サチ達一行は、ジャンピエを連れて再び岩山の洞窟に戻って来た。
「ここが発掘現場か。…早速何者か来たようだ」
「魔物の気配よ!皆、気を付けて」
息を詰めて辺りを警戒していると、2体の魔物がやって来た。
「ムムム!働かせていた奴隷共がいなくなっているぞ!」
「どうした事か?」
「シュプリンガーだな。予想通り鈍感なヤツがいたぜ」
「誰だお前は?失礼な事を言うな!」
「ムム、奴隷とは違う人間の気配もするぞ!」
現われたのは、どちらも紫の翼の生えた二本足で立つ竜のような魔物だ。
「さてはお前達が奴隷を逃がしたな?こんな事をして生きて帰れると思うなよ!」
「それはこっちのセリフだ。サチ、やるぞ!」
「言われなくても!カオスエッジ!」
サチの一手でまずは1体倒した。
「混沌の剣技か。なかなかやるな」
「おいサチ、こんなの一撃で済ませろよ!食らえカブト割り!」
「おー、ボシュの斧。珍しい技が出たよ」
「バトルマスターにはなかったもんね。お兄ちゃんナイス!」
「筋は悪くない」
残された1体もあっという間に崩れ去る。
「ぬおお、バリゲーン様、…ぐふっ」
「ふん。口ほどでもないヤツらだったな。だがうかうかできんぞ。こいつらが戻らなければバリゲーンも俺達の存在に気づく」
「さすがにねー」
「いくら鈍感な人でも、あ、人じゃないか」
「で、どうすんだよ」
「もちろんこっちから出向いてやるさ」
「どうやって?居場所は知っているの?」
「知らない事もない。が、このままではダメだ。…そうだ、あの杖があればあるいは…。サチ、移ろいの神殿に向かうぞ」
「…」
「待って待って、話が早すぎて付いて行けないんですケド!」
「とにかく行こうよ、時間がもったいない!サチ?」
「ううん、何でも。よし行こう」
誘導されるままに続くサチ達だが、今やボシュは先陣切ってジャンピエの横に並ぶ。
やがて詳しい内容を聞き出すと、自慢げに振り返る。
「そうか、鈍感さを利用するって訳だな!おい皆!神殿にある杖で魔物に化けてバリゲーンを呼び出す手らしいぜ!」
「なるほど」
「いくら鈍感って言っても、そんな上手く誤魔化せるのかなぁ」
「…。ちょっと不安」
「そりゃアンタの演技力ではねぇ、サチー?」
先ほどサチが黙り込んだのはこういう事か、とピンと来たのは3人のみ。
「急にどうした、サチ。そんな弱気で敵を倒せると思ってるのか?」
「サチ、俺がやる。心配すんな!」
「でも今のボシュは…」
「一人で背負わないで。皆でやろう、女優並みの演技力を持つアタシがやってもいいし」
「それはダメ!大丈夫、魔物の一人や二人だませる。私がやります、ジャンピエさん!」
「ふん」
鼻で笑ったふうのジャンピエだが、内心では喜んでいた。
男と行くよりも断然、いや、サチがいいと。
やって来たのは厳かな空気漂う神聖な神殿だ。
「我が神殿に何用か」
「回りくどい話は抜きだ。この神殿にあるへんげの杖を貸してくれ」
「別に構わんが何に使う?まあ…そなた達の顔つきを見れば大体分かる。こちらも回りくどい話
は抜きで言おう。神殿の宝物庫を開くためには、真実のかがり火と偽りのかがり火を灯さねばならん。そう容易い事ではない、諦めろ」
「それでバリゲーンが倒せるのね!」
リリの一言に神官が目を見開いた。
「ん?バリゲーンとな!杖で変身して遊ぶためではなかったのかね…これは申し訳ない、勘違いをしたようじゃ」
「遊ぶかーい!その発想はさすがに落ち込むぜ?」
「そうだよ。顔つきを見て分かったのが遊びそうなんて?酷いっ」
だがしかし。一度は旅芸人に間違われたくらいだ。
コスプレが高じて変身願望が芽生えたと取られてもおかしくはない。
そして新たに加わったこの男の格好もまた、厳つい漆黒の鎧姿である。
「いや。あながち勘違いでもない」
「は?何を言うジャンピエ、お前まで!」
「ボシュ、抑えて。魔物を翻弄する行為は遊んでいるとも取れる。でしょ?」
「ああ。そういう事だ」
張り詰めていた神殿内の空気が一気に緩む。
「やれやれ。変わったご一行じゃ。ま、いずれにしろ杖は貸し出そう。扉が開ければな」
「ありがとう、神官さん!」
「ありがとっ」
「ありがとうございます!」
麗しき3人娘に感謝の言葉を掛けられ、神官の鼻の下が伸びそうになる。
我に返って咳払いを一つした後、神官が説明する。
杖は宝物庫にあり、その扉を開くためのかがり火を灯すには、赤き炎の石と青き炎の石がいるそうな。
「ではまず赤き炎の石を入手するか。場所は?」
「赤き炎の島。だが注意せよ、島には魔物が…」
「サチ!向かうぞ!」
「はいっ」
即答したサチ。
ボシュとアイミーの父親に似ていると聞いてから、サチはジャンピエに頭が上がらなくなっていた。
神官の言葉を最後まで聞く事もなく、ジャンピエ他一同はバタバタと出て行った。
「人の話は最後まで聞くものじゃよ?…それにしてもあの男、確かに人なのだが。随分と時の流れを感じるのは?…いずれにせよ、長きに渡りこの世に囚われておるとは、不憫なものじゃ」
一人だけ異質な鎧姿の男に、何らかの事情を察した神官。
例え連れの遊びのためであろうと、ノーとは言えなかった。
そんな移ろいの神殿にも、魔の手が迫ろうとしていた。