旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第52話:決戦バリゲーン

 

 

 やがて本格的な砂漠地帯に突入した。

 

 

「いよいよ敵の陣地だ。覚悟はいいな?サチ」

「いつでも!とっくに覚悟は決めてるっ」

 

 妙に意気込むサチを見て、また何かズレが生じているのではと不安になるのはパーティーメンバーのみである。

 

 

 

 そこへ凄まじい砂嵐が襲い掛かり視界ゼロとなる。

 

 

「ぺっ、ぺっ!凄い砂、顔に当たって痛いっ」

「何も見えない!私達どうしたらいいの!」

「お前達は餌の設定だ。極力弱々しくしていろ。いいかサチ、へんげの杖で魔物に化けるぞ!」

 

 

 サチとジャンピエは、バッファロンとモヒカントに姿を変えた。

 

 

「スッゲー…。あれ、前に村を襲ってた奴らだぜ」

「あの姿なら多少棒読みセリフでもいけるよ、ねえリリ姉?」

「…アタシ、本気で名乗り出なくて良かったぁ」

「だが餌設定だぜ、俺ら」

 

「それでもいいの!」

 

 あんな姿になるくらいなら餌でもいい。

 美しい人間の姿のままでいたいと思うリリであった。

 

 

 

「バリゲーン様!我らの姿が見えますか!」

「見えますかっ」

 

「この通り魂の輝石を持って来ました!」

「来ましたっ」

 

「ついでに餌もご用意しました!」

「しましたっ」

 

 サチはただジャンピエの言葉尻を繰り返すのみだ。

 

 

 ジャンピエが視線は向けずに耳打ちする。

 

「おい、お前も何か言え」

「えっ。ええと」

「怪しまれるだろうが。早く言え!」

 

 

「早く出て来てー!」

 

 

「ばっ…。バカめ!何を血迷った?」

 

 

 

 サチの一言に反応したかは定かでないが、砂嵐が収まった。

 

 続いてどこからか低音の濁声が響き渡る。

 

 

『相変わらず気が短いヤツよ!でかした、我が手下。それらを持って我が城へ来るがよい』

 

 

「よく分からんが上手く行ったようだ、行くぞ」

「はいっ。皆、付いて来て!」

 

「よっしゃ!行くぜ!」

「どうなる事かと思ったー。アイミー?平気?」

「砂に足を取られてっ、待って、置いてかないで!」

 

 

 

 砂漠に現れたモヤの中に一斉に飛び込む。

 

 すると、すぐ目の前に城がドドンと建っている。

 

 

 フリーパスで中へと入る面々。

 

 

「こんな簡単に入れるのか?」

「どうなるか分かんないけど、とにかく行こう!」

 

「待ってー」

 

 

 

 

 

 城の中は薄暗く、広間に入るとすぐに巨大な魔物の姿を見つける。

 

 

「随分無防備に現れたものだ。かかったな、バリゲーン。お前の手下はすでに地獄だ!」

「そうだそうだっ」

 

「サチ、もうそれいらないんだよ!」

「あっ、そっか」

 

 すでに二人の体は元の姿に戻っている。

 

 気づいていなかったにせよ、サチの挙動がやや怪しい。

 サポート役のリリが、すぐにフォローに入って役目を果たす。

 

 

『どういう事だ?後ろの餌もウソか。フン。構わん、餌が2匹増えただけよ。さあ、輝石を渡すのだ』

 

 

「いいか、暴嵐天バリゲーンの得意技は爆裂拳。パラディンガードがかなめになるぞ、ボシュ」

「おうよ、任せろ!俺が攻撃を全てガードする。サチ、アイミー、その隙にやれ!」

「分かった。先手必勝、マール・デ・ドラゴーン!全速前進ー!」

 

 

 突然大津波が押し寄せる。

 海賊船が現われ攻撃を仕掛けるも、仁王立ちのバリゲーンはビクともしない。

 

 

「次は私よ、ざざん波!加えて追撃レインボー!」

 

「まだダメか。クソっ、ギガブレードをやりたいところだが…」

 

 

 攻撃態勢に入ろうとしていた矢先、向こうからの激しい攻撃が降って来る。

 慌ててボシュが防御態勢に戻る。

 

「くっ、…くっそ!」

 

 

「お前がかなめだと言っただろう、気を抜くな!仕方がない、手を貸してやる。ダーククライ!」

 

 

 ジャンピエの攻撃力はかなりのものであった。

 この最後の一撃により、巨体が揺らめく。

 

 

 そしてどういう訳か煙のように消えてしまったではないか。

 

 

「しまった、今のはヤツの幻…!いとも簡単にだまされたのはおかしいと思ったんだ」

 

「それじゃ実体はどこに?」

「もっと上の方にいるんじゃない?前みたいに」

「そうだよ!あ、…お兄ちゃんケガしてるっ」

 

 ボシュが左腕を抱えているのに気づいたアイミー。慌てて駆け寄る。

 

「このくらい平気だ。早く行こう」

「バカ野郎、何度言わせる?次の戦いはさっきよりも過酷だぞ。今のうちに回復しておけ!些細な事が命取りになる」

 

 経験者なだけにジャンピエの言葉には説得力がある。

 

 自分も同じ過ちを犯した一人なのだから。

 

 

「リリ姉、お願い」

「任せて!ボシュ、すぐに治すわ」

「悪いな…。確かに気を抜いてた。次はもっと守りに集中するよ」

 

「ボシュ、あれもこれもって思わなくていい。今の自分の役目を果たそう?きっと大丈夫」

 

 サチの手がボシュの肩に乗る。

 そこから伝わる温もりが、ボシュの張り詰めた心をほぐした。

 

 

 目を合わせて頷き合う。

 

 

「よし。では向かおう」

「ジャンピエ、忠告サンキューな」

 

「フン」

 

 

 こんなやり取りに女子3人が微笑み合った。

 

 

 

 

 

 

 束の間の小休憩を挟み、足を踏み入れた最上階。

 

 設置された玉座に仰け反って腰を下ろすのは、今度こそ本物のバリゲーンのようだ。

 

 

「またのこのこやって来たか。さあ虫けら共よ、その輝石を渡すのだ!」

「渡すものか!くらえ、ダーククライ!」

 

 いきなりのジャンピエの一撃で、またもバリゲーンが消える。

 

「これじゃきキリがないじゃない!」

「本物は一体どこ?」

「ねえ、サチのポケット光ってるよ」

「…え?」

 

 

 言われて気づいたサチがポケットに手を突っ込み、中に収めた光の玉を取り出した。

 

 

「何してんだよ!こんな時に?まぶしっ!」

 

 直視できないほどの光が皆の目を貫く。

 

 

 その光の中に、紅の槍を持った濡羽色の髪の騎士が浮き上がった。

 銀の鎧に深い青の羽毛のごとき衣を背になびかせる。

 

 その姿を目にしたジャンピエは驚きを隠せない。

 

 それはかつて共に旅をして来た仲間の懐かしい姿であったのだから!

 

 

 

「あなたは…誰?」

 

 

『我が力で、その幻の衣を引き裂いてくれる!いざ、導きの天翔!』

 

 光の中の騎士が槍で辺りを薙ぎ払うと、バリゲーンを覆っていた何かが引き裂かれた。

 

 そして今度こそ実体が現われた。

 周囲に小型のバリゲーンを侍らせている。

 

 

「チビッ子付きだわよ、子供かしら」

「そんな事よりなぜあの男が…?」

 

「何と、憎き宿敵の英雄が持っていた力!それを呼び出すとは…生かしてはおけぬ!」

 

「おっと、考え込む暇はない。サチ!今だ、やれ!ドラゴーンだ!」

 

 

 ハッとしたサチが短剣を構えてドラゴーンを呼び出す。

 

「はいっ、全速前進ー!」

 

「まだだ、アイミー!」

「はい!ざざん波っ!そんでもって追撃レインボーも!ダメ、チビッ子も倒れないっ」

 

「あれは子供じゃない。ヤツの幻だ」

「幻も倒せない訳?!…強すぎるっ」

 

 

「負けるもんかっ、ジャッジパラライズー!」

 

 果敢に攻めるサチ。そしてひたすらガードするボシュ。

 これまで以上に大激戦だ。

 

 

「くっ…」

「ボシュ!今治すよ!」

 

 チームワークは完璧だ。これまで以上に皆それぞれの役割を果たしている。

 それでも敵は強かった。

 

 

「…まだだ。ヤツが変身する!幻を倒せなかったのは痛いな」

「何だよ、何が起きるんだ?」

 

 

 敵の様子がおかしい。

 猛々しい雄叫びと共に見る見る全身に模様が浮き出て、体が一回り大きくなった。

 

 

「ここからがヤツの本領発揮、碧落天バリゲーンの登場だ」

 

「どういう事さっ?!」

「火事場のバカ力ってヤツだろ」

「最後の悪あがきってヤツよ!まだ行ける、ドラゴーン!」

「私も!ざざん波ー!」

 

 

 ようやく両サイドの幻を倒した。

 

 だが攻撃すればするほど返される。それも今まで以上だ。

 それをボシュがガードし続けるも、当然限界がやって来る。

 

 

「このままじゃ持たないっ、リリ姉が回復魔法を使った次のタイミングで俺も撃つ。俺はまだ力が余ってる!」

「分かった、その時だけでも、私も影縛りできるように頑張ってみる!」

「今まで全然掛かってないよ、アイツには効かないんじゃない?アタシもいっぱい呪い掛けてるけど全然ダメっ」

 

「信じるしかない。自分の力を…。ハードラックラッシュ!」

 

 

 するとバリゲーンの周囲に紫色の杭が打たれたではないか。

 

 

「よし!縛ったな、行くぞ、ギガブレード!」

 

 だが思ったよりも威力が弱めだ。敵はまだ縛られて動けない。

 

 

「やっぱバトルマスターの時とは違うか。済まない皆…力不足だっ」

「全然!ボシュはちゃんと役目を果たしてる!次は私よ。これで体力的にも最後のドラゴーンになる」

「サチ、私の力使って!魔法戦士は力を分け与える事ができるの!」

「だがそれじゃアイミーの力がなくなるぞっ」

 

「いいの。サチに託すよ。私はもう限界、へへっ…」

 

 アイミーが珍しい笑いを零す。本当に限界なのだと皆が察した。

 

 

「よし、アタシもラッキータロットでサチに託す!」

 

 この占いは凶は出ない。少なからず攻撃力が上がる。限界を超える力を与える事もある。

 だがリリの力もそれで尽きる事になる。

 

 

「皆…ありがとう、それじゃやるよ!え~い、ドラゴーン!全速前進ー!」

 

 サチは渾身の力でバリゲーンに立ち向かった。

 そして見事にとどめを刺した。

 

 

「ぐおぉぉ~…おのれ、おのれ!だが貴様らごときに大魔王様の復活は止められんぞ」

 

 

「最後までうるせぇヤツ!黙って死ね!」

 

 ボシュが大剣で脳天を貫いた。

 

 

「やったね…勝ったよ!」

「往生際の悪いヤツだったな」

「でも、復活を止められないってどういう事?」

 

 

 やって来た時とは打って変わり、ぐったりと座り込んだサチ達。

 

 それとは対照的に、変わらぬ腕組み姿で見下ろすジャンピエが語る。

 

「いいか。四天王という事は、あと3人いるという事だ」

 

 

「でも、英雄さん達が倒してるんだよね?全員復活したとは限らないし」

「そうだよ!封印したんじゃなくて完全に倒してたら復活できないもん。あと一人かもだよ」

「だな!」

 

 

 プラス思考すぎる若者達に、呆れを通り越して感心しながらジャンピエが言葉を掛ける。

 

「…ともかくご苦労だった。まだ終わりではない、今日はゆっくり休む事だ」

 

 

「そういう言葉も言えんじゃねーか。もっと早く聞きたかったぜ?」

「俺はもう行かねば。じゃあまたな」

 

「っておい、何か言えよ!」

 

「もう行っちゃったよ」

「逃げ足のは早えーヤツ!」

 

 

 こんな事を言いながらも、ちょっぴり寂しく思ってしまうボシュであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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