旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第59話:古ぼけた地図

 

 

 一行は早々に森へ戻ると、一直線に洞窟を目指す。

 

 そこはちょうど賢者が探索していたという場所だ。

 

 

「さっき魔物は退治したし、もういないようだな」

「こんな所で一人で研究されるとは、熱心な賢者ですわね。今度何か褒美を差し上げないと」

 

 

「ねえ!奥に箱がある!」

 

 

「ホントか?どれどれ!ボシュ、まだ開けるなよ?」

 

 サチの呼びかけに、共にいたボシュにだけ釘を刺してブレズは奥へと足を早める。

 

 

「皆様、くれぐれも油断されないように!」

 

 万一の事態に備え、フラメのみが後方で見守る。

 

 

 

「これまたいかにもな宝箱だな。ダミーじゃねえのか?開けたら魔物が出てきたり…」

「見てみた方が早いぜ」

 

 ブレズの言葉に被せるように言い放ったボシュが、案の定勢い良く箱を開け放った。

 

 

 警戒して一瞬後退したボシュの横から、恐れ知らずのブレズが中を覗き込む。

 

 見たところ箱からは、魔物の類も煙もモヤモヤも出て来ていない。

 

 

「見ーっけ!」

「マジかっ、クソ、俺が見つけたかった…」

 

 そこには鍵が一つだけ入っていた。

 

 

 

 とその時。

 洞窟の中にどこからか低音が響き渡る。

 

 

『ようやく来たな。待っていたぞ』

 

 

 壁面に、狼のような顔つきの魔物が突如現れた。

 薄暗い事もありその全貌は判然としないが、とにかくその迫力は並ではない。

 

 後退る面々がフラメのいる位置に戻って来る。

 

 

「…お前がグリザードなの?」

「確かに、コイツが結界張ったなら納得だな…」

 

 

『ハヌマーンは倒したようだな。もっとも、ここで負けるようでは俺の相手などできんが?』

 

 やや小バカにしたような口調で魔物が語る。

 

 

「てめぇがグリザードか?よくもぬけぬけと現れたな!俺が相手だ!」

「兄様!」

 

 ブレズが繰り出した拳はグリザードを通り抜けた。

 

 

『イフレムの王子か。血気盛んなところは忌々しい炎熱の闘士にそっくりだ。ムダだ、俺の実体はここにはない』

 

 そう言いつつ攻撃が一行に降りかかる。

 

 見る見る辺り一帯が冷気に包まれた。

 

 

「ううっ…」

「寒っ!」

「アイミー!」

「お兄ちゃん…っ」

 

 そのあまりの寒さに体が縮こまる。

 ボシュは透かさずアイミーの体を引き寄せた。

 

 

「あっ、ブレズ、フラメ!」

「そいつらに何をした!」

 

 気づけば二人が固まったまま動かない。グリザードが呪いをかけたのだ。

 

 

『我ながら見事な氷像が出来た。助けたくば俺に会いに来い。本気を出した貴様と戦いたい。待っているぞ』

 

 そしてグリザードの姿は消えた。

 

 

 

「どうしよう、二人が氷漬けにされちゃった!」

「とにかくここに残しておく訳には行かねえ。外に運ぼう」

「そうだね。ボシュはブレズを。私達はフラメを運ぶわ」

 

 

 どうにか二人を森の外に運び出す。

 

 

「どうする?このまま放っておけないし、村までは運ばなきゃだわよ」

「運べるさ。何なら俺が二人とも…」

 

 

 そこへフォズが共の者を連れてやって来た。

 

 

「サチさん、皆さん!」

 

「良かった、無事だったのねフォズさん!」

「ナイスなタイミングで」

「フォズさんの姿を見ただけで不安が少し薄れたよ…」

 

 

 フォズと共にやって来た男性が、氷漬けの兄妹を見て口を開く。

 

「遅かったか…それはイフレムの王子と王女だな」

「やはりそちらも待ち伏せされていたようだね」

 

 

「紹介します、ダーマ神殿所属の高位職バトルマスター、レグナ。それから魔法戦士ラシーンです」

「レグナだ。以後お見知りおきを」

「ラシーンだよ、よろしくね」

 

 オレンジ色の髪を後ろで一本にまとめたレグナ。

 日焼けした上半身むき出しの肌には模様が刻まれており、たくましさ満点だ。

 

 一方ラシーンは、羽付きの紺の優雅な帽子を被り、同色の上下スーツも品がある。

 

 

「この呪いは徐々に体が凍り付き、やがて心臓までも凍ってしまう。グリザードを倒さなければ呪いは解けません」

「それなら、何が何でもやっつけなきゃ」

「おうよ。やってやるぜ!」

 

「私達はお二人をダーマ神殿に運んで、呪いの進行を遅らせるよう尽くします。どうかこの二つの鍵を持って炎熱の神殿に向かってください」

 

 フォズは手にしていたもう一つの鍵をサチに託す。

 

 

「二人の事、よろしくお願いします」

 

 サチはフォズにペコリと頭を下げると、キリリと前を向く。

 

 

「さあ皆、行くわよ!」

 

 

 

 リーダーの号令を受け、一行はリリの水晶占いにより割り出した方角に走り出した。

 

 

 

 人の命が懸かっているとあり気合十分の面々。思わぬ早さで目的地に到着する。

 

 早速鍵を使い神殿の扉を開く。

 門番などはおらず、代わりにカラクリ兵が目を光らせていた。

 

 

『ピピピ、侵入者発見!コレヨリ先、王族以外立入ル事ハ許サレナーイ!』

「そこを何とかっ、凛々しい兵隊さぁん?」

 

 サチが前に出てこう告げるや、なぜかカラクリ兵は大人しくなる。

 そしてはしゃぎ出す。

 

『コレハ、導キノ英雄御一行デシタカ!中ヘゴ案内シマース』

 

「導きの英雄って、ジャンピエが言ってた大昔の…」

「とんだ勘違いだけど、ラッキーだわね」

「入っちゃおう♪」

 

「…アイミーのヤツ、やっぱリリ姉に似て来たぜ」

 

 ボシュのつぶやきは誰の耳にも入らず。

 

 

 遅れを取ったボシュが小走りで先頭に立つ。

 

 

「奥にまた宝箱っぽいのが置いてあるぜ」

「開けてみよう!」

「ちょっとサチ、そんな不用心にっ」

 

 サチが勢い良く開けると、今度はお約束の魔物登場。それもまたロボ系だ。

 

 

「ギギギ、デュランダル起動!神殿ヲ荒ラス者、殲滅スル!」

 

 

『ソノ箱ハ開ケテハイケマセン。盗難防止用トラップデス』

「もう遅いわっ、サチ、頭下げろ!ギガ空裂斬!」

 

 言われたタイミングで瞬時にしゃがんだサチの頭上を、ボシュの大剣がかすめる。

 

 魔物はこの一振りで真っ二つになった。

 

 

「ギギギ、デュランダル、機能停止…プシュ~~」

 

『本物ハ、コチラデス』

「今度こそ大丈夫よね?」

 

 疑いの目をカラクリ兵に向けるリリ。サチも今度ばかりは恐る恐る開ける。

 

「大丈夫みたい」

「何も入ってねえじゃねーか」

「待って、紙が一枚ある」

 

 

 底に張り付くように、古ぼけた地図が一枚だけ見つかった。

 

 

「何だ、それだけ?」

「地図みたいだね…」

「初代王が遺したのは地図だったのね」

 

「てっきり武器が入ってるんだと思ったぜ」

「これでどうやってグリザードを封印するのさ?」

 

 

 見たところ、地図が示しているのはどこかの島のようだ。

 ここに一体何があるのか。

 

 

「そこに武器があるんじゃねーか?島にあるくらいなら、ドデカい大砲系とか!」

「怪獣やっつけるんじゃないのよ?そんな訳ないっしょ~」

「そうだよ。わざわざ島になんて。大砲くらいならお城に仕舞えるよ」

 

「って…大砲は否定しないのね。サチ?どうかした?」

 

 地図を手にしたまま固まるサチに気づいたリリが声を掛ける。

 

 

「私達だけでここに辿り着けるのかなって…」

 

「行けるだろ。俺らにはサチのドラゴーンがある。地図を見て目的地まで行くだけだ」

「そこなんだよ」

「ん?」

 

 

 神殿を出て日の当たる場所まで歩きながら、サチが打ち明ける。

 

「知ってる?海って広いのよ」

 

「バカにすんな、そんくらい知ってるわ!」

「この間はドラゴーンでちゃんと辿り着けたじゃん」

「そうだよ」

 

「あの時、目的地は見えてた。だからそこに向かえば良かった。でも今回は違う。海の上は目印なんてない、方角が分からなくなるっ!」

「そのために、船にはコンパスとかあんだろ」

 

 眉根を寄せて不安そうにするサチ。

 

 

 それを見て、3人は同じ事を考えた。この人は方、向、音、痴!

 

 

「よく今まで進んで来れたねー、アタシら」

「皆で力を合わせて来たんだよ。ここまで来れたんだもん、今回も大丈夫だよサチ」

 

「皆は知らないのよ、大海原の恐ろしさを…ひと度遭難すれば、もう悲惨っ」

 

「ありゃ何かあったな、過去に」

「だわね。海賊経験者で海賊船の船長のクセに、海が怖かったなんて初耳!」

 

「ジョニじいに付いて来てもらったら?」

「あの船にアイツが乗れると思うか?」

「あんだけデッカかったら乗れるんじゃない?」

 

 

「ダメ。こんな事で頼れない。それに、ジョニーは来ないよ」

 

 

 どんなに慣れ合っても所詮は魔物。それも向こうから線引きされたのだ。

 頼る訳には行かないと負けず嫌いは思う。

 

 

「そうだよ。どっからか知らんが一方的に出て来るのは目をつぶるとしても、こっちから呼び出すだ?これは俺達の旅だ。行こうぜ、サチ。俺達で」

「ごめんなさい、そうだよね。頼ってばかりじゃダメだよね」

「うん、アタシらで行こう。そもそも連絡の取りようないんだし」

 

 

 皆のプラス思考に押し切られ、サチも渋々頷いた、のだが…。

 

 

 

 海の上は過酷であった。

 

 

 

 

 

 

「何でこうなる?っ、クソ!相手は魔物でも何でもない、ただのイカなのに!」

 

「イカはイカでも、ダイオウイカは別物ですっ」

「船がっ、壊されちゃうー」

 

 

 海岸でドラゴーンを呼び出し乗り込んだ一行だったが、沖に出て間もなく巨大なイカに襲われていた。

 

 

「魔物でもない善良な生き物を殺せない…どうしたものかっ」

「おい船長!そんな事言ってる場合じゃねー!斬るぞ俺は!」

「ダメーっ」

 

 大揺れに揺れる船内で言い合う。

 

 ボシュの引き抜いた大剣がリリの鼻先をかすめた。

 

 

「ひゃあっ!危なっ、ちょっとボシュ!こんな不安定なトコでその物騒なの抜かないでくれる?」

「きゃあ、おっ、落ちる~」

 

 

「「アイミー!」」

 

 

 あろうことか、アイミーは大海原へと真っ逆さまに落ちてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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