旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

45 / 72
第44話:ジョニーの親戚

 

 

 日も暮れた一帯は真っ暗闇だ。

 

 

 待機場として提供された一軒家にて、交代で外に出て耳を澄ます。

 

「獣の泣き声しか聞こえねえや。…ふぁあ~。やべ、眠気が」

 

 

「お兄ちゃんっ!」

「っ、ビックリした…お陰で目が覚めたぜ」

 

「交代だよ。あったかいスープあるよ、中で飲んで」

「おう、サンキュ。ここら辺、野生の獣が多そうだから気を付けろ。何かあったらすぐに声出せよ?」

「うん、ありがとう」

 

 何というタイミングでやって来たのか。

 居眠りを始めずに済んで、ボシュはアイミーに心でもう一度礼を言った。

 

 

 

「お疲れ、ボシュ」

「ここ座って。スープ入ってるよ」

 

「お、美味そう!サチが作ったのか?」

「まさか!リリ姉だよ」

「こちらのサチ姫様は箱入りだからね。そんなのは召し使いがやるの」

「リリ姉っ」

 

「ヤダ、リーダーはドンと構えてろって意味だわよ?」

「もうっ…」

 

 

 リリは開き直ってこんな事を言ってみる。もちろんボシュは全く無関心だ。

 

 

「どっちでもいい。美味いもんが食えれば?ところで今回はジジイのヤツ一度も顔出さねえな」

「まだその時じゃないのよ」

「何の情報も仕入れてないって事か」

「何せあの方はウチらパーティの助言者だからね」

「リリ姉もそう思ってるんだ」

 

「でしょ~?ただのお供って感じじゃないし!」

「サチの師匠の師匠、だもんな。あったけー…生き返るわ」

 

 スープをすすりながらボシュが続ける。

 

 

「外、そんなに寒かった?」

「っつーか、寒気?」

「ヤダ、風邪でも引いた?」

「違う。きっと魔物が近くにいるからだ」

 

 

 この一言に、3人同時にアイミーの事が心配になる。

 

 気づけば同時に立ち上がっていた。

 

 

「ボシュはまだ休んでて」

「サチだって順番違うでしょ」

「もうジッとしてられねえって事だろ皆。似た者同士だな、俺ら?」

 

 

 ヤダぁといいながら嬉しそうなリリと、ふふっと楽しそうに笑うサチ。

 

 

 

 3人でアイミーのいる戸口に向かうも…。

 

「アイミー?…いない」

「え、トイレじゃないの?」

「交代したのついさっきだぞ。アイミー!」

 

 

 外に飛び出した3人。そこには誰の姿もない。

 耕す者がいなくなり荒れ始めた畑が広がるばかり。

 

 

「ずっと、怪しい気配はしなかったぜ」

「でもボシュ、寒気したんだよね?」

「ああ…だが、何かが至近距離にいれば分かる」

 

「短時間で接近して来たって事…?」

「そんな~、ジョニじいじゃあるまいし!」

「そうだよ、ジジイじゃねーの?アイツが来てアイミーを…それもマズいだろ、探せ!」

 

 ボシュが慌て出す。何を想像したかなど2人にはお見通しだ。

 

 

 その時、遠くの方からカツーン、カツーンという音が僅かに聞こえて来たではないか。

 

 

「しっ!聞こえる、これじゃない?」

「岩を叩く音か!しかしどうする?アイミーを探すのが先だろ」

「魔物の気配はない。アイミーはきっと自分から行ったのよ」

「どこへだ!」

「私達のすべき事をするために決まってる」

 

「よし、音のする方に行こう!ここはサチの言葉を信じよう、ね?ボシュ」

 

 

 しばし悩んでいたボシュだが、意を決して顔を上げる。

 

 

「アイツはもう、俺の後を勝手に付いて回って転んで泣いてたアイミーじゃない。自分でちゃんと判断して動ける。俺も信じるぞ」

「良く言った兄貴!行こう、サチ!」

 

「待って、中の火の始末大丈夫だった?」

「抜かりはないよ。いつでも動けるようにしてた」

「さすがリリ姉!じゃあ行こう!」

 

 

 

 

 

 

 こうして3人は、暗闇の中を音を頼りに進んで行く。

 

 

 

 いつしか辺りは深い森に変わっていた。

 

 

「何かいるよ、気を付けて」

 

 先頭を行くサチが何かに反応した。

 一見何の変哲もない森の中。

 

 

 その中の大木の一本が不穏な動きを始める。

 

「ゴゴゴ…上手く隠れたつもりだったが。よく見破ったな!ん?…お前達、まだ魂を抜かれてないのか。あの人魂の野郎、しくじりやがったなぁ!」

 

 

「女みてーにペチャクチャうるせえ木だな!」

「ぬぬっ!俺はウドラーだ、木と呼ぶな!」

「ああ?木は木だろうが。枯れ木の方がいいか?いや、老木はどうだ?」

 

「お前だってうるせえぞ、人間のガキが!」

「んだと?コラ!もっぺん言ってみろ!」

 

 

「ボシュ!今ブレーキ役不在なんだから自重して」

「ホント、マジうるさい木!さっさと消えて!マール・デ・ドラゴーン、全速前進!」

 

 

 いつもは魔物とも会話重視のサチだが、言葉を交わす間もなく必殺技が炸裂する。

 

 辺り一帯に潜んでいた同種族の木の魔物達までも一掃し、森は静かになった。

 

 

「俺まで流されるかと思ったぜ。やるなら一言言ってくれよ?」

「ボシュが流される事はない。むしろ気を引いてくれて助かったわ。あいつら、復活呪文を使えるから」

「怖っ、それって一匹倒してもまた甦るヤツね」

「気を逸らせておいて一気に片付けるのが一番」

 

「木、だけにか?上手い事言うなサチ!」

 

「森の中じゃ、どれが魔物か区別つかないしね~」

「おおっ、そうだよ知ってたぞ俺は。だろ?ははっ!」

 

 

 妙にテンションの高いボシュに若干いぶかし気な視線を送りつつ、リリも追及はせず。

 大事な妹が行方不明となれば、穏やかな心境ではいられない。

 

 

「さあ、先を急ごう」

 

「ねえ、音が聞こえなくなってる」

「マジか。さっきのドラゴーンに驚いたんじゃね?…って、サチ?」

 

 

「誰が?ねえ誰が?」

 

 なぜかしきりにボシュを責め立てるサチ。

 

 

「っ何だよ、そんなに圧掛けて聞いてくんなよ…」

「アイミーはこの技知ってる。驚かない」

「だから、アイミーがだなんて言ってねーよ」

 

「じゃあ誰が?ねえ」

 

 

「サチが壊れた…」

「アイミーは消えるわ、リーダーがいきなりこんなって、一体どうなってんだよ!」

「この森が変なんじゃない?」

 

 

 まだサチは壊れたロボットのように、誰が?と繰り返している。

 

 

 

 途方に暮れかけた時、森の奥から明かりが近づいて来た。

 

 

「ボヨ~ン、ボヨ~ン」

「あっ、いた!お兄ちゃん!リリ姉、サチ!」

 

 何と暗がりから現れたのは、アイミーとジョニーであった。

 

 

「アイミー!無事だったんだな、良かった…っ」

「やっぱりジョニじいと一緒じゃん!」

 

「それがさぁ、ちょっといろいろあって」

「そのいろいろが非常に気になるが、今はそれどころじゃない。サチがおかしくなった」

 

 

「済まん、ワシが代わりに謝るのである。サチ殿、目を覚まされよ!」

 

 なぜかジョニーが前に進み出てサチと対面する。

 丁重な謝罪の後に、何かの術を放った。

 

 

「…あれ?私何してたっけ。あ。アイミー!」

 

「サチ、心配かけてゴメンね」

「ったく。何がどうなってんだよ?」

 

「サチ殿はワシの同族の放った混乱攻撃を受けてしまったのじゃ」

「え、ジョニじいの同族?って何、そんなのがこの辺りにいるの?」

「その人に私も間違って付いてっちゃって…」

「そんなに似てるのか?」

 

「瓜二つ!逆に違うとこ見つかんない!」

 

 

「…待て。まだ意味が分からねえんだが」

 

 混乱するボシュ。これは術によるものではなく純粋な思考停止の状態である。

 

 

 

 そんな時、またしてもカキーンという音が森に響き渡った。

 

 

「あ、また聞こえて来た!向こうの方みたい」

「まずはこっちだな。よし、行けるか、サチ」

「もちろん行く。何で聞くの?」

 

 混乱していた辺りの記憶はないらしく、サチは首を傾げている。

 

 

「いや。問題ないならいい。行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 向かった先は川であった。どうやらその上流から聞こえて来る。

 

 

「ここ登るの?結構険しそう」

「俺は問題ないぜ。サチは、…」

 

 

 サチはすでに川の中に飛び込み、じゃぶじゃぶと登っている。

 

 

「ウチのリーダーったらたくましいわ…」

「ドラゴーン呼ばれなくて良かったけど」

「ここにアレ来たら川が干上がるー」

 

 進む気配のない女二人に手を差し伸べたのはジョニーであった。

 

「今回の詫びに、ワシに掴まるがよい、お二方」

 

 

「え?」

「二人も同時に運べるの?」

「オナゴ二人くらい余裕じゃ。特に若くて美しいならむしろ大歓迎!」

 

 

 サチに遅れを取るまいと、すでにボシュは行ってしまった。

 

 ここは贅沢は言えまい。二人は意を決してジョニーの背にしがみついた。

 

 

「しっかり掴まるのじゃ、それ、ボヨ~~ン!」

「うわぁっ」

「弾力半端なっ、舌嚙みそっ」

「歯を食いしばっておれ!」

 

 

 あっという間に上流に到着した。

 

 

「遅かったね、ボシュ君にサチ?」

 

「なっ、ズルいぞ!」

「そういう手があるなら先に言ってよー」

「サチ殿も乗せてやりたかったのだがのー」

 

「サチったら、一人でさっさと行っちゃうからだよ?」

「俺だって!」

 

「残念ー。乗せるのはオナゴだけじゃっ」

「こん…の、エロジジイがっ」

「何じゃ?大事な妹を連れて来てやったのにその言い草か?」

「くっ…」

 

 

「皆、洞窟がある。この中から聞こえて来るみたい。先行くよ!」

 

 待ちかねたサチはまたも先に行ってしまった。

 

 

「おい!そうやって一人で行くなっつってんだろ、待て!」

 

 

「さあ、おぬし達も行くのじゃ。健闘を祈るのである」

「ありがと、ジョニじい」

「行って来るね、ジョニじい」

 

 

 

 一人になったジョニーの鼻の下が、しばらく伸び切っていた事を知る者はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。