ひたすら歩いて、ようやく眼前にそびえる青き炎の山を前にする。
険しい山道を意気揚々と進む男性陣プラスサチ。
一方残りの女性陣はなかなかキツそうだ。
「やっぱ、山登るには、はぁ、ロングスカートはっ、不向きだわねぇ、ひい…」
「そうなの。でも、私は、ふう、今動きやすくてっ、嬉しい、よっと!」
「足腰が鍛えられて来たから、前よりは楽だけどっ」
「本当だね」
「リリ姉ー、アイミー、大丈夫?」
遅れを取っている二人をサチが気遣う。
大丈夫!と二人の声がハモるも、その息は上がっている。
「ねえ、もう少しペース落として。敵と戦う前に二人の体力が消耗しちゃう」
「消耗したらリリ姉の水晶で補充すればいいだろ」
「ダメ。あれは戦いのためのもの。必要な時に使えなくなったら意味がない」
「その通りだ。お前達はゆっくり来い。俺は先に行く」
「あっ、おい待てよ!自分だけっ」
「お前は自分のパーティーの面倒をみる事だ」
あっさり先に行ってしまったジャンピエを、後ろめたい気持ちで見送るボシュだが。
ジャンピエに並ぼうと躍起になって周りが見えていなかった事に気づいた。
「そりゃアンタはウチのメンバーじゃないさ…ちっ。おい、荷物持つぞ、よこせ」
「助かるー、サンキュ!」
「ありがとうお兄ちゃん!」
「じゃあ私のもお願い」
「おい。調子に乗るな、オメーは持てんだろ、こらサチ!」
たちまちボシュは3人分の荷を持たされたのであった。
出遅れる事十数分。辿り着いた先では案の定待ち構えるものが…。
「早速お出ましのようだぞ。早く倒せ」
「って、何で待ってんだよ!先に倒してくれりゃいいだろ」
「何じゃお前らは?ちょうどよいところに来た。最近誰も来なくて腕が鈍っていたんじゃ。我が斧の餌食にしてくれる!」
赤の鎧を着込んで大斧を手にした、青銅色の二足歩行サイ型魔物が言う。
「この魔物、前にも倒した事あるよね」
「ねえお兄ちゃん…もしかして魔物にジャンピエさんの事見えてないとかない?」
「えっ…。そういう事?」
「チッ。何でもいい、俺が倒すぜ!ギガ空裂斬!」
素早さではサチに劣るはずのボシュが、真っ先に躍り出てサイの魔物を一掃。
と思われたが、サチはすでに別の魔物を倒していた。
「早い!サチ、さすがレンジャーだな。お前はやはり将来有望だ」
「アイツはグールよね。甘い息で眠らせて来る。そういう敵は攻撃される前に倒す」
「私達、サイ男にばかり意識向いてたね…」
「あんなのが後ろに控えてたなんて…あの容姿で甘い息とか、超キモいんですケドっ」
「リリ姉、時々妖精さん口調になってるよ?」
すでに再起不能となっている腐った死体の紫バージョン2体。確かにグロテスクだ。
「マジかよ、俺も気づけなかった…」
ショックを受けるボシュをスルーしてジャンピエが言う。
「待て、倒したのはいいが石が見当たらない!」
これに答えたのは、どこから現われたのかジョニーであった。
「この先を行くと下へ続く洞窟がある。その奥にあるようじゃぞーい」
「…。お前は?なぜそれを知っている」
「ジョニじい!来てくれたのね!」
「またあの跳躍力でここまで?パワフルなお爺ちゃんスライム、ステキっ」
一瞬魔物の姿に身構えたジャンピエだが、アイミーとリリの親しげな様子から警戒を解く。
「今回ばかりは姿を現すか迷ったが。おぬしもありかを知らんとは意外じゃったのー」
「ふん。悪かったな。クソまぎらわしい魔物め」
教えられた洞窟に向かうと、宣言通りそこで青く光る石を発見した。
「ジョニー、どうしてある場所知ってたの?」
「年寄りの知恵袋、である。深くは追求せぬ事」
「いいじゃん、見つかったんだし?さあ、神殿に戻ろ!」
それぞれ疑惑の目を向けつつも、プラス思考のリリに習い、問いただしたい気持ちをグッと堪えるのだった。
やがて再び移ろいの神殿へと戻って来た。
神官は無事帰還した面々に感心しながら、前回同様に火を灯す。
そしてついに宝物庫の扉が開いた。
「やった!中に入ろう」
「何か出て来るかも、気を付けてっ」
「お化けが出てくるかもしれんぞー」
「もう!神官さん?イジワル言わないって約束は?」
「約束とな?はて何の事か。ハッハッハー!」
一歩入った辺りでこんな会話を始めた女子2名と神官を追い越して、サチとボシュ、ジャンピエが中央までやって来る。
「これ見よがしに宝箱が置いてあるぜ」
「ここ以外に入ってそうな場所はないわ。開けてみよう」
「そうだ。さっさと開けろ」
「気を付けて。虫とかいるかもだから」
「サチ、それ魔物って意味だよな?」
恐る恐る開けてみれば、中に入っていたのは何と人間であった。
初老の男性で顔色は悪く、死んでいるようにも見える。
「ええっ、何で?!すぐに助けなきゃ、大丈夫ですか?!」
「何だってこんなとこに?サチ、そっちの足持て、引っ張り出すぞ!」
「…。」
二人が必死で男の体を箱から出しているところに、神官の声が響く。
「ここまでやり遂げるとは。まさか本気でバリゲーン様を倒すつもりではないだろうな?」
「リリ姉、アイミー!そいつから離れて!」
「どうやら、こっちの男はこの神殿の本物の神官のようだな」
「そういう事だ!お前らごとき、このオレ様で十分」
正体を現したのは、赤っぽい体躯の三つ目ワシの魔物、サイレスだ。
「気を付けろ、コイツはマホトーンを使って呪文を封じて来るぞ」
「なら力業で倒しゃいいんだろ!」
「ボシュ!ちゃんと周り見て!後ろにメイジキメラがいる!」
「勢いでサイレスを倒しても、後ろから激しい炎が襲って来るって寸法だな。サチの忠告に感謝する事だ!」
「クソっ、皆まとめてやればいいだけだろ!ギガ空裂斬!」
イラ立ちが募り、勢いに任せて大剣を真横に振り切ったその時、ジャンピエが叫ぶ。
「バカ野郎、手加減しろ!奴はへんげの杖を持っているんだぞ?」
「そうだよ、神官さんに化けてたんだもん!」
「…あ」
「もう遅いみたいよ」
小物の魔物諸共倒れ込んだサイレスだが、言いたい事を言う力は残っていたようだ。
「ぐわーやられたぁ。へんげの杖で上手く化けてたのにっ!正体なんか現すんじゃなかった…ぐはっ」
そして力尽き、ドサリと倒れた。
「正直者は何とやらだな。杖は無事だ。ほらよ!」
「たまたまだろう。次からは気を付けろ」
「だから、その上から口調やめろって何度言わせる?」
「ほう?ではご教示願おう。小僧に対して上から話さずどう話す?」
この俺がどれだけの年月をこの世界に費やしているか分かっているのか?
との言葉を、どうにか飲み込んだジャンピエ。
「何がご教示だ、嫌味が過ぎるぜ?知るかよそんなの!」
またも勃発した口論改め親子ゲンカだが、もはや気にする者はない。
女性陣は倒れた神官の元に集まっている。
「本物の神官さん、命に別状はないみたい」
「良かった。でもいつから入れ替わってたんだろ」
「私との約束の事、全然分かってない感じだったから、きっと今回だけだよ」
横たわった本物の神官に、リリが魔法で煎じた薬を飲ませる。
「そうかなぁ。わざと忘れたフリしたって線もあるよね?だとすれば初めからだわよ?」
「真相は本人に聞くのが一番よ。大丈夫ですか?話はできますか?」
神官が目を覚ました。
「これは一体どういう状況か…。おぬし達、無事であったか。ここに魔物がいたであろう?」
「そんなのとっくに倒したぜ」
「これは…真の魔物討伐隊であったのか!いやはや全く。もっと早くに気づいていれば」
「って事は、初めは本物だったのか。やっぱ2回目でしょ」
「ついさっき襲われて閉じ込められたんじゃ!うっかりバリゲーンを倒そうとしている者達がいると口走ってしまった」
「魔物相手に威勢のいいこって」
「私達の事、信じてなかったんじゃないんですか?」
「遊び半分でやってると思ってたのよね~」
「ああそうじゃ!だが危機的状況に陥れば、ワラをもすがる何とやら、じゃ」
「アタシらワラ?って、さすがに酷くない?」
「私達を頼ってくれたなら、私は嬉しいわ」
「お前はお人好しすぎだ。調子良すぎじゃねーか」
「巻き込まれたくないなら、アタシらが訪ねて来た時に知らんぷりすれば良かったのよ」
「巻き込まれたくなかったらこんな職には就いておらん。その辺で畑でも耕しておるわい」
神官がやや口調を強めて言った。
思わぬ反論に、誰も口を出せない雰囲気だ。
ジャンピエは一行から少し離れた場所で無言を貫いている。
「神に仕える身としては、魔物に黙ってやられる訳にはいかん。せめてはったりでも…」
「それで俺達の事引き合いに出したのか」
「まさか本当に助かるとは思っておらなんだ」
「でもどうして魔物が神殿に?良く来るの?」
「来るかいっ。毎回閉じ込められては敵わん」
「それはない。今までこの宝物庫は開いていなかったもの」
「かがり火が灯せないと開かないもんね」
「奴らも何かを嗅ぎつけているんだろう。俺達が迫っている事をな」
「だからってこんな場所で私達を待ち伏せする?」
「魔物にも承認欲求があったりして!」
「そうなら、出しゃばりな魔物さんだね」
「愚かな事だ。こうしてただ消されるだけなのに?まあそこが魔物か」
「いいじゃねーか。こっちとしては探す手間が省けて助かるぜ」
こうして神官に何度も謝罪されながら、へんげの杖を手にした一行は神殿を後にする。
「魔城があるのは砂漠って本当?」
「ああ。通常その城は姿を見せない。そこでこの杖だ」
手下に化ければ、バリゲーンはテリトリー内に招き入れるだろう、という訳だ。
「中にさえ入れればこっちのもの。ただ敵を倒すのみだ」
「簡単に言うけど、バリゲーンって強いんでしょ?」
「ああ強いさ!俺だけでは倒せないくらいにはな」
「っつっても、アンタの強さがイマイチ分かんねーけど!」
「ジャンピエさんが過去にやられたのが、その魔物なんですよね?」
「そうだ。だが導きの英雄達は倒した。俺は自ら踏み台になってやったんだ」
隠して来た負け惜しみのような本音が出つつある。
我に返って咳払いを始めるジャンピエ。
「大丈夫ですか?砂漠に近づいて来たから、ここまで砂が舞ってるのかも」
「…っ。余計な気遣いは無用だ」
大昔のグチを言われたところで状況も知らぬ者には慰めの言葉などかけようもない。
アイミーの自然な声掛けに救われたジャンピエであった。