工房へとやって来た一行は、ロイスに続き中へ入る。
「へえ~、ここが工房か。上等な革のいい匂いだ」
「ここでは高位職の武器や武具を作っています。ええと、確かこの辺に魔法書が…あった!」
「見せて。ええと?鍵って作れるみたいね」
「作れるんなら、いつもみたいに探しに行く手間が省けるな」
前回も扉を開くためにあちこち歩かされた。毎回なぜかそういう事が起こる。
「ロイス、作れるよね?武具神官なんでしょ?」
「わわわ!私はただの助手ですっ、師匠のゴルム様ならともかく、私の腕では…」
「でも皆を助けるためにやらなきゃ。今は、あなただけが頼りよ」
サチに真っ直ぐ見つめられてこう訴えられたロイスは、段々その気になって来る。
「私も神官の端くれ、何とかやってみましょう!」
「私達も手伝います!何をしましょうか?」
「えっ、あ!ありがとうございます…っ」
アイミーに距離を詰められ、さらに舞い上がるロイスであった。
まずは魔法書の記載にある材料を集める事となる。
「その魔法のはがね石ってのを集めるのか、結局!」
「幸い近くの山で採れるみたいだわよ。ラッキーね」
「私が案内します!行きましょう!」
急にやる気を出したロイスが率先して工房を出た。
訪れた麓の村にて、村人からこんな話を聞く。
「最近あの山に恐ろしい魔物が住み着いちまって困ってるだー。ちょうどいいから退治してけれ」
「どうせ行くんだ、お安い御用だぜ、おっちゃん」
「こりゃありがてー」
そして問題の山に登る事に。
「石を採りに行くからには、そりゃ岩山よね、ボルダリングが得意になりそ…っ」
「これ、キツイよねっ、簡単に山を登れる魔法とかないのかなぁ」
「お、アイミーそれいいね!それかさ、誰かの武器で空飛ぶじゅうたんとか出してほしい!」
「お二人、大丈夫ですか?手を貸します」
「ありがとっ!」
ロイスは二人に向けて言葉を掛けつつ、手はアイミーに差し伸べていた。
だがそれを掴んだのはリリであった。
「二人とも大丈夫?」
「サチは余裕そうだね。何でそんなに身軽なの?」
「私ってば意外と、高いトコに登るの好きかもっ」
「そういう事言うと…」
「煙と何とやらは、高い所が好きってな!」
「思った通りの返しー」
「大丈夫、サチ気づいてないよ」
「だねー」
「…皆さん、仲がよろしいのですね」
やがて登り切ると、やはり魔物が待ち構ていた。
「ロイスさんは隠れてて!」
「やいやいっ、人間共、ここはベレス様の縄張りだぞ!無断で入ったヤツは自慢のカマで真っ二つだ!」
青っぽい体の中型サイズの悪魔だ。大きなカマを持っている。
が、その自慢のカマを使う間もなくサチのしもべとなる。
「ひええ!おっかねぇ娘だ、悪かった!山を出て行くからお助けをっ」
「人間達に二度と悪さしないって誓える?」
「誓うとも!オレっちのカマ、奪わないでっ」
「そんなのいらねーよ」
「って事は、許してくれるのか?」
「俺はサチほど優しくないんでねっ、と。成仏しろ」
ボシュがあっさり大剣でとどめを刺した。
「お前は甘いんだよ。見逃すつもりだったろ」
「そんな事は…」
「い~や。見逃す気満々だったな、ありゃ」
「可愛くもなかったし、何で?」
「まさかサチ、ああいうのがタイプ…っ」
「違~うっ!」
「あのぉ、皆さん、先に石を…」
賑やかな一行に圧倒されつつ、ロイスが本来の目的を思い出させる。
「そうだった。魔物倒して満足してたぜ」
「ごめんなさい、それで、石はありそう?」
「はい。あるにはあるのですが、質があまり良くないみたいです」
「見ただけで分かるなんて凄いですね!」
散々自信なさげにしていたが、これならば素質アリかも!と皆は思う。
中でもマシな石を見極めて持ち帰る。
再び工房にて。
ヤル気に満ちたロイスが、熱したはがね石をハンマーで叩く。
「痛ぁっ!」
何と叩いていたハンマーが折れてしまったではないか。
「凄い音がしたけど、大丈夫?!」
「…大丈夫じゃ、ないかもです。私の腕が未熟なのです、鍵を作るなんてやっぱり無理です!」
「またかよ…」
「振り出しに戻っちゃったね」
すっかり落ち込むロイスに、サチが囁く。
「ここで諦めたら誰も救えない。何か方法を考えよう?」
「っ、サチさん、距離が、近いです…」
「方法、思いついた?」
最後にふっと耳に息を吹きかけるサチ。
「なあ。こういう時に使う手か?ああいうの」
「う~ん。ありゃ何のテクだろうね」
「そういうの私に聞かれても…っ」
謎のサチの行動はしかし、ロイスのひらめきを生んだ。
「あっもしかしたら!名工のハンマーがあれば未熟さをカバーできるかもしれません!」
「効果あったみたいだぜ」
「ビックリ!今度アタシもやってみよーっと♪」
「それで、そのハンマーってどこにあるんですか?」
「森にある道具屋にあるのですが、問題は偏屈な店主か譲ってくれるかどうか…」
「ま~た弱気発言出たな。サチ、もいっちょやってやれ」
言われたサチが、意味深顔でまたもロイスに息を吹きかける。
「ひゃっ…、くすぐったい!とにかくすぐに行ってみましょう!」
「尻を叩くよりもラクチンだな」
「だわねー」
「もうっ、サチ、悪ふざけはもうやめなよ?」
「ふざけてないよ。私はいつも真剣」
サチの真っ直ぐな目は確かに、嘘を言っている目ではない。やはり謎である。
すぐに森の道具屋を訪ねる一行。
「ワシが偏屈な店主じゃ。何か用か?」
「おいおい、自分で偏屈名乗ってるぜ。相当だな、こりゃ」
「何か言ったか、若者よ」
「いや何も!ほらロイス、早く用件言え」
ギロリと睨まれたボシュは、後ろに隠れるように立つロイスを引っ張る。
「は、はいっ。あの!名工のハンマーを譲ってくれませんか!」
「簡単には譲れん。何しろワシは偏屈じゃから!おおそうだ。そんなに欲しいなら酒造りに使うブドージュの実でも集めてもらおうか」
「それで譲ってもらえるなら。ねえロイス?」
「はい、もちろん!」
「んじゃ、取りあえずそれ集めますかー」
そういう事になった。
道具屋を出て再び森を彷徨い歩く事小一時間。
「なあ。その実はどこに生えてるんだ?誰か見た事あるか」
「酒造りに使う実は様々ありますので…」
「簡単に引き受け過ぎたわね」
「サチ、何か知ってる?」
「そのお酒飲んだ事ある。香りを嗅げば分かると思うけど…あっ、あれかも!」
「お姫様連れててラッキーだったわね」
ポツリと零したリリの言葉をわずかに聞き取ったボシュが目を瞬く。
「ん?今何て言った?」
「分かる人がいてラッキーって言ったの!」
たわわに実がなっている木に近づいて行く。
果実の良い香りに混じって邪悪な気配も漂って来た。
「何だか寒気がっ…」
「ロイスさん、皆気を付けて、魔物がいる」
とっさにロイスを背に庇うサチ。
そんな行為に男のプライドも何のそので、気弱なロイスは迷いなく甘える。
身近に頼れる女性フォズがいるせいで麻痺しているのか否かは、定かではない。
「またも人間が迷い込んだか。この実が引き寄せるのか、それともオレ様に会いたいのか?うへへっ」
オレンジの仮面とブーツ姿のピエロのような人型の魔物だ。
紫のマントをたなびかせ、両手に持つ巨大なフォークらしき武器を交差してカチャカチャと音を鳴らす。
「森に似つかわしくない派手な野郎だな!」
「キラージャックです、村人がかなり犠牲になっていますっ」
「安心しろ。俺らがあんなのに負けるワケねーだろ?おい!そこどけ。お前なんぞに用はねえ」
「今日のは威勢がいいな。切り刻むのこそ至福の時、楽しくなりそうだ、お前みたいなのは大歓迎、どんどん来ーい!」
「ほざけ、逆に切り刻んでくれる!」
「させるか、バイキルトー!」
掛け声と共に、魔物の体を邪悪な光が包み込む。
「何?アイツ今、何をした?」
「自らの攻撃力を上げたのよ。ボシュ、下がって!出でよ、マール・デ・ドラゴーン!」
森にたちまち波が押し寄せ海賊船が姿を現す。
「ななっ、何事か!ぐおおおー流されるもんかー、やや、オレの武器がっ。これでは切り刻む事ができんではないかーっ」
「たまには私も魔法戦士らしく剣でやる。絶対零刀!」
「おお、そんな技いつ覚えた?やるなアイミー!」
「これはいつもできる訳じゃないの。何て言うか、心次第?」
魔物はアイミーの剣により再起不能となった。
「ってかアイミー、いつ剣なんて?」
「皆みたいに、いつの間にか持ってた。あまり自信なくて使ってなかったの」
「それをどうして今?」
「ロイスさんや、ダーマ神殿の皆さんのため、かな」
「感無量っ、アイミーさん、素晴らしかったです!」
こんなやり取りを冷静に分析するリリ。傍らのボシュに囁く。
「アイミーもなかなか隅に置けないわね。見て、ロイスの目。完全にハートになってる」
「あんの野郎っ、おいコラ…」
「ストーップ!今やる気そぐ事ないでしょ。職人としての役目を果たしてもらってからにして」
「クッソ、覚えてろ?」
女性に免疫があろうがなかろうが、男達は皆天然の愛らしさには翻弄されるもの。
例え勘違いでも、その影響がプラスに出るなら文句はない。
「皆、この実で間違いないわ、店主さんが言ってたブドージュの実。たくさんなってる!」
「おお、そうですか、早く摘んで戻りましょう!」
ボシュとサチが木に登り、実をもいで下に落とす。
リリとアイミー、ロイスがそれを広げた布でキャッチ。
「これがチームワーク…いいものですね」
「新鮮でしょ。あなたの仕事はこういうのじゃないものね」
「一人で部屋にこもってハンマー叩くのも、楽じゃないよな」
「ええ…。いい経験をさせていただきました。きっと忘れません」
「早く神官の皆さんを助けましょう。皆さんきっと、ロイスさんの事見直してくれますよ」
「ちょっとアイミー、その言い方だと、今のロイスがダメな人みたいよ?」
「いいんです、リリさん。事実ですから」
こんな返答にはあえて触れずサチが言う。
「さあ、これだけ摘んだらいいでしょう」
「そうですね、戻りましょう!」
ロイスの明るい声を受け、リリは軽く肩をすくめる。
「ホントに気にしてないみたい。意外と打たれ強い?気遣いなんて不要か~」
「リリ姉は気にしぃなんだよ。さ、行こうぜ」
「うん…」
ポンと一瞬肩に乗せられた手が、やけに温かく感じてしまったリリであった。