傷ついたサチ達がお互いを支え合って魔城を出ると、辺りは元の島へと戻っていた。
森を抜けてどうにか浜辺に戻って来る。
「お~い!戻って来たぞ!大丈夫かぁ!」
待ち構えていたアロンの船員達に出迎えられた。
「何とか歩けてるって感じですね…。でも無事に戻って来てくれて良かったですっ」
「こいつはひどいケガだ、すぐに手当てを!」
そこへアロンが駆け付ける。無事に呪いは解けたようだ。
「皆してボロボロじゃねぇか。俺はこの通り戻った。やってくれるって信じてたぜ」
「アロ…ン、お願い、聞いて、くれる…?」
「もちろん。勝利のキスでも欲しいのか?」
サチを抱き寄せ、色気たっぷりの声で囁くアロン。
「今すぐ…」
それだけ言って薄く唇を開いたままのサチ。
これを受けて了承されたと受け取ったアロンが顔を近づける。
唇が合わさる寸前、ボシュがアロンの襟を後ろから掴んだ。
「っと、そこまでだ。無抵抗なウチのリーダーに何してくれてる?」
「おおボシュ。やけに元気になるのが早いな!」
「アイミーがたんまり薬草買い込んでてくれたお陰でね。ほら、サチも早く飲め!」
アロンの腕の中からサチを取り返して、ボシュがその薄く開いた唇に薬草を押し込む。
「むぐっ…ニガイ」
「文句言うな。一人だけリリ姉の菓子食ったくせに?」
「だってあの時、ボシュは吹き飛ばされていなかったじゃない」
「まあ…そうだが。だってあれ、結構いけるんだよなぁ!」
チラとリリを見るボシュ。
「残念~。あれは戦ってる時限定なので♪」
「何だ何だ、そんなに美味いのか?恋人のキスの方が甘いだろ!ほらボシュ、するならやっぱりお前とがいいよなぁ。心配すんな、俺はまだしてねーから!」
「だっ、だから俺はコイツの恋人じゃ…」
「アロン!お願い!」
「おお…たちまち元気になって。何より何より!積極的だな、そんなに欲しかったか、俺のキス」
「まさかサチ、本気で…。俺、邪魔したか?」
どんなに奥手でも、人の恋路を邪魔するほど野暮な男にはなりたくない。
サチの言動を受け、ボシュは途端に自分がお邪魔虫になった気がして来た。
「そんな訳ないでしょ。今すぐダーマ神殿に連れて行ってって言いたかったの!」
「な…」
「な~んだ紛らわしい。面白くなりそうだと思ったのに?」
「良かったぁ。サチが私のお姉さんになる未来がなくなるかと思った」
サチ達の会話から、いつの間にか距離を置いていたアロン。
楽し気な一行を眺めてニヒルに笑う。
「悪いな、俺の恋人はコイツなんだ。シーサーペント号よ!」
「キャプテン、ダーマ神殿に行くんですかい?」
「そのくらいお安い御用だぜ、合点承知。野郎ども、碇を上げろ!シーサーペント号出航だ!」
「ありがとう、アロン!」
こうしてサチ達は、海を渡りダーマ神殿へと戻って来た。
ブレズとフラメ兄妹の呪いも解け、元の姿に戻っている。
「サチ殿のお陰で命拾いいたしました」
「大変だったろ。悪かったな、力になれなくて」
「ううん、二人が元に戻って良かった」
「お帰りなさい、サチさん」
「ただいま帰りました。いろいろとありがとうございました」
「グリザードの結界を打ち破ったそうですね」
「実はまだ、グリザードを完全に倒した訳じゃないんです」
「アイツ、妙な声に連れて行かれたんだ」
「そうですか…。相手は魔王が認めた四天王、易々とは行かないでしょう」
厳しい現実に一同が険しい表情となる。
「その、妙な声というのは3人目の四天王かもしれません。どうやらまだ、激しい戦いは続きそうですね」
「はい…。覚悟はしていますが…少し、自信を無くしかけています」
本当にギリギリの戦いだった。
自分を始めボシュもアイミーも瀕死の状態で戦い続けた。
それができたのはリリの強力な回復魔法の力だ。
だがこれだけでは勝てない。持久戦になればなるほど追い込まれる。
絶対的にパワー不足なのだ。
「あなただけに託したりはしません。今回だって、イフレムの戦士や海賊の方々と、頼もしい助っ人が現れたではありませんか」
「でもそれは!アロンに関しては完全に巻き込んでしまっただけで…」
「いいえ。出会いは偶然であり必然です。皆サチさんが呼び寄せたもの。全てが力となるのです。次も皆と力を合わせて戦いましょう」
「フォズ大神官様…」
これまでで一番の癒しスマイルがサチに降り注ぐ。
「それと、良い知らせが入っていますよ」
「何ですか?」
何と、全員の経験値がマックスになっているではないか。
つまり昇格できるという事だ。それも最上位の特級職だ。
「皆っ!気づいてた?」
「おお…気づかなかったぜ」
「それどころじゃなかったもんね」
「凄い、皆一緒になれるの?」
「おめでとうございます」
サチ達の喜びの声が、神殿の外まで響き渡った。
・・・
「カンパーイ!」
「何か現実味がないんだよなぁ」
「お兄ちゃん、ちょっとこっち来て」
「ん?何だよ」
アイミーがボシュの頬をつねる。
「って!何すんだ、アイミー!」
「痛いって感覚あるなら夢じゃないよ」
「アタシもやったげる!」
「いっ、リリ姉まで!いっぺんやりゃ十分だろうが!」
「じゃ私も」
「させるかっ」
ボシュがひらりと身を交わした。が、どういう訳かその先にもサチが。
「分身の術ー!えいっ」
「いって!お前、もうニンジャ気取りか?」
「サチ凄い、もう習得したの?」
「それが、なかなかやりたい時にできないんだ。でもこれは使えるわっ!」
「今はできたね。気持ちの問題じゃない?」
「俺をつねる事にそんなに気合入れるな!」
「ねえねえ!アタシなんてさ、また踊れるようになったのよ。ハッスルダンスとか鼓舞激励とか!」
「俺はまた怒りのパワー復活だ。力がみなぎるぜ!」
「ボシュは回復魔法が使えなくなったけど、パワーは戻ったね。安心したぁ…」
サチの心からの声に皆が注目する。
「ん?どうしたの」
「何か今のコメント、重かったなって」
「マジでパワー不足悩んでたもんねぇ」
「だよな。その節は何ともご迷惑を…」
「ううん!いいんだよ、ボシュ。だってその分、いろいろ学んだでしょ?」
「ああ。俺、ちゃんと皆を守れただろ?」
「それ疑ってたのアタシか。…ゴホン。はい、ボシュは立派に守ってくれました!」
「よろしい」
「私の大魔道士ってどうなんだろう」
「賢者の技が戻って来るよ。やまびことか」
「本当に!?そうするとまた、追撃レインボーにやまびこの3連発ができるんだ」
「それともう一つある。何だっけ」
サチが頭をひねっていると、後ろから声がした。
「連続呪文であーる!ボヨン」
「ジョニじい!来てたの?」
「久しぶりー」
「よくこの店に入れたな」
「顔馴染みなので、特別に裏の搬入口から入れてもらったのであるっ」
皆それぞれ声を掛けるも、サチだけがジョニーを見つめて無言だ。
「どうかしたかの?サチ殿?」
「ジョニー、もう来てくれないと思った」
「お呼びでなかったのなら引き返すが」
「違うっ、うえ~ん、来てくれて嬉しいよ~」
サチはダムが決壊したように涙を流してジョニーに抱きついた。
「おーよしよし。そんなにワシに会いたかったとな。光栄であるっ」
「感動の再会のところ悪いが、余計なとこ触るなよ?ジジイ」
「はて。余計なとことはどこじゃろ」
「まーた始まった!サチ、アンタがくっつくからよ?ほら離れてっ、続き聞こうよ」
「ぐすっ、そうだった。で、連続呪文って事は×2」
「さよう。やまびこも発動すればプラス1、さらに追撃レインボーが来ると4連続かのー」
「ウソみたい…体力が持たなそうっ」
「もちろん、それはほとんどない。3連続は頻繁に来るじゃろうが。アイミー殿がここまで来るとは、頑張ったのぅ…ワシも泣けて来たぞよっ」
みるみるジョニーの表情が歪んで行く。
「あー待て待て!ここで泣くと洪水になる。それよりゴッドハンドについても教えてくれよ」
「おお…おぬしはゴッドハンドか。なるほど、である」
「どの辺がなるほどなんだ?」
「ボシュ殿は元々武闘家。武人を極めるのは自然な流れと思ったまでじゃ」
「あ?ああ、そうだな」
「お兄ちゃん、あんまりそういう事考えてなかったでしょ」
「まあ、魔剣士にも憧れはあるけどな。俺は元々剣使いじゃなかったし」
「サチに教えてもらってたもんねー」
「して、そのサチ殿はニンジャか。ニンジャ装束も見てみたいのぅ…ムフッ」
「残念ながら手に入れてないの。ちょっとイイ感じの鎧があったから、取りあえずこれで」
サチが身に付けているのは、全体的にダークパープル系。
チェリーピンクの髪色にマッチしている。
「俺は前に買ってた鎧下と、こっちは新調した」
ボシュはブルーグリーンの胴体部分をブルーからレッドへのグラデーションカラーのマントが覆う。なかなかセンスのある一品だ。
「私も紫っぽく。大魔道士って白系じゃないかなって思って」
「逆にアタシは白っぽく。偶然この下とおソロの上衣見つけてっ、テンション上がるわ~」
リリは相変わらずキツネ耳カチューシャを付けている。
新調した上衣は、各所に薄いグリーンをあしらった爽やか系だ。
体にピッタリとフィットしたデザインが、リリのナイスなプロポーションを際立たせる。
「リリ姉のその路線は変わらずか…」
「何?そのツレない顔~。これ、ダメ?」
「いいや。似合ってる。普通に。着こなせるのはリリ姉しかいないな」
「何か棒読みなんですけどぉー」
「マジで思ってるって!」
ボシュの顔が若干赤くなる。
「照れてるんだよ。それ以上は突っ込まないであげて」
「優し~。いい妹持ったねボシュ君?」
「これで皆パワーアップ。これなら大丈夫!」
「ああ。今度こそ任せろって言える」
「4連続やってみたいっ」
「アタシの出番、マジでなさそうー」
「リリ姉の菓子、今度は食わしてくれよな?」
「まだ言ってる。そのうちねー」
賑やかな宴は始まったばかり。
そして特級職の道も始まったばかりである。