旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第77話:リーダーの帰還

 

 

 サチがこちらへ向かっている頃、ボシュ達は引き続きダーマ神殿にいた。

 

 

 何やかんやと居座り、勧められるままに特級職の試練を受ける事になったのだ。

 

 今の3人は気迫が違う。

 あっという間にクリアしていた。

 

 

「お3方とも、特級職壱の試練突破おめでとうございます。これで新たな技が習得できましたね」

 

「アイミーが一番乗りってのが驚いたなー」

「ねー。やっぱ若さかな?」

「皆そんなに変わらないでしょっ」

 

 一番手で試練を受けたボシュなだけに、試練クリアをアイミーに追い抜かれちょっぴり悔しそうだ。

 リリはかつての遅れからかなり挽回し、晴れて二人に追いつき、現在に至る。

 

 

「あとは…」

「我らがリーダーだな」

「サチ…いつ帰って来るんだろう」

 

 

 

 そんな時。上空から声が微かに聞こえて来た。

 

『皆~…』

 

 

「今俺、幻聴まで聞こえちまったぜ!」

「アタシも…」

 

「え、それ私も…これって幻聴なの?」

 

 

 3人の目は一拍置いて聞こえた方に向く。

 高い空が広がるそこに、黒い影が一つ浮いている。

 

 

「何かいるぞ、あそこ」

「鳥かなんかかな」

「にしちゃデカくない?近づいて来るよ!」

 

「魔物なら俺にっ」

 

 鼻息荒くボシュが大剣を抜こうとするのを、アイミーが止める。

 

「お兄ちゃん!ここ神殿の中庭だよ!」

「わざわざココに舞い降りるなんて、よっぽど命知らずな魔物だわね~」

 

「素手ならいいのか?」

 

 

 拳を鳴らして見せるボシュに、リリが言う。

 

「…やってもいいかも」

「リリ姉までっ」

 

 

「だってあれって!」

 

 

 まだ逆光で良く見えないが、それがサチを連れ去った冥王だと察したリリ。

 それはドレス姿の薄緑のロングヘア女を横抱きにして飛んで来る。

 

 

「皆ーっ!!」

 

 

 そのドレスの女が手を振って声を張り上げていた。

 どういう訳かサチの声によく似ている。

 

 

「さっきの声だな」

「あれ、サチなの?!」

「何で姫抱っこされて帰って来るのさ、ちょっと羨ましいんだけどっ!」

 

「おいリリ姉…マジで言ってんのか?」

 

 リリの妙に感情のこもった発言に、一気にやる気を削がれたボシュであった。

 

 

「早く下ろしてっ、いつまで触ってるのよ、バカ!」

「…」

 

 目と鼻の先まで来た冥王は、抱きかかえる女にポカスカと叩かれながら地上へと下ろした。

 

 

「その言動、やっぱお前サチだな」

「サチ、その姿は…」

「どっからどう見ても花嫁装束!まさかここで結婚式挙げる気?」

 

「違うったら…っ。結婚なんてしないわ。ちなみにこれ、ウィッグだからね」

 

 へアドレスをチラと持ち上げると、サチのトレードマークのチェリーピンクの髪が見えた。

 

 

 地上に降りる事無く一人ぷかぷか浮かんでいるネルゲルを睨みながらサチが続ける。

 

「この人に服とか一式捨てられちゃって仕方なく」

「でも元気そうで良かった!戻って来てくれて嬉しいよぉ~…!」

「心配かけてゴメンね、アイミー、皆」

 

 抱きついて来たアイミーを受け止めながら、サチはボシュとリリに視線を移す。

 

「それはいいんだが…アイツは何しに来たんだ?」

「お供するって。目障りだけど、どうかお願い。じゃないとここにいられないの」

 

「「どういう事?」」

 

 

 これに答えたのはネルゲル本人だ。

 

「花嫁を守るのは婿の務めであろう」

 

 

「きゃーっ!許嫁、憧れるぅ~」

「リリ姉ってば!勝手にあっちが言ってるだけだからね?」

 

「しかし、冥王ってのは暇なのか?」

「それ私も散々思ったー」

「…無礼な。暇などではない」

 

「いや暇じゃなきゃできねーって。なあ?」

「なー!」

 

 

 ボシュとサチが意気投合する姿を見て、ネルゲルに嫉妬という感情が湧き起こる。

 

「そこの小僧。おぬしはサチの何なのだ?」

 

 

「まーた小僧呼ばわりかよ!ま、そっちは500年も生きてるんだからしゃーねーか」

「ちょっと待った!500年?何でそんな事知ってるの?」

「おいおい、何も知らないのか?許嫁なのに」

 

「だから違うったら!で、…この人、魔物なの?」

 

 サチが疑惑の目を斜め上に向けて言う。

 

 

「確定じゃないよ。ただ見るからに…ってハナシ」

「ああ。何だ、ビックリしたー」

 

「下々の人間よ。我はいずれ神になる存在ぞ」

 

「ま~た言ってる。どう思う?皆」

「どうって言われてもなぁ。アイミーどう思う?」

「う~ん。神様になるなら、角はいらないかな」

 

 

「んなっ…何じゃと?」

 

 ネルゲルが動揺した様子で角に触れる。

 

 

「あと、顔色も良くないからどうにかしないとだね」

「ちょっとアイミー、全部容姿についての文句!いろんな種族いるんだから尊重しないと?」

「そこの金の髪の女、なかなか良い事を言う」

 

「うふっ。下々の女、見直した?アタシはリリ、ヨロ!」

 

 ウインクを飛ばしながらリリが自己紹介した。

 

 

「勝手にやってくれ…」

 

 

「それより皆、ここで何してるの?」

「おお!ダーマの試練特級職バージョン、壱の道クリアしたぜ!3人ともな」

「え、ホント?凄い!皆頑張ってたんだね…っ」

 

「そうだよ。魔王の手に勝たなきゃ」

「今度はアタシも力になれるよ。アンコールが使えるようになったの!」

 

 アンコールは、指定した者にもう一度出番を与える技である。

 

 

「みんな~、うえ~ん…!」

「ヤだよこの子は、何で泣くの?ほらサチ!」

「だってっ、ひくっ、嬉しくてっ、ズル」

 

「…もう。はいティッシュ。鼻水出てるよ?サチ」

「あんがと…」

 

「あとはお前だけだぜ?リーダー」

 

 

「それなんだけど、私、リーダー降りようかな」

「まだ言ってんのかよ。まさか冒険者までやめる気じゃないよな?」

 

 

 ここでネルゲルがピクリと反応した事は誰も気づいていない。

 やめてくれれば悩みが一つ消えるのだ。

 

 だがそれはあり得ないとネルゲルはすでに知る。

 

 

「やめないよ。だから戻って来たんじゃない。私のやるべき事は世界の平和を取り戻す事だから」

 

「良くぞ言った!アタシは信じてたよ」

「私も!リーダーはサチだよ。いない間はお兄ちゃんが立派に代理してくれてたから心配しないで」

「そうだ。俺は代理だ。サチが戻って来たならお前がリーダーだ」

 

「皆…っ」

 

「泣くのは禁止ねー。旦那になぐさめてもらいたいならよそでやって?」

「イジワルっ」

 

 サチがズルっと鼻を啜って涙をこらえる。

 そしてへへっと笑った。

 

 

 今の衣装に不釣り合いなサチらしい笑顔に、3人は安心感に包まれる。

 

 

「私だって向こうで修行してたんだから。レベル30になってるよ」

「それでこそリーダーだな。ちゃっちゃと試練クリアして来い!待ってるぜ」

 

 

「うん!待ってて!」

 

 サチは張り切って建物の中に入って行った。

 

 

 

「あれ?ネルゲルさんがいない」

「まさか神殿の中にまで付いてったのか?」

「入ってないよ。私ずっとサチを見てたもん」

 

「ま、別に俺らには関係ねーよ。それより、サチがクリアしたら早速行くだろ?」

「宿敵のとこにね。分かってる、アタシの出番でしょ?占い師の方の」

「おうよ!板について来たな、リリ姉の占い師も」

 

 

 中庭の真ん中にしゃがみ込み、荷物の中からおもむろに水晶を取り出す。

 

 ゴトリと芝の上に置いて覗き込む。

 

「どれどれ。占って進ぜよう」

 

 

「すぐに見えるの?」

「う~ん。どうだろう…ん?また何か飛んでるね」

「アイツが戻って来たんじゃねーのか」

 

「違う。角じゃなくてふっさふさの尻尾が見える」

 

「尻尾?あ、それってグリザードじゃない?」

「おお!そうだよ。奴なら居場所を知ってるかも」

「それなら場所移動しないとだね。ここにはさすがに来ずらいでしょ」

「元四天王だもんねぇ」

 

「冥王は構わず来たけどな!って事は、アイツは魔物じゃないのか…」

 

 どこかつまらなそうにボシュが言った。

 

 

 

 

 その後、サチは怒涛の勢いで試練をクリアした。

 

 

「良かったね、服貸してもらえて」

「うん」

 

「その色、サチに似合うね。ライラック色」

「これ、賢者さんの服らしいけど。あれより断然動きやすいから!手を倒したら新しいの新調しよっと」

 

 

「そうしな!けど、あの光の玉を失ったのは痛かったね。もうオーラまとえないじゃん」

「それにあれ、サチのお守りだったんでしょ…」

 

「だが、あれなしでネルゲルのヤツを説得したって事だろ?スゲーよ、マジで」

「サチが悪の道に走らなくてホッとしてる!」

 

 

「何それ?私は悪には染まらないわ。絶対!」

 

「絶対?断言できる理由は?」

「やけに食い付くね、リリ姉」

「いいから!根拠は!」

「ええと…」

 

「いいじゃねーかよ、そんな事。それよりほら、皆の分のジバリア耐性の心珠配ろうぜ!」

「あっ、そうそう!アタシが持ってたんだった。これ、皆身に着けてね。はい、サチの分」

 

 リリが小袋から小さな雫型の玉を取り出す。

 

 

「あ、これって…もしかして集めてくれたの?」

 

「そうだよ!これがあれば少しは手の攻撃に耐えられるかもでしょ」

「苦労したんだぜ?こんだけ集めるの。大半しょぼいのしかないが数持ちゃ何とかなんだろ」

「こんなに…。凄いよ、皆…っ」

 

「俺は多少耐性持ってるから、サチと回復役のリリ姉にA1個ずつ渡す。あとはBとCだ。アイミー、ちゃんと2個持てよ?」

 

 オーケー、了解、と言いながらそれぞれが心珠を手にした。

 

 

 そんな中、サチの目にまたも涙が溢れ出す。

 

「ありがとう…っ、凄い、皆、私、なんかもう…グスっ」

「サーチー?また~。そういうの禁止って言わなかった?」

 

 

 

「うん…っ、ゴメン!断然希望が湧いて来た!」

 

 零れた涙をぬぐい去り、サチが輝く笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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