旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第78話:魔王の巨腕最終決戦

 

 

 サチ達一行はダーマ神殿に別れを告げ、グリザードと再会する。

 

「この短期間にかなり力を付けたようだな」

 

 

「見ただけでそれが分かるお前もなかなかだぜ」

 

「もう負けないわ。グリザード、魔王の巨腕の居場所は分かる?」

「ああ。ようやく発見した。連れて行ってやる」

「ナイス!時短、大助かりだ」

「またお世話になります」

 

「…えっと。なりまーす」

 

 アイミーのブレない礼儀正しさに、リリが苦笑いで続いた。

 

 

 白銀の毛並みはとても心地良く、うっとりしながら撫でまくるサチとリリ。

 アイミーは落ちないようにとその毛をガッシリ掴み、ボシュは首の辺りを掴む。

 

 

「くすぐったいやら痛いやら。俺の背で好き放題やるな…!グハッ、首は絞めるな!」

 

「おっと悪い悪い!」

「ゴメンなさいっ、掴まるとこなくてっ…」

「だ~って、毛並み良すぎて。毛皮にしたいわ~」

「ね~。最高だろうなぁ」

 

 

 女性陣のコメントにギョッとするグリザードであった。

 

 

 

 

 

 そうこうするうちに、禍々しい気が漂う山が見えて来た。

 

 

「あそこか。すぐに分かるな」

「あれで隠れてるつもりだったらお笑い草だわね」

 

「不完全な肉体は、外気に触れているだけで腐って行く」

「この異物の存在自体が大地を汚染している。早く始末しなきゃ」

「今度こそ決着付けるぜ!」

 

 

 グリザードの背から飛び降りて身構える面々。

 

 やや離れた位置に浮いているネルゲルなど、皆の思考にはすっかりない。

 サチ的にはこんな事が日常であったためだが、3人としてもこれからの死闘を控えそれどころではないのだ。

 

 

 そんな存在感ゼロのネルゲルは、チラリとグリザードに目を向ける。

 あちらも全く関心を示しておらず。ここは恐れおののいてほしかたったところだが。

 

 その視線はすぐにサチに戻った。

 

 

「またも同じ事を繰り返すか…。悩ましい性格よ」

 

 

 自分も散々勇者の生まれ変わりを付け狙って来た。

 ターゲットを定めた暁には、どこまでも追い回すタチである。

 

 いざとなればサチだけを救う算段だが、ちょっぴりリリの事も助けようか悩んでいる。

 

 

 

 

 そんな者達が見守る中、サチ達の戦いが幕を開けた。

 

 

「自分の力を信じて、今回は受け流しをやめて最初から攻撃するぞ!」

「問題ない。吹き飛ばされたらアタシがサマーメモリーで呼び戻したげるから!」

「お兄ちゃんったらそんな強気に…私はどうしよう」

 

「皆強くなってる。大丈夫、アイミーも攻撃しまくって!私は威圧して攻撃力下げてみる」

「分かった。やれるだけやってみよう!」

 

 

 1ターン目、リリ以外が攻撃。

 敵の様子を見るにこれまでと大差のないダメージの入り方だ。

 そして敵からの攻撃。大きく振りかぶった手がサチ目がけて飛んで来た。

 

 が、何とミスをしたではないか。

 

 

「ラッキーだわ、吹き飛ばされずに済んだ。勝利の女神が微笑んでるかも!皆、このまま攻撃しまくろう!」

「アタシもラッキー!皆お裾分けだよ、スカラー!」

 

 

 そしてついに敵は地表ひっくり返しの技を使って来る。

 

「来るぞ!皆で耐えるんだ!」

「耐性がどれだけ効くか…っ」

「神様仏様っ」

「ひい~っ」

 

 

 飛び散った土砂やら岩石が落ち着いてみれば、どうにか全員生き残っている。

 

「やった!皆踏ん張ったね!」

「よし!そんじゃ反撃開始だ!」

 

 

 途中リリの回復魔法で体力が戻るも、次のターンでアイミーに強力な一発が直撃してしまう。

 

「きゃあ~~!」

 

 

「アイミー!ああ…っ、やられた」

「大丈夫、生き返らせる。アタシってばこの呪文得意になっちゃった。戻っておいでアイミー!ザオラルー!!」

 

 サチのために何度も唱えて来たこの呪文。

 

 

 サチは泣きそうな顔で笑う。様々な感情が溢れて来る。

 

 

「ありがとリリ姉!生き返ったよ!よお~し、覚悟、手!マヒャデドスー!!」

 

 リリのスピードがアップしたお陰で、生き返った直後にアイミーの出番だ。

 

 

「あと少しで倒せるっ、リリ姉、もう回復はいいから、アイミーにアンコールして!」

「了解!初の発動アンコール!」

 

「任せて!さっきのお返ししてあげるんだから!」

 

 

 クライマックスでまたもラッキーが訪れた。

 

 連続呪文とやまびこが発動し、アイミーは合計3回の攻撃をお見舞い。

 さらに本来の順番により再びアイミーの攻撃が加わり、宿敵魔王の巨腕がユラユラとよろめいた。

 

 

「ゴゴゴ…?!」

 

 最後の一撃を受けた巨腕はドロドロとその場に崩れ落ちた。

 

 

「やったか…」

「やっつけた?」

「皆、やったよ!アイミーお手柄!」

 

 

「さすがだな。サチ。やはりお前達の力は本物だ」

 

「これで魔王の復活、止められたかな」

「いや…こうしている間にも、魔物達は世界中に封印された肉体を探している。全てを食い止める事はできまい」

「じゃあ、どうしたらいいの!」

 

「甦った魂の方を封印するしかない。そのためにはサチ、お前はさらなる高みを目指さねばならん」

 

 

「…やれる。皆となら、私は負けないわ」

 

「そう来なくっちゃ?」

「おうよ!」

「そうだよ!」

 

 

 

 前回は戦いの後、皆ボロボロでこんな会話もままならなかった。

 そもそもサチがその場にいなかったのだが。

 

 今回は何せ運が良かった。それも抜群のチームワークが呼び寄せた結果かもしれない。

 

 今回の事で、サチ達は精神的強さも手に入れた。

 

 

 サチがグリザードに向き直る。

 

「いろいろありがとう。あなたはもう魔王から解放されたんだから、悪い事には手を出さないでね?」

「それを言うな。まあ、そうだな…俺は随分長い事、自分の正体も忘れて悪事を働いた身」

「悪さしてもいいぜ?俺らが倒しに行くだけだからな!ま、勝てないと分かってる戦いなんてしないだろうが?」

 

 

「フフ…。悪さはやめて、まずは氷魔の山へ戻り、一族の生き残りを探す事から始めるさ」

 

「そっか」

「きっとどこかに仲間がいるよ」

「他の国に逃げのびた人もいるかも。広範囲に探した方がいいよ」

 

 

 グリザードが頷いた後に、再びサチに目を向ける。

 

「だがサチ。お前には大きな借りがある。いずれ返さねばならん」

「そんな、もう十分返してもらったよ?」

「もし俺の力が必要になった時は、必ず駆け付けると約束しよう」

「…まあ、それはとても心強いわ。ありがとう」

 

 

「ではまた会おう。いずれ英雄を継ぐ者よ」

 

 そう言い残し、グリザードは翼を広げて舞い上がると、やがてその姿は大空の中へ消えた。

 

 

 

・・・

 

 

 

 例のごとく戦いの後の打ち上げが催されている。

 

 

「近くに村があって良かったねー。しかもイイ感じのお店っ」

「宿も確保したし、ゆっくり休めるね」

 

「一番の功労者アイミーには一番いいベッドを使ってもらうからね」

「そんな、私はいいよ!サチが使って?今まで大変だったでしょ、あっちで」

 

 

 いくつもの空のグラスを前に、一同の視線がサチに集まる。

 

 

「あっちでどんな暮らししてたんだ?あの束縛激しめ野郎の事だ、どっかに閉じ込められてたんだろ」

「やりそ~。でも鍛練はさせてもらえてたんだもんね」

「冥界ってどんな所?」

 

 

 サチはジョッキの酒を一気に飲み干した。

 

「うい~っ、美味ひ~!」

 

 

「ちょっと、ペース早すぎ。もう酔ってない?」

「まだ酔うな?ちゃんと話聞かせろ!」

「話も何も、ひたすら付いて来られてノイローゼよ」

 

「そう言えば、ここには付いて来てないね。どこ行ったんだろう」

 

「同じテーブルに着いてたら怖いって!」

「アタシは誘っても良かったけど?」

「ねえサチ。いいの?ほったらかしで」

 

 

「ちょっと?なんで皆、そんなにアイツの事気に掛けるのよ」

 

「だ~って。アンタの旦那でしょ?」

「残念だけど、私も諦めるよ。お姉さんになる件は」

「だから何だよその件って。勝手に決めんな!」

 

 

 サチが持っていたジョッキをドン、と音を鳴らしてテーブルに置く。

 

 

「サチ?」

「…っ。旦那じゃない。私は、あんな自分勝手なオレ様男は、好きじゃないっ!」

 

「ったって相手は冥王だろ。偉いヤツがオレ様なのは仕方ねーんじゃねえの?」

「そうだよ。威厳があるって言い換えればさ」

「アイツ、リリ姉の事気に入ってたみたい。入れ替わっちゃおうよ、リリ姉~」

 

「いいよっ」

 

 

 あまりにあっさり答えたリリに、皆が二度見した。

 

 

「ダメ!サチもリリ姉もいなくなっちゃダメ!」

「そうだよ。魔物討伐どうすんだよ?」

 

「やるよ。終わってからに決まってるっしょ。あ、でも待って。先約あったんだ、ごめんサチ!」

「キングスライムにも求婚されてたっけなー」

「え~…っ。あれ本気だったの?」

「もち」

 

「ホント変わってるぜ、この女!」

 

 

「ボシュ君」

「な、何だよ改まって」

 

「アタシという女がいたお陰で、君に免疫が付いたんだからね?忘れずに!もっと敬ってほしいなぁ」

「懐かしいね~、最初の頃お兄ちゃんリリ姉の事まともに見れなかったもんね」

「そっ、そんな昔の事蒸し返すなっ。単に見慣れちまっただけだよ!」

 

 

「こ~んな美しい女を見慣れちゃったら、嫁探しは難航するだろうね」

「サチももう手の届かない人になっちゃったしね」

 

「ばっ、バカ野郎!サチとそういう関係とか考えてねー!」

 

 

 ここでサチがポツリと言う。

 

「手、届くよ?アイツなんかより、ボシュの方が断然イイ男だもの。ボシュが私を奪ってくれれば…」

「なななっ、何言ってんだよ、お前まで!」

 

「お兄ちゃん奪おう!そうすれば私の願い叶う!」

「はあ?バカ言ってんじゃねー!サチも酔いすぎだ、もう飲むな」

 

 

「そんなにイヤならさ~、こっぴどくフレばいいじゃん?」

 

「サチ優しいからできないんだよ」

「優しいか?コイツ」

「う~ん。優しいって言うか的外れって言うか」

「要はズレだな」

 

 

「ちょっとぉー、好き放題言ってくれちゃってー」

 

 テーブルに突っ伏しての発言である。

 

 

「サチ、マジで飲みすぎ。もうやめな。今日はもうお開きね。部屋に行こう?」

「そんじゃ、また明日」

「うん。お休み」

 

 

 男女別々の部屋のためボシュだけが一人部屋だ。

 

 

 

 

 宿にて、酔い潰れたサチをベッドに寝かせた時、宿の主人が顔を出した。

 

 

「サチさんはどちらの方で?」

 

 

「あ、この人でーす」

 

 ベッドに転がしたばかりの人物を見やり、リリが答える。

 

 

「ご用は何ですか?」

 

「お届け物です。ご本人に渡すようにとの事でして」

「本人ここにいるんで、受け取るのはアタシらでもいいでしょ?」

「ですね。じゃあ、はいこれ。ではごゆっくり!」

 

 主人は綺麗に畳まれた衣服と、その上にポンと乗った手のひらサイズの小さな水晶を手渡すと、さっさと部屋を出て行った。

 

 

 

「これって、あの日サチが着てた服じゃん…」

「光の玉も!ネルゲルさん、捨ててなかったんだね」

 

「へ~。案外優しい男なんじゃないの?サチには!」

 

 

 眠りこけているサチを見下ろし、二人は肩をすくめて微笑み合った。

 

 

 

 

 

 

 

 




巨腕に勝利するのに2か月強かかりました。嫌気が差してしばらくやめていたので…。今思えば勝てたのは運でしかないです(笑)
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