第53話:フォズからの心話
バリゲーンとの激戦を経て、ボシュとアイミーは現職のパラディンと魔法戦士を極めるべく、ダーマの試練に挑戦。
前回とは打って変わってものの数日でクリアしてしまった。
「凄いよね~二人とも!アタシは一度も受けた事ないんだけど。凄いよ!ね、サチ」
「そうだね。強くなった証拠だよ」
この試練は一度メンバーの誰かが受ければそれで終了となる。
二人目に賢者となったリリには資格がない。そしてレンジャーに試練の設定はない。
称賛の声を受け、嬉しそうに兄妹そろって似たような笑みを浮かべる。
「あんなの朝飯前だったぜ?にしても、あのダーマ神殿の大神官、なんて言ったっけ」
「フォズさんでしょ。可愛らしくて感じのいい人だよね。私好き!」
「アイミーよりさらに妹キャラのね。あの人がどうしたの?ボシュ」
「お兄ちゃん。悪口は禁止だよ?」
「言わねえって!いやな、あそこで一番偉いヤツなんだろ?何て言うか…」
「あ~やっぱ悪口じゃん」
「まだ何も言ってねー!」
「人も魔物も、見た目じゃ分からないって事。さあ皆、これからは次のステップに向けて頑張るよ!」
「それはつまり特級職に向けて、だな。今よりは力戻るかなー…」
「自信なさげだね。戻るよ!これまでの経験が積み上がった集大成なのよ?」
「アタシは大神官か。フォズさんと一緒だわね」
「リリ姉の大神官はある意味迫力ありそうだな」
「どういう意味よぉ」
「頼りになるって意味でしょ。ねえお兄ちゃん?」
「まあ、そういう事にしとく」
「ちょっとぉ!」
「そしてサチはニンジャかぁ」
「それもある意味不気味…」
「お兄ちゃん!もうっ、人がフォローしてあげてるのに?もう知らないっ」
「ほらほら、兄妹ゲンカしないの!けど不気味ってどういう意味?」
「まあまあ、サチまで!神出鬼没くらいな意味っしょ。ケンカするほど仲がいいって言うからほっとこ!それより、ジョニじい全然姿見ないね」
「そうだね。あんな事言ってたし、もう来てくれないのかな…」
同種族がやらかしたイタズラの責任を取った形でお供を辞退したジョニー。
相談役として関係は継続となったのだが。
「あの人の事だから、この間みたいにそのうちひょっこり出て来るよ」
「なあ。ならさ、…アイツも、出て来ると思うか?」
サチだけにこっそり聞いたはずが、リリにもしっかり聞こえていた。
「アイツ?」
「ジャンピエさん?」
「そんな声を大にして言わんでもっ。何のためにお前に耳打ちしたと思ってる?」
「マジで懐いちゃってたのねー」
「あの人ってやっぱり、この世に未練があって成仏できないって感じなんだよね…」
一行の中ではすでに、ジャンピエという男はそういう事になってしまっている。
「そういう人はたくさんいると思う。姿を現してしまうくらいに強い念を持っている人は、多くはないだろうけど」
「それ多かったらヤバいよ?その辺にうじゃうじゃいたりしてっ、キャハっ」
「やめてよリリ姉、想像しちゃうから!」
「想いを昇華できない限り、彷徨うのかも…」
サチの真に迫ったもの言いを受け、ついにアイミーから短い悲鳴が上がる。
「お前らー、アホな事言ってないで行くぞー」
「アンタがジャンピエの話持ち出したんでしょ!サチの答え聞いてた?他人事みたいな顔して」
いつの間にか輪から外れたボシュを追うリリ。
その二人の目に、前方から向かって来る赤い物体が映る。
「ん?あれは…」
「噂をすれば何とやら。アイミー、心配無用みたいよー!」
「え?あっ、ジョニじいだ!」
「ぼよーん、ぼよーん!ようやく見つけたのであるっ、サチ殿、皆の者、大変なのじゃ!」
慌てた様子のジョニーは珍しい。心なしか息が切れている。
「どうした?血相変えて、つっても顔色分かんねーけど」
「おぬし達があと少しゆっくり試練を受けておったら危険じゃった」
「どういう事?」
ジョニーから知らされたのは思いかげない事件。
ダーマ神殿が魔物に乗っ取られたというのだ。
「大変!フォズさんは無事なの?!」
「神官達は皆囚われの身である。ただ一人武具神官の男が無事なのじゃが」
「じゃが、何だよ」
「どうにも頼りにならん男でのー。サチ殿に助けを求めるべしと、相成ったのである」
「オメー一人で何とかなるんじゃねーか?結構強い魔物なんだったら」
「ムムム…」
「ボシュ、そうやってイジメないの!」
リリの一言に、ジョニーが擦り寄る。
よしよし、と頭を撫でたいリリだが、取りあえず真っ赤なポヨンとした体を擦った。
「いいのぅ…心が癒されるわい」
「おい!そんな事されるために息切らして来たのかよ?」
「いかんいかん、そうじゃった。サチ殿、共にダーマ神殿に来てはくれぬか」
「もちろん行く。フォズさんにはお世話になってるし、早く助けないと!」
「そうだね、急ごう!」
こうして一行はジョニーと共にダーマ神殿へと舞い戻った。
「ジョニーさん皆さん!お待ちしてました!」
「こやつがロイス、武具神官じゃ」
「私はまだ半人前の助手です…こんな事になってどうしたらいいやら!」
言い分通りの頼りなさそうな男。眼鏡と線の細さがそんな雰囲気を醸し出すのか。
自信ゼロの様子でオロオロするばかりだ。
「落ち着かんかい!だから助っ人を呼んで来たのじゃろうが?」
「あ、そうですね。どうか神殿を救ってください!」
「あの、ロイスさん?」
「はい!」
「まずは自己紹介から。私はサチです。それから仲間の皆」
「存じ上げております!2度の試練クリアおめでとうございます。いつも陰から応援しておりました」
「応援ありがと。出て来てくれればもっと早くお友達になれたのに?」
「お友達っ?!そんな、冒険者の皆様とお友達なんてっ、私のような武具職人風情が…」
「リリ姉、その思わせぶりな言い方やめろ」
「何さ。別にお礼言っただけじゃん?」
「また言い合い始めないで!それで、どうしてロイスさんは無事だったんですか?」
ロイスの説明によれば、本日神官が一堂に集まり祈りの儀式が行われる予定だったそうな。
魔物達はそれを狙って襲って来たようだ。
「私はゴルム師匠の助手でして。たまたま工房に用事があり、寄っていたため難を逃れたのです」
「そりゃラッキーだったな」
「じゃあ、そのお師匠様も無事なんですね!」
「いえ、私だけが工房に向かったので。師匠はつかまってしまいました」
「ワシが表立って動く訳には行かん。サチ殿、ロイスの力になってはくれぬか。天下のダーマ神殿が魔物の手に落ちたとなれば、世界の破綻を早め兼ねん」
「もちろんよ。ねえ皆」
3人の力強い視線がサチに返される。
現在神殿は黒い霧に覆われている。
これまで目にした魔物の巣窟と同じ、イヤな瘴気を感じる。
「さっさと乗り込んで敵をやっつければいいんだろ。いくらでもやってやるよ!」
「待ってください!邪悪な魔力で封じられているので、このままでは中に入れません」
ボシュが一歩前に踏み出したその時。
神殿を覆う霧の中から直立のネコ型魔物が現れた。
グレーの毛並みで白の僧衣をまとい、首元に大きな赤い鈴を下げている。
「ややっ、まだ神官が残っていたか!ダークペルシャ様が捕らえてくれる!」
「あれがペルシャネコ?化け猫ってカンジだわね」
「可愛くはないね」
「魔物に可愛いもクソもあるか。そこをどきやがれ化け猫!」
「にゃにゃんと、化け猫とはっ、失敬なー!食らえイオラ!」
魔物が魔術で攻撃してくる。
透かさずボシュのパラディンガードが発動した。
「サチ!今だ!」
「任せて!ハードラックラーッシュ!」
ぐにゃにゃ~ん、やられた~と叫びながら、魔物はドサリと倒れた。
「サチ様、見事な腕前です!あんな短期間で試練をクリアしたのも頷けます!」
「今回試練を受けたのは私じゃないけど」
「いいえ、あれはパーティメンバー全員で受けるものです。皆さんの力ですっ」
大袈裟にも聞こえるロイスの激励に、サチもやや照れ気味に笑う。
そこへ小さな囁き声が、どこからか響いている事に気づくサチ。
「ねえ、何か聞こえない?」
『私の声が聞こえますか…?私はフォズ、心話を使って声を送っています』
「私にも聞こえる!フォズさんだよ!」
その声はこう続く。
囚われた神官達は皆氷漬けにされてしまった。この声が聞こえたら、どうか救ってくれと。
「スゲーな、こんな事もできるんだ、大神官って」
「アタシもできるようになるのかな!」
「彼女は特別じゃ」
「な~んだ残念」
「だけどどうやって神殿に入る?」
アイミーの質問に答えるように再び声が響く。
『邪悪な魔力を払うためには、光の聖杯を使うといいでしょう。どうか、お願いします…』
「ロイスさん、光の聖杯って知ってる?」
「はい、ダーマ神殿が所有する神器のひとつで、普段は宝物庫に保管されています」
「んじゃ、それ取って来るか」
「それが、唯一の鍵を囚われた神官が持っているのです…」
「マジ?…じゃあどうすれば」
「他に方法は?」
ここで知恵を授けたのはジョニーだ。
「ほれほれ。この世にはどんな扉でも開けられる魔法の鍵というものがあるじゃろうが?」
「そうだ、それだ!工房に戻って詳しく調べてみましょう」
ロイスに付いて工房へ向かう面々。
「ところでロイス、ジョニーとはどこで知り合った?」
「ジェネラル殿は時折フォズ大神官に面会に来られるので、皆顔見知りのようなものです」
「何しに?」
「さあ。ですがとても仲良さげにお話されていますよ」
「孫に会いに行くお爺ちゃんにしか見えないわねー」
サチが一人考え込んでいる事に気づいた者はない。
ここまで人間世界に溶け込んだ魔物、ジョニーへの疑惑がさらに増した事にも。