サチ達一行はダーマ神殿に別れを告げ、グリザードと再会する。
「この短期間にかなり力を付けたようだな」
「見ただけでそれが分かるお前もなかなかだぜ」
「もう負けないわ。グリザード、魔王の巨腕の居場所は分かる?」
「ああ。ようやく発見した。連れて行ってやる」
「ナイス!時短、大助かりだ」
「またお世話になります」
「…えっと。なりまーす」
アイミーのブレない礼儀正しさに、リリが苦笑いで続いた。
白銀の毛並みはとても心地良く、うっとりしながら撫でまくるサチとリリ。
アイミーは落ちないようにとその毛をガッシリ掴み、ボシュは首の辺りを掴む。
「くすぐったいやら痛いやら。俺の背で好き放題やるな…!グハッ、首は絞めるな!」
「おっと悪い悪い!」
「ゴメンなさいっ、掴まるとこなくてっ…」
「だ~って、毛並み良すぎて。毛皮にしたいわ~」
「ね~。最高だろうなぁ」
女性陣のコメントにギョッとするグリザードであった。
そうこうするうちに、禍々しい気が漂う山が見えて来た。
「あそこか。すぐに分かるな」
「あれで隠れてるつもりだったらお笑い草だわね」
「不完全な肉体は、外気に触れているだけで腐って行く」
「この異物の存在自体が大地を汚染している。早く始末しなきゃ」
「今度こそ決着付けるぜ!」
グリザードの背から飛び降りて身構える面々。
やや離れた位置に浮いているネルゲルなど、皆の思考にはすっかりない。
サチ的にはこんな事が日常であったためだが、3人としてもこれからの死闘を控えそれどころではないのだ。
そんな存在感ゼロのネルゲルは、チラリとグリザードに目を向ける。
あちらも全く関心を示しておらず。ここは恐れおののいてほしかたったところだが。
その視線はすぐにサチに戻った。
「またも同じ事を繰り返すか…。悩ましい性格よ」
自分も散々勇者の生まれ変わりを付け狙って来た。
ターゲットを定めた暁には、どこまでも追い回すタチである。
いざとなればサチだけを救う算段だが、ちょっぴりリリの事も助けようか悩んでいる。
そんな者達が見守る中、サチ達の戦いが幕を開けた。
「自分の力を信じて、今回は受け流しをやめて最初から攻撃するぞ!」
「問題ない。吹き飛ばされたらアタシがサマーメモリーで呼び戻したげるから!」
「お兄ちゃんったらそんな強気に…私はどうしよう」
「皆強くなってる。大丈夫、アイミーも攻撃しまくって!私は威圧して攻撃力下げてみる」
「分かった。やれるだけやってみよう!」
1ターン目、リリ以外が攻撃。
敵の様子を見るにこれまでと大差のないダメージの入り方だ。
そして敵からの攻撃。大きく振りかぶった手がサチ目がけて飛んで来た。
が、何とミスをしたではないか。
「ラッキーだわ、吹き飛ばされずに済んだ。勝利の女神が微笑んでるかも!皆、このまま攻撃しまくろう!」
「アタシもラッキー!皆お裾分けだよ、スカラー!」
そしてついに敵は地表ひっくり返しの技を使って来る。
「来るぞ!皆で耐えるんだ!」
「耐性がどれだけ効くか…っ」
「神様仏様っ」
「ひい~っ」
飛び散った土砂やら岩石が落ち着いてみれば、どうにか全員生き残っている。
「やった!皆踏ん張ったね!」
「よし!そんじゃ反撃開始だ!」
途中リリの回復魔法で体力が戻るも、次のターンでアイミーに強力な一発が直撃してしまう。
「きゃあ~~!」
「アイミー!ああ…っ、やられた」
「大丈夫、生き返らせる。アタシってばこの呪文得意になっちゃった。戻っておいでアイミー!ザオラルー!!」
サチのために何度も唱えて来たこの呪文。
サチは泣きそうな顔で笑う。様々な感情が溢れて来る。
「ありがとリリ姉!生き返ったよ!よお~し、覚悟、手!マヒャデドスー!!」
リリのスピードがアップしたお陰で、生き返った直後にアイミーの出番だ。
「あと少しで倒せるっ、リリ姉、もう回復はいいから、アイミーにアンコールして!」
「了解!初の発動アンコール!」
「任せて!さっきのお返ししてあげるんだから!」
クライマックスでまたもラッキーが訪れた。
連続呪文とやまびこが発動し、アイミーは合計3回の攻撃をお見舞い。
さらに本来の順番により再びアイミーの攻撃が加わり、宿敵魔王の巨腕がユラユラとよろめいた。
「ゴゴゴ…?!」
最後の一撃を受けた巨腕はドロドロとその場に崩れ落ちた。
「やったか…」
「やっつけた?」
「皆、やったよ!アイミーお手柄!」
「さすがだな。サチ。やはりお前達の力は本物だ」
「これで魔王の復活、止められたかな」
「いや…こうしている間にも、魔物達は世界中に封印された肉体を探している。全てを食い止める事はできまい」
「じゃあ、どうしたらいいの!」
「甦った魂の方を封印するしかない。そのためにはサチ、お前はさらなる高みを目指さねばならん」
「…やれる。皆となら、私は負けないわ」
「そう来なくっちゃ?」
「おうよ!」
「そうだよ!」
前回は戦いの後、皆ボロボロでこんな会話もままならなかった。
そもそもサチがその場にいなかったのだが。
今回は何せ運が良かった。それも抜群のチームワークが呼び寄せた結果かもしれない。
今回の事で、サチ達は精神的強さも手に入れた。
サチがグリザードに向き直る。
「いろいろありがとう。あなたはもう魔王から解放されたんだから、悪い事には手を出さないでね?」
「それを言うな。まあ、そうだな…俺は随分長い事、自分の正体も忘れて悪事を働いた身」
「悪さしてもいいぜ?俺らが倒しに行くだけだからな!ま、勝てないと分かってる戦いなんてしないだろうが?」
「フフ…。悪さはやめて、まずは氷魔の山へ戻り、一族の生き残りを探す事から始めるさ」
「そっか」
「きっとどこかに仲間がいるよ」
「他の国に逃げのびた人もいるかも。広範囲に探した方がいいよ」
グリザードが頷いた後に、再びサチに目を向ける。
「だがサチ。お前には大きな借りがある。いずれ返さねばならん」
「そんな、もう十分返してもらったよ?」
「もし俺の力が必要になった時は、必ず駆け付けると約束しよう」
「…まあ、それはとても心強いわ。ありがとう」
「ではまた会おう。いずれ英雄を継ぐ者よ」
そう言い残し、グリザードは翼を広げて舞い上がると、やがてその姿は大空の中へ消えた。
・・・
例のごとく戦いの後の打ち上げが催されている。
「近くに村があって良かったねー。しかもイイ感じのお店っ」
「宿も確保したし、ゆっくり休めるね」
「一番の功労者アイミーには一番いいベッドを使ってもらうからね」
「そんな、私はいいよ!サチが使って?今まで大変だったでしょ、あっちで」
いくつもの空のグラスを前に、一同の視線がサチに集まる。
「あっちでどんな暮らししてたんだ?あの束縛激しめ野郎の事だ、どっかに閉じ込められてたんだろ」
「やりそ~。でも鍛練はさせてもらえてたんだもんね」
「冥界ってどんな所?」
サチはジョッキの酒を一気に飲み干した。
「うい~っ、美味ひ~!」
「ちょっと、ペース早すぎ。もう酔ってない?」
「まだ酔うな?ちゃんと話聞かせろ!」
「話も何も、ひたすら付いて来られてノイローゼよ」
「そう言えば、ここには付いて来てないね。どこ行ったんだろう」
「同じテーブルに着いてたら怖いって!」
「アタシは誘っても良かったけど?」
「ねえサチ。いいの?ほったらかしで」
「ちょっと?なんで皆、そんなにアイツの事気に掛けるのよ」
「だ~って。アンタの旦那でしょ?」
「残念だけど、私も諦めるよ。お姉さんになる件は」
「だから何だよその件って。勝手に決めんな!」
サチが持っていたジョッキをドン、と音を鳴らしてテーブルに置く。
「サチ?」
「…っ。旦那じゃない。私は、あんな自分勝手なオレ様男は、好きじゃないっ!」
「ったって相手は冥王だろ。偉いヤツがオレ様なのは仕方ねーんじゃねえの?」
「そうだよ。威厳があるって言い換えればさ」
「アイツ、リリ姉の事気に入ってたみたい。入れ替わっちゃおうよ、リリ姉~」
「いいよっ」
あまりにあっさり答えたリリに、皆が二度見した。
「ダメ!サチもリリ姉もいなくなっちゃダメ!」
「そうだよ。魔物討伐どうすんだよ?」
「やるよ。終わってからに決まってるっしょ。あ、でも待って。先約あったんだ、ごめんサチ!」
「キングスライムにも求婚されてたっけなー」
「え~…っ。あれ本気だったの?」
「もち」
「ホント変わってるぜ、この女!」
「ボシュ君」
「な、何だよ改まって」
「アタシという女がいたお陰で、君に免疫が付いたんだからね?忘れずに!もっと敬ってほしいなぁ」
「懐かしいね~、最初の頃お兄ちゃんリリ姉の事まともに見れなかったもんね」
「そっ、そんな昔の事蒸し返すなっ。単に見慣れちまっただけだよ!」
「こ~んな美しい女を見慣れちゃったら、嫁探しは難航するだろうね」
「サチももう手の届かない人になっちゃったしね」
「ばっ、バカ野郎!サチとそういう関係とか考えてねー!」
ここでサチがポツリと言う。
「手、届くよ?アイツなんかより、ボシュの方が断然イイ男だもの。ボシュが私を奪ってくれれば…」
「なななっ、何言ってんだよ、お前まで!」
「お兄ちゃん奪おう!そうすれば私の願い叶う!」
「はあ?バカ言ってんじゃねー!サチも酔いすぎだ、もう飲むな」
「そんなにイヤならさ~、こっぴどくフレばいいじゃん?」
「サチ優しいからできないんだよ」
「優しいか?コイツ」
「う~ん。優しいって言うか的外れって言うか」
「要はズレだな」
「ちょっとぉー、好き放題言ってくれちゃってー」
テーブルに突っ伏しての発言である。
「サチ、マジで飲みすぎ。もうやめな。今日はもうお開きね。部屋に行こう?」
「そんじゃ、また明日」
「うん。お休み」
男女別々の部屋のためボシュだけが一人部屋だ。
宿にて、酔い潰れたサチをベッドに寝かせた時、宿の主人が顔を出した。
「サチさんはどちらの方で?」
「あ、この人でーす」
ベッドに転がしたばかりの人物を見やり、リリが答える。
「ご用は何ですか?」
「お届け物です。ご本人に渡すようにとの事でして」
「本人ここにいるんで、受け取るのはアタシらでもいいでしょ?」
「ですね。じゃあ、はいこれ。ではごゆっくり!」
主人は綺麗に畳まれた衣服と、その上にポンと乗った手のひらサイズの小さな水晶を手渡すと、さっさと部屋を出て行った。
「これって、あの日サチが着てた服じゃん…」
「光の玉も!ネルゲルさん、捨ててなかったんだね」
「へ~。案外優しい男なんじゃないの?サチには!」
眠りこけているサチを見下ろし、二人は肩をすくめて微笑み合った。
巨腕に勝利するのに2か月強かかりました。嫌気が差してしばらくやめていたので…。今思えば勝てたのは運でしかないです(笑)