奥まで進むと、ドロドロした大きな物が見えて来た。
勢い込んで進み出たアイミーがそれにぶつかる。
「今何かにぶつかったんだけど?」
「ちょっとアイミー!なんか付いてるよ!気持ち悪いドロドロっ」
「えっ?!ヤダ取ってぇ!」
目を凝らせば、そこにあったのは巨大な手だ。
地底から飛び出したそれは手の平をこちらに向けている。
「…、もしかしてこれが魔王の肉体の一部?!」
「そうみたい…キモッ」
サチの一言が合図になったかのように、ゴゴゴゴ…と地面が揺れ出す。
「まずいな、巨腕が動き出したぞ!」
「ええ?!何さ、腕だけで動けるの?」
「外気に触れた事で魂の存在を感じ取ったのだろう。魂が肉体を欲するように、肉体も魂を欲して動き出したのだ」
「どど、どうしよう!このままじゃ坑道が崩れちゃうよ!」
「生き埋めになる前にここから出るぞ!お前達、俺の背に乗れ!」
「いいの?」
「お前達ごとき全員運べる。いいから乗れ!早く!」
「んじゃ、遠慮なく!」
ボシュが一番乗りでグリザードの背中に飛び乗る。
続いてアイミー、サチとリリは先にブレズ兄妹を乗せてから飛び乗った。
「いいか、飛ぶぞ!」
「「「お願いしますっ」」」
グリザードはサチ達を背に乗せ坑道の外に向かって飛び立った。
「坑道がどんどん崩れてるぜ!グリザード、もっと早く進め!」
「兄様、乗せてもらいながら命令口調は良くありません。早く進んでください!ですよ」
「うるさい!黙って掴まってろ!」
グリザードが飛び出すと同時に、山肌を突き破るようにして魔王の巨腕が地表に現れた。
「ゴゴゴゴ…」
紫色の血管が黒い皮膚に浮き出ている。
鋭い赤い爪を生やし、手首で光る金の腕輪には等間隔に紅蓮の竜玉が嵌め込まれている。
手招きをするように揺れるその姿は、あまりにも不気味だ。
「ひぃ~デカすぎっ。あれが腕だとしたら、体はどんだけなのさ…?」
「恐れるな!魂がなければ肉体はただの器に過ぎない。今のお前達ならば必ず討ち倒せる。己の力を信じて戦うのだ!」
「必ず魔王の復活を止めるわ。これは冒険者である私達の仕事。他の皆は下がってて!」
サチの言葉を受け、ブレズ兄妹とシェントが後退して行く。
「フォズさんがあの杖をくれたのは、アイツが強力な魔力を持っているからだったのね…」
「だわね。物凄いパワーを感じるっ」
「あの大きさからして、力も半端ないだろうな」
「防御も徹底だね。お兄ちゃんだけにガードしてもらう訳には行かない」
「そうよ、ボシュ、無理は禁物だからね?」
「いつも一番無理してるお前に言われたかねーよ」
サチが小さく笑って肩を竦めた。
そして呼吸を整え、前を向く一行。
「よし、行くわよ!まずは一番手、出でよドラゴーン、全速前進!」
「次は俺だ、ギガブレード!」
「マヒャデドス!」
「アタシは皆にマジックバリアー!」
一ターンを終えて敵からの攻撃が襲い掛かる。
大きな手がバシリとボシュに直撃。踏ん張り切れずボシュは飛ばされた。
そして皆の足元にジバリーナという呪文が仕掛けられる。
「想像以上の威力だわ…。二人とも気を付けて、動くと爆弾が作動するよ!威力はそこまでないけど、体力がどんどん削られるっ」
説明してからサチが一歩踏み出すと、足元の爆弾がボンっと破裂した。
構わず攻撃を繰り出すサチ。
「そういう事ね。了解!今度はサイコストーム!凍結しちゃえー!」
「アタシは早速ボシュを呼び戻すわ。渚のベホマラー!」
「サンキューリリ姉!一発目でやられてマジで焦ったぜ…」
ボシュが戻って来るなり再び敵の攻撃が始まる。
バリアにより呪文の威力はやや落ちているとはいえ、一度吹き飛ばされた者にはイタイ。
一気にピンチに陥ってしまう。
「クッソ、まだ全然攻撃してないってのに?また来るぞ!」
「きゃ~っ!うぐっ」
「マズい、アイミー!守ってやれなかったっ」
今度はアイミーに攻撃が直撃。一気に瀕死状態に。
「ベホマラー!!ダメだ、全然回復量が足りない、こういう時にやまびこ発動してよっ」
「確率で発動する技は頼れない。かと言って私も全然力がないっ、ゴメン、皆…」
「まさかここまでとはっ、どうする、サチ?」
「サチ!アイミーがっ。きゃーっ!」
「リリ姉!今度はリリ姉が飛ばされた」
「呼び戻すヤツが飛ばされたら意味ねー!」
そうこうする間に敵からの攻撃が続く。
「私も少しなら薬草持ってる。これ使って、ボシュ」
「いやお前が使えよ!リリ姉が戻って来るまで持ちこたえられそうなのはサチだ、俺は無理、みたいだ…、っ」
「ボシュ!そんな…っ。悔しい、何もできないなんてっ、ドラゴーン全速前進!って今?分身の術出た、も一回ドラゴーン!」
そして分身も虚しくサチも力尽きたのだった。
冒険者の特権を行使して4人とも生き返る。
長期戦になる事が分かり、一旦その他のメンバーには解散してもらう事に。
その場はサチのパーティのみとなり、しばしの作戦会議が開かれる。
「一発目の吹き飛ばしがヤバい、最初は攻撃じゃなく受け流しの構えで行こう。俺の盾とアイミーのは使えるよな。サチとリリ姉は?」
「最初の頃に使ってた親分の盾にそのスキル付いてる。一時的にそれ持とう」
「懐かしー!最初にお揃で持ったよね」
「持った持った!まさかあれが役に立つなんて?」
「よし。次は?」
「アイツの攻撃は呪文とジバリア系。で、私達、ジバリア耐性がほぼない」
「そう!そうなんだよ、しくじったな…。あのグリズリーと戦った時も苦戦したんだ」
「マズいじゃん、あんなクマより100倍強いよ?」
「私が一番打たれ弱い…ゴメン、皆」
「アイミーは凄い攻撃魔力持ってるじゃない。それ言ったら私が一番使いものになってない…」
「んだよ、辛気クサい顔すんなよ!とにかくさっきは無策すぎた。もっかい挑戦しようぜ。今度は俺のもくそうって技も使ってみたいし」
一番に飛ばされ、さぞ落ち込んでいるものと思われていたボシュが最も前向きだ。
「なんか、頼りになるね、ボシュ…」
「お兄ちゃん、見違えた」
「うん。リーダーの座を譲ってもいい感じ」
「おいおい!おだてても何もないぜ?」
「よし、もう一回やってみよう!」
「そう来なくっちゃな、リーダー?」
気を取り直したサチ達は再び巨腕と対峙する。
「今度はやられない。皆、受け流しの構えー!」
「サチ、アタシはマジックバリアやらせて!」
「そうだね、お願い。リリ姉は私達の影に隠れて!」
この対策の甲斐あって、最初に吹き飛ばされる者はゼロだった。
続いてマジックバリアの効果が多少入り体力が温存できた。
「そんじゃ攻撃開始だな!食らえギガブレード!」
「ドラゴーン!」
「マヒャデドス!」
「ベホマラー!」
ボシュの技は耐性があるらしく、なかなかダメージを与えられない。
そしてニンジャサチはパワー不足感が否めず。
唯一アイミーの黒炎が効いているが、体力は無限ではない。
リリのお陰でダメージをリカバリーし次に備えるも、毎回攻撃できる訳ではない。
何しろ防御しなければ死に直結するほどのダメージを受けてしまうのだ。
「威圧っ、咆哮ー!」
「サチ、敵の戦力削ぐのも大事だが、自分の身も守れよ!スカラ!」
「でもこういうの出来るの私だけだから!」
「きゃ~!!」
「しまった、アイミー!クッソ、またアイミーが」
「アイツ、アイミーがウチの一番の戦力って気づいてるんじゃない?」
「ただの器に意思はない」
「そうだよ。それならリリ姉が一番に標的になってるはずだろ!」
攻撃はランダム。誰が受けるかは神のみぞ知る。
そしてコツコツと積み上げた敵へのダメージが半分に達すると…。
次の強烈な攻撃がやって来る。
「まさかの変身じゃねーだろうな?もくそう!」
「あれ以上に変身しようがないでしょうよ、ベホマラー!」
そう、それは変身ではなく、怒り狂った手が大暴れして地表ごとひっくり返すのだ。
これはたまらない。サチ達は耐え切れずここで全滅するのだった。
何度挑戦してもこれに耐えられない。
ある時はボシュだけが生き残りまたある時はサチが生き残るも、肝心の回復役リリがいなければ何もできずに終わる。
運良く後半戦に持ち込むも、圧倒的にパワー不足。
もう数え切れないほど繰り返した挑戦。
時にはサチが海賊に戻ってチャレンジした。
海賊の方がパワーがある気がしたのだが如何せん生き残れない。
やはり特級職の生命力は圧倒的だと分かった。
「パワーだけでいいなら、俺とサチが魔人になって突っ込むのも手だぜ」
「いいじゃん、それで行こう!」
魔人という職業は、冒険者ならば誰でもお試し的になれる職。
興味本位でサチとボシュが少し前になってみた事がある。
だがレベルの低い魔人では思ったほどパワーが出ず。
逆にゴッドハンドのガードがなくなるため、さらに持ちこたえられなかった。
その後も、ひたすら確率で攻撃力を落とす技を使ってみたりしたが、結果は敗北。
「やっぱりゴッドハンドの守りは必要だよ。私がニンジャなのがいけないのね…」
「サチ!弱気、ダメ、絶対っ」
「そうだよ!アタシだって攻撃できなくて歯がゆいんだからね?」
「アイツ、縛りも麻痺も効かないんだもん!」
「サチが水晶持ってみたらどうだ?」
「そうか、どうせ力がないなら私も回復に回ればいいのか!ナイスアイディア、ボシュ!早速やってみよう!」
果たしてニンジャに回復役は務まるのだろうか?
何度も繰り返し戦うシーンの書き方が難しい…(悩)