やって来た聖峰イーフは、何という事はないただの岩山。
だがしかし、ここにはイフレムの象徴である炎の大玉石がある聖なる山だ。
「また山登りかぁ…」
「男性達は元気ですわね。そこにサチ殿が加わっているのも不思議な感じですが」
男二人に負けず劣らずサチが先を行く姿が見える。
「本当にお強くなられて。あの時から、あの方はただ者ではない雰囲気を漂わせていました」
「ただ者ではない、雰囲気…って」
「何かそれ分かるわー」
少し行った先で3人が立ち止まっていた。
「あれ、どしたの?」
「まさか道に迷われたのではないでしょうね?」
「うう、反論の余地なし!」
「こんな山奥で本当に研究してるのか?」
「なー、それ!俺も少し不安になって来たんだわ」
フラメの大きなため息がこだました。
「ゴメンね、先に来ちゃって。てっきりブレズが道を知ってるものだと思って」
「お気になさらず。暴走しないように見張る方がいないと?」
フラメがアイミーを見てウインクする。
納得顔で頷くアイミーであった。
そこへ、向かいから息を切らせてやって来る者が。
「ブレズ様にフラメ様ではありませんか。なぜこのような場所に…早くお逃げくだされっ!」
「そんなに慌ててどうした?ちょうど良かった、アンタに会いに来たんだ」
「洞窟を探索していたら、いきなり魔物がっ」
後を追うように、濃い紫のモヤモヤしたものがいくつも近づいて来る。
「もくもっく~~。オレは魔性雲さ~。眠りを邪魔するヤツは厚い雲で覆ってやる!」
「ひいっ、しつこい魔物じゃ」
若者達の背に庇われる賢者の老人。
「いつの間にまた魔物が住み着いたんだ?」
「本当に性懲りもなく!ここは聖なる山だというのに腹立たしい限りです」
「ここは私に任せて。ハードラックラッシュ!不運もおまけに付けてあげる!」
「お、それいいね~サチ!」
「バチが当たったのです」
「ぐももっ、やられた~。ツイてないや!雲行きが怪しくなる前に退散だぜっ」
「負け惜しみ言うな。お前はもう死んでいる」
「どっかで聞いたセリフ!」
捨て台詞と共に紫のモヤモヤは霧散して行った。
「見事に全て追い払いましたね」
「俺達が手を貸すまでもなかったな!」
そして賢者に話を聞くが…。
「生憎ワシも、初代王が残したモノについてはよく知らんのです。じゃが古い文献によると、王が建てた炎熱の神殿に遺物があるとか」
そこは誰でも入れる訳ではなく、扉を開くのに迎え火の鍵と送り火の鍵が必要だそうな。
「またかよっ」
「そういう事なら、早速探しに行こうぜ!」
「でしたら手分けして探した方が良さそうです。私もお手伝いします。サチさんは王子達と迎え火の鍵を。私はダーマ神殿に戻って助っ人と共に送り火の鍵を探しましょう」
その場をテキパキと取り仕切るフォズの存在は実にありがたい。
「頼れる上司ってカンジだわね」
「それだとサチが頼りないって言ってる気が…」
「まさかぁ!使い物にならない時もあるけども?」
「それって姉さん絡みになるとだろ」
「後はまあ、若干ああいう姿とかも…」
フォズの指示に従い無言で首を縦に振り続けるサチは、壊れた人形のように見えなくもない。
こんな姿からは頼れる人間像は見えて来ない。
「フォズ大神官様は見かけに寄らずしっかりしてるな!」
「兄様っ!余計な事は言わなくて結構ですっ」
「おっと。杖で殴るなよ?」
フラメの行動を先読みしたブレズが釘を刺した。
「セリフ取られちまった」
「お兄ちゃんもあれ言おうとしてたの?!」
「結論。人は見た目によらないってコト!」
こうして二手に分かれて鍵を探す事となった。
サチサイドは、賢者から聞いた森の洞窟へ向かう事となる。
「じゃあそういう事で。ブレズ、今度は場所分かる?」
「あ?そういう事ってどういう事?」
「まさか兄様、今の賢者との会話を聞いていなかったのですか?」
「お前達が聞いてただろ?問題ない」
「一体何をしていたのですかっ!」
またも言い合いが始まった。
それを見ていたボシュが一言。
「俺、あそこまでいい加減じゃないぜ?なあ…」
振り返るも誰も聞いていない。
「森の場所だけどさ、アタシが占ってみようか」
「ナイス!リリ姉いいアイディア!」
「見てみよう!」
「俺も混ぜろっ」
こうして目指す森の位置を割り出し、ブレズ兄妹と一行は歩みを進める。
「何だかワクワクするな!なあボシュ?」
「遠足気分では困りますよ?」
「いつもよりも賑やかで楽しそうだ」
「それについては同感かな」
「まあアイミーさん。兄妹で意見が合うのは珍しいですわね」
「時々ね、時々!」
「その時々すらないぞ、お前は。アイミーを見習え?」
「その理由は誰にあるのでしょう」
「まあまあ!兄妹それぞれのやり方があるし!ねえリリ姉?」
「う~ん。兄妹の事はよく分かんな~い。アタシ一人っ子なので!」
「サチだって一人っ子だろ?」
「そう。でも私には姉さまがいるからっ」
顔を見合わせる面々。
嬉しそうにそう語るサチのお陰で、ケンカの勃発は免れたのだった。
そうして森に到着し足を踏み入れた一行だが、様子がおかしい。
「何だか体が変じゃないか?」
「アタシも。体中がピリピリ痺れて来てるみたい!」
「皆も?良かったぁ、気のせいじゃなかったんだね」
「いけません、これは毒です!すぐにここから離れましょう!」
フラメの発言を受け、慌てて森を出る一行。
「皆大丈夫?」
「俺は平気だ。アイミーは大丈夫か」
「うん。平気」
「アタシも。ビックリしたー。一体何なの?」
「魔物が毒を撒き散らしているようですね」
「あのまま森にいたら、皆お陀仏だったな」
どうやら森全体が猛毒に侵されているようだ。
「そうなると、うかつに足を踏み入れれば命取りになりかねない」
「このままじゃ洞窟にたどり着けないじゃなーい!」
そこへ近くの村の若者が近づいて来た。
「君達森に用があるのかい?やめた方がいい。あそこはもう入れないよ」
「何か原因があるのか?」
「つい最近だ。恐ろしい魔物が住み着いてしまって。誰も近づけないように毒の森にしたんだ」
「つい最近だと?」
「ただの偶然なら良いのですが…」
「私達が鍵を探しに行く事を予想したとか?」
行く手を阻む魔物の仕業か。皆に緊張が走る。
「どうしても行きたいんだ。何か手はないか?」
「だったら、村に毒消し草があるから譲るよ」
「それは助かります、ありがとうございます!」
若者に案内されて村へと向かう。
「こんな事ならキアリー呪文でも覚えておけば良かったな~」
「兄様は覚えてもすぐに忘れるでしょう」
「私もホイミ、ベホイミは僧侶時代に覚えたけど。もっといろいろ勉強すれば良かった」
「お前は今魔法戦士だろ。どっちみち使えないぜ」
「あっ、そうだった」
「そう言えば、リリ姉の水晶の技にキアリクがなかった?」
「え、それマジ?!知らなかった…」
「それが使えれば全員カバーできるじゃねーか!」
「だがもう村に来ちまったし。薬草も念のため貰っとこうぜ」
「そうです、あるに越した事はありませんし」
「お、アイミーを見習った成果か?やっと俺の意見に同意したな、フラメ!」
「たまたまです。たまたま」
こんなシーンに、クスっと笑うサチ達であった。
やって来てみれば、何やら村の中が騒がしい。
「大変じゃ!家の中に隠れろ」
「どうかしたんですか?」
何でも森にいるはずの魔物が、なぜか村で暴れているらしい。
その魔物はサチ達を見つけるや、目を光らせて向かって来た。
全体的に白っぽい、人面昆虫のような魔物だ。
「いやっ、気持ち悪い…っ」
「ホント、何アイツ」
「来たな冒険者共!我が名はハヌマーン。グリザード様の命を受け見張っていたのだ!」
「やっぱりそうなの…?」
「何だっていい、売られたケンカは買ってやるぜ?」
「また俺のセリフ取りやがったな、ブレズ!」
「無鉄砲な兄で済みません」
「いえいえこちらこそ…」
鼻息の荒い男二人はすぐに戦闘態勢となる。
その後方にいた女性陣に、サチが声を低めて告げる。
「皆、気を付けて。アイツは全体攻撃をして来る」
「アタシらも危険って事か」
「皆さん、今度は私達で倒します。後ろで身を守っていてください」
「「了解、盾用意!」」
今回は強力な助っ人が二人もいる。
前に躍り出たフラメが得意技のグランドインフェルノを繰り出す。
続いてブレズの猛火獅子王拳炸裂で見事魔物を倒した。
「おのれ、お前らごときに倒されるとは…」
魔物が消えゆく姿を見送ってから、ブレズ兄妹の元に駆け寄る。
「王子様達、強いんですね!」
「おうよ!いつもこっそり城を抜け出して鍛練してるからな」
サチが密かに、私もそうだったなとつぶやいた事には誰も気づいていない。
「兄様?もう少し次期王としての自覚を持ってください」
杖でポカリと殴られ、妹にギロリと目を向ける。
今回は察知できなかったと悔しがるブレズであった。
「それにしても、グリザードは私達の動きを読んでいるみたい」
「って事は、送り火の鍵の方も見張りがついてるかも」
「そうするとフォズさんが心配だね…」
そこへ案内してくれた若者が村長と共に駆け付けた。
「皆さん!魔物をやっつけてくれてありがとう」
「いいえ。むしろこうなったのは、私達のせいですので」
「薬草をお探しとか。村中から毒消し草を集めました。どうぞお持ちください」
「わあっ、ありがとうございます、村長さん!これだけあれば入っても平気だね」
「使った事ない魔法だし、アタシが使い物にならない可能性大だからね」
「そんな心配はしてないよ。リリ姉にはもっと大事な役目がある。私達の命を守ってるんだから」
「…ありがと、サチ」
どんな時でも仲間の沈みかけた心を放ってはおかない。
こんなリーダー・サチの細やかなフォロー。
それは決してドラちんの教えではなく、持って生まれた特性である。
「くしゅんっ…。誰か俺の噂をしておるな」
遠く離れた地で、どこまでもストイックなドラちんがつぶやいた。