先頭を歩いていたアイミーが何かを見つけた。
「あっ、皆、見て!あそこ」
「魔物の気配ムンムンだわね」
「しっ、何か聞こえる」
大きく掘られた穴の奥の方から声が響いて来る。
「エッサー!ホイサー!」
「さあお前ら!掘って掘って掘りまくれ!大魔王様のために働くのだ!」
たくさんの魔物達が坑道を出入りしているのが見えた。
「例のブツを掘り出そうとしてるんだな」
「やや、そこにいるのは誰だ!人間が紛れ込んでいるぞ!捕まえるのだ!」
「イエッサー!ホイサー!」
「ボシュの声がデカいから気づかれたわよ」
「小物共なんざ何て事ねーよ」
「でも何か空気が怪しい…。気を抜かないで!」
魔物に取り囲まれたその時、突如薄暗い土壁にグリザードの姿が現われた。
『誰も手を出すな。そいつは俺の獲物だ』
「お、お前はグリザード?!何でっ」
後退るボシュ。あの死闘を思い起こし腰が引ける。
『やはり来たな。必ず来ると思っていた。この時を待っていたぞ、貴様と決着をつける日をな!』
グリザードはサチだけを見て言い放った。
「何かがあると思ったら、そういう事か…」
「サチ、こいつが来るの分かってたの?」
「そうじゃないけど、何となく」
「私がやっつけるわ。もう今までの私じゃないんだからねっ!」
「アイミー、落ち着け!別人みたいに強くなったのは認めるが、闇雲に突っ込むな」
自分の言いたかった事を全部ボシュが言ってくれた。
サチはボシュを見て心の中で大きく頷く。
サチは一歩前に進み出てグリザードと対峙する。
「どうせ今見えているのは実体じゃないんでしょ?ムダな戦いはしない」
『なるほど。学習したようだな』
「ええしたわ。何度やっても同じ。お前に勝ち目はないって事もね!」
『ほう。ならばこれはどうだ?』
不意に寒気が一行を襲う。
気づけば周りが一面雪景色に変わっているではないか!
「寒ぅ…っ」
「ここは…っ?」
「あん時のヤツのいた島と同じだ」
一瞬にして、グリザードが支配する極寒の世界に引きずり込まれてしまった。
「どこかに出口があるはず」
「そうだよ、探そう!」
『ムダな足掻きだ。そこは現実世界ではない』
「だったらそんなまやかし、消し飛ばすのみ!」
『威勢がいいのは変わらんな。だがその世界で、お前の方向感覚は使い物にならんぞ!』
ここで皆の目がサチに向く。
サチが元々方向音痴だと知るのは3人のみ。グリザードは知らない。
「そりゃ、あんまり問題なくねー?」
「うん。だわね」
「ね」
『??』
「…いや待て、俺も何だか方向が分からなく…」
「え、マジ?実はアタシもっ。気のせいじゃなかったかー」
「私もみたい…。逆にサチが直ったりして?」
今度は期待の目がサチに向く。
訳の分からないグリザードは、会話を無視して語る。
『ここから出るには地図が必要だ。それを持たぬ貴様らにその術はない。せいぜい出口のない世界をさまようがいい!ここを生きて出る事はない。これが大魔王様に逆らった者の末路だ』
「どうしてそこまで魔王のために戦うの?」
『…知りたいか?ならば凍り付く前に教えてやろう』
まさか答えが返されるとは思っていなかったサチ他一同。
寒さに震えながらも耳をそばだてる。
『遥か遠い昔の話だ。俺の一族は導きの英雄達に滅ぼされた』
「え、マジ?そうなの…始まりそれ?」
「魔物退治して歩いてたなら、おかしくはないだろ。ヤツだって魔物だ」
「…」
何か思うところがあるのか、サチは沈黙を続ける。
『一人だけ生き残った俺に救いの手を差し伸べたのが、我らが大魔王様だったのだ』
「魔物同士つるんだって訳だ」
「あなたの一族って、氷魔よね?」
「それは?」
「氷魔の一族といえば、その昔は氷の荒神なんて呼ばれ方もしていたの。そんな一族に英雄が手を出すかしら…」
「神様?それじゃあ、崇められてたって事?」
「よく知らないけど。恐らくは」
「どうせ何か悪さしたんだろ?その中の誰かが!」
『俺の一族を侮辱する気か。その辺の魔物と一括りにされるのは心外だ!』
「そうされても仕方がない。今のお前こそが一族のケガレよ。大魔王の手下に成り下がるなんて」
『俺は助けを受けた義を尽くしているだけ。それをケガレとは!おのれ人間の小娘、今ここで亡き者にしてもいいのだぞ?』
「やれるものならやってみれば?」
「サチ!そんなふうに挑発なんてしたら余計に…」
「そうよ、ケンカ吹っ掛けたらダメ!」
「助けてもらった恩返しをする魔物なんている?彼らは善悪の区別はちゃんと付けられる種族よ。…何かがおかしい」
「サチ?何ブツブツ言ってる」
「そんな種族を滅ぼすなんて、英雄がするはずがない。きっと何かの間違いよ!」
『黙れ!貴様はいずれ英雄を継ぐ者。我が一族のカタキだ。俺が手を下すまでもない。ここで永久に凍り付くがよい!』
こう言い放った後、グリザードの姿はかき消えた。
先ほどから吹雪いていた雪が一層激しく吹き付ける。
「寒い…体が動かなくなっちゃうよ!」
「いつまでもこんなとこにいたら危険だ。とにかくあの雪山でも目印にして前に進もう」
「いいアイディア!皆、行こう!」
初めこそ元気よく進んでいたものの、行けども行けども景色は変わらない。
どこまで見渡しても銀世界。目指す雪山になど辿り着けそうもない。
「あの山目指しても意味なくない?うう、さぶっ…このままじゃ凍っちゃう!どこか吹雪を凌げる場所探そうよ」
「リリ姉の言う通りだ。それが無難かもな」
と、そこへ魔物が3体現われた。
頭にはぐにょ~んと伸びた二本の太い黒い角。背面は白だが全体的に薄水色の体躯。
一言で表わすなら小太りの竜か。
「ぐおおお~ん!そうはさせぬ!豪氷天様からこの世界を守るよう命じられた雪原竜なり!足を踏み入れた者は抹殺じゃ!」
「出やがったか。ちょうどいい、体動かせば少しは温まる。俺がやる!ギガ空裂斬!」
まだ倒れない。
「私もやらせて!サイコストームー!」
「お、イイ感じ!あと一息よ!」
「よ~し、私も!ヴァイパーファング!」
「お、その技はニンジャのか!」
「猛毒に侵されろー!」
「一風変わった戦法だわね…」
「あ!一匹が毒に侵されてるよ!」
「よし、まずはアイツにとどめだ!食らえギガブレード!」
見事1体を撃破。
残る2体に3人で猛攻撃を仕掛け、やがて魔物の方が力尽きた。
「ぐおおお~ん!やられた~。猛毒卑怯なり~」
「やかましいわっ」
ボシュが最後に回し蹴りを追加。ようやく静かになった。
「魔物って案外おしゃべりだよね~。しかしマジでアイミー見違えた!そんでもってニンジャは毒も使うんだね!」
「毒も眠りも痺れも幻惑も、何でもござれっ」
「この黒炎、もっと強力なのもできるみたいよ。まだやった事ないけど」
「マジかよ?!」
「できる事なら、あれはやらずに済んでほしいなぁ」
「え、なんで?何かヤバいヤツなの?」
苦笑いのサチが言いたかった事は何ぞや。
かくして一行は先へと進む。
続いて現れたのはまたも水色っぽい魔物だ。
今度はカエデ形の体をして、5本足にはゲタを履いている。
「アイツ、氷を飛ばしてくるから気を付けて!」
「ふざけたヤツだ。一気にたたっ斬ってやる!」
「私もやる!」
アイミーは人が変わったように積極的になった。
気づけば兄妹だけで倒していた。
「アイミー大活躍!私の出番なかった」
「サチはいつも一人で体力使いすぎてるから。出来る時に休んで!」
「ありがと」
「逞しくなったわね、大魔道士さん?」
「えへへ。何かさ、マスクしてるからか、気が大きくなれちゃうんだよね」
「アイミーは昔から恥ずかしがり屋だからな」
「カワイイのに顔隠したらもったいないよ?」
「リリ姉だって、そのキツネ耳カチューシャ仮面付きで顔がよく見えてないよ?」
「アタシのはいいの。ミステリアスでそそるっしょ」
こんな会話の最中にも、猛吹雪が変わらず一行に襲いかかる。
「このままじゃ本当に凍り付いてしまうわ。早く寒さを凌げる場所を探そう」
「ああ。探そうとするたびに魔物が来やがるからな」
「ねえ!あっちに何か穴みたいなの見えない?」
「動物の巣穴だったらどうするの!」
「とにかく行ってみようぜ」
向かってみれば洞窟がある。
恐る恐る中を覗くも、どうやら動物の類も魔物の類いもいないようだ。
サチ達はようやく寒さを凌げる場所に落ち着く事ができた。
「これからどうなっちゃうの?」
「何とかしてこの世界から抜け出さないと…」
「グリザードが言ってた地図って、あのイフレムの倉庫にあったヤツか?」
「倉庫じゃなくて神殿!でもあれって海図だったでしょ?ここは海じゃないよ」
「私達鉱山にいたんだよね」
「あれは、この世界と向こうの世界を繋ぐ位置を示す地図。仕組みは分からないけど、この場所があの地図に示されてるのは間違いない」
「あれってブレズ達に返したんだろ?」
「返した。まさかまたグリザードとこんなふうに関わると思ってなかったし」
「そりゃそうだ」
「ブレズさんとフラメさんに、何とかして連絡したいよね」
「どうやるよ?」
「リリ姉、水晶でどうにかしろ」
「できるならやってる!」
「大神官だろ?」
「神様に仕えてるだけ。フォズさんならともかく、アタシはもっともっと下っ端!」
「ここはもう祈るしかない。強く念じれば届くわ、ほら皆、強めに願って!」
「何だよその非科学的な…」
「よし!いいから祈るよ!」
暗い穴の中で揃って神頼みする一行であった。