ベストをやめ革製のベストにお色直し。
アイミーは魔法戦士となり、ロングスカートからまたもミニスカに。
今回は赤のマントと白の前垂れ付きで、白のニーハイブーツ着用だ。
賢者から一転、全体的に赤でまとめて気合が感じられる。
一方のパラディンとなったボシュは、そのままのスタイルを維持。
今回の職は通過点でしかないという考えだ。
皆武器はそのまま継続で使う事となる中、スーパースター続行中のリリだけが新たな水晶という武器となっている。
見た目は結局のところ以前として統一感ゼロのパーティ。
村長と名乗る老齢の男は、一行をじっくりと眺めてから言い放つ。
「失礼を詫びたいというなら、頼み事を聞いてはくれぬか、若く麗しき旅芸人達よ」
「「「た、旅芸人?!」」」
「もちろんです、魔物退治でも何でもします」
「って、否定しろよリーダー…!今回旅芸の設定なのか?」
「まあ、若く麗しいのは間違ってないわ」
満更でもなさそうなリリに加え、アイミーは小首を傾げて微笑む。少しでも印象を良くしようと努めているのだ。
呆れるボシュだが、さらなる口出しは控えた。
サチが魔物と口にした時の、村長の表情の変化に気づいたからだ。
初めから疑ってかかっているだけに、今回の一行は観察眼が鋭くなっている。
「それで頼み事って何ですか?」
「村の外れにある山奥のほこらに、お供え物をして来てほしいのじゃ」
「何だ、それだけか?」
「お前さんが若いからそう言えるのじゃ!若い衆がおらんので困っておった。行ってはくれんか。礼は弾む」
「お詫びのために行くのに、お礼なんていりません!だよね?サチ」
「もちろんです。何をお供えすれば?」
村長は懐から小さな包みを取り出しサチに持たせる。
受け取った品を3人が覗き込む。
「ちっさ…」
「全然重労働でもなさそうだ。これならじいさんでも行けそうなもんだが?」
「ゴホン」
「あっ!お年寄りにはいろいろありますよね!」
「それをほこらに。場所はあっちの方じゃ。行けば分かる。では頼んだ」
言い終えるや、村長はそそくさと立ち去った。
「なーんか引っかかるな」
「もうっ、お兄ちゃんたら面と向かってあんな事言うんだもん。やんなっちゃう!」
「あ?だって本当の事だろ」
「まー、年取ると体もあちこち痛くなるだろうし。動くのがおっくうなんじゃない?」
「それは置いとくとしても、その薄っぺらい供えモンはどうだよ!」
「お供え物の大きさは関係ないよ。大事なのは敬う気持ち」
「うんうん、間違ってないよ、アイミーは。だけどこれマジで何が入ってんの?あの雑な説明とか、確かに怪しすぎ!ホントに行くの?サチ」
「引き受けちゃったからには行くしかないよ」
「何でもいい、もうさっさと済ませようぜ」
早々に頼み事を終わらせるべく、村の外れにある山を目指す一行。
麓に差し掛かった時、誰かが追い駆けて来た。
「おーい!待って!」
「ねえ、誰か来たよ」
息を切らせてやって来たのは子供のようだ。
「この先は山だから、一人で来ちゃ危ないよ」
「お姉さん達を追い駆けて来たの!一人でこんな所怖くて来れないもん。この村からすぐに出て行った方がいいよ!」
「それを言うためにわざわざ来たのか?この怖い場所に一人で」
「そんなに慌ててね。何かあるんだね」
「これ以上旅の人達が犠牲になるのを、黙って見てられなくて…っ」
「どういう事か、詳しく教えてくれるかな」
昼だというのに辺りはすでに薄暗い。
もう山に足を踏み入れてしまったようだ。
目前に見えるのは山というより小高い丘程度だが、不穏な空気を漂わせている。
その薄暗い中から、青白い光が一つ二つと近づいて来る。
「ほら来た!もうダメだっ、お兄ちゃん…ゴメン」
「下がってろ。何が出たって俺が退治してやる」
「ボシュ、あなたは今パラディンよ。役目が違う。下がって」
「…そうだった、クソっ」
代わって前に出たサチが短剣を構える。
そして現われたのは青白い人魂だ。
「人魂にしてはデカくない?」
「目と口が付いてるっ」
「気を付けろサチ、アイツ何かしゃべるぞ!」
「ヒッヒッヒ、やっと供え物が届いたか。今度はどんな味だ?」
「お前に供える物など持ってない!ハードラックラッシュ!」
サチは短剣で素早く二度三度と斬りつけた。
「おお!レンジャーならではの動きか、素早いな」
「ちょっと試してみたかったのっ」
「油断しないで、まだいっぱいいるよ!」
「そうね。やっぱ全体攻撃の技にすれば良かったー」
「平気、私が一気にやる。え~い、落陽!」
青の光は、アイミーの放った巨大な火の塊に飲み込まれた。
「ありがとアイミー。魔法戦士になっても健在ね」
「えへへっ」
「むしろちょっと力付いたんじゃない?」
「うん、そうなの。まだまだ行けそうだよ」
「…良かったぁ。お姉さん達、強いんだね」
「なあ、お前さっきお兄ちゃんとか口走ってたが」
「私にはお兄ちゃんがいるの。…今はいないけど。あ、私はトゥルナだよ!」
「トゥルナね。私はサチでこっちはボシュ、それから…」
「私はアイミー」
「リリよん♪お兄さん、どこへ行ったの?」
「魔物に連れて行かれちゃったの。村の若い人達皆だよ」
「それであの村長が、若い衆はいないって言ってたんだな」
「村長さんは、お姉さん達をお供え物にする気だったんだよ」
「まあ酷いっ」
「そうやって旅の人達が犠牲になってたんだね…」
村に戻ると、一番に村長に直訴に向かう。
「いけにえを出さんと村が襲われるのじゃ。ここんところ誰も通りかからんでな」
「それは分かりますが、せめて言ってくれれば」
「てっきり旅芸人一行かと…」
「ホントに強かったよ、サチさんとアイミーさん。ボシュさんとリリさんはもっと強いよ!」
「ヤバ、もっと強いって。どうする?否定しとく?」
「リリ姉は否定した方がいいかもな!俺の方は事実だから必要ないが」
「そうかな~今のボシュ君は分かんないよ~?」
「そっ、そんな事はない!…はずだ」
尻すぼみになったボシュが珍しくて、リリがさらなるちょっかいを出そうとした時。
村長が事のほか大きな声を出した。
「そんなに強いとはワシの目は節穴じゃ!誠に、ま、こ、と、に!済まんかったっ。初めから助けを求めれば良かったわい」
「そうだよ、サチが初めに言ったろ、魔物退治でも何でもするって?そこで気づけよ」
「お兄ちゃんっ」
「よいよい。その通りじゃ。これでもちょっとは考えたんじゃよ…?」
「あーゴメン!アタシのせいだわ、旅芸人!」
「違うよ、きっと私だよ。気合い入りすぎだよね、このマントとかさ…」
「それ言ったら私のもコスプレっぽ?」
「まともなのは俺だけか~!」
どこか自慢げにボシュが続くも、村長からは何のコメントもなく。
「そっ、そんな事より、ちゃんと説明しろ、ちゃんと!」
「もちろんじゃとも。話を始めてもよろしいか?お嬢さん方」
どうぞ!と3人娘の声が揃う。
「べっぴん3姉妹じゃな。羨ましい限りだよ、青年!」
「何を言ってる?めんどくせぇだけだよ!あと、一人は俺の妹だ!いいからさっさと話せ!」
「ボシュったらメチャ照れてる」
「顔真っ赤」
「はーぁ。お兄ちゃん…」
「トゥルナ、お前の兄も魔物に連れて行かれたのだったな」
「どういう事なの?村長さん」
「突然じゃ。一人、また一人といなくなり、いつの間にか子供と老人しかおらん村になった」
「魔物の姿を見た人は?誰か気づかなかったの?」
「唯一トゥルナじゃ。話しておやり」
「うん。一緒にいる時に、お兄ちゃんだけ連れて行かれたの。子供には用はないって」
「若者だけが必要ってどういう事だろ?」
「魔物が言ってた。子供は力仕事には向かない、どうせすぐ死ぬって」
「連れ去ってどこかで力仕事をさせてるってか。人間をこき使って何を企んでやがる?」
パラディンとなっても怒りで青筋が立つのは変わらない。
「すぐに村の人達を連れ戻そう。お兄さんもね」
「サチさん、皆さん、どうか助けて!私にはお兄ちゃんしかいないの…」
「両親はいないのか?」
「病気で死んじゃったんだ」
「アタシの両親も死んだよ、事故で。一緒だね」
リリが腰を屈めて目線を合わせ、優しく頭を撫でる。
こらえ切れずトゥルナはリリの足元にしがみ付いて泣き出した。
「よしよし…。絶対に連れて帰るから。もう泣くな」
「…うん。あの!これ、持って行って」
「ん?」
トゥルナが差し出したのは、自分が首から下げていたペンダントだ。
「これお守り。お兄ちゃんも同じの付けてる。目印になると思うの」
「そっか。じゃあ借りてくね」
「それで村長さん、他に何か分かっている事は?」
「奴らは岩を掘削して何かを掘り出そうとしているようじゃ。夜な夜なカツーン、カツーンという音がここまで響いて来る」
「この辺りでも宝石とか採れるんですか?」
前回の村がそうであっただけに、こんな発想が生まれたのだが。
「いいや。そんな話は聞いた事もない。そんなモンが採れればこの村はもっと栄えておる」
「ですよね…済みません」
「では、その音のする方に行けばいいのね」
「よし、耳澄まして待つか!」
旅の一行と距離を置き、村長はポツリと言う。
「…あの者達もどうせもう戻らん。魔物に魂を抜かれて、永遠に岩を叩き続ける。哀れな事じゃ」
「いいえ。私は信じる。サチさん達はきっと戻って来る。だって、あのペンダントを渡したんだもの」
「そう言えばお前達兄妹はいつもあれを着けていたな。あれは何なんじゃ?」
「両親がくれたお守り。…魔物からお兄ちゃんを守ってはくれなかったけど。でもきっと生きてる。絶対にまた会える。神様がサチさん達を呼んでくれたのよ。だから私は諦めない!」
「子供は希望の星とよく言うが、その通りじゃな。ワシも共に祈ろう」