旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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今さらですが、独自設定が多々ありますのでご注意ください。


第73話:難アリの管理者

 

 

 気が付くと、部屋を飛び出したはずがまたベッドに寝ていた。

 

 

 サチは辺りを見回し大いにうなだれる。

 

「やっぱり夢だったぁ…」

 

 

「夢ではない。あのような幻影を残して散歩とは?我が花嫁はチャーミングなのだな」

「あっさりバレたのね…ま、分かってたけど!で、チャーミングって言葉合ってる?」

 

 サチは心の中でドラちんに謝った。何もやり遂げてはいなかったと。

 

 せめてもの救いはネルゲルがお怒りでない事だが、不自然な単語に首を傾げる。

 

 

「人間の言葉も慣れてないのね。逃げ出した私を叱らない心の寛大さには感謝しますけど」

「叱る?なぜ?この世界は我の支配下にある。逃げ出すなど不可能」

「…くっ」

 

「そなたはただ散歩に出ただけ。そうであろう?」

 

 

 肯定するのは負けた気分になる。サチは唇を嚙みしめて沈黙を貫く。

 

 

「どうやら花嫁はムダな足掻きがお好きなようだ。そのような抵抗も愛らしいではないか!」

「そうやってバカにしてたのね。だったら笑えばいいわ。私はただの人間。王様か神様か知らないけど、あなたから見れば米粒みたいなものよ」

 

「米粒とな。それは人間の食糧であろう。大事な物ではないか」

 

「そう。たくさん集まって初めて役に立つ。一粒消えたところで誰も気づかない」

「しかし、たった一粒にも重みがあろう」

 

 

 人間とは何ぞや。この短時間でネルゲルはそれを学んだ。

 

 何かを学ぶなどいつ以来の事か。

 サチを振り向かせるためにはなりふり構っていられない。

 

 

「人間一人一人は小さくとも、それぞれに重みがある。サチがこの胸に飛び込んで来た時に確信した」

「重くて悪かったわ!」

「…そういう意味ではない。とにかく、我の未来に必要なのはこれだと確信したのだ。その小さな体に、かくも尊く大きな力を感じたのだ」

 

「尊く大きな力って?そんなの私にはないです」

 

 

 一々突っかかられてもネルゲルがめげる事はない。

 自意識過剰な人種はメンタルが強いのだ。

 

 

 威厳ある声で演説は続く。

 

「時期に全世界は我のものとなる。だがそれが叶ったとて、我が心の虚しさは消えぬだろう」

 

 

「ちょっと待って、今、世界が自分のものになるって言った?」

 

「そうだ。つい先日その契約を交わした」

「先日、契約した?そんな事が言える相手って誰よ」

「うむ、あの者の名は何と言ったか…。忘れた」

 

「はあ?契約交わした相手を忘れるとかある?」

 

「そんな話はよい。我の虚しさを消し去れるのはそなたしかおらぬという話だ。そんな事ができる者なのだ、尊く大きな力を持っているであろう?」

 

 

 ネルゲルの熱意のこもった言葉も、今のサチには入って来ない。

 全世界を手に入れるなど、悪役の決め台詞のようなものだ。

 

 しかもそれは魔王が目論んでいる事ではなかったか?

 

 

 混乱を極めたサチは、またも目が回り出す。

 

 

 そんな中で一つの答えに行き着いた。

 それはフォズが語っていた、冥界から魂を連れ出した者がいるというあの話に繋がる。

 

 

「…もしかしてその条件って、魔王の魂、だったりする…?」

「それ一つで世界を掌握できるとあらば、そなたでも乗るであろう?なあサチよ!」

 

「バカっ!難アリの管理者って、こういう意味かぁ」

「難アリ、とは何だ?」

「こっちの話です!はぁ、どうしよう、どうしたらいい?ああ!頭が回らないっ」

 

 

「どうしたのだ、急に慌て出して」

 

 サチの困り果てた顔を見て、ネルゲルも眉根を寄せてみる。

 

 

「こんな事してる間に、魔王の魂が肉体に戻ってしまう…。この人を説得するのは至難の業…。やっぱり私が向こうに戻るしかない。でも戻って何を?」

「サチ?どうしたというのだ。何をブツブツ言っている?」

 

 

 ネルゲルの存在も忘れて、サチはひたすら考える。

 

 

「戻ってやる事は決まってる。まずはあの手の化け物退治よ!戻る肉体を失えば、魂も諦めるかもしれない。うん、そうよ!」

「サチ?」

「こうしちゃいられない。冥王様、サチのお願いを聞いてください」

 

「ようやくこちらを見てくれた。何だ?ここから出す以外ならば何でも叶えよう」

 

 

 最初に釘を刺されて二の句が継げなくなるサチ。

 ダメ元で言ってみる。

 

「その契約を白紙に戻す事は?」

「それはできぬ。一度交わした契約を反故にすれば、」

「すれば?」

 

「とにかく、おぞましい事になるのだ。それ以上は言わせてくれるな」

「なら私が邪魔した事にすれば!」

 

「何を血迷った事を…。それを我がそなたにさせると思うか?」

 

 

 ダメか…サチはうな垂れるも、気を取り直して前を向く。

 

 

「大体、そんな条件、本当に守られると思ってるの?賢い冥王様なら分かるはずだわ」

「どういう意味だ」

 

「だから、全世界を手に入れるって話!恐らくあなたが契約した相手は四天王の誰か。奴らは魔王を復活させて、それこそ世界征服を狙ってるのよ?」

「知っている」

 

「は?知ってるのにどうしてっ」

 

 

「我がその魔王の上に立てばよいだけだ」

「簡単に言うけど、本当にできる訳?」

 

「我に不可能はない」

 

 

 そんな世界が実現したなら、果たして平和は戻るのか?

 一瞬考えたサチだが、そんな仮定の話は今はどうでもいい。

 

「ま、いいけど!とにかく私にはやる事があるの。このままじゃ死んでも死にきれないわ」

「そなたが死ぬ事はない」

 

「んもうっ、だから!一生悔むって言いたいの!」

「心配するな。そんなものは綺麗さっぱり忘れさせてやろう。容易い事だ」

 

 

「やめて。それは絶対にやめて!そんな事したらあなたの事、嫌いになるわよ?」

 

 

 嫌いになると言われ固まるネルゲル。

 それだけは困る。絶対にやめようと心に誓う。

 

「分かった。それはしない。だから嫌わないでくれ、どうか…!」

 

 威厳はどこへやらで途端に弱々しく懇願され、調子が狂うサチ。

 

「そんなに、必死にならないでよ…分かったから」

「安心した」

 

「…なんか私、踊らされてる?まあいいや、だから、私をあっちに行かせて!」

「ならぬ」

「な、ん、で!」

 

「また同じ問答か?そんな事より、もっとそなたの事を知りたい。別の話をしようではないか」

 

 

 サチのため息が力なく吐き出されて消えた。

 

 

 

・・・

 

 

 

 その頃。残されたボシュとリリ、アイミーはレベル上げに勤しんでいた。

 

 

「修行に参加してくれて良かったぜ!」

 

「取りあえず強くなっとかないとね。アンコールの技は必須だし?」

「私ももっと強くなりたい。昼間は修行、夜に呪文でいいしね」

 

「ああ。歯がゆいが、そっちは二人に頼むしかない。俺は呪文使えないからな。で、手応えは?」

「全然。サチはまだ生きてるからだって、思う事にしてる」

「うん。生きてるなら、ザオラルは意味がないもの」

 

 

「だな。きっと生きてる。そんでもって戻って来る。俺も祈ってる」

 

 

 3人は天を振り仰ぐ。

 すっかり邪悪な空気も消えて、何の変哲もない青空が広がる。

 

 

「あの死闘がウソみたいだね。これで平和じゃないなんて」

「どっかに邪悪な奴らがうじゃうじゃいるのよ」

「あの手の野郎、どこ行きやがったんだか。ま、今出て来られても困るが?」

 

「そうだよ。もっとジバリア耐性のアイテム手に入れないと!」

 

 

 3人は今、それを入手すべくあちこち探し歩いているのだ。

 

 

「ねえ、サチの分も集めようね。戻って来たら使えるように」

「ああ。そうしよう」

「だわね!必ず戻って来るもん」

 

 

 そう信じて、今日も修行に励む。

 

 

「あ~アタシにフォズ大神官様みたいな技が使えればなぁ」

「レベル上げれば使えるんじゃねえか?」

「ノンノン。それが下々の者には使えないヤツがあるのよ」

 

「それって、いつかフォズさんが遠くの場所から会話して来たあれ?」

 

 

「そう!心話よ!それでならサチと話せるかもって…」

「ならフォズ大神官に頼めばいいんじゃねーか?」

 

 

 リリとアイミーが揃ってポンと手を打つ。

 

 

「「それだ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

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