旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第4話:意気投合

 

 

 ジョニーの案内で到着した酒場は、なかなかに大きな店だ。

 

 

「あら!ジョニーじゃない、久しぶりだわね!」

 

 店の最奥のカウンターで酒を煽っていた年配の女性が、ジョニーを見るなり声を張った。

 酒を飲んでいたのはこの店の女主人だ。

 

「オーヴァ、変わらぬ貫禄じゃな。前回会ったのはいつだったか」

「さあ…大昔すぎて忘れたわ!で?珍しく可愛らしい子達引き連れてどうしたの?」

「こちらのサチ殿に恩義があっての。彼らの旅の共をしておる最中じゃ。美味い酒を振舞ってくれたまえ」

「かしこまり!おい!最近仕入れた中で一番いいの、こっちのテーブルに持って来て!」

 

「あ!あの、私達そんなにお金持ってなくて…」

「お気に召されるな、アイミー殿。これはわしのおごりじゃて」

「そんな、悪いです!お兄ちゃんも何か言って!」

「あ?ああ…。ここはリーダーの意見に従う。サチ、サチ?」

 

 

 こんな大きな酒場に初めて足を踏み入れた面々。

 アイミーは恐縮しきりで予算を心配する。

 ボシュは悪いとは思いつつも、店一番の酒に興味津々で断る事ができない。

 そしてリーダーサチは…。

 

 

「あれ、アイツまたどっか行きやがった」

「ええー!どうしよう…」

 

「サチ殿ならば、ほれ、あちらの舞台にいるではないか」

「ぶっ…舞台?!」

「いつの間に?踊ってる…しかも全然曲に合ってない!」

「何あの子、いいルックスしてるじゃない?華があるわ。人気出そうね。踊り子に採用しようかしら!」

「いやいや。全然踊れてないだろ!」

 

 

 隣りで華麗に舞うブロンド巻き毛の女性の横で、サチは独自の踊りを披露している。

 冷やかしやら嫌らしい視線はありつつも、ほとんどの客達は温かい目で見守る。

 

 

「…ついて行けない」

「ま、アイツらしいじゃないか。アイミーが自信を持ってくれた事が嬉しかったんだよ。さ、ここはご厚意に甘えて飲もうぜ!」

「もうなるようになれ!私もいただきますっ」

「その意気なのである!乾杯!である!」

 

 久々の酒にジョニーは上機嫌だ。

 

 

 

 やがて舞台での見世物が休憩となり、サチが踊り子を引き連れて戻って来た。

 

「あっぱれであった、サチ殿!そちらは隣りにいた踊り子さんじゃの。これまた美しいのう…」

「おいジジイ。鼻の下伸びてんぞ」

「そういうお兄ちゃんは、何でこっちばっか見てるのよ」

 

 踊り子を見ようとしないボシュ。妹の方ばかり見ている。

 

「ねえ皆!こちらリリさん。旅の話、聞きたいって」

「いきなりゴメンなさいね」

「いいえ!私はアイミーで、こっちは兄のボシュ。大歓迎です、とっても素敵な踊りでした」

「でっしょ~?だから思わず体が勝手にっ」

「サチって変わった子ね!ノリがいい人は嫌いじゃないわ。ウマが合って便乗しちゃった」

 

「ほう、リリ殿と申すか。おぬしも一杯やるといいのである!」

「待ってました、ご相伴に預かりまーす!」

「あの、もう舞台の方はいいんですか?」

「今日は上がり。で、いいでしょ?オーヴァ」

「そういうのは飲む前に言ってほしかったね!好きにしな」

「許可いただきましたー」

 

 

 グリーンの瞳を細めて、悪戯っぽく笑うリリ。

 踊り子の衣装のままのため、肌の露出具合はなかなかのもの。

 胸元と腰回りが大胆に開いており、いわゆるヘソ出しルックである。

 紫を基調としたオリエンタルな雰囲気が、リリのやや日焼けした肌に良く合っている。

 

 

 相変わらず自分の方を見ようとしないボシュに、リリが突っ込む。

 

「ねえ!お兄さん硬派な感じでステキね。武闘家さん?」

「そうだが。なぜ武闘家だと分かった?」

 

 言い当てられて驚いたボシュは、反射的にリリを見てしまう。

 途端に目に飛び込んで来た胸元に赤面して俯く。

 そんなピュアボーイを冷やかしたりはしない大人なリリ。質問にだけ答える。

 

「なぜ、かぁ。そうね~、立ち居振る舞い、かな」

「そういうリリ姉は、ただの踊り子じゃないよね?」

「ちょっとサチ。姉って決めつけないでくれる?アンタいくつよ」

「私は21よ」

「うげっ、アタシ24。なら姉は間違ってないかー」

「でしょ?」

「それこそ、どの辺で年上だって思ったワケ?」

 

 

 う~ん、とリリを眺めながら考えるサチ。そして答えは。

 

 

「何となく!」

「納得できない、ちゃんと答えてくれる?美貌を生業とするアタシには死活問題なので」

「そんなに怖い顔しないで?リリ姉の色気とか、雰囲気で何となくって意味よ?」

「なぁんだ、それを先に言ってよ!もう。心配して損した。そうなの!この滲み出す色気は隠しようがなくって?自分でも困ってるのよ~」

 

 たちまち上機嫌となったリリであった。

 この時アイミーには見えていた。彼女がパーティのメンバーになる光景が…。

 

 

 

 リリの気遣いあってかボシュも徐々に慣れて来た。

 チラリとリリのグリーンの瞳を見やりながら言う。

 

「で?アンタ、踊り子の他にも何かしてるのか?」

「何も。ウチの曾祖母がね、大魔法使いだったってだけ。アタシは関係ないわ」

「関係なくはないだろう?血を受け継ぐ者よ!オレはお前の曾婆さんと幼馴染だったんだが、それは強かったぞ!」

「だから?アタシは踊り子に誇りを持ってる。魔法使いなんて地味な職はご免よ」

 

「ははっ、言ってくれるね。だがお前さんの家に代々伝わるあの杖、眠らせておくのは惜しい品だよ」

「あんなかさばるヤツ携帯向きじゃないし、あのデザインはイマイチだわ!欲しいならオーヴァが持って行けば?」

「冗談言っちゃいけないよ!オレの手に負えるシロモンじゃない。嘆かわしいね、全く!ジョニーも年輩者として何とか言っとくれよ」

 

 

 オーヴァの横で、背を向けた格好でボヨンボヨン跳ねていたジョニーが振り返る。

 ちなみにジョニーの視線の先では、年頃の若い娘達がはしゃいでいた。

 向き直った瞬間、ジョニーは真顔で語る。

 

 

「武器云々以前に、すでに隠し切れぬ魔力が、リリ殿から発せられておる!」

 

「だってさ。お前、そのうちどっかの魔物に攫われるぞ?」

「アタシじゃなくあの杖が盗まれるって話でしょ。あ、それともアタシが美しすぎて?」

「違う。より強力な魔力を手に入れるため。強力な武器は強力な使い手あってこそよ」

「おお!サチと言ったな、大正解だ!」

「魔法使いの神聖な魔力が悪用される事など、あってはならん。リリ殿が自ら悪の道に進まれると言うなら、止める事はできんがのぉ」

 

「悪の道に進む気はないから安心して。強力な魔力がアタシにあるなら、攫われないでしょ。平気平気!」

「それも違う。リリ姉はまだ、その魔力の正しい使い方を知らない。その状態では、奴等に悪用され兼ねない」

「これまたその通りじゃ」

「ねえリリ姉!私達と一緒に来ない?何よりあなたの力を貸してほしい。踊り子はできなくなるけど…」

 

 

 黙り込むリリ。いろいろと思うところがあるのだ。

 

「少し考えさせて」

 

「もちろん!きっと楽しくなると思う。いい返事期待してる。じゃあそろそろ撤収しよう」

「ジョニーさん、本当にご馳走してもらっちゃっていいんですか?」

「よいよい!いい夜であった、余は満足じゃ!」

「気を付けなよ、アンタ達。ジョニーのヤツ、酔うとスケベジジイ丸出しになるからさ!」

「ええー…それはちょっとウザいかも」

「心配するな、こっちに来たら俺が追い払ってやる。今のとこサチにベッタリだから大丈夫さ」

 

 ジョニーは少し前からサチの真後ろでボヨンボヨンしている。

 わざと尻に触れている気がしないでもない。

 

 

「あ、ちょうどいいクッション!座っちゃお」

「ぐぷっ…ぽよょ~ん、ぽよょ~ん」

 

 サチの重みでボヨンと跳ねる力が半減。

 バランスボールで遊んでいるようにしか見えない。

 

 

「お、尻に敷きやがった。やるな!」

「お兄ちゃん、それ意味が…」

「まんまだろ。おいサチ、そのまま大人しくさせといてくれよ!」

「え~?私騒いでないよ?」

「お前じゃなくて尻に敷いてるヤツの事だ」

 

「ほえ?」

 

 サチはすっかり酔いが回っていた。

 

「大丈夫かしら…サチ。つい今しがたカッコ良く語ってたのに!」

「全く謎の女だぜ。仕方ない、宿まで引き摺ってくか」

「それが、宿なんだけど…」

「どうした?」

 

 勢いでこの酒場に来て勢いで酒を飲んでしまったため、まだ宿探しをしていなかった。

 

「だったら、ここの二階使っとくれ。一晩くらいなら泊めてやるよ。ジョニーとは腐れ縁みたいなモンだしね。ヤツの連れなら信用するよ」

「いいんですか?助かります!」

「ジョニーは二階には上がれないから、身の安全は確保できるよ」

 

 

 オーヴァがアイミーに向けてウインクを飛ばす。

 階段は細くてとてもジョニーは通れない。

 ホッと一安心と目を向ければ、ジェネラルの上で小人騎士とサチが仰け反って眠りこけていた。

 

 

「おいサチ!上に泊まっていいとさ。起きろ、俺に運ばせんなよ?」

「構わん。目が覚めたら連れて行くよ。先にお行き」

「じゃあ、そうさせてもらいます」

「だね。それじゃお言葉に甘えて。お休みなさい」

「ああ、お休み!」

 

 

 

 

 夜の挨拶を交わして、兄妹だけが二階へ上がった。

 リリは着替えのためにすでに席を立っており、この場には眠りこけたジョニーとサチのみが残されている。

 

 

「ホント、変わった娘だね。腰に下げてる剣、良く見ればグランゼドーラ王国のじゃないか」

「んん…」

「おや。起こしちまったかい」

「えっと…あれ?」

「この酒場の女主人、オーヴァだよ。思い出したかい?」

「あっ!そうでした。…イヤだ、ジョニーの上で寝ちゃってた?」

 

 自分のいる場所を思い出し、慌てて飛び降りるサチ。

 

「気にするこたないよ!こいつの顔見たら分かる。ほれ、ご満悦だろ?」

 

 

 示された先を見れば、ニヤケ顔で眠るジェネラルと小人騎士の姿が。

 

 

「…何か微妙。これじゃただのエロオヤジ…言っちゃった」

「はっはっは!!言うねぇ、気に入った!サチと言ったね。ウチのリリ、仲間に入れてやっておくれね」

「私もそうしたい。でも決めるのは本人」

「大丈夫さ。アイツは断りはしない」

「オーヴァさんが脅すとか?」

「おいおい、オレを何だと思ってる?見た目は鬼婆だけどね、こんなでも、ちゃんと親心ってのがあるんだよ?」

 

 カウンターに付いていた肩肘を降ろし、姿勢を正す。

 つられたサチも、気持ちだけシャンとしてみる。

 

 

「あの子の事はずっと気にしていたんだ。本人があれだから、無理に魔法使いにさせるのもね」

「どっちも諦めなければいいのよ」

「あ?何だって?」

「どっちも叶えるの。踊り子の魔法使いがいてもいいと思う」

「そりゃ、ダメって法律もないけどね!普通はやらないだろ。二兎を追う者は一兎をも得ずだ」

 

「それはやってみなきゃ分からないわ。リリ姉にやる気があれば」

「そうだね。その通りだ。あの子は努力だけは人一倍する。納得行くまでね。素っ気なくて口が

 悪いが、根は優しい子だよ」

「知ってる」

「ん?どっかで会った事あるのかい?」

「違う。そんな気がしただけ」

 

 

「全くお前さんは不思議な人だね!グランゼドーラの出身だろ?」

「っ、どうしてそれを?」

 

 

 オーヴァはサチの腰元の剣に視線を向けた。

 

 

「あ、そっか…。これは、私が持つには不釣り合いな剣です」

「そんな事はないさ。似合ってるよ、勇者姫」

「やめてください!私は勇者じゃない、ただの一戦士です」

「今はまだ、ね。さあ、お前さんも二階で休みな。兄妹は先に休ませたよ」

「美味しいお酒に加えて宿まで…。本当にありがとうございます、オーヴァさん」

「酒の代金はジョニーが払った。礼ならコイツに言っておくれ」

 

 

 未だに眠りこけているジョニーを見て、二人はクスっと笑った。

 

 

 

 




オーヴァはオリジナルキャラです。
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