洞窟を抜けた先の寂れた草原にて、魔導士の霊から新たなミッションを託されたサチ達一行は、不意に視界に映った影を追って走り出す。
ダッシュで距離を詰め、密かに後を付ける事に成功した。
それは小さな体の小悪魔系の魔物だ。
赤と紫の派手な体をしているのに、小刻みに動くためその姿が残像となってぼやけてしまう。
「あれはバアルゼブブだわ。動きが素早いから見失わないように!」
「すでに視界に映ってるのか分からねえ!」
「残像を追うしかなさそうだわね」
「目がおかしくなる!」
「目だけじゃなく気配を探ってみて」
「ああそっか、その手があったわね」
「さすがサチだね!」
「なあ、アイツ、何か大荷物持ってるよな?」
「やっぱり?アタシもそんなのが見えた」
追って行くと、急に辺りが薄暗くなり断崖絶壁が姿を現した。
小悪魔は岩にできた隙間に消えた。
「あそこから中に入れるみたい」
「何か怖いなぁ」
「ここに一人で待たされるよりはいいだろ、行くぞ!」
ボシュがアイミーの手を引いて中に入る。
続いてサチとリリも身を屈めて何とか入った。
「良かった、中は案外広いわ」
「アイツだ!何か捨ててるよ…」
担いでいた大きな袋から、穴の中にドサリと荷を投げ入れている。
「何だ?あれは」
「ひ、人っ、人だったよ、絶対!」
アイミーの悲鳴交じりの声が意外と響いてしまった。
魔物がギロリとこちらを見た。
「見ーたーなー…。オマエ達、ニンゲンだな。なぜここにいる?」
「今そこに捨てたのは何?」
「そんな溌剌とした声でしゃべって増々おかしい。魂を抜かれてないのか?仕事はどうした、早く戻って仕事しろ!」
「私達は魔物を退治しに来た。だけどお前はまだ殺さない。そこに捨てたのは何!教えなさい!」
サチの凛とした声が響き渡る。
口を挟む余地もなく、3人はただ見守る。
「何って死体さ。使い物にならなくなったから捨てに来たんだ。ここももう一杯だ、また穴掘らなきゃなぁ。鬼面道士はどこ行った?またサボってるな、アイツ!」
「人間をゴミみたいに…。許さない。出でよっ…」
「待て待て!たんま!」
「そうね、ゴメン、ついイラ立って」
「ここは私にやらせて。落陽!そしてフォースブレイクに追撃レインボー!」
いつもの巨大な火の塊が去るや、持ちこたえていた小悪魔の体が謎の光に包まれる。
そこへ立て続けに降って来た二度目の攻撃に、さすがのスピード自慢も逃れられず。
「うわ~~…サイアク。って、鬼面道士のジジイよ、今出て来ても遅いって…あとは任せた」
一難去ってまた一難。今度も小人ながら2体。今回の魔物は梅干色で地味だ。
呼び名通りの老人で、杖を持っているところから呪文使いのようだ。
「もう話は聞かなくていいだろ、一気にやっていいか?」
「だからボシュ、アンタは一番手厳禁でしょ」
「一番手は私!ジャッジパラライズ!」
キンっと音が鳴り響き、斜めに閃光が走る。
よろけた杖老人だが倒れない。
「じゃあ次私ね。今度はざざん波~!そんでもってまたまたレインボー!」
「…まだだ。よし、ようやく出番か?」
「まだみたいよ!イオラっ!」
まだ倒れず。老人が杖を振り回して反撃してくる。
透かさずボシュがガードし、すぐに攻撃態勢に入る。
「今度こそ俺だな。食らえ、ギガ空裂斬!」
「オオトリっていうのもカッコいいじゃない?お見事ボシュ。またしてもガードありがとう」
「皆、回復はしなくていい?いつでも言って!」
「今の体制、最強だね!お兄ちゃんがガードしてくれるし、リリ姉が元気くれる。私楽しい!」
「おお…アイミーが戦いを楽しんでるよ」
「俺も嬉しいぜっ、アイミー!立派に戦士だ」
えへへっ、と笑うアイミーは、変わらない屈託のない笑顔を皆に向けた。
「よし。この調子で村の人達を探そう」
「待って!さっき穴に落とされた人、生きてるかも!」
穴の中を覗き込んでアイミーが叫ぶ。
「マジか、引っ張り上げるぞ。掴まれ!」
穴に腕を伸ばしてボシュが引き上げた。
「…助かりました、ここでもう死ぬのだと覚悟していたのですが。あなた方は?」
「私達は魔物退治をしています。ここに連れ去られた人達がいると聞いて助けに来たんです」
「そうでしたか。アイツらを、倒せたんですか?それは凄い、お強いですね!」
「ねえ!その首に掛かってるの、良く見せて!」
リリは懐から預かったペンダントを取り出す。
「あ、もしかしてトゥルナのペンダントと同じ?」
「トゥルナをご存じなのですか?妹を!」
シモンと名乗ったその青年は、まさにそのペンダントを着けていた。
「探す手間が省けたな。生きてて良かったぜ」
「でもあの魔物が言うには、死体を運んでるって。よく生きてたね…ってゴメンなさい」
「いいんです。自分でも不思議です」
「きっとそのペンダントの効果よ」
「お守りって言ってたもんね」
「それに他の人達は皆魂を抜かれていて会話もできないんです。僕だけがそのままで…」
「何にせよ良かったじゃねえか。で、他の奴らはどこにいる?」
「ここから少し戻った、滝の裏の洞窟にいます。どうか皆を助けてください!僕だけ村に帰る訳には行きません」
説明するそばから、リリが神秘の水晶を使って傷ついたシモンを手当てする。
元気を取り戻したシモンと共に囚われの人々の元へ向かう一行。
滝を抜けた先の洞窟では、人々が精気の抜けた顔でひたすら重労働を強いられていた。
何の道具も与えられず、素手で岩を掴みそれを使って掘る。
「見つけた…魂の輝石…。これで村に帰れる…」
一人がそうつぶやいた時、別の威勢の良い声がした。
「よくやった!褒美としてお前の魂をこの輝石に最初に封印してやる。第一号だぞ、喜べ!」
姿を現したのは腕が4本あり、それぞれに武器を持った水色の鎧の魔物。
「あれはボーンファイター。物理攻撃が危険なヤツよ」
「ねえ、あの下で動いてるの、手じゃない?」
「ボシュの嫌いな手!マッドフィンガー!」
「魔物はどれも嫌いだ。増えるのがウザいだけ!」
こんな会話が魔物の耳にも入ってしまう。
「誰だ!なぜそんなに元気にしゃべる事ができる?」
「またそれかよ。俺達は魂健在なの!」
「うぬぬ。先にお前達が餌食だ!」
「それはこっちのセリフ!今度こそ、出でよ、ドラゴーン!」
「大丈夫、人間の私達には危害は加わらない」
リリがその場に立ちすくむ村人達に向かって説明する。
だが、聞こえているのかいないのか反応はない。
ドラゴーンの津波でマッドフィンガーはあっという間に流された。
だがボーンファイターは未だ仁王立ち状態。
ところが良く見れば、その体は何かに縛られているようだ。
「ぐぬぬ。どうした事か、体が動かんっ」
「出たな、レンジャーの影縛り!今なら反撃されない。今のうちだ、アイミー止め刺せ!」
「分かった、も一回鉄砲水攻撃!え~い、ざざん波!念のため追撃レインボー!」
またもやって来た濁流に、必死に掴んでいた物が魔物の手から零れ落ちた。
「しまった!うぎゃー!やられた…」
コロコロと転がって来た何かは、吸い寄せられるようにリリの足元で止まる。
「これが輝石…まだ魂が入ってないからか透明だわね。はい、サチ」
「リリ姉が持ってて」
「え?でも…」
「その石、リリ姉を選んだみたいに見えた。だから」
「良く分かんないけど、分かったわ」
「それと、村人達の体力を回復させてほしい」
「もち!すぐにやるね」
「よし、それが済んだらさっさと村に帰ろうぜ!」
「トゥルナが待ってますよ、シモンさん」
「はい、早く会いたいです!」