旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第60話:キャプテン・アロン

 

 

 大混乱のドラゴーンを、少し先にいた船が見ていた。

 

 

「おーおー。あっちの船、にぎわってるな!」

「キャプテン、のん気な事を言ってる場合じゃありませんよ、助けないと!」

「そうです。それにあのイカ、今晩のおかずにちょうどいい!」

 

「んじゃ、ひとっ走り行って来るか~」

 

 

 その船は何と、現役バリバリ本場物の海賊船であった。

 

 

 

 

 

 海へ投げ出されたアイミーが、限りなく接近した海賊船に拾われる。

 

 

「大丈夫かい?お嬢さん」

 

「ええっ?!か、海賊さん!?」

「ははっ、海賊さんたぁ初めて言われたな!」

 

 驚きのあまりそれ以上の言葉が出て来ないアイミーであった。

 

 

 

 そして、あれよあれよという間にダイオウイカも捕獲完了。

 

 

 

「改めまして、この度は本当に助かりました…」

「顔を上げなって。俺は見ての通り、通りすがりの海賊。名はアロンだ」

「サチです。一応、あの船の船長を…」

 

 サチのドラゴーンはすでにいない。

 忽然と消えた大型船に、未だ首を傾げる海賊船メンバー。

 

 

「つまりあの船は幻って事でいいのか?」

「ええと、まあ…そうなりますかね」

 

「サチ、敬語なんてやめろ。海賊同士、仲良くやろうぜ?なあ野郎ども!」

「アイアイキャプテン!」

 

 キャプテン・アロンの後方に控える船員達が声を揃えて答える。

 

 

「ひいっ、これぞ本場の海賊だわね…」

「凄い迫力っ。ってお兄ちゃん、やけに大人しいけどどうしたの?まさかどこかケガした!?」

「いや。してない。あのイカの扱いを学びたい、誰に聞けばいいかと」

 

 そこに加わったのは海賊船の専属コックだ。

 

「おや。そっちの兄ちゃんもコックか?アイツのさばき方なら俺が教えるぜ!」

 

「コックじゃねー!見て分かるだろうが?」

「その背にした包丁、切れ味が良さそうだねぇ」

「包丁じゃねーわ!」

 

 

 こんなコント紛いの会話が繰り広げられる一方、サチはアロンに羨望の眼差しを向ける。

 

「アロンさんって、海賊業は長いの?」

「ああ。世界中の海を旅して回ってる。アンタらみたいなド素人に、大海原の真っただ中で会うのは初めてだがな!」

「返す言葉もアリマセン…」

 

「しっかし。そんな無防備に、一体何をしたくて海に出た?」

「実は私達、この地図にある場所に行きたくて」

「宝の地図ってか!」

 

 サチが例の地図をアロンに見せ、経緯を語る。

 

 

 しばし眺めてアロンがニヤリと笑う。

 

「なるほど?初代イフレム王が遺した謎の地図ねぇ。どうやらお前さん達、とんでもないモン手に入れちまったようだぜ!」

「これが何か分かるの?」

「俺の知り合いにカタオラっていう冒険者がいて、こんな話を聞いた事がある」

 

 

 この世には、特別な地図がないと辿り着けない場所がいくつもあるとか。

 

 

「これはその特別な場所を示す地図だ。面白くなって来たじゃねえか?さっそく記された島に行ってみようぜ!と、言いたいところだが…」

 

「キャプテン、まだ修理が着手できていませんぜ」

「そうなんだ。嵐で船の帆が破れちまってね。本格的に動くなら修理の必要がある」

「修理するための麻のロープが足りないんだ」

 

「手伝うわ。どこかに上陸できるといいんだけど」

「それは問題ない。目星は付けてる。上陸次第、修理だ!」

 

 

 再び船員達の雄叫びがこだまする。

 

 

「これに慣れる日が来るのかしら…」

「海賊さん達の迫力、半端ないね…」

 

「ってボシュ、まだコックのオジさんとしゃべってるよ!」

「コックに転職するのかな」

「冒険家業にそんな職あった?」

 

 

 

 

 こんな調子で、サチ達はしばしこちらの海賊団のお世話になる事となった。

 

 

 何だかんだとアイミーもイカさばきに加わり、晩ご飯はイカ尽くしだ。

 

 

「え、凄い、これボシュがさばいたの?」

「さすが刃物の扱い上手いね~。イカも美味いっ」

「私達が餌になるところだったのにね」

「それ笑えないって、アイミー」

 

「でも本当だよ。アロンが来てくれなかったらどうなってたか…」

「だな。サチが言ってた恐ろしさが分かったよ」

 

 

「それは何より」

 

 

 この返答があまりにサバサバとしていて、皆の食事の手が止まる。

 

「どうしたの?皆」

 

「サチって、ホントいくつも人格持ってるなーって」

「お、奇遇だな。俺も同じ事思ってた」

「私もっ!」

「ヤダ~、人を多重人格者みたいに?」

 

 実際そうだろうが、と心の中だけでつぶやいた3人であった。

 

 

「よう!食ってるか?お前らのお陰でご馳走にありつけた、礼を言うよ」

「こっちこそ、世話になって礼を言う」

「まあ一杯やれや!」

「ありがたく…」

 

 アロンがボシュの器に酒を注ぐ。

 それを飲み干してから、お返しに手元の酒瓶からアロンの杯に注いだ。

 

「おっと、サンキュー」

 

「海にも魔物は出るのか?」

「出るさ。それこそコイツのバケモンみたいなのを、先日も倒したぜ」

「そうか…」

「しかし、そんな立派な大剣持ってて、なぜ戦わなかった?」

 

「それはコイツがっ!」

 

 そう言ってサチを見るボシュ。

 

 

「生き物を無暗に殺めたらダメ。こうやって食料にする目的でもなければ」

「食うためならいいのかよ。その前に自分が餌食だぜ?」

 

「ん~おいしっ」

「って、聞いてんのかよ!」

 

「まーまー、痴話ゲンカすんなよ、仲いいな!カップルがパーティにいるとやりずらいだろ?」

 

 そう言って向かいに座るリリとアイミーを見る。

 

「カップルじゃねー!」

「何だ、違うのか。お似合いなのに?」

「お、おに、お似合い?!」

 

 全く動じずイカを食べ続けるサチとは裏腹に、挙動不審のボシュをフォローする者はない。

 

 

「アロンさんの黒眼帯、カッコいい!」

「お、そうか?これは名誉の負傷ってのでな…」

「そうなんですね、聞きたーい!」

 

 こんな会話が始まっていた。

 

 

「戦ってもないのに、妙な疲れが…」

 

 

 

 

 

 一夜明けると、船はいつの間にか陸に着岸していた。

 

 目的のロープを集める事半日。島を歩き回った一行はヘトヘトだ。

 

 

「ご苦労さん!これで修理完了だ。よぉーし、野郎ども碇をあげろ、シーサーペント号出航だ!」「アイアイ、キャプテーン!」

 

「この船、シーサーペント号って言うんだね」

「船ってそれぞれに名前付いてるよね。愛着持ってる感じがいいなぁ」

「船は相棒だからな!」

 

 

 

 

 再び大海原に戻って来る。天候が穏やかであれば、大型船はさほど揺れを感じない。

 

 

 操舵室にて地図に目をやるアロンに、ボシュが話しかける。

 

「その地図の場所って、つまりは未開の地、みたいなとこなんだろ?」

「カタオラの話じゃ、世界の裂け目みたいなのがいくつも存在してるらしい。俺も実際に行くのは初めてだ」

 

 地図がなければ通りすぎるような場所で、そこから向こう側へ行けるとか。

 

「その向こう側には何があるんですか?」

「それは行ってみてのお楽しみさ!」

「きゃ~、何だかワクワクしちゃうっ」

 

 

 こんな会話にも加わらず、何もない水平線を見つめて無言を貫くサチ。

 

 

「何だサチ、さっきから黙って。怖気づいたか?」

「そうじゃない。何だか胸騒ぎがしてて」

「おお、まさか船長、船酔いじゃないですよね?」

「っもう、アロン。その呼び方やめて!あと、私は今海賊じゃなくてレンジャーだからっ」

 

「そいつは失敬!はっはっはー!」

 

 アロンは豪快に笑う。

 

 

「アタシら超ラッキーだったね。アロンに会えてなかったらマジで路頭に迷ってた気がする」

「うん。ところで、海の上も路頭って言うの?」

「知らなーい。意味通じればいいっしょー」

「ゴメン、細かい事言ったね…お母さんが教師だったからつい」

 

「それ聞いて納得。ボシュは細かくないね」

「お兄ちゃんは…そうだね」

 

 

 きっと親への反発心が招いた結果だとリリは思う。

 

 自分にも確実にあるそんな部分。

 

 

 

 今は亡き両親を想い、複雑な気持ちになるリリであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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