一行は早々に森へ戻ると、一直線に洞窟を目指す。
そこはちょうど賢者が探索していたという場所だ。
「さっき魔物は退治したし、もういないようだな」
「こんな所で一人で研究されるとは、熱心な賢者ですわね。今度何か褒美を差し上げないと」
「ねえ!奥に箱がある!」
「ホントか?どれどれ!ボシュ、まだ開けるなよ?」
サチの呼びかけに、共にいたボシュにだけ釘を刺してブレズは奥へと足を早める。
「皆様、くれぐれも油断されないように!」
万一の事態に備え、フラメのみが後方で見守る。
「これまたいかにもな宝箱だな。ダミーじゃねえのか?開けたら魔物が出てきたり…」
「見てみた方が早いぜ」
ブレズの言葉に被せるように言い放ったボシュが、案の定勢い良く箱を開け放った。
警戒して一瞬後退したボシュの横から、恐れ知らずのブレズが中を覗き込む。
見たところ箱からは、魔物の類も煙もモヤモヤも出て来ていない。
「見ーっけ!」
「マジかっ、クソ、俺が見つけたかった…」
そこには鍵が一つだけ入っていた。
とその時。
洞窟の中にどこからか低音が響き渡る。
『ようやく来たな。待っていたぞ』
壁面に、狼のような顔つきの魔物が突如現れた。
薄暗い事もありその全貌は判然としないが、とにかくその迫力は並ではない。
後退る面々がフラメのいる位置に戻って来る。
「…お前がグリザードなの?」
「確かに、コイツが結界張ったなら納得だな…」
『ハヌマーンは倒したようだな。もっとも、ここで負けるようでは俺の相手などできんが?』
やや小バカにしたような口調で魔物が語る。
「てめぇがグリザードか?よくもぬけぬけと現れたな!俺が相手だ!」
「兄様!」
ブレズが繰り出した拳はグリザードを通り抜けた。
『イフレムの王子か。血気盛んなところは忌々しい炎熱の闘士にそっくりだ。ムダだ、俺の実体はここにはない』
そう言いつつ攻撃が一行に降りかかる。
見る見る辺り一帯が冷気に包まれた。
「ううっ…」
「寒っ!」
「アイミー!」
「お兄ちゃん…っ」
そのあまりの寒さに体が縮こまる。
ボシュは透かさずアイミーの体を引き寄せた。
「あっ、ブレズ、フラメ!」
「そいつらに何をした!」
気づけば二人が固まったまま動かない。グリザードが呪いをかけたのだ。
『我ながら見事な氷像が出来た。助けたくば俺に会いに来い。本気を出した貴様と戦いたい。待っているぞ』
そしてグリザードの姿は消えた。
「どうしよう、二人が氷漬けにされちゃった!」
「とにかくここに残しておく訳には行かねえ。外に運ぼう」
「そうだね。ボシュはブレズを。私達はフラメを運ぶわ」
どうにか二人を森の外に運び出す。
「どうする?このまま放っておけないし、村までは運ばなきゃだわよ」
「運べるさ。何なら俺が二人とも…」
そこへフォズが共の者を連れてやって来た。
「サチさん、皆さん!」
「良かった、無事だったのねフォズさん!」
「ナイスなタイミングで」
「フォズさんの姿を見ただけで不安が少し薄れたよ…」
フォズと共にやって来た男性が、氷漬けの兄妹を見て口を開く。
「遅かったか…それはイフレムの王子と王女だな」
「やはりそちらも待ち伏せされていたようだね」
「紹介します、ダーマ神殿所属の高位職バトルマスター、レグナ。それから魔法戦士ラシーンです」
「レグナだ。以後お見知りおきを」
「ラシーンだよ、よろしくね」
オレンジ色の髪を後ろで一本にまとめたレグナ。
日焼けした上半身むき出しの肌には模様が刻まれており、たくましさ満点だ。
一方ラシーンは、羽付きの紺の優雅な帽子を被り、同色の上下スーツも品がある。
「この呪いは徐々に体が凍り付き、やがて心臓までも凍ってしまう。グリザードを倒さなければ呪いは解けません」
「それなら、何が何でもやっつけなきゃ」
「おうよ。やってやるぜ!」
「私達はお二人をダーマ神殿に運んで、呪いの進行を遅らせるよう尽くします。どうかこの二つの鍵を持って炎熱の神殿に向かってください」
フォズは手にしていたもう一つの鍵をサチに託す。
「二人の事、よろしくお願いします」
サチはフォズにペコリと頭を下げると、キリリと前を向く。
「さあ皆、行くわよ!」
リーダーの号令を受け、一行はリリの水晶占いにより割り出した方角に走り出した。
人の命が懸かっているとあり気合十分の面々。思わぬ早さで目的地に到着する。
早速鍵を使い神殿の扉を開く。
門番などはおらず、代わりにカラクリ兵が目を光らせていた。
『ピピピ、侵入者発見!コレヨリ先、王族以外立入ル事ハ許サレナーイ!』
「そこを何とかっ、凛々しい兵隊さぁん?」
サチが前に出てこう告げるや、なぜかカラクリ兵は大人しくなる。
そしてはしゃぎ出す。
『コレハ、導キノ英雄御一行デシタカ!中ヘゴ案内シマース』
「導きの英雄って、ジャンピエが言ってた大昔の…」
「とんだ勘違いだけど、ラッキーだわね」
「入っちゃおう♪」
「…アイミーのヤツ、やっぱリリ姉に似て来たぜ」
ボシュのつぶやきは誰の耳にも入らず。
遅れを取ったボシュが小走りで先頭に立つ。
「奥にまた宝箱っぽいのが置いてあるぜ」
「開けてみよう!」
「ちょっとサチ、そんな不用心にっ」
サチが勢い良く開けると、今度はお約束の魔物登場。それもまたロボ系だ。
「ギギギ、デュランダル起動!神殿ヲ荒ラス者、殲滅スル!」
『ソノ箱ハ開ケテハイケマセン。盗難防止用トラップデス』
「もう遅いわっ、サチ、頭下げろ!ギガ空裂斬!」
言われたタイミングで瞬時にしゃがんだサチの頭上を、ボシュの大剣がかすめる。
魔物はこの一振りで真っ二つになった。
「ギギギ、デュランダル、機能停止…プシュ~~」
『本物ハ、コチラデス』
「今度こそ大丈夫よね?」
疑いの目をカラクリ兵に向けるリリ。サチも今度ばかりは恐る恐る開ける。
「大丈夫みたい」
「何も入ってねえじゃねーか」
「待って、紙が一枚ある」
底に張り付くように、古ぼけた地図が一枚だけ見つかった。
「何だ、それだけ?」
「地図みたいだね…」
「初代王が遺したのは地図だったのね」
「てっきり武器が入ってるんだと思ったぜ」
「これでどうやってグリザードを封印するのさ?」
見たところ、地図が示しているのはどこかの島のようだ。
ここに一体何があるのか。
「そこに武器があるんじゃねーか?島にあるくらいなら、ドデカい大砲系とか!」
「怪獣やっつけるんじゃないのよ?そんな訳ないっしょ~」
「そうだよ。わざわざ島になんて。大砲くらいならお城に仕舞えるよ」
「って…大砲は否定しないのね。サチ?どうかした?」
地図を手にしたまま固まるサチに気づいたリリが声を掛ける。
「私達だけでここに辿り着けるのかなって…」
「行けるだろ。俺らにはサチのドラゴーンがある。地図を見て目的地まで行くだけだ」
「そこなんだよ」
「ん?」
神殿を出て日の当たる場所まで歩きながら、サチが打ち明ける。
「知ってる?海って広いのよ」
「バカにすんな、そんくらい知ってるわ!」
「この間はドラゴーンでちゃんと辿り着けたじゃん」
「そうだよ」
「あの時、目的地は見えてた。だからそこに向かえば良かった。でも今回は違う。海の上は目印なんてない、方角が分からなくなるっ!」
「そのために、船にはコンパスとかあんだろ」
眉根を寄せて不安そうにするサチ。
それを見て、3人は同じ事を考えた。この人は方、向、音、痴!
「よく今まで進んで来れたねー、アタシら」
「皆で力を合わせて来たんだよ。ここまで来れたんだもん、今回も大丈夫だよサチ」
「皆は知らないのよ、大海原の恐ろしさを…ひと度遭難すれば、もう悲惨っ」
「ありゃ何かあったな、過去に」
「だわね。海賊経験者で海賊船の船長のクセに、海が怖かったなんて初耳!」
「ジョニじいに付いて来てもらったら?」
「あの船にアイツが乗れると思うか?」
「あんだけデッカかったら乗れるんじゃない?」
「ダメ。こんな事で頼れない。それに、ジョニーは来ないよ」
どんなに慣れ合っても所詮は魔物。それも向こうから線引きされたのだ。
頼る訳には行かないと負けず嫌いは思う。
「そうだよ。どっからか知らんが一方的に出て来るのは目をつぶるとしても、こっちから呼び出すだ?これは俺達の旅だ。行こうぜ、サチ。俺達で」
「ごめんなさい、そうだよね。頼ってばかりじゃダメだよね」
「うん、アタシらで行こう。そもそも連絡の取りようないんだし」
皆のプラス思考に押し切られ、サチも渋々頷いた、のだが…。
海の上は過酷であった。
「何でこうなる?っ、クソ!相手は魔物でも何でもない、ただのイカなのに!」
「イカはイカでも、ダイオウイカは別物ですっ」
「船がっ、壊されちゃうー」
海岸でドラゴーンを呼び出し乗り込んだ一行だったが、沖に出て間もなく巨大なイカに襲われていた。
「魔物でもない善良な生き物を殺せない…どうしたものかっ」
「おい船長!そんな事言ってる場合じゃねー!斬るぞ俺は!」
「ダメーっ」
大揺れに揺れる船内で言い合う。
ボシュの引き抜いた大剣がリリの鼻先をかすめた。
「ひゃあっ!危なっ、ちょっとボシュ!こんな不安定なトコでその物騒なの抜かないでくれる?」
「きゃあ、おっ、落ちる~」
「「アイミー!」」
あろうことか、アイミーは大海原へと真っ逆さまに落ちてしまったのであった。