旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第61話:世界の裂け目

 

 

 キャプテン・アロンの的確な舵取りにより、シーサーペント号は数日かけて見事に目的地までやって来た。

 

 

 着いてみれば、そこは南に位置する島にしてはやけに寒い。

 

 

「この寒さは異常だ。何だか嫌な予感がするぜ。野郎ども油断するなよ!」

「アイアイ、キャプテン!」

 

 沖に停泊させている船をチラと確認しながら、アロンが声を張る。

 

 

 

 そこへ突如魔物が現われた。

 

 

「ガッハッハ!来たな愚かな冒険者。ワシはトロルキング、この島を守る番人であーる!」

 

 薄紫の巨体で大きな丸こん棒を持っている。

 その足元には、いつの間に集まったのか赤いカニがワサワサとうごめいている。

 

 

「サチの胸騒ぎはこれかい?」

「いいえ。こういう場所に魔物が潜んでいるのはお約束よ。皆、下のカニにも気を付けて!」

 

 

「豪氷天様の元に行かせる訳には行かん。叩き潰してやーる!」

 

 

「今豪氷天って言ったか?まさかアイツここにいるのか!」

「寒さの理由が分かったわね」

「やっぱりそうなの?…しまったっ」

 

「どうしたの?サチ」

「とにかく、今は目の前の敵を倒さないと。皆下がって!ジャッジパラライズ!」

 

 

 サチの一撃で足元のカニが吹き飛ぶ。

 

 

「よし、次は俺に任せろ、メイルストロム!」

 

 続いてアロンが手にしたアンカー型の斧を、巨体に向けて振り下ろした。

 

 

「グお~~…お前は冒険者ではないだろう?手を出すなっ、卑怯者~~」

「うるせえ!消えろ!」

 

 

 砂浜に地響きを鳴らして魔物が倒れた。

 

 

「やった!凄い、アロンさん強い!」

「カッコいいっ!!」

「喜ぶのは早いわ。近くにグリザードがいる。島が寒いのが証拠」

「王様が教えたかったのはヤツの居場所って訳か」

 

 

 ボシュの言葉に応えるように、またしてもどこからか声が響き渡る。

 

 

 何もない空間に突如上半身だけを現したのはグリザードだ。

 その視線はボシュをかすめてアロンに向けられる。

 

『その通りだ。キャプテン・アロン。なぜお前までここにいる?』

 

 

「てめぇが噂のグリザードか。会いたかったぜ?」

『海賊に用はない。あるのはサチのみ』

 

 そう言うや一帯が冷気に襲われる。

 

 

「まただわ、アロン!」

「チッ、俺は招かれざる客って訳か。サチ、あとは頼んだ、ぜ…」

 

 

 みるみるアロンの体が凍り付いて行く。そして完全な氷像となってしまった。

 

 

「狙うなら俺らを狙えばいいだろうが!そいつにはただ案内を頼んだだけだ!」

 

『貴様達はまだ殺さん。仲間が凍り付く姿を見て、己の非力さを呪うがいい。その絶望の中で死を与えてやる。さあ、俺の元へ来い』

 

 こう言い残し、グリザードの姿はまたも消えた。

 

 

 

 元の砂浜に戻るも、アロンの体だけが様変わりしてしまった。

 

 

「アロンさん!どうしてこんな事にっ」

「この人を巻き込むべきじゃなかった…」

「お前の胸騒ぎはこれの事だったんだな」

 

 

 途方に暮れかかる一行に、後方から声がかかる。

 

「サチ、キャプテンの事は俺達に任せろ」

「そうだ、船長は俺達が守る!」

「だから、さっきの敵を倒して、船長を元に戻しておくれよ!」

 

 束の間共に暮らした船員達。すっかり気心が知れた仲間だ。

 皆の声援を受け、決意を固めたサチ。彼らに向けて言い放つ。

 

 

「任せて。必ず掛けられた呪いを解いてみせるわ!」

 

 

 それはとても頼もしいリーダーの姿であった。

 

 

 

 

 

 

 船員達と別れ、一行は島の中の森を進む。

 

 ひたすら進む事小一時間。

 

 

「出口か!」

「何か増々寒くなってる気がっ。サチ、そんな薄着で平気?」

「私が着てた上着貸そうか?」

「大丈夫、ありがとうアイミー。皆、どうやら向こう側の世界に着いたみたいよ」

 

 森を抜けると、そこは一面銀世界。

 サチの視線はすでにそこにいるグリザードに向けられていた。

 

 

『ようやく来たか。待ちくたびれたぞ。貴様達に自力でここまで来てもらいたくてな。その程度できなくては倒し甲斐がない』

 

「そんな理由で皆に呪いをかけたの?許せない!」

『仲間を救いたくば本気を出せ。その力を見せてみろ!』

「怒らせるためにやってたって事?マジ性格悪っ」

「そんなに痛めつけられたいってか。だったらやってやるよ!サチ、行け!」

 

 

 強く頷いたサチは、早速お得意のドラゴーンを呼び出し全力で攻撃する。

 

 

『どうした?力が落ちているぞ。寒さでやられたか』

 

 

「今度は私にやらせて。皆のカタキっ、ざざん波ー!」

 

 立て続けの水攻めにもグリザードは微動だにせず。

 

 

 続いてボシュの得意技が炸裂。

 グリザードが思わず一歩下がった。だがそれだけに終わる。

 

 

「リリ姉、私に力を集めて」

「それってラッキータロットよね?いいけど上手く行くか分からないわっ」

「上手く行かなくてもいいから。次からは攻撃されてそれどころじゃなくなる。今しかない!」

「…分かった。じゃあサチに!えーい、ラッキータロットー!」

 

 この技は上手く行けば限界突破の威力を出せるとあり、サチはそれに賭けたのだが。

 

 なかなかダメージを与えられない。

 

 

「クソっ、俺まで回復に回らないとっ、リリ姉がヤバいっ!ホイミ!」

「私もそろそろ力が…っ」

「あと少しよ!グリザードを追い詰めた。アイミー、残りの力を私にちょうだい!」

「オーケー。サチに託す!MPパサー!」

 

 魔法戦士のアイミーは力を分け与えられるのだ。

 

 

 こうして皆がサチにパワーを集めて放った渾身の一撃。

 ついにグリザードを地に沈めた。

 

『この俺をここまで…。これが貴様の本気という訳か。面白くなって来た。悪いが俺は一度引かせてもらう』

 

 

「は?逃げる気か、卑怯だぞ!」

『慌てるな。決着の場はここではないというだけ。最高の舞台を用意してやる』

「それって逃げる言い訳じゃん!」

 

 

 グリザードが忽然と姿を消した。

 途端にその場は別の世界が広がっている。ここは暗黒の世界、肌で悪の気配を感じる。

 

 前方に浮かぶように禍々しい魔城がある事に、同時に気づいた。

 

 

『さあ、我が城へ来るがいい』

 

 またもどこからか声が響く。

 

 

「ふざけやがって…っ。さっきの姿も幻だったのか」

「幻にあんなに手こずったなら、本物は…?」

「大丈夫、勝てる。今の私達なら…。今のうちに体力回復しておこう」

「ゴメン、アタシ力残ってないわ」

 

「大丈夫、私が薬草持ってる。皆、これ飲んで!」

 

 アイミーがカバンから薬草を取り出して配る。

 

 

「しかし、四天王ってだけあって強いな。正直俺は勝てる気がしない。サチのその勝てるって根拠教えろ」

「作戦を考えた」

「いつの間に?!」

「さっき戦ってる時よ」

「凄い…あんな時に考えられるなんて」

 

 

 城の方へ足を進めながら会話が続く。

 

「時間がない、皆歩きながら聞いて。アイツはヒャドの呪文が得意だから、その耐性を付けて。さっきは心の準備が整ってなかった。皆、再確認して」

 

「つまり寒さ対策みたいなモンだな。よし分かった」

「アタシが一番打たれ弱いから、盛らないとね」

「そう。リリ姉に死なれたら終わる。ボシュ、最優先でリリ姉を守って」

「オーケー。今の俺は力不足だからな。全力で防御する」

 

「そして私が叩きまくる」

 

 体力が続く限り…。どこまで続くかが勝敗を決める。

 リリの強力な回復呪文のお陰で、向こうからの攻撃には耐えられる事が分かったからだ。

 

 

 サチの張り詰めた表情を見て、リリが近づく。

 

「サチ。また一人で抱え込もうとしてない?アタシらをもっと頼って」

「そうだよ。私じゃ頼りにならないだろうけど…」

 

「ありがとう。アイミーも立派に戦力だよ。でも自分の身もちゃんと守ってね」

「分かってる。サチもだよ?」

「うん」

 

 ようやくサチに笑顔が戻った。

 

 

 

 

 

 一行が城の扉の前にやって来る。

 

 

「この中にグリザードの実体がいるのか」

「今度こそ、止めを刺して皆の呪いを解くわよ!」

 

 

 お互いを見て頷き合い、4人横並びで同時に城の中に足を踏み入れた。

 

 建物の中だというのに寒い。とにかく寒い。

 

 

「いくら盛っても寒いものは寒いっ」

「リリ姉が一番防寒対策できてそうだが?」

「そりゃノースリーブのアンタとサチよりは?」

 

 

 階段を上がると、開かれた大きな扉が見えた。

 そこから、見えるほどの冷気が流れ出している。

 

「間違いなくあそこだな」

「そうだわね。あの冷気!さあ、気合入れるよ!」

「分かった、気合っ」

「…アイミー。お前に今度、気合の入れ方教えないとだな」

「あれ、違った?」

 

 こんな時でも変わらないやり取りが繰り広げられる。

 

 

 サチがそれを見てクスリと笑った。

 

「さあ皆、覚悟はいい?」

 

「もち」

「行くぜ!」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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