祈りの間にて、今回の黒幕と対面する。
「やはり来おったな。我が名はスノーエルダー。人間共を氷漬けにしたのは我である」
「…神殿を封印したのも?」
「で、テメーは何の魔物だ?」
サチは何か引っかかりを覚えている様子。
そしてボシュも首を傾げる。
無理はない。四つ足で竜のような頭部をしており、背には羽に加えて何と木が生えているのだから!
全体的に薄緑色で実に珍妙な姿だ。
「お前も謎だろ、木だぜ?木!もしかして動物じゃなくて島かも」
「…」
「サチ?」
「もし神殿を解放する者が現れるとしたら、それはお前に違いないと我が主も言っておられた」
「おい、二人して無視かよ!」
「あるじ、とは豪氷天の事ですね」
「それは?」
「魔王復活を企む四天王の一人です。復活の妨げとなる神殿を封じるつもりだったのでしょう。決して許されぬ行為です」
「謎が解けたわ。結界を張ったのはその豪氷天ね」
「お前達が神の名の元に我らを排除するならば、我らは大魔王の名の元に人間共を排除するまで!」
「もっともらしく聞こえるけど、要はこじつけよねぇ」
「違いねえ」
薄緑の魔物が唸り、ゴゴゴ…と地響きが始まる。
「私もお手伝いいたします。サチさん達に神のご加護があらん事を…」
「大神官様に加わっていただけるなら鬼に金棒です!皆、できるだけたくさん攻撃して!戦いが長引けば全滅の可能性も…」
「ちょっと?何それどういう事さ?!」
「そんな事はさせねえ!やるぞ、皆!」
謎が多い今回の戦い。
フォズが度々回復魔法を掛けてくれたお陰で、リリも攻撃側に回る事ができ、どうにか戦いに勝利した。
「我が敗れても、豪氷天様が必ず貴様らを…っ」
「実にお見事でした」
「フォズさんの助けのお陰です。ありがとうございました」
「じゃ、広間に戻ってアタシらも他の神官達を助けましょ」
戻ってみると、ちょうど全ての神官を元に戻したところだった。
「ゴルム様、ご無事で何よりです!」
「お前が救ってくれたのか。実に見事な働きであったな」
「いいえ…。私一人の力ではありません。私を信じてくれた皆さんのお陰です」
「あいつ、最初よりぐんと頼もしくなったな」
「いずれはゴルムの後を継いで、立派な武具神官になる事でしょう」
「ところで、どうしてフォズさんは魔王が復活するって知ってたの?」
「神のお告げにより、四天王が魔王を復活させる未来を視たのです。そもそも四天王は過去に封印されているはずなのですが…」
「神のお告げっ?!そんな事まで…っ」
「な?分かったろ。こっちの大神官様は特別なの。リリ姉が大神官になっても、心話やらお告げは無理って事」
「リリ姉、占い師とか霊媒師嫌ってたじゃない。なんでそんなにこだわるの?」
「霊媒師は初耳だけど!どうせなら神がかりたいじゃん?」
「なんじゃそりゃ?」
脱線した3人だが、フォズの声を受けて耳を傾ける。
「いずれにせよ邪悪な者が迫っていると分かり、来たるべき未来に抗うため、高位職の育成に力を入れていたのですが…」
「そのせいで神殿が狙われてしまったのね」
「豪氷天がこのまま引き下がるとは思えません。次なる手を打って来るでしょう。ですが私は信じております。サチさんが正しい未来へ導いてくださる事を」
「どうして私なの?さっきの魔物も私の事知ってる感じだった。どうして…?」
戸惑うサチに、フォズは気持ち近づき、寄り添うようにして囁く。
「サチさん。あなたはもう立派な冒険者なのです。魔物達のトップにも存在を知られるくらいに」
「私は別に有名になりたい訳じゃ…!」
「どうか逃げないで。あなたは一人ではありません。それに、敵すら味方にできるくらい魅力的な方です。きっと大丈夫」
「あの、それってジョニーの…」
フォズはふっと微笑んでサチの背に手を当てた。
それは本当に女神の笑みに思えて、皆を振り返る。
「…っ、皆!女神様はフォズ大神官だった!」
「私は女神などではありませんよ。神に仕える一神官に過ぎません」
「お前と違って神々しさが半端ないもんな」
「サチのは光の玉効果のオーラだもんねー」
「二人とも、サチの事ディスりすぎっ」
「いいの。私が目指してるのは女神じゃないもの」
「アンタのオジン・キラースマイルは神がかってるけどね~」
賑やかな面々を眺めながら、フォズは未来に確かな希望を抱くのだった。
・・・
例のごとく夜の宴が開かれている。
「ジョニじい来てくれて嬉しいっ」
「広い酒場だったからのー。ボヨ~ン…」
「おいアイミー、あんまりそいつに近づくんじゃねーぞ」
「だって嬉しいんだもん」
「あらら。もう酔っ払ってるみたい」
グラスを片手にジョニーに寄りかかっているアイミーの顔はすでに真っ赤だ。
「いいじゃない。アイミー今回頑張ったもん。ねえジョニじい?活躍ぶりは、当然知ってるでしょう?」
「そうなのであるっ、労うのは当然であるっ」
「それは構わんが、その労い方が問題なんだよ」
「お触り禁止ねー」
あまりに気持ち良さげなアイミーに、皆それ以上は目をつぶる事にした。
「それよりサチ、あの珍妙な魔物見た時、何考えてたんだ?あれが動物か島か考えてたとか?」
「あれは竜でしょ。木が生えてるから変に見えただけよ」
「って、それ考えてたのか?」
「違う。あの時考えてたのは、神殿に結界を張ったのが何者か」
「あの何とかエルダーじゃないの?氷漬けにしたのアイツだったんだし」
「まぁ、多少の小物感は否めないがな」
「そう、アイツじゃ小物過ぎるって腑に落ちなくて。だってダーマ神殿といえば、高位職の人達が集う場所よ?」
「サチ殿ボシュ殿、なかなかじゃな。その通り。あのような結界は誰しもが張れるものではない」
「豪氷天って、相当な強敵なのね」
すっかり眠り込んでしまったアイミーを起こさないように気遣いながら、ジョニーが会話に加わる。
四天王、という言葉が頭を過ぎり、サチ達は神妙な顔つきになる。
「まあとにかくじゃ。進む方向は間違っておらん。このまま突き進むのみ、である!であろ?ボシュ殿」
「お、おー。引き下がるって選択肢なんてねーよ!だろ?サチ、リリ姉」
「当然」
「もち!アイミーだってそう言うよ」
最初にボシュに答えを促したのは、こういう展開を予想しての事。
今やジョニーは、皆の性質をとても良く理解している。
密かに満足げに頷くジョニー。そっとアイミーの太股に触れようと試みる。
「おい。気づかれないと思ったか?鼻の下伸びすぎなんだよ、エロジジイ!やっぱ離れろっ」
「なな、何の事じゃ?ほれアイミー殿が起きてしまうぞい、揺するでないっ」
ボヨンボヨンと巨体が揺れる。
「何だか面白そう!アタシもやるっ、それ!」
「リリ殿までっ、やめんかいっ」
「…」
「サチ殿、黙ってないで助けてくれたまえ!」
「私もやるーっ」
ジョニーに味方はいなかった。
「んん…何?地震?!」
「アイミー。こっち来い。それは背もたれじゃねー」
「あっ、ジョニじい、ごめんなさい、重かった?」
「ボヨン、ボヨーンっ、弾みが付き過ぎて止まれんのであるっ」
「何やってるの?」
「新しい遊びを発見したらしい。お前はいい子だから加わるなよ?」
「っ、いい子?!」
サチとリリがジョニーで遊ぶ。
いつの間にか酒場にいた客も混じり、店内は賑やかな笑い声で満たされる。
「あ~良く寝た!何かスッキリ。お兄ちゃん何飲んでるの?」
「水だ水。ほら、お前も飲め。酒はもういいだろ」
「ウソ!絶対水じゃないでしょ」
ボシュは自分のグラスとは別のグラスをアイミーに差し出す。
すぐに見破ったアイミーがボシュの持つグラスを奪う。
「あっ、こら、それは俺の!」
「ん~、これはテキーラ…」
「バカ、一気に飲み干すヤツがあるかっ、マジで水飲め!」
「だってーお兄ちゃんが水だって言うからー」
そして再びアイミーはダウンした。
「あれ?アイミー起きたんじゃなかったの」
「また寝た。俺のグラス一気に飲み干しやがった」
「やるぅ~」
「済みませーん、テキーラ二つ!」
「…おいサチ、まさかお前も負けずに一気飲みする気か?それも二杯!」
「しないよ。ボシュのなくなっちゃったでしょ。あ、いらなかった?」
「っ!…いや、サンキュ」
「何々ー、二人イイ感じじゃん?アタシもテキーラ飲もっと。すいませーん、こっちにテキーラもう一つ!」
酒豪の女二人に鍛えられたボシュの夜はまだまだ終わらない。
「だけど、豪氷天って言うからには、やっぱ氷関係だよね」
「寒いのは正直苦手だ」
「私は暑いよりもいいかな」
「って事は、ボシュは夏生まれでサチは冬生まれ?」
当たり!と二人が答えた。
「リリ姉は?待って、当てる!う~んと、秋かな?」
「凄い、当たり!アイミーは?」
「冬だ。サチと一緒か」
「なら豪氷天との戦いも有利だわね。今やウチの戦力だから、良かった~」
再びジョニーの背でスースーと寝息を立てるアイミーに目をやる3人。
いつの間にかジョニーも共に夢の世界に飛んでいるらしく、寝息が聞こえる。
「おかしな光景だな。オヤジとお袋が見たら卒倒しそうだ」
「だろうね」
「いつかこうして、異種族同士も仲良く暮らせる時が来るといいな」
「それはどうだろうね」
「リリ姉、批判的だな。エルフと人間の時は賛成派だった気がするが?」
「そんな事ないよ。スライム達とは仲良くしたいし!そういうボシュは?魔物と見れば血も涙もないし、仲良くする気ゼロじゃないの」
「今はそうだ。魔物は敵って認識してるからな」
「そう。人間に悪さをするから、敵という認識になってしまってる」
「そうだよ。そうなんだよ!アタシの家族だって…」
リリが途中で言葉を留める。それを受け継ぐようにサチが続ける。
「私の幼馴染もそう」
「そういう人間達が全て魔物を受け入れるには、相当時間がかかりそうだ」
「それでも、いつかそういう世界になるといいな」
「だね」
「ああ…」
いつも賑やかなサチ達一行。宴の後半にこんなふうにしんみりとするのは稀だ。
それだけ進む先が険しくなって来ているという事でもある。
改めて目指す世界を語り合う事で、目標を再確認し己を奮い立たせる。
「姉さま、サチは頑張りますっ」
気を引き締めるべく、テキーラを飲み干すサチであった。