道具屋に戻ってみれば、店主は相変わらずの偏屈ぶりを見せて来た。
「おやおや驚いた。本当に持って来たのか!」
「ムカっ、本当にってそっちが言ったんじゃん?」
「リリ姉っ、そんな言い方は…」
「だーって何かさー、バカにされたみたいで!」
憤慨するリリに気後れしつつも、ロイスが前に出る。
「ここは私が!ええと、これでハンマーを譲っていただけるのですよね?」
「やれやれ。あの木の辺りには魔物が住み着いていたはずじゃが」
「そんなのはあっさり倒した。全然手応えなかったぜ!」
「ボシュは口での応戦だったけどね。実際戦ったのはサチとアイミーだから」
「いらん事言うなっ」
「倒したとな?ではこれでいつでもブドージュを採りに行けるわい!」
「ええ。いつでもどうぞ。まだまだなっていました」
店主がサチを見て大きく息を吐き出した。
「お前さん、いい顔をしとるな」
「え?」
「おいジジイ、黙って聞いてりゃ年甲斐もなくウチのリーダー口説いてんじゃねーぞ?」
「待て待て、そんな意味じゃない。ワシはもうそんな元気はないわい!安心せい、お前さんの恋敵にはならんでな」
「はぁ?俺は別にこいつにそういう感情なんてっ」
途端にムキになって否定し始めるボシュであった。
「約束は約束じゃ。名工のハンマーを譲ってやろうではないか」
「偏屈でも約束は守るのね!」
「リリ姉ってば…っ」
「ところで、おぬしはゴルムの助手か?」
「はい。師匠をご存じなのですか?」
「ああ。ゴルムの助手のくせに、ハンマーに頼るとは情けない!」
こう言われては言葉がない。ロイスは再び落ち込む。
「…だが、あやつは滅多な事では弟子など取らん。よほどお前さんの腕を買っているのだろうさ」
「そ、そうでしょうか…っ」
顔を上げたロイスが期待のこもった目で店主を見るも、会話はすぐに打ち切られた。
「さあ、用が済んだら帰った帰った、早速この実で酒を造らねば!忙しくなるわい」
追い出されるように道具屋を後にした一行であった。
工房に戻ると、ロイスはすぐさま仕事に取り掛かる。
また同じ工程が始まり、石を熱してはハンマーで叩きを繰り返して行く。
「こうして鍛えて、不純物を取り除き、丈夫な鋼を作るのですっ、えいやっ」
「ロイスの顔つきが変わったみたい」
「一人前の武具神官だわね」
こんな言葉を掛けられ、ロイスがふと顔を上げた。
「私はまだまだ未熟者です…でも、そんな私を信じてくれる人のために、期待に応えたい。必ず神殿を救います!」
「やっぱ変わったじゃねーか」
「最初は助けてください、だったもんね」
そう、今のロイスは自ら助けようとしている。
しばらくして、いよいよ最後の行程だ。鍵の先端に魔法がかけられる。
「完成しました!」
「やったわね、おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「これでやっと扉が開けられるな」
「すぐに向かおっ!」
聖杯を取りに宝物庫に向かうも、こんな所にも魔物が来ていた。
それはいつかどこぞの城で門番をしていた、甲冑姿の大柄な人型魔物だ。
今回のはグレーとオレンジ色をしている。
「やはり聖杯を取りに来る者が現れたな。フォズめ、余計な入れ知恵をしてくれる!」
先回りして待ち伏せしていたようだ。珍しく頭もキレる魔物らしい。
「まさかここにもいるとは…っ」
「我はマジックアーマーなり。ここには入らせぬ」
「残念だったな!こっちはお前に似たヤツ前に倒してんだ」
「だからどうだというのだ。そんな事は関係ない!」
魔物が激しく斬りかかる。
それをボシュが透かさずガード。それは目にも止まらぬ早さであった。
「早いっ、いつの間に?…ボシュっ、後は私が!」
その早さはサチでさえ見逃してしまうほどで、思わず遅れを取ってしまう。
負けじと素早い動きで敵に近づき、短剣を複数回に渡り斬りつけた。
「ググ…。まさか我が破れるとは、無念なり…」
「凄い、二人とも!あっという間に決着ついたよ」
「私あんなに早く動けない、やっぱりサチは凄いね」
私だけじゃない、ボシュも十分凄いとサチは言いかけた。
だが言わなかった。
皆で切磋琢磨しながらここまでやって来た。
それぞれの特技や特性を生かして、随分強くなった。
それはとても嬉しい事だ。
だが半面、どこか嫉妬のような感情もある。特に異性であるボシュに対しては。
自分がリーダーで皆を誘った手前というのもあるが、それだけではない。
女だからできない、女だから弱い。そう思われる事が何より嫌なのだ。
ロイスの手により、鍵が扉の鍵穴に差し込まれた。
ガチャリと音がして、扉が開く。
「開かなかったらどうしようかと思いました…」
「ヤッダー、悪い冗談ー!」
バシリとロイスの背を叩くリリを筆頭に、ワラワラと中に入る面々。
そして手分けして探すもなかなか見つからず。
「中がこんなに雑然としてるとは思わなかったよ…」
「神官って、意外と片付けられない人達の集まりだったり?」
「時間がもったいないよ、リリ姉、水晶でありかを占えたりしない?」
「だからぁ~、アタシ占い師じゃないってば!」
「確か神秘の水晶ですよね?出来ると思います!是非やっていただきたい!」
「何で知ってんの?」
「もしかしてお前が作ったとか」
「水晶は作るものではありません」
毅然とした答え方をしたロイス。
そこに突っ込んだのはリリではなく、これまた珍しくアイミーであった。
「お兄ちゃん怒られたー!」
「あのなぁ…。お前、リリ姉に似て来たんじゃねーか?」
「そう?」
「まあいいや。じゃあ、やってみようじゃないの?」
リリがガサゴソとカバンから水晶を取り出す。
「どうやれって言うのよ?チチンプイプイー、とかどう?」
「何か映ってるよ!」
「マジ?!」
いい加減に呪文を唱えて水晶から目を離していたリリが、驚いて視線を戻す。
「ホントだ。これどこ?暗くて良く分からな…」
「奥の方にこういう棚がありました!」
「やけに生き生きしてるな、アイツ」
「きっと皆のお陰だよ」
いやお前だろ、と皆の目が言っている事にサチ本人は気づかず。
そしてついに奥の棚に目的の聖杯を発見。
「マジで見つかっちゃった」
「もう立派な占い師だな、リリ姉?」
「やめてよ~!」
光の聖杯を持ったロイスを先頭に、神殿の門前へと移動する。
「困りました、これの使い方が分かりません…」
「貸して」
サチがおもむろに聖杯を掴むと、いつもの短剣を掲げるように片手で空高く持ち上げる。
「さあ、邪悪な魔力を払うわよっ」
クセでドラゴーン!と言いそうになるも、何とかこらえてこう叫ぶサチ。
「黒い霧よ、去れー!」
もともとサチはオーラをまとっているため、迫力がありそれなりに聞こえる。
そして黒い霧はどんどん晴れて行った。
「サチが使い方知ってて良かったぜ」
「魔法書に書いてあったんだね」
「アタシらよく見てなかったから」
「ううん。あれには作り方しか載ってなかった」
「さすがはサチ様!さあ、これで中へ入れます!」
サチの答えに目を丸くする3人。ロイスだけが羨望の眼差しでサチを見続けている。
「…ま、いっか。さすがサチ、って事で」
「そうだよ、早く助けに行かないと!」
神殿の中は何もかもが氷漬けだ。まるで時が止まったように思える。
「凄い冷気だわ」
「まるで極寒の地だわね…」
ぷるぷると震える一行は、すぐに氷漬けのフォズ大神官を発見。
駆け寄ろうとした瞬間、魔物が現われた。
「キッシッシ。わざわざわ入って来るとは愚か者共だ!我は死神の騎士。ここが貴様達の墓場となるだろう」
「我は悪魔の騎士。ここが貴様達の墓場となるだろう」
先に口を開いたのは、丸い盾と斧を持った赤とピンク、次の1体はグレーと青で斧だけを持ったどちらも鎧姿の人型魔物だ。
魔物の言い分に真っ先に反論したのは、珍しくアイミーだった。
「…神聖な神殿を墓場だなんて、バチが当たるんだからね!」
「アイミーったら、やけにご立腹だわね」
「俺らの実家教会なんだ。こいつは人一倍そういうの我慢ならない。魔物共!ムダ口叩く余裕はもうないぜ!」
そんな凛々しい姿を目にしたロイスが密かにつぶやく。
「怒った顔も素敵だ…」
幸いこの声はボシュには届かず。
一人後方に下がったロイスは行方を見守る。
戦いはいつもの展開を迎え、最後の一撃はアイミーに託される。
「でも待って、ここでやっつけたら、この魔物の墓場がここになるよね?」
「こまけー事気にすんな!全力で行け!フォズを助けるんだろ?」
「ええ~い、ざざん波~!加えて追撃レインボー!」
レインボー効果のお陰で2体は同時に仲良く倒れた。
「2回攻撃はズルだ!…ギリ持ちこたえてたのにっ」
「うぬぬ、ここが俺達の墓場になるとは…。我が主よ、お許しをっ」
「だからっ、墓場は勝手によそで作ってください!ここはダメ!」
最後までこう主張するアイミーであった。
サチが聖杯をかざすと、氷が解けてフォズ大神官が目を覚ました。
「私の声に応えてくれたのですね。あなた方の勇気に心から感謝します」
「大変でしたね。こんな事態は初めてでしょう?」
「いいえ。前にも幽閉された事があります。もう慣れっこですからお気になさらず」
「さすがは大神官、肝が据わってるわ!」
「フォズ様はとても頼りになります」
「ロイスもご苦労でした。ですがまだ終わっていません、奥の祈りの間に、私達を氷漬けにした魔物が残っています」
「やはり…」
「そりゃあんな小物は、所詮手下だわな!」
「ロイスは聖杯で他の神官達を戻してあげてください。サチさん達は私と祈りの間へ」
フォズと共に静まり返った廊下を進む。
「不意を突かれたとはいえ、多くの神官達を凍らせるほどの力を持った魔物。サチさん皆さん、くれぐれも油断なさらず」
「任せとけって!」
「ボシュさんはいつも頼もしいですね。それからアイミーさん、ずっと見ていましたがとても強くなられましたね」
「そうですか?ありがとうございます!」
「どうかお気をつけて…」
この一行にここまで世話になるとは思っていなかったフォズ。
迷いながらも彼らに託す事とした。