キャプテン・アロンの的確な舵取りにより、シーサーペント号は数日かけて見事に目的地までやって来た。
着いてみれば、そこは南に位置する島にしてはやけに寒い。
「この寒さは異常だ。何だか嫌な予感がするぜ。野郎ども油断するなよ!」
「アイアイ、キャプテン!」
沖に停泊させている船をチラと確認しながら、アロンが声を張る。
そこへ突如魔物が現われた。
「ガッハッハ!来たな愚かな冒険者。ワシはトロルキング、この島を守る番人であーる!」
薄紫の巨体で大きな丸こん棒を持っている。
その足元には、いつの間に集まったのか赤いカニがワサワサとうごめいている。
「サチの胸騒ぎはこれかい?」
「いいえ。こういう場所に魔物が潜んでいるのはお約束よ。皆、下のカニにも気を付けて!」
「豪氷天様の元に行かせる訳には行かん。叩き潰してやーる!」
「今豪氷天って言ったか?まさかアイツここにいるのか!」
「寒さの理由が分かったわね」
「やっぱりそうなの?…しまったっ」
「どうしたの?サチ」
「とにかく、今は目の前の敵を倒さないと。皆下がって!ジャッジパラライズ!」
サチの一撃で足元のカニが吹き飛ぶ。
「よし、次は俺に任せろ、メイルストロム!」
続いてアロンが手にしたアンカー型の斧を、巨体に向けて振り下ろした。
「グお~~…お前は冒険者ではないだろう?手を出すなっ、卑怯者~~」
「うるせえ!消えろ!」
砂浜に地響きを鳴らして魔物が倒れた。
「やった!凄い、アロンさん強い!」
「カッコいいっ!!」
「喜ぶのは早いわ。近くにグリザードがいる。島が寒いのが証拠」
「王様が教えたかったのはヤツの居場所って訳か」
ボシュの言葉に応えるように、またしてもどこからか声が響き渡る。
何もない空間に突如上半身だけを現したのはグリザードだ。
その視線はボシュをかすめてアロンに向けられる。
『その通りだ。キャプテン・アロン。なぜお前までここにいる?』
「てめぇが噂のグリザードか。会いたかったぜ?」
『海賊に用はない。あるのはサチのみ』
そう言うや一帯が冷気に襲われる。
「まただわ、アロン!」
「チッ、俺は招かれざる客って訳か。サチ、あとは頼んだ、ぜ…」
みるみるアロンの体が凍り付いて行く。そして完全な氷像となってしまった。
「狙うなら俺らを狙えばいいだろうが!そいつにはただ案内を頼んだだけだ!」
『貴様達はまだ殺さん。仲間が凍り付く姿を見て、己の非力さを呪うがいい。その絶望の中で死を与えてやる。さあ、俺の元へ来い』
こう言い残し、グリザードの姿はまたも消えた。
元の砂浜に戻るも、アロンの体だけが様変わりしてしまった。
「アロンさん!どうしてこんな事にっ」
「この人を巻き込むべきじゃなかった…」
「お前の胸騒ぎはこれの事だったんだな」
途方に暮れかかる一行に、後方から声がかかる。
「サチ、キャプテンの事は俺達に任せろ」
「そうだ、船長は俺達が守る!」
「だから、さっきの敵を倒して、船長を元に戻しておくれよ!」
束の間共に暮らした船員達。すっかり気心が知れた仲間だ。
皆の声援を受け、決意を固めたサチ。彼らに向けて言い放つ。
「任せて。必ず掛けられた呪いを解いてみせるわ!」
それはとても頼もしいリーダーの姿であった。
船員達と別れ、一行は島の中の森を進む。
ひたすら進む事小一時間。
「出口か!」
「何か増々寒くなってる気がっ。サチ、そんな薄着で平気?」
「私が着てた上着貸そうか?」
「大丈夫、ありがとうアイミー。皆、どうやら向こう側の世界に着いたみたいよ」
森を抜けると、そこは一面銀世界。
サチの視線はすでにそこにいるグリザードに向けられていた。
『ようやく来たか。待ちくたびれたぞ。貴様達に自力でここまで来てもらいたくてな。その程度できなくては倒し甲斐がない』
「そんな理由で皆に呪いをかけたの?許せない!」
『仲間を救いたくば本気を出せ。その力を見せてみろ!』
「怒らせるためにやってたって事?マジ性格悪っ」
「そんなに痛めつけられたいってか。だったらやってやるよ!サチ、行け!」
強く頷いたサチは、早速お得意のドラゴーンを呼び出し全力で攻撃する。
『どうした?力が落ちているぞ。寒さでやられたか』
「今度は私にやらせて。皆のカタキっ、ざざん波ー!」
立て続けの水攻めにもグリザードは微動だにせず。
続いてボシュの得意技が炸裂。
グリザードが思わず一歩下がった。だがそれだけに終わる。
「リリ姉、私に力を集めて」
「それってラッキータロットよね?いいけど上手く行くか分からないわっ」
「上手く行かなくてもいいから。次からは攻撃されてそれどころじゃなくなる。今しかない!」
「…分かった。じゃあサチに!えーい、ラッキータロットー!」
この技は上手く行けば限界突破の威力を出せるとあり、サチはそれに賭けたのだが。
なかなかダメージを与えられない。
「クソっ、俺まで回復に回らないとっ、リリ姉がヤバいっ!ホイミ!」
「私もそろそろ力が…っ」
「あと少しよ!グリザードを追い詰めた。アイミー、残りの力を私にちょうだい!」
「オーケー。サチに託す!MPパサー!」
魔法戦士のアイミーは力を分け与えられるのだ。
こうして皆がサチにパワーを集めて放った渾身の一撃。
ついにグリザードを地に沈めた。
『この俺をここまで…。これが貴様の本気という訳か。面白くなって来た。悪いが俺は一度引かせてもらう』
「は?逃げる気か、卑怯だぞ!」
『慌てるな。決着の場はここではないというだけ。最高の舞台を用意してやる』
「それって逃げる言い訳じゃん!」
グリザードが忽然と姿を消した。
途端にその場は別の世界が広がっている。ここは暗黒の世界、肌で悪の気配を感じる。
前方に浮かぶように禍々しい魔城がある事に、同時に気づいた。
『さあ、我が城へ来るがいい』
またもどこからか声が響く。
「ふざけやがって…っ。さっきの姿も幻だったのか」
「幻にあんなに手こずったなら、本物は…?」
「大丈夫、勝てる。今の私達なら…。今のうちに体力回復しておこう」
「ゴメン、アタシ力残ってないわ」
「大丈夫、私が薬草持ってる。皆、これ飲んで!」
アイミーがカバンから薬草を取り出して配る。
「しかし、四天王ってだけあって強いな。正直俺は勝てる気がしない。サチのその勝てるって根拠教えろ」
「作戦を考えた」
「いつの間に?!」
「さっき戦ってる時よ」
「凄い…あんな時に考えられるなんて」
城の方へ足を進めながら会話が続く。
「時間がない、皆歩きながら聞いて。アイツはヒャドの呪文が得意だから、その耐性を付けて。さっきは心の準備が整ってなかった。皆、再確認して」
「つまり寒さ対策みたいなモンだな。よし分かった」
「アタシが一番打たれ弱いから、盛らないとね」
「そう。リリ姉に死なれたら終わる。ボシュ、最優先でリリ姉を守って」
「オーケー。今の俺は力不足だからな。全力で防御する」
「そして私が叩きまくる」
体力が続く限り…。どこまで続くかが勝敗を決める。
リリの強力な回復呪文のお陰で、向こうからの攻撃には耐えられる事が分かったからだ。
サチの張り詰めた表情を見て、リリが近づく。
「サチ。また一人で抱え込もうとしてない?アタシらをもっと頼って」
「そうだよ。私じゃ頼りにならないだろうけど…」
「ありがとう。アイミーも立派に戦力だよ。でも自分の身もちゃんと守ってね」
「分かってる。サチもだよ?」
「うん」
ようやくサチに笑顔が戻った。
一行が城の扉の前にやって来る。
「この中にグリザードの実体がいるのか」
「今度こそ、止めを刺して皆の呪いを解くわよ!」
お互いを見て頷き合い、4人横並びで同時に城の中に足を踏み入れた。
建物の中だというのに寒い。とにかく寒い。
「いくら盛っても寒いものは寒いっ」
「リリ姉が一番防寒対策できてそうだが?」
「そりゃノースリーブのアンタとサチよりは?」
階段を上がると、開かれた大きな扉が見えた。
そこから、見えるほどの冷気が流れ出している。
「間違いなくあそこだな」
「そうだわね。あの冷気!さあ、気合入れるよ!」
「分かった、気合っ」
「…アイミー。お前に今度、気合の入れ方教えないとだな」
「あれ、違った?」
こんな時でも変わらないやり取りが繰り広げられる。
サチがそれを見てクスリと笑った。
「さあ皆、覚悟はいい?」
「もち」
「行くぜ!」
「うん!」