旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第74話:安否確認

 

 

 ここ冥界には、時の経過を図る術がない。

 昼夜がある訳でもなく、空の色も明るさも常に変わらないからだ。

 

 

 サチが冥界に来て、一体どれだけの時が過ぎたのか。

 

「ここにいると、体も頭もおかしくなりそう…!」

 

 

 さらにはネルゲルの執着に恐れをなす今日この頃。一日の大半を共に過ごしている。

 何をするにも付いて来るし、熱のこもった視線を浴びせて来る。

 その割にお触りなどは皆無。

 

 未だに力加減が分からないのだとか。それだけが救いだ。

 

 

 

 そして今、ようやく一人になれた。

 

「はぁー、マジしつこいっ。仕事しろっつーの!王様って暇なの?父さまはどうだったかなぁ」

 

 

 体調も完全に回復した今では、次の戦いに備えてニンジャとしての鍛練も開始。

 修行中は集中するため、存在を無視できるので好都合だ。

 

 飽きずにその光景を眺め続けるネルゲルだったが、今しがた下僕に呼ばれて出て行った。

 

 

 

 そんなタイミングを見計らったように、サチの頭の中に声が響いた。

 

 

『サチさん、聞こえますか?』

 

 

「え?誰かいる?…違う、この声って!」

 

『フォズです。お久しぶりです、サチさん、ご無事ですか?』

「はい!無事です、ちゃんと生きてますっ、皆に、そう伝えてっ、ぐすっ」

 

 感極まって涙があふれ出し、鼻を鳴らすサチ。

 

 

『皆さんここにいらっしゃいます。伝わっていますよ』

 

『サチ!生きてたんだな、信じてたぜ!』

『サチっ、良かったよぉっ、ぐすっ…』

『え~んサチ、帰って来て~!』

 

 

「皆ー!心配かけてゴメンねっ…」

 

『サチさん。今どこにいるのですか』

「冥界です!出してもらえなくて…。フォズさん、どうすればそっちに行けますか!」

 

 

 ここで声が途切れた。

 

 

「フォズさん?大神官様!聞こえますかっ、え、どうしよう、聞こえてない?」

 

 

 

「サチよ。何をしている?」

「げ。もう戻って来た…」

 

 気づけば背後にネルゲルが立っていた。

 

 

 心底迷惑そうに言われさすがにショックを受けるネルゲルだが、気を取り直して声を掛ける。

 

「良い事を思い付いたのだ。我も鍛練に付き合おうと思うてな」

 

 そう言って愛用の得物である大鎌を構えて見せた。

 

 

 その迫力に圧倒されるサチ。

 何しろその代物は空間をも切り裂くと言われる切れ味である。

 

「そっ、それは有り難いです、けども…」

 

「さあ、遠慮せずに飛び込んで来い、この胸に」

「それってなんか…!」

 

 このシチュエーションでは自分から行かざるを得ない。

 がしかし、自らあの胸に飛び込むなど以てのほかである。

 

 

「ほらどうした?」

 

「やめた。だってズルいわ。私は素手なのにそっちだけ武器持ってるなんて?」

「ならばこれでは。さあ、本気で来るがいい!」

 

 ネルゲルがあっさり得物を手放して両手を広げる。

 

 

「ほ、本気って…もっとダメでしょ!」

 

 

 憤慨気味にその場を離れてしまった花嫁を見つめるネルゲル。

 サチの怒りは単なる照れと受け取られる。どこまでも前向きな性格だ。

 

「恥じらう姿も愛らしい…全てが愛おしくて仕方がない!サチよ、待つのだ。我もそちらへ行こうぞ」

 

「来なくていいー!」

 

 

 

・・・

 

 

 

「おいフォズ大神官、何で会話が途切れた?」

「妨害電波?」

「冥界にも電波あるのかな」

 

「そのようなものかもしれません。ですが、ご無事は確認できましたね」

 

 

 まさか本当に冥界にいるとは。

 フォズはこの話を聞かされた時、半ば冗談と取っていた。

 

 

「ホント良かったぁ。もうザオラル唱えなくていいね」

「うん。生きてる人には意味がない術だから」

 

「あの杖の呼び戻しの技は使えないのか?」

「サマーメモリーですか。あれは戦闘時に吹き飛ばされた場合のみ効力を発揮するのです」

「そりゃそうっしょ。冥界から呼び戻せたら苦労しないよ」

 

 

「それで、その方法ってあるんですか?」

「そもそも冥界ってどうやって行くんだよ。死んだ魂が集まる所だろ?」

 

「はい。残念ながら生ある者は行く事はできません。サチさんがこちらに戻るためには、冥王の意思なくしては不可能です」

「アイツか。魔物みたいなツラしてたが、何者だ?」

 

 

 一目だけ見る事ができた冥王の姿を思い起こす面々。

 

 

「これをお話するには、少しお時間が必要になります」

 

「教えてください!サチが向こうで危険な目に遭ってないか不安で、夜も寝られやしない」

「私も!冥王って、悪い人…なんですか?」

「見るからに悪そうだったぜ?あれで善人とかないだろ」

 

「お兄ちゃん!そういう事言わないで?」

 

 

「アイミーさん。お兄さんの言い分は正しいと言わざるを得ません」

 

「ええぇ…」

「よしよし。予想はしてたよ…」

「だろ?」

 

「ですが、魔物でさえ心変わりをするのですから、きっかけさえあれば変わるかもしれませんよ。お仕事は真面目にされる方のようですから」

 

「つまり、サチの頑張り次第、って事だね」

「それ、サチにできるのか?」

 

「逆にサチが悪に変わったりして…」

 

 

 ワルい顔で、いっひっひー!と笑うサチを想像してしまう3人。

 

 

「リリ姉ってば!冗談はよして!」

「って言いながら、しっかり想像してたよな?アイミー」

「してないもんっ」

 

「サチさんを信じましょう。時に、サチさんの持っていた光の玉は、まだ本人が持っているのですか?」

 

「あの玉?どうしたっけ。アタシは預かってないよ」

「私も。お兄ちゃんは?」

「俺も知らん。サチが持ってるだろ。飛び跳ねても転んでも落とした事ないって言ってたし」

 

「であれば希望が持てます。今やあれは強力な善のパワーを宿していますから」

「元は闇の玉だったのに?」

 

 

「サチさんの善なる力が変えたのです」

 

 

 

 一行に、希望の光が見えて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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