姿を現した一行に向け、グリザードの声が響く。
これまでの頭に響いて来る声とは違って生の声だ。
「来たな。この時を待っていたぞ。お前の首を復活する大魔王様に捧げるために」
「この首をあげるつもりはない。復活なんてさせない!」
「大体、そんなヤツ復活させてどうする気だ?」
「何も知らないのか。そんな事でよくここまで来たものだ!」
「ちょっと。バカにするもの大概にしな?」
「リリ姉っ、ケンカ吹っ掛けるのなしだよっ」
ジロリとリリを見たグリザードだが、すぐに視線はサチに向けられる。
「我々は、創造神が遺した負の遺産」
「それはどういう事?」
「ここで死ぬ貴様らには知る必要もない!今度は俺の本気を見せてやろう」
「話す気ないならもったいぶるな!クソがっ」
「お兄ちゃんまでっ」
うろたえるアイミーだが、グリザードの表情は至って変わらずやはりサチだけを見ている。
そしてサチも毅然とした態度で対峙している。
「やっぱりサチは凄い。私だったら、あんなに睨みつけられたら目、そらしちゃうよ…」
「ケンカ売られてる時に目をそらすヤツがあるか!見ろ、サチの殺気。恐ろしいヤツだぜ、やっぱ!」
そう言いながらボシュは楽しそうだ。
強さを追求する者にとっては、敵は強ければ強いほど燃えるのだ。
ボシュが身構えたのを見て、アイミーとリリも戦いが始まる事を察する。
「私が目的なら、なぜ皆を巻き込むの?そうやって人を怒らせて楽しんでるなら、やめた方がいいわ」
「このくらいしないと、平和ボケした世界に生きるお前達は本気を出さないだろう?」
「心配されなくても本気でやる。平和ボケなんてしてない、クソがっ!ドラゴーン!全速前進ー!」
「ヤバい、サチにボシュの口癖移っちゃったよ?」
「大歓迎、やっちまえーサチ!」
サチの叫び声によって呼び寄せられた海賊船がグリザードを襲う。
先ほどの戦いと同じ展開だが、威力はさらに弱まっている。
「威勢は口だけだな!疲労が溜まっているのか?そんな事では俺は倒せんぞ」
「くっ…」
「サチ!次から皆の力も一緒に使って!」
「そうだよ。何なら俺もそのドラゴーンに飛び乗りたい気分だぜ」
「皆、ありがとう」
そして一致団結の力は大きかった。
先ほどよりも早くグリザードが片膝を付いた。
「やったか?」
「待って、アイツ、何か様子が変だわよ」
「変身してる!バリゲーンの時みたい…もっと強くなるの?」
グリザードが唸り声を上げながら姿を変えて行く。
翼が巨大化し、体の色が濃くなり模様が浮き出て来た。
それはまさにバリゲーンの変化を彷彿とさせ、皆に戦慄が走る。
これが蒼茫天グリザードだ。
「ここまで来るとは褒めてやる。だがもう終わりだ!凍てつく波動、コキュートス!」
「まずい、攻撃力を落とされる…せっかくの皆の力がムダにっ。させない、光の守り!」
サチの体を覆っていた光が一段強くなる。
それはグリザードの技を跳ね返す力を持っていた。
「ほう、そんなものまで持っているのか。さすがは俺の認めた人間だ。だがもう遅い!」
グリザードが巨大化したシッポを叩きつけて来た。
「きゃ~~~っ」
「うわぁっ」
「ボシュ、アイミー!」
直撃を受けた二人が部屋の外まで飛ばされてしまった。
助けに行く訳にも行かず、留まるしかないリリは打つ手がない。
「この水晶に呼び戻す魔法なんてないし…っ」
「リリ姉、ボシュ達が戻るまで二人でやるしかない。私にラッキータロット使って!」
「でも…っ」
「大丈夫、この光が私を守ってくれてる。早く!」
「分かった。ラッキータロットー!」
そしてサチがドラゴーンを放つ。
すると上手い具合にグリザードを縛り付けたではないか。
「やった、ラッキー発生!ラッキータロットなだけあるわね。このタイミングでアタシも攻撃できれば…」
「気にしないで。リリ姉、私におやつちょうだい!」
「よっしゃ、たんとお食べ!」
リリは今モリモリバスケットなるものを持っている。
それはかつてスカスカであったバスケットだ。
丹精込めて育て上げ、ついにモリモリになったものである。
この菓子を食べる事で、力が少しだけ回復する。
「よーし、ちょっと回復、もう一回よ、ドラゴーン!」
立て続けのドラゴーン攻撃に、グリザードの巨体がぐらりと揺れる。
そして縛りが解かれたのとボシュ達が復活したのは同時だった。
戻って来た瞬間に、サチに向けて放たれた攻撃をボシュが弾く。
立て続けにリリへの攻撃も弾く。
だがしかし、そのダメージは全てボシュに来る。
「ボシュ!」
「問題ない、この程度…っ、サチ、もう少しで倒せる、気にせず行け!俺が守る」
「ボシュ…分かった、皆をお願い!」
「皆だけじゃなく、お前もだよ!」
「サチ、私の力全部使って!」
「っ、皆、ありがとう!これで終わらせる、グリザード覚悟!」
こうして大激戦の末、グリザードとサチ達は共にその場に倒れた。
グリザードの体から力が失われ、元の姿へと戻って行く。
「まさかこの俺が…本当に倒されるとは」
「グ、リザード…っ」
「サチ!しっかりして!ああ…ひどいケガっ、治したいけどアタシも力が残ってな、い…」
「リリ姉、無理、しないでっ」
手を伸ばすアイミーだが、リリまで届かず。
「…お前もだろ、アイミー」
「そういうお兄ちゃんが、一番ボロボロじゃないっ…っ」
涙声のアイミー。ボシュを支えた瞬間、涙が零れ落ちた。
「アイツ、まだ生きてるぜ…」
「こっちはもう、マジで体力残ってないよ…」
「おい!サチを守れ、アイツ、何かする気だ!」
何とか這いながらサチの元へ向かう3人。
「面白い…!これだけの相手と戦って死ぬのなら本望というもの…。サチよ、楽しませてくれた礼だ、俺の命をくれてやる」
グリザードから邪悪なオーラが湧き立つ。最後の力を解放するつもりのようだ。
「守るって約束したんだ。約束は守るぜ?」
「今度は何が起きるのよっ」
「もういやっ、これ以上サチにひどい事しないでぇー!」
動けないサチに覆い被さる3人。
その時、暗がりに謎の影が現れた。
『待てグリザードよ』
「何をしに来た、手出しは無用と言ったはず」
『その冒険者を道連れにして死ぬつもりのようだが、それは許されない。お前の命は我らが大魔王様のもの。私と共に来い。大魔王様の復活のために、まだお前の力が必要だ』
「ふざけるな!俺に生き恥をさらせというのか?ぐぬぬ…ぐわぁ!」
謎の影がグリザードの体を持ち上げる。
『サチよ。いや…いずれ英雄の名を継ぐ者よ。この勝負は私が預かる。代わりに貴様の仲間にかけられた呪いも解いてやろう』
「お前は、一体、何者、なの…っ!」
『本来ならば、敵の私は貴様をここで葬るべきだ。だが動けぬ相手と戦うつもりはない。せいぜい力をつけろ。その時こそ、仲間共々全力で叩き潰してくれよう』
グリザードと共に謎の影は消え失せた。
上体を起こしていたサチが力尽きて再び床に倒れ、ボシュもその場に仰向けに転がった。
「ううっ…っ」
「サチ、しっかりして!ボシュも生きてる?」
「…バカ野郎、死んでたまるか。アイミーは?」
「私も何とか生きてるー…」
中でも一番体力の残っているリリが、ぺたりと床に座り込んでつぶやく。
「今の声って、もしかして3人目の四天王だったり?」
一難去ってまた一難。サチ達の冒険はまだまだ続く。