旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第58話:初代王が遺したもの

 

 

 やって来た聖峰イーフは、何という事はないただの岩山。

 だがしかし、ここにはイフレムの象徴である炎の大玉石がある聖なる山だ。

 

 

「また山登りかぁ…」

「男性達は元気ですわね。そこにサチ殿が加わっているのも不思議な感じですが」

 

 男二人に負けず劣らずサチが先を行く姿が見える。

 

「本当にお強くなられて。あの時から、あの方はただ者ではない雰囲気を漂わせていました」

「ただ者ではない、雰囲気…って」

「何かそれ分かるわー」

 

 

 少し行った先で3人が立ち止まっていた。

 

 

「あれ、どしたの?」

「まさか道に迷われたのではないでしょうね?」

 

 

「うう、反論の余地なし!」

「こんな山奥で本当に研究してるのか?」

「なー、それ!俺も少し不安になって来たんだわ」

 

 

 フラメの大きなため息がこだました。

 

「ゴメンね、先に来ちゃって。てっきりブレズが道を知ってるものだと思って」

「お気になさらず。暴走しないように見張る方がいないと?」

 

 フラメがアイミーを見てウインクする。

 納得顔で頷くアイミーであった。

 

 

 

 そこへ、向かいから息を切らせてやって来る者が。

 

「ブレズ様にフラメ様ではありませんか。なぜこのような場所に…早くお逃げくだされっ!」

「そんなに慌ててどうした?ちょうど良かった、アンタに会いに来たんだ」

「洞窟を探索していたら、いきなり魔物がっ」

 

 

 後を追うように、濃い紫のモヤモヤしたものがいくつも近づいて来る。

 

「もくもっく~~。オレは魔性雲さ~。眠りを邪魔するヤツは厚い雲で覆ってやる!」

 

 

「ひいっ、しつこい魔物じゃ」

 

 若者達の背に庇われる賢者の老人。

 

 

「いつの間にまた魔物が住み着いたんだ?」

「本当に性懲りもなく!ここは聖なる山だというのに腹立たしい限りです」

 

 

「ここは私に任せて。ハードラックラッシュ!不運もおまけに付けてあげる!」

 

 

「お、それいいね~サチ!」

「バチが当たったのです」

 

 

「ぐももっ、やられた~。ツイてないや!雲行きが怪しくなる前に退散だぜっ」

 

「負け惜しみ言うな。お前はもう死んでいる」

「どっかで聞いたセリフ!」

 

 捨て台詞と共に紫のモヤモヤは霧散して行った。

 

 

「見事に全て追い払いましたね」

「俺達が手を貸すまでもなかったな!」

 

 

 

 そして賢者に話を聞くが…。

 

 

「生憎ワシも、初代王が残したモノについてはよく知らんのです。じゃが古い文献によると、王が建てた炎熱の神殿に遺物があるとか」

 

 そこは誰でも入れる訳ではなく、扉を開くのに迎え火の鍵と送り火の鍵が必要だそうな。

 

「またかよっ」

「そういう事なら、早速探しに行こうぜ!」

 

「でしたら手分けして探した方が良さそうです。私もお手伝いします。サチさんは王子達と迎え火の鍵を。私はダーマ神殿に戻って助っ人と共に送り火の鍵を探しましょう」

 

 その場をテキパキと取り仕切るフォズの存在は実にありがたい。

 

 

「頼れる上司ってカンジだわね」

「それだとサチが頼りないって言ってる気が…」

「まさかぁ!使い物にならない時もあるけども?」

「それって姉さん絡みになるとだろ」

 

「後はまあ、若干ああいう姿とかも…」

 

 フォズの指示に従い無言で首を縦に振り続けるサチは、壊れた人形のように見えなくもない。

 こんな姿からは頼れる人間像は見えて来ない。

 

 

「フォズ大神官様は見かけに寄らずしっかりしてるな!」

「兄様っ!余計な事は言わなくて結構ですっ」

「おっと。杖で殴るなよ?」

 

 フラメの行動を先読みしたブレズが釘を刺した。

 

 

「セリフ取られちまった」

「お兄ちゃんもあれ言おうとしてたの?!」

 

「結論。人は見た目によらないってコト!」

 

 

 

 

 

 こうして二手に分かれて鍵を探す事となった。

 

 サチサイドは、賢者から聞いた森の洞窟へ向かう事となる。

 

 

「じゃあそういう事で。ブレズ、今度は場所分かる?」

 

「あ?そういう事ってどういう事?」

「まさか兄様、今の賢者との会話を聞いていなかったのですか?」

「お前達が聞いてただろ?問題ない」

「一体何をしていたのですかっ!」

 

 またも言い合いが始まった。

 

 

 それを見ていたボシュが一言。

 

「俺、あそこまでいい加減じゃないぜ?なあ…」

 

 

 振り返るも誰も聞いていない。

 

 

「森の場所だけどさ、アタシが占ってみようか」

「ナイス!リリ姉いいアイディア!」

「見てみよう!」

 

「俺も混ぜろっ」

 

 

 

 

 こうして目指す森の位置を割り出し、ブレズ兄妹と一行は歩みを進める。

 

 

「何だかワクワクするな!なあボシュ?」

 

「遠足気分では困りますよ?」

「いつもよりも賑やかで楽しそうだ」

「それについては同感かな」

 

「まあアイミーさん。兄妹で意見が合うのは珍しいですわね」

「時々ね、時々!」

「その時々すらないぞ、お前は。アイミーを見習え?」

「その理由は誰にあるのでしょう」

 

 

「まあまあ!兄妹それぞれのやり方があるし!ねえリリ姉?」

「う~ん。兄妹の事はよく分かんな~い。アタシ一人っ子なので!」

「サチだって一人っ子だろ?」

 

「そう。でも私には姉さまがいるからっ」 

 

 顔を見合わせる面々。

 嬉しそうにそう語るサチのお陰で、ケンカの勃発は免れたのだった。

 

 

 

 

 

 そうして森に到着し足を踏み入れた一行だが、様子がおかしい。

 

 

「何だか体が変じゃないか?」

「アタシも。体中がピリピリ痺れて来てるみたい!」

「皆も?良かったぁ、気のせいじゃなかったんだね」

 

「いけません、これは毒です!すぐにここから離れましょう!」

 

 

 フラメの発言を受け、慌てて森を出る一行。

 

 

「皆大丈夫?」

「俺は平気だ。アイミーは大丈夫か」

「うん。平気」

「アタシも。ビックリしたー。一体何なの?」

 

「魔物が毒を撒き散らしているようですね」

「あのまま森にいたら、皆お陀仏だったな」

 

 

 どうやら森全体が猛毒に侵されているようだ。

 

 

「そうなると、うかつに足を踏み入れれば命取りになりかねない」

「このままじゃ洞窟にたどり着けないじゃなーい!」

 

 

 

 そこへ近くの村の若者が近づいて来た。

 

「君達森に用があるのかい?やめた方がいい。あそこはもう入れないよ」

 

 

「何か原因があるのか?」

「つい最近だ。恐ろしい魔物が住み着いてしまって。誰も近づけないように毒の森にしたんだ」

「つい最近だと?」

「ただの偶然なら良いのですが…」

 

「私達が鍵を探しに行く事を予想したとか?」

 

 

 行く手を阻む魔物の仕業か。皆に緊張が走る。

 

 

「どうしても行きたいんだ。何か手はないか?」

「だったら、村に毒消し草があるから譲るよ」

「それは助かります、ありがとうございます!」

 

 

 

 若者に案内されて村へと向かう。

 

「こんな事ならキアリー呪文でも覚えておけば良かったな~」

「兄様は覚えてもすぐに忘れるでしょう」

 

「私もホイミ、ベホイミは僧侶時代に覚えたけど。もっといろいろ勉強すれば良かった」

「お前は今魔法戦士だろ。どっちみち使えないぜ」

「あっ、そうだった」

 

「そう言えば、リリ姉の水晶の技にキアリクがなかった?」

「え、それマジ?!知らなかった…」

「それが使えれば全員カバーできるじゃねーか!」

 

 

「だがもう村に来ちまったし。薬草も念のため貰っとこうぜ」

「そうです、あるに越した事はありませんし」

「お、アイミーを見習った成果か?やっと俺の意見に同意したな、フラメ!」

「たまたまです。たまたま」

 

 

 こんなシーンに、クスっと笑うサチ達であった。

 

 

 

 

 やって来てみれば、何やら村の中が騒がしい。

 

 

「大変じゃ!家の中に隠れろ」

 

「どうかしたんですか?」

 

 何でも森にいるはずの魔物が、なぜか村で暴れているらしい。

 その魔物はサチ達を見つけるや、目を光らせて向かって来た。

 

 全体的に白っぽい、人面昆虫のような魔物だ。

 

 

「いやっ、気持ち悪い…っ」

「ホント、何アイツ」

 

 

「来たな冒険者共!我が名はハヌマーン。グリザード様の命を受け見張っていたのだ!」

「やっぱりそうなの…?」

 

「何だっていい、売られたケンカは買ってやるぜ?」

「また俺のセリフ取りやがったな、ブレズ!」

 

 

「無鉄砲な兄で済みません」

「いえいえこちらこそ…」

 

 

 鼻息の荒い男二人はすぐに戦闘態勢となる。

 

 

 その後方にいた女性陣に、サチが声を低めて告げる。

 

「皆、気を付けて。アイツは全体攻撃をして来る」

「アタシらも危険って事か」

「皆さん、今度は私達で倒します。後ろで身を守っていてください」

 

「「了解、盾用意!」」

 

 

 今回は強力な助っ人が二人もいる。

 前に躍り出たフラメが得意技のグランドインフェルノを繰り出す。

 続いてブレズの猛火獅子王拳炸裂で見事魔物を倒した。

 

 

「おのれ、お前らごときに倒されるとは…」

 

 魔物が消えゆく姿を見送ってから、ブレズ兄妹の元に駆け寄る。

 

 

「王子様達、強いんですね!」

「おうよ!いつもこっそり城を抜け出して鍛練してるからな」

 

 

 サチが密かに、私もそうだったなとつぶやいた事には誰も気づいていない。

 

 

「兄様?もう少し次期王としての自覚を持ってください」

 

 杖でポカリと殴られ、妹にギロリと目を向ける。

 今回は察知できなかったと悔しがるブレズであった。

 

 

「それにしても、グリザードは私達の動きを読んでいるみたい」

「って事は、送り火の鍵の方も見張りがついてるかも」

「そうするとフォズさんが心配だね…」

 

 

 そこへ案内してくれた若者が村長と共に駆け付けた。

 

「皆さん!魔物をやっつけてくれてありがとう」

 

「いいえ。むしろこうなったのは、私達のせいですので」

「薬草をお探しとか。村中から毒消し草を集めました。どうぞお持ちください」

「わあっ、ありがとうございます、村長さん!これだけあれば入っても平気だね」

「使った事ない魔法だし、アタシが使い物にならない可能性大だからね」

 

「そんな心配はしてないよ。リリ姉にはもっと大事な役目がある。私達の命を守ってるんだから」

 

「…ありがと、サチ」

 

 

 どんな時でも仲間の沈みかけた心を放ってはおかない。

 

 こんなリーダー・サチの細やかなフォロー。

 それは決してドラちんの教えではなく、持って生まれた特性である。

 

 

 

 

 

「くしゅんっ…。誰か俺の噂をしておるな」

 

 遠く離れた地で、どこまでもストイックなドラちんがつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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