ジョニーの案内で到着した酒場は、なかなかに大きな店だ。
「あら!ジョニーじゃない、久しぶりだわね!」
店の最奥のカウンターで酒を煽っていた年配の女性が、ジョニーを見るなり声を張った。
酒を飲んでいたのはこの店の女主人だ。
「オーヴァ、変わらぬ貫禄じゃな。前回会ったのはいつだったか」
「さあ…大昔すぎて忘れたわ!で?珍しく可愛らしい子達引き連れてどうしたの?」
「こちらのサチ殿に恩義があっての。彼らの旅の共をしておる最中じゃ。美味い酒を振舞ってくれたまえ」
「かしこまり!おい!最近仕入れた中で一番いいの、こっちのテーブルに持って来て!」
「あ!あの、私達そんなにお金持ってなくて…」
「お気に召されるな、アイミー殿。これはわしのおごりじゃて」
「そんな、悪いです!お兄ちゃんも何か言って!」
「あ?ああ…。ここはリーダーの意見に従う。サチ、サチ?」
こんな大きな酒場に初めて足を踏み入れた面々。
アイミーは恐縮しきりで予算を心配する。
ボシュは悪いとは思いつつも、店一番の酒に興味津々で断る事ができない。
そしてリーダーサチは…。
「あれ、アイツまたどっか行きやがった」
「ええー!どうしよう…」
「サチ殿ならば、ほれ、あちらの舞台にいるではないか」
「ぶっ…舞台?!」
「いつの間に?踊ってる…しかも全然曲に合ってない!」
「何あの子、いいルックスしてるじゃない?華があるわ。人気出そうね。踊り子に採用しようかしら!」
「いやいや。全然踊れてないだろ!」
隣りで華麗に舞うブロンド巻き毛の女性の横で、サチは独自の踊りを披露している。
冷やかしやら嫌らしい視線はありつつも、ほとんどの客達は温かい目で見守る。
「…ついて行けない」
「ま、アイツらしいじゃないか。アイミーが自信を持ってくれた事が嬉しかったんだよ。さ、ここはご厚意に甘えて飲もうぜ!」
「もうなるようになれ!私もいただきますっ」
「その意気なのである!乾杯!である!」
久々の酒にジョニーは上機嫌だ。
やがて舞台での見世物が休憩となり、サチが踊り子を引き連れて戻って来た。
「あっぱれであった、サチ殿!そちらは隣りにいた踊り子さんじゃの。これまた美しいのう…」
「おいジジイ。鼻の下伸びてんぞ」
「そういうお兄ちゃんは、何でこっちばっか見てるのよ」
踊り子を見ようとしないボシュ。妹の方ばかり見ている。
「ねえ皆!こちらリリさん。旅の話、聞きたいって」
「いきなりゴメンなさいね」
「いいえ!私はアイミーで、こっちは兄のボシュ。大歓迎です、とっても素敵な踊りでした」
「でっしょ~?だから思わず体が勝手にっ」
「サチって変わった子ね!ノリがいい人は嫌いじゃないわ。ウマが合って便乗しちゃった」
「ほう、リリ殿と申すか。おぬしも一杯やるといいのである!」
「待ってました、ご相伴に預かりまーす!」
「あの、もう舞台の方はいいんですか?」
「今日は上がり。で、いいでしょ?オーヴァ」
「そういうのは飲む前に言ってほしかったね!好きにしな」
「許可いただきましたー」
グリーンの瞳を細めて、悪戯っぽく笑うリリ。
踊り子の衣装のままのため、肌の露出具合はなかなかのもの。
胸元と腰回りが大胆に開いており、いわゆるヘソ出しルックである。
紫を基調としたオリエンタルな雰囲気が、リリのやや日焼けした肌に良く合っている。
相変わらず自分の方を見ようとしないボシュに、リリが突っ込む。
「ねえ!お兄さん硬派な感じでステキね。武闘家さん?」
「そうだが。なぜ武闘家だと分かった?」
言い当てられて驚いたボシュは、反射的にリリを見てしまう。
途端に目に飛び込んで来た胸元に赤面して俯く。
そんなピュアボーイを冷やかしたりはしない大人なリリ。質問にだけ答える。
「なぜ、かぁ。そうね~、立ち居振る舞い、かな」
「そういうリリ姉は、ただの踊り子じゃないよね?」
「ちょっとサチ。姉って決めつけないでくれる?アンタいくつよ」
「私は21よ」
「うげっ、アタシ24。なら姉は間違ってないかー」
「でしょ?」
「それこそ、どの辺で年上だって思ったワケ?」
う~ん、とリリを眺めながら考えるサチ。そして答えは。
「何となく!」
「納得できない、ちゃんと答えてくれる?美貌を生業とするアタシには死活問題なので」
「そんなに怖い顔しないで?リリ姉の色気とか、雰囲気で何となくって意味よ?」
「なぁんだ、それを先に言ってよ!もう。心配して損した。そうなの!この滲み出す色気は隠しようがなくって?自分でも困ってるのよ~」
たちまち上機嫌となったリリであった。
この時アイミーには見えていた。彼女がパーティのメンバーになる光景が…。
リリの気遣いあってかボシュも徐々に慣れて来た。
チラリとリリのグリーンの瞳を見やりながら言う。
「で?アンタ、踊り子の他にも何かしてるのか?」
「何も。ウチの曾祖母がね、大魔法使いだったってだけ。アタシは関係ないわ」
「関係なくはないだろう?血を受け継ぐ者よ!オレはお前の曾婆さんと幼馴染だったんだが、それは強かったぞ!」
「だから?アタシは踊り子に誇りを持ってる。魔法使いなんて地味な職はご免よ」
「ははっ、言ってくれるね。だがお前さんの家に代々伝わるあの杖、眠らせておくのは惜しい品だよ」
「あんなかさばるヤツ携帯向きじゃないし、あのデザインはイマイチだわ!欲しいならオーヴァが持って行けば?」
「冗談言っちゃいけないよ!オレの手に負えるシロモンじゃない。嘆かわしいね、全く!ジョニーも年輩者として何とか言っとくれよ」
オーヴァの横で、背を向けた格好でボヨンボヨン跳ねていたジョニーが振り返る。
ちなみにジョニーの視線の先では、年頃の若い娘達がはしゃいでいた。
向き直った瞬間、ジョニーは真顔で語る。
「武器云々以前に、すでに隠し切れぬ魔力が、リリ殿から発せられておる!」
「だってさ。お前、そのうちどっかの魔物に攫われるぞ?」
「アタシじゃなくあの杖が盗まれるって話でしょ。あ、それともアタシが美しすぎて?」
「違う。より強力な魔力を手に入れるため。強力な武器は強力な使い手あってこそよ」
「おお!サチと言ったな、大正解だ!」
「魔法使いの神聖な魔力が悪用される事など、あってはならん。リリ殿が自ら悪の道に進まれると言うなら、止める事はできんがのぉ」
「悪の道に進む気はないから安心して。強力な魔力がアタシにあるなら、攫われないでしょ。平気平気!」
「それも違う。リリ姉はまだ、その魔力の正しい使い方を知らない。その状態では、奴等に悪用され兼ねない」
「これまたその通りじゃ」
「ねえリリ姉!私達と一緒に来ない?何よりあなたの力を貸してほしい。踊り子はできなくなるけど…」
黙り込むリリ。いろいろと思うところがあるのだ。
「少し考えさせて」
「もちろん!きっと楽しくなると思う。いい返事期待してる。じゃあそろそろ撤収しよう」
「ジョニーさん、本当にご馳走してもらっちゃっていいんですか?」
「よいよい!いい夜であった、余は満足じゃ!」
「気を付けなよ、アンタ達。ジョニーのヤツ、酔うとスケベジジイ丸出しになるからさ!」
「ええー…それはちょっとウザいかも」
「心配するな、こっちに来たら俺が追い払ってやる。今のとこサチにベッタリだから大丈夫さ」
ジョニーは少し前からサチの真後ろでボヨンボヨンしている。
わざと尻に触れている気がしないでもない。
「あ、ちょうどいいクッション!座っちゃお」
「ぐぷっ…ぽよょ~ん、ぽよょ~ん」
サチの重みでボヨンと跳ねる力が半減。
バランスボールで遊んでいるようにしか見えない。
「お、尻に敷きやがった。やるな!」
「お兄ちゃん、それ意味が…」
「まんまだろ。おいサチ、そのまま大人しくさせといてくれよ!」
「え~?私騒いでないよ?」
「お前じゃなくて尻に敷いてるヤツの事だ」
「ほえ?」
サチはすっかり酔いが回っていた。
「大丈夫かしら…サチ。つい今しがたカッコ良く語ってたのに!」
「全く謎の女だぜ。仕方ない、宿まで引き摺ってくか」
「それが、宿なんだけど…」
「どうした?」
勢いでこの酒場に来て勢いで酒を飲んでしまったため、まだ宿探しをしていなかった。
「だったら、ここの二階使っとくれ。一晩くらいなら泊めてやるよ。ジョニーとは腐れ縁みたいなモンだしね。ヤツの連れなら信用するよ」
「いいんですか?助かります!」
「ジョニーは二階には上がれないから、身の安全は確保できるよ」
オーヴァがアイミーに向けてウインクを飛ばす。
階段は細くてとてもジョニーは通れない。
ホッと一安心と目を向ければ、ジェネラルの上で小人騎士とサチが仰け反って眠りこけていた。
「おいサチ!上に泊まっていいとさ。起きろ、俺に運ばせんなよ?」
「構わん。目が覚めたら連れて行くよ。先にお行き」
「じゃあ、そうさせてもらいます」
「だね。それじゃお言葉に甘えて。お休みなさい」
「ああ、お休み!」
夜の挨拶を交わして、兄妹だけが二階へ上がった。
リリは着替えのためにすでに席を立っており、この場には眠りこけたジョニーとサチのみが残されている。
「ホント、変わった娘だね。腰に下げてる剣、良く見ればグランゼドーラ王国のじゃないか」
「んん…」
「おや。起こしちまったかい」
「えっと…あれ?」
「この酒場の女主人、オーヴァだよ。思い出したかい?」
「あっ!そうでした。…イヤだ、ジョニーの上で寝ちゃってた?」
自分のいる場所を思い出し、慌てて飛び降りるサチ。
「気にするこたないよ!こいつの顔見たら分かる。ほれ、ご満悦だろ?」
示された先を見れば、ニヤケ顔で眠るジェネラルと小人騎士の姿が。
「…何か微妙。これじゃただのエロオヤジ…言っちゃった」
「はっはっは!!言うねぇ、気に入った!サチと言ったね。ウチのリリ、仲間に入れてやっておくれね」
「私もそうしたい。でも決めるのは本人」
「大丈夫さ。アイツは断りはしない」
「オーヴァさんが脅すとか?」
「おいおい、オレを何だと思ってる?見た目は鬼婆だけどね、こんなでも、ちゃんと親心ってのがあるんだよ?」
カウンターに付いていた肩肘を降ろし、姿勢を正す。
つられたサチも、気持ちだけシャンとしてみる。
「あの子の事はずっと気にしていたんだ。本人があれだから、無理に魔法使いにさせるのもね」
「どっちも諦めなければいいのよ」
「あ?何だって?」
「どっちも叶えるの。踊り子の魔法使いがいてもいいと思う」
「そりゃ、ダメって法律もないけどね!普通はやらないだろ。二兎を追う者は一兎をも得ずだ」
「それはやってみなきゃ分からないわ。リリ姉にやる気があれば」
「そうだね。その通りだ。あの子は努力だけは人一倍する。納得行くまでね。素っ気なくて口が
悪いが、根は優しい子だよ」
「知ってる」
「ん?どっかで会った事あるのかい?」
「違う。そんな気がしただけ」
「全くお前さんは不思議な人だね!グランゼドーラの出身だろ?」
「っ、どうしてそれを?」
オーヴァはサチの腰元の剣に視線を向けた。
「あ、そっか…。これは、私が持つには不釣り合いな剣です」
「そんな事はないさ。似合ってるよ、勇者姫」
「やめてください!私は勇者じゃない、ただの一戦士です」
「今はまだ、ね。さあ、お前さんも二階で休みな。兄妹は先に休ませたよ」
「美味しいお酒に加えて宿まで…。本当にありがとうございます、オーヴァさん」
「酒の代金はジョニーが払った。礼ならコイツに言っておくれ」
未だに眠りこけているジョニーを見て、二人はクスっと笑った。
オーヴァはオリジナルキャラです。