旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第67話:初代王の手記

 

 

 サチ達が氷の世界に閉じ込められた頃、ひとりの旅人がイフレムの国を訪れていた。

 

 

「初めまして、僕はシェントです。世界中を旅して四天王に関する文献を調べています」

 

 水色のサラサラヘアの片側に翼の髪飾りを付けた青年。

 同色の衣装はとても爽やかで清潔な印象だ。

 

 

「シェント?どっかで聞いた名だが…あ!アンタ、前にどこぞのパーティと組んで、グリザードと戦ったって言うあのシェントか!」

「お会いできて光栄です。大賢者シェント殿のご高名は度々耳にしておりました」

 

「あっ、いえ違うんです、大賢者は僕じゃなくこの本でして」

 

「むにゃむにゃ…そう、賢者はボクさ。話が終わったら起こせ」

 

 

「ええっ、本がしゃべった!?」

「面白ぇな!俺も一冊ほしいぜ。ま、本なんか読まないけどな?はっはっはー!」

 

 

 おかしな本を連れたこのシェント、過去にグリザードと対峙した事のある数少ない人物である。

 

 

「炎熱の闘士こと、イフレムの初代王が遺した地図が見つかったそうですね。グリザードの支配する世界に通じる地図だとか」

「はい。これがその地図です。初代王が建てた炎熱の神殿に保管されていました」

「失礼だが、これは本物ですか?」

 

「もちろんだ!これを使って実際にあっちの世界に行けたぜ?俺じゃなくサチがだけどな」

「…そうでしたか。他にも何かあるかも。調べさせていただけませんか」

 

 

 移動するにあたり本を叩くシェント。

 

「起きてください、これから炎熱の神殿に向かいますよ」

「んん~…着いたら起こして」

 

 大賢者は一旦起きたがまた寝た。

 

 

「大賢者殿は随分とのん気…いえ、大らかな性格のようですね」

「いつもこの調子で。でもこれでいて、なかなかの物知りなんですよ?」

 

 

 

 

 本を抱えたシェントと兄妹は神殿に向かう。

 

 そこで門番役のカラクリ兵と、お決まりのやり取りが始まる。

 

 

「ピピピ…コレヨリ先ハ、イフレム王族以外立チイル事ユルサレナーイ」

 

 王子と王女が名乗ると兵は動きを止めて固まる。

 やがて電飾をキラキラさせて答えた。

 

「照合中…ピンポーン!確認デキマシタ、オ入リクダサーイ」

 

 

「毎回これ、やる意味あるか?いっそコイツ撤去するか」

「いけません。ここには先祖代々の品が保管されているのです。きちんと見張りを立てねば」

「ちゃんとやってるのかね~、あのカラクリ!」

 

 すでに中に入って物色しているシェント。

 その横に並んだカラクリ兵が何やらしゃべっている。

 

 

「何か目ぼしいものはないかな」

 

「初代王ガ遺シた手記、アリマス」

「おいおい、マジかよ!それ前に来た時言ってなかったじゃねえか」

「何ですって?!王子もご存じないとは。見せてください!」

 

「コレハ子孫ニ直接手渡スヨウ言ワレテオリマス」

「俺、その子孫だが」

「私もです」

 

 

「ピピピ…照合中」

「それさっきやったろうが?さっさと渡せ!」

 

 

 固まる兵から紙切れをかっさらうブレズ。

 

 見てみればどうやら遺言状のようだ。

 

 

 “イフレムの初代王として、我が子孫に告ぐ。

 

私はかつて炎熱の闘士として、導きの英雄と共に豪氷天グリザードと戦い封印に成功した。

 

だが一つ心残りがある”

 

 

 全てを読み終えたフラメが眉根を寄せる。

 予想だにしなかった真相が、そこには書かれていたからだ。

 

 

「これは…」

 

「とにかく、サチ達にも知らせよう」

「確かフォズ大神官殿が、一行はブラキオ鉱山へ向かったと言っておりました」

「そこへは何をしに行ったと?」

 

 

「マズいぞ!こうしちゃいられない、その地図持ってすぐに行くんだ!」

 

「…え?」

「ほら何してる、のろま!」

 

 突如目を覚ました本、もとい大賢者。

 

 

「何だよ、どういう事だ?サチ達に何かあったのか」

 

「どうやらそのようです。向こうでグリザードに遭遇したのかも」

「もしやまたあちらの世界に?それは大変です、この地図がないと出られません!」

 

 

 

 

 こうして慌てて炎熱の神殿を飛び出した3名プラス一冊。

 

 

 道中も悪態を突きまくる大賢者に振り回されながらも、その道案内の甲斐あって無事にあちらの世界に足を踏み入れる事ができた。

 

 

「サチ殿ー!」

「おーいサチ、いたら返事しろ!いなくても返事しろー」

「兄様!真面目に探してください!」

「いてっ、杖で殴るな!」

 

 

 

 

 一行のいる薄暗い穴の中に、こんな声が聞こえて来た。

 

 

「何かどっかで聞いたような言い合いが…幻聴?ヤバいかも、アタシっ」

「幻聴じゃないよ、リリ姉!私も聞こえた!ブレズとフラメだ!おーい、こっちよ!」

 

 立ち上がったサチが穴から顔を出して外に向かって叫ぶ。

 

 

 吹雪の中に人影が現れる。徐々にその姿が鮮明になって行く。

 

 

「やっぱりそうだ、ブレズ、フラメ!」

「サチ殿!良かった、皆さんご無事でしたね!」

「こんなとこにいたのか、大変だったな」

 

「信じられん、願いが通じた…」

「だね。二人、どうしてここに?」

 

 

 サチからまさかの同意を得たボシュは、思わずサチの顔を二度見してしまった。

 

 

「あのチビッ子大神官から、お前達が鉱山に向かったって聞いてな。もしやと思ってこの地図を頼りに探しにきたって訳さ」

「フン。最初に指摘したのはボクだけどな?」

 

 

 見知らぬ爽やか青年が胸に抱えた重そうな本がしゃべった事にギョッとする一行。

 

 

「あっ、済みません、驚かせてしまって。こちらは大賢者、そして僕はシェントです。初めましてですね」

「本の方が大賢者?間違ってないか?」

「失礼なヤツだ、間違ってない!」

 

 

「えっと、この度は何とお礼を言っていいか…。本当にありがとう、大賢者様」

 

 サチは神々しい笑みを本に投げかける。

 

 

「べっ、別に!どういたしまして!」

「あらあら。本にまでオジンキラー・スマイルが効くとは?」

「実体はあのジジイみたいな、野郎だったりしてな!」

 

「おいオマエ!さっきから失礼だな!」

 

「ヤっベ、聞こえてたか。すんませんでしたー」

 

 

「なあボシュ!ついこの間会った時と何か雰囲気違うが、まさか昇格したか?」

「お!分かるか?そうなんだ、実はな…」

 

 ボシュが自慢げに話し始めた。

 

 

 そんな二人の光景をを眺めて、妹サイドが顔を見合わせる。

 

「相変わらず仲がよろしい事で。ところでアイミーさんも、何だか雰囲気が…」

「それ今触れないでください…」

 

「さあ、とにかく元の世界に戻ろう」

「ご一行殿、私達と炎熱の神殿に来てください。グリザードについて、新たな事実が分かったのです」

 

 

 

 

 こうしてサチ達は極寒の世界から抜け出す事ができた。

 揃ってイフレムの国へ向かう。

 

 

 

 炎熱の神殿にて。

 

 

「それで、新たな事実というのは?」

 

「はい、初代王が遺した手記が見つかり、そこにグリザードの正体が書かれていたのです」

「正体?」

 

 

 グリザードは遥か遠い昔、氷魔の山に住む魔物の一族だった。

 彼らは今は亡き古代文明の人々から氷の荒神と呼ばれ恐れられていた。

 

 中でもグリザードは、自分よりも強い相手に戦いを挑む生粋の戦士だった。

 

 そんなグリザードの力に目を付けたのが魔王である。

 一族を滅ぼし、一人生き残ったグリザードに呪いをかけ姿を変えさせたのだとか。

 

 

「でも待って、グリザードは英雄に一族を殺されたって言ってた。魔王に助けられたって」

「それが呪いだ。ニセの記憶を与えられたんだ。そうやって心を操り、四天王の一人に仕立て上げたのさ」

「どうしたら呪いを解けるんでしょう?」

 

「手記によれば、氷魔の山の洞窟にある氷魔のオーブが必要みたいだ。英雄や炎熱の闘士も呪いを解こうとオーブを手に入れたらしいけど…」

 

 

 戦いの最中にオーブを破壊され、呪いが解けないままグリザードを封印するしかなかったそうだ。

 それが初代王は心残りだったのだ。

 

 

「だから俺達に宛ててグリザードの居場所を示す地図と遺言を遺したんだな」

「私達が意志を継いでやり遂げなければ。サチ殿、お手伝いいただけますか?」

「もちろんよ。必ず呪いを解いてあげよう」

 

 

「雪山に行くなら、ボクが濡れないようにしてよね?」

 

 そう注文を付けて、再び眠りに就く大賢者であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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