旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第71話:さらわれたリーダー

 

 

 少しの希望を抱き挑戦したサチ達だったが、その結果はまたも惨敗か。

 

 

「私の回復力が絶望的っ。やっぱり私使えなーい!」

 

 サチが神秘の水晶を掲げて癒しの占術を唱えるも、回復は微々たるものだった。

 

 

 嘆きの声を上げたその直後。

 

「サチっ!危ないっ!」

「…え?っ!!」

 

 

 魔王の手はサチに直撃し、2度目の吹き飛ばしに遭ってしまった。

 

 

 

 持久戦になればなるほど、こうして恐ろしい技が繰り返されてしまう。 

 そして地表がひっくり返され、悲鳴がこだまするのだ。

 

 

「く、そ…っ、」

 

「お兄ちゃ、…。リリ姉、サチは…?」

「ひっくり返しに遭う前に飛ばされてるから…もしかしたら無事かも…」

 

 瀕死の3人が息も絶え絶えに会話する。

 

 

 その耳にこんな声が響いて来た。

 

『我が花嫁、ようやく我が胸に飛び込んで来た。無意味な戦いなどやめよ。共に行こうぞ』

 

 

「なあ…今誰か、何か言ったか?花嫁、とか?」

「ねえ、見て、あそこ!」

 

「何か宙に浮いてる!人?…いやあれ、髪じゃなくて角だわよ、ほら白っぽいの二本、グリっと生えてる!」

「大きな鎌持ってる!顔も紫っぽいし魔物だよ…っ」

 

 

「それより、アイツが抱えてるのって…!」

 

 

 サチ!と3人の声がハモる。

 

 

 一見人のようだが、リリの主張通り頭には象牙のような角が生えており、同色の髪は無造作な感じでオールバックにされている。

 衣裳はいわゆる中世貴族風でなかなか豪華だ。

 

 全体的にグリーン系でマントの裏地は肌と同色の紫。

 胸当ては、良く見れば恐竜の顔部分の骨のような仕様。

 

 どう見ても正義の味方ではない。

 

 

 空中でその腕に横抱きにされたサチは、ぐったりとしていて動かない。

 生死さえも不明だ。

 

 

「おいお前!どこに連れてく気だ、サチを返せ!」

「そうよ、ウチの大事なリーダーだわよ!」

「サチを返してー!」

 

 

『賑やかなギャラリーだ。あれだけ痛めつけられてまだそんな力が残っていたとは。ムダだ。我に逆らう事は何人たりとも許されぬ』

 

 

「だから誰なんだよ、オマエ!」

 

 ボシュの問いかけに、宙に浮いたそれは驚くべき名を口にする。

 

 

『我が名はネルゲル。冥界の王である。この者の名はサチと申すか。サチはこの冥王ネルゲルが貰い受けた。ではさらばだ』

 

 

「メイオウって…どっかで聞いたわね」

 

「ほら、フォズさんが話してた人だよ!死者の魂を管理してる人!」

「それだ!って、王様直々に下界に降りて来たっての?!」

「サチを連れて行くために?何も今じゃなくても!」

 

「ってそこかよ、アイミー…。いや待て、そうするとサチは死んだのか?」

 

「ちょっと待ちなさいよ!説明してよ!王様!」

 

 

「もういないよ。…どうしよう、サチが本当に死んじゃった!」

 

「それはあり得ない。冒険者は死を免除されてるはずだ。サチが冒険者である限り、だが」

「サチ、かなり落ち込んでたよ。もう冒険者やめる!なんて考えたりしたら?」

 

 

「ヤダヤダっ、そんなのヤだよ、リリ姉どうしようっ、あ~ん!」

 

 アイミーが泣き出す。さすがのリリも言葉が出ない。

 

 

 一行の足元に、サチが最後に使っていた神秘の水晶が転がって来る。

 それを手に取るリリ。

 

「サチ…、ウソでしょう?」

「おい、愛用の得物もここにあるぜ…。俺が水晶使ってみればなんて言ったからっ!」

 

 サチの水竜の短剣をボシュが取り出す。

 

 

 たまたまではあるが、サチの剣はここに残されてしまった。

 その事が一層、冒険者をやめるという最悪の結果に繋がりそうで、不安はさらに倍増だ。

 

 

 

 気づけは、あれだけこの場に居座っていた宿敵魔王の巨腕がいない。

 

 

「敵には逃げられるわリーダーは連れ去られるわ、踏んだり蹴ったりだな…!」

「でもあのままじゃ、アタシら完全に八方塞がりだった。手が消えたのは救いだよ」

「どこに行ったのかな、あの手」

 

「もし冥王ってのが魂を操ってるんだとしたら、アイツと一緒に行ったって線が濃厚だろうな」

 

「そんなの連れたヤツとサチがいるなんて…危険じゃん!」

「だがアイツ、花嫁って言ってたぜ」

「サチの事、好きになっちゃったのかなぁ」

 

 

「全く…オジンやら魔物だけじゃなく、冥王サマまで虜にしちゃったワケ?あの子は!」

「逆に考えればだ、花嫁と呼んでる相手を危険な目には遭わせんだろうが」

 

「そう願うね。とにかくアタシはザオラルを唱えまくる!もし死んでたとしても、冒険者続けてるなら生き返るはず」

「私も手伝う!葉っぱなら持ってるよ、使って!」

 

 

「…俺は、もっと強くなる。修行だー!」

 

 

 リリとアイミーの「ザオラルー!」と唱える声がいつまでも響いていた。

 

 

 

・・・

 

 

 

 冥界まで届くリリとアイミーの呪文。

 聞いているのはサチではなく、この男だけだ。

 

 

「全く諦めの悪い者共よ。ムダだというに?のう、我が花嫁。早く目を覚ませ」

 

 

 連れ去られたサチは大ケガを負っていた。

 意識を取り戻す事もなく隅々まで身を清められ、着替えをさせられてベッドに眠る。

 

 

 着せられているのは、純白にゴールドや淡いグリーンをあしらったまるで花嫁衣裳。

 

 チェリーピンクの自慢のロングポニーは解かれ、淡いグリーンに色を変えて両サイドに流れている。

 頭に添えられたパールのヘッドドレスには、左右非対称にピンクの花々があしらわれ、なかなかのセンスである。

 

 

 

 サチ達が魔王の巨腕と戦い始めた頃、一行の姿をネルゲルは眺めていた。

 初めのうちは何の感情もなく。

 

 

 だが飛ばされても焼かれても呪われても敵に立ち向かう姿に、ある感情が生まれる。

 

 それは自分にも、執念深く敵を追い回す性質があるせいか。

 サチの粘り強さを見ているうちに、気が付いてしまったのだ。

 

 何よりも良く見ればサチがタイプど真ん中のルックスであった事が確信に繋がった。

 

 

「この者は我の花嫁に違いない。おお…何と美しい。いつまで眺めても飽きる事がない!身も心も、魂さえも…我のものぞ」

 

 陶酔している間は気にならないが、気を抜けば下界から、ザオラルー!と未だ呪文が聞こえている。

 

 

「…ええい、やかましいっ。おい!誰かおらぬか!」

 

「お呼びでしょうか、冥王様」

「この声を何とかしろ、気が散るわっ」

「何とか、とおっしゃいますと?」

 

 勢いで殺せと言いそうになるも留まる。

 

 

「…もうよい。人間の食事を用意しておけ。サチが目を覚ましたら必要になるであろう」

 

「かしこまりました。どのようなものがよろしいでしょう?」

「人間の食事になぞ通じておらぬ。そんな事はお前が考えろ。分かったら行け!」

「はっ。失礼いたしました」

 

 

 ネルゲルに仕えて長い下僕も、こんな無理難題に首を傾げる。

 こんな事は初めてなのだ。

 ちなみに冥王は悪しき魂を食らう。そして下々の者はそのお零れをもらう。

 

 

「はて。なぜ冥王様は人間なぞに興味を示されたのか?して、人間は何を食べるのだ?」

 

 

 

 

 

 

 




巨腕にあまりにも勝てないので別の妄想が始まってしまいました。たまたまこのタイミングでネルゲルが仲間に加わったもので…しばしお付き合いくださいませ。
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