大混乱のドラゴーンを、少し先にいた船が見ていた。
「おーおー。あっちの船、にぎわってるな!」
「キャプテン、のん気な事を言ってる場合じゃありませんよ、助けないと!」
「そうです。それにあのイカ、今晩のおかずにちょうどいい!」
「んじゃ、ひとっ走り行って来るか~」
その船は何と、現役バリバリ本場物の海賊船であった。
海へ投げ出されたアイミーが、限りなく接近した海賊船に拾われる。
「大丈夫かい?お嬢さん」
「ええっ?!か、海賊さん!?」
「ははっ、海賊さんたぁ初めて言われたな!」
驚きのあまりそれ以上の言葉が出て来ないアイミーであった。
そして、あれよあれよという間にダイオウイカも捕獲完了。
「改めまして、この度は本当に助かりました…」
「顔を上げなって。俺は見ての通り、通りすがりの海賊。名はアロンだ」
「サチです。一応、あの船の船長を…」
サチのドラゴーンはすでにいない。
忽然と消えた大型船に、未だ首を傾げる海賊船メンバー。
「つまりあの船は幻って事でいいのか?」
「ええと、まあ…そうなりますかね」
「サチ、敬語なんてやめろ。海賊同士、仲良くやろうぜ?なあ野郎ども!」
「アイアイキャプテン!」
キャプテン・アロンの後方に控える船員達が声を揃えて答える。
「ひいっ、これぞ本場の海賊だわね…」
「凄い迫力っ。ってお兄ちゃん、やけに大人しいけどどうしたの?まさかどこかケガした!?」
「いや。してない。あのイカの扱いを学びたい、誰に聞けばいいかと」
そこに加わったのは海賊船の専属コックだ。
「おや。そっちの兄ちゃんもコックか?アイツのさばき方なら俺が教えるぜ!」
「コックじゃねー!見て分かるだろうが?」
「その背にした包丁、切れ味が良さそうだねぇ」
「包丁じゃねーわ!」
こんなコント紛いの会話が繰り広げられる一方、サチはアロンに羨望の眼差しを向ける。
「アロンさんって、海賊業は長いの?」
「ああ。世界中の海を旅して回ってる。アンタらみたいなド素人に、大海原の真っただ中で会うのは初めてだがな!」
「返す言葉もアリマセン…」
「しっかし。そんな無防備に、一体何をしたくて海に出た?」
「実は私達、この地図にある場所に行きたくて」
「宝の地図ってか!」
サチが例の地図をアロンに見せ、経緯を語る。
しばし眺めてアロンがニヤリと笑う。
「なるほど?初代イフレム王が遺した謎の地図ねぇ。どうやらお前さん達、とんでもないモン手に入れちまったようだぜ!」
「これが何か分かるの?」
「俺の知り合いにカタオラっていう冒険者がいて、こんな話を聞いた事がある」
この世には、特別な地図がないと辿り着けない場所がいくつもあるとか。
「これはその特別な場所を示す地図だ。面白くなって来たじゃねえか?さっそく記された島に行ってみようぜ!と、言いたいところだが…」
「キャプテン、まだ修理が着手できていませんぜ」
「そうなんだ。嵐で船の帆が破れちまってね。本格的に動くなら修理の必要がある」
「修理するための麻のロープが足りないんだ」
「手伝うわ。どこかに上陸できるといいんだけど」
「それは問題ない。目星は付けてる。上陸次第、修理だ!」
再び船員達の雄叫びがこだまする。
「これに慣れる日が来るのかしら…」
「海賊さん達の迫力、半端ないね…」
「ってボシュ、まだコックのオジさんとしゃべってるよ!」
「コックに転職するのかな」
「冒険家業にそんな職あった?」
こんな調子で、サチ達はしばしこちらの海賊団のお世話になる事となった。
何だかんだとアイミーもイカさばきに加わり、晩ご飯はイカ尽くしだ。
「え、凄い、これボシュがさばいたの?」
「さすが刃物の扱い上手いね~。イカも美味いっ」
「私達が餌になるところだったのにね」
「それ笑えないって、アイミー」
「でも本当だよ。アロンが来てくれなかったらどうなってたか…」
「だな。サチが言ってた恐ろしさが分かったよ」
「それは何より」
この返答があまりにサバサバとしていて、皆の食事の手が止まる。
「どうしたの?皆」
「サチって、ホントいくつも人格持ってるなーって」
「お、奇遇だな。俺も同じ事思ってた」
「私もっ!」
「ヤダ~、人を多重人格者みたいに?」
実際そうだろうが、と心の中だけでつぶやいた3人であった。
「よう!食ってるか?お前らのお陰でご馳走にありつけた、礼を言うよ」
「こっちこそ、世話になって礼を言う」
「まあ一杯やれや!」
「ありがたく…」
アロンがボシュの器に酒を注ぐ。
それを飲み干してから、お返しに手元の酒瓶からアロンの杯に注いだ。
「おっと、サンキュー」
「海にも魔物は出るのか?」
「出るさ。それこそコイツのバケモンみたいなのを、先日も倒したぜ」
「そうか…」
「しかし、そんな立派な大剣持ってて、なぜ戦わなかった?」
「それはコイツがっ!」
そう言ってサチを見るボシュ。
「生き物を無暗に殺めたらダメ。こうやって食料にする目的でもなければ」
「食うためならいいのかよ。その前に自分が餌食だぜ?」
「ん~おいしっ」
「って、聞いてんのかよ!」
「まーまー、痴話ゲンカすんなよ、仲いいな!カップルがパーティにいるとやりずらいだろ?」
そう言って向かいに座るリリとアイミーを見る。
「カップルじゃねー!」
「何だ、違うのか。お似合いなのに?」
「お、おに、お似合い?!」
全く動じずイカを食べ続けるサチとは裏腹に、挙動不審のボシュをフォローする者はない。
「アロンさんの黒眼帯、カッコいい!」
「お、そうか?これは名誉の負傷ってのでな…」
「そうなんですね、聞きたーい!」
こんな会話が始まっていた。
「戦ってもないのに、妙な疲れが…」
一夜明けると、船はいつの間にか陸に着岸していた。
目的のロープを集める事半日。島を歩き回った一行はヘトヘトだ。
「ご苦労さん!これで修理完了だ。よぉーし、野郎ども碇をあげろ、シーサーペント号出航だ!」「アイアイ、キャプテーン!」
「この船、シーサーペント号って言うんだね」
「船ってそれぞれに名前付いてるよね。愛着持ってる感じがいいなぁ」
「船は相棒だからな!」
再び大海原に戻って来る。天候が穏やかであれば、大型船はさほど揺れを感じない。
操舵室にて地図に目をやるアロンに、ボシュが話しかける。
「その地図の場所って、つまりは未開の地、みたいなとこなんだろ?」
「カタオラの話じゃ、世界の裂け目みたいなのがいくつも存在してるらしい。俺も実際に行くのは初めてだ」
地図がなければ通りすぎるような場所で、そこから向こう側へ行けるとか。
「その向こう側には何があるんですか?」
「それは行ってみてのお楽しみさ!」
「きゃ~、何だかワクワクしちゃうっ」
こんな会話にも加わらず、何もない水平線を見つめて無言を貫くサチ。
「何だサチ、さっきから黙って。怖気づいたか?」
「そうじゃない。何だか胸騒ぎがしてて」
「おお、まさか船長、船酔いじゃないですよね?」
「っもう、アロン。その呼び方やめて!あと、私は今海賊じゃなくてレンジャーだからっ」
「そいつは失敬!はっはっはー!」
アロンは豪快に笑う。
「アタシら超ラッキーだったね。アロンに会えてなかったらマジで路頭に迷ってた気がする」
「うん。ところで、海の上も路頭って言うの?」
「知らなーい。意味通じればいいっしょー」
「ゴメン、細かい事言ったね…お母さんが教師だったからつい」
「それ聞いて納得。ボシュは細かくないね」
「お兄ちゃんは…そうだね」
きっと親への反発心が招いた結果だとリリは思う。
自分にも確実にあるそんな部分。
今は亡き両親を想い、複雑な気持ちになるリリであった。