旅の仲間は家族となりて   作:氷ユリ

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第7話:面接試験

 

 

 山を越え谷を越え草原を抜けると、だだっ広い砂地に出た。

 

 

「そろそろ着くわ。私が遅すぎたから、姉さまの機嫌が悪かったらどうしよう…」

「おい、悪かったらどうなる?」

「怒りは炎に変わる。何かが燃える」

「はぁ?!何だよそれ!」

「そんな事なら、さっき倒した魔物の死体持って来れば良かったわね」

「さっきはサチが木っ端微塵にしちゃったから、その前の私が倒した小物さんのね」

 

 リリがそうだった!と相槌を打つ。

 

 

「お前ら、何をのん気な事を…」

「まあまあ。そんなに神経を張り詰める事はない。おぬしはパーティ唯一の男子、弾かれる事はないであろ!」

 

 こちらも陽気にボヨンボヨンしながら語る。

 

「俺に足りないのは、こいつらみたいな図太い神経かもな」

「で、ある!」

 

 

 

 

 前方に広がる砂地の奥で、キラリと光るものが見えた。

 

「あっちで今何か光ったわ」

「きっと姉さまよ!行こう!」

 

 真っ先にサチが走り出した。続いてリリ、アイミーも走り出す。

 

「お兄ちゃん!ビリはまずいんじゃない?ビリは!やる気が感じられないよ~!」

「おおそうか、もう面接試験は始まってるのか。よし、日頃の走り込みの成果を見せてやる!」

 

 途端にボシュがダッシュで3人を追い抜いた。

 

「そうは行かない!」

「くっ、お前、足も速いな。負けるか!」

 

 

 ボシュに並んだのはサチだけだ。

 

 

 

 

 こうして光の元へ競い合って駆け込む。

 

 

「ゴール!サチ様の勝利!参ったか?」

「そんなバカな…っ、この俺が負けるなんて」

 

 

「サチよ。ようやく戻って来たか。その威勢の良さそうな若者が仲間か?」

「姉さま!そうです!会いたかったぁ!」

 

 全力疾走で息の上がったボシュとは裏腹に、サチの呼吸は興奮によって上がる。

 そして目の前の銀髪ロングの美女に抱きつく。

 玉虫色の衣には各所に金があしらわれ、背を覆うのは紫色に金の刺繡が施されたマント。

 衣と揃いのブーツを履き仁王立ちするその姿は、神々しさすら感じられる。

 

 

 どうにか息を整えてボシュが体勢を起こした辺りで、2名プラス1が到着した。

 

 

 サチの抱擁に腕すら回す事もなく、腕組みをしたままのドラちん。

 集まった面々に順に視線を流して行く。たったこれだけの事で、サチ以外が震え上がる。

 

 

「…何だか悪寒がっ」

「ひっ…」

 

 最初に視線を浴びていたボシュはすでに硬直状態。

 リリとアイミーが肩を震わせる中、最後に目線はより下へと向かう。

 

 

「…なぜ?」

 

 

「ドラちん、久しぶりじゃのう。また一段と美しくなったではないか?その眼差しが堪らん、相変わらず痺れるのであるっ」

 

 

 ジョニーの言葉に、サチはドラちんから体を離す。

 

 

「姉さま、ジョニじいの事知ってるの?」

「ジョニ、じい…とな!」

「そうじゃ、ジョニじいなのじゃ!結構気に入っているのである。お前も呼ぶがよい!」

「尊敬する師匠殿を、そんなふざけた名で呼べる訳がなかろうが!」

「し、しょう?ジョニじいが、姉さまの師匠!?」

 

 

 もはやギャラリーと化しつつある3人も、驚きを隠せない。

 

 

「ウソ…って事はさ、サチの師匠の、そのまた師匠って事よね?」

「私達、そんなスゴイ人に教わってたのね…」

「ある意味ではラッキーよ。これでアタシら、全員合格間違いなしじゃない?」

「そうかなぁ」

 

「そうよ!ここはアピールあるのみ!ドラちんさん、アタシはリリと言います!特技は踊りですが、この杖で頑張るのでよろしくお願いしまーす!」

 

 一歩前に出たリリは、先程までの緊張はどこへやら、勢い良く自己紹介を始める。

 皆の視線が集まってもへっちゃら。

 踊り子として常に視線を浴びて来た。むしろもっと見て!とポーズを決め込む。

 

 

「これはまた、師匠殿が好みそうな娘だ。スカウトされたか」

「はい。してくれたのはサチですが。でも自分の意思で決めて、付いて来ました」

 

 

 リリの持つ雨雲の杖をしばし眺めていたドラちん。

 

 

「なかなかの逸材であろう?ワシが見つけた訳じゃないがの~」

「姉さま、皆自分の意思で付いて来てくれました。無理に連れて来た訳じゃないですからね?」

 

 サチの言葉を受けて、今度はボシュが口を開く。

 

「俺はボシュ、武闘家だ。こっちは妹のアイミー、僧侶見習いをしてる。俺達も、サチと志しを同じくする者だ」

「ほう…」

 

 背にした煉獄の大剣を擦りながら、ドラちんは言葉少なだ。

 

「姉さま?仲間として皆を認めてくれますよね?」

「サチ」

「はい!」

 

「どのような手を使って師匠殿を引き入れた?こうなっては、俺が口を出せる状況ではないではないか」

「どんな手も何も、ジョニじいが勝手に困ってて、それを偶然私が見つけて手を貸しただけよ」

「して、師匠殿が困る事態とは?」

 

 

 ドラちんが視線を再びジョニーに向ける。

 素知らぬ振りを決め込んだジョニーは、リリの横でボヨンボヨンしている。

 

 

「魔物に襲われてた」

「…」

 

「姉さま?」

「罠じゃ」

「え?」

「師匠殿が襲う事はあれど、襲われる事などあり得ん」

「でも、本当に困っていましたよ?」

 

「全く…いつになっても踊らされているな、俺は!まあ良い。お前に似合いの能天気そうな仲間だ、認めよう」

「本当ですか!ありがとう姉さま!これで一緒に行けるのですね…っ」

 

 チェリーピンクの大きな瞳をウルウルさせて、両手を胸の前に組みながらサチが言う。

 

 

「いや。共に旅をするのはもっと後だ。お前達はまだまだ半人前。まずは冒険のイロハを学ぶ事。もっと修行を積んでからだ」

「おぬしもそんな事が言えるようになったのだな。ワシは感動で泣きそうであるっ」

 

 ジョニーがいつの間にかドラちんとサチの間に割って入っている。

 

 

 この広い空間でギュウギュウになって立っている2名プラス1。

 

 

「あのそれで、ここだけ密度高くない?姉さまと密着は嬉しいけど」

「師匠殿、できればもっと離れていただけぬか」

「久々の再会が嬉しゅうてのぅ…」

「先程まであちらで楽しんでらしたのでは?」

「ん?んん。ボヨン」

 

「誤魔化しは俺には通じぬぞ?師匠殿」

 

 

 ドラちんの鋭いコメントにジョニーが後退った。

 

 

「ホントに姉さまの師匠なの?」

「このお方は時にエロジジイと化す。生粋の尻フェチ、お前も気を付ける事だ」

「知ってまーす。すでに被害に遭ってまーす」

「…ああ嘆かわしい!それさえなければ完璧なお方なのにっ」

 

 ドラちんが嘆く姿を初めて目にしたサチは、感動でいっぱいだ。

 

「姉さまが…姉さまが悩まし気にっ、まるで物語のヒロインのよう!ああ堪らないっ」

 

 

 

「…なあ。今思ったんだが、お前、そっちの気でもあんのか?」

「そっちってどっち?」

「ボシュ!そういう事を本人にズバリ言わない!」

「だが本人全く分かってないぜ?」

 

 ポカンとするサチを見る二人であった。

 

 

 

 一方、ドラちんとジョニーはいつの間にか距離を取り、密やかに会話する。

 

「師匠殿」

「何じゃ?」

「何を企んでおられる」

「人聞きの悪い!ワシは何も企んでなどおらん」

「…さようか」

 

「悩める若者達があまりに眩しくての、思わず手を貸しくなったのじゃ。お前の時のように?」

 

 

 沈黙したまま、ドラちんはただ師匠を見つめた。

 

 

 

 

「姉さま!急にいなくならないでください!」

「ここにいるだろうが?」

 

 ドラちんにべったりのサチを見て、ボシュの疑惑はさらに増した。

 素っ気ないながらも嫌がる素振りもないドラちんも同じ穴のムジナか。

 

 

「せっかくだ、俺のメンバーも紹介するとしよう」

「それ賛成!皆さんの姿見えないけどいるの?」

「恐らく…おい!集合だ!ちょっと来い」

 

 ドラちんが誰もいない空間に声を張る。

 

「また寒気がっ」

「私も…」

 

 

 次の瞬間、砂埃が舞い上がり視界が閉ざされた。

 

「はぁ~い!呼んだ?ド~ラちんっ」

「済まんドラちん、タイタンは来れん」

「なぜだ」

「それは~、リョウちんが~、呪いの術掛けたから?」

「そんなもの解けばよかろう。今すぐ連れて来い」

「つい先日魔法戦士になったんだぞ。覚えたての呪文なんで無理だ」

 

 

 ドラちんに青筋が立ちそうになり、サチが慌ててフォローを入れる。

 

 

「姉さま、取りあえず、来てくれた人達を先に!ね?」

「…」

「サチ、ナーイス!ね、ド~ラち~ん♡」

 

 

 

「何とも個性的なメンバーだ…」

「もう1人、タイタンって人みたいだから男ね。あっちは男が二人いるみたい、良かったじゃない!ボシュ君?」

「しかし、あの恐ろしい女の名がドラちんって…気安く呼べるかっ!…いや待て、お前さっきど

さくさに紛れて呼んでたよな?」

「アタシはちゃんと、さん付けで呼んだよ?それよりあの子の衣装見てよ!あれで戦えると思う?」

 

「えっとあの…私人見知りでっ、どうしようっ」

 

 

 強烈すぎるキャラの登場に、アイミーがうろたえ始める。

 

 

「大丈夫だアイミー、人と思うな」

「なら何て思うのさ」

「そうだな…しゃべる人形でどうだ?」

 

 出で立ちもかなり度肝を抜く。確かに人形と思えなくもない。

 

 

 最初に現れた女性は口調からも分かる通りギャル系だ。

 赤を基調とした装いで、ミニスカ、ガーターベルト。手にする赤の杖は背丈よりも高い。

 男性はシルバーのボブで片目が覆われている。

 大人しめの人物かと思いきや、相反して厳めしい鎧に身を包み、腰には細身の剣が収められている。

 

 

「まあよい。時が惜しい、さっさと紹介しよう。俺の仲間だ」

 

「ララで~す!そこの男子タイプ~っ、よろしくね?あ、私は賢者よん♪ゆくゆくは大神官で」

「俺はリョウだ。魔法戦士だ。なり立てだ」

「もう1人はレンジャーのタイタン。どうやら身動きが取れない状況らしいが…影縛りはレンジャーの得意技だろうが?全く、お前等何をしていたのだ?」

「ま~ま~!お願いだから“怒り”でその辺燃やさないでよ?そのうち来るって。招集掛かってるのは知ってるから~」

 

「燃やしはせん。来なければ置いて行くまで。こちらサチの出来立てホヤホヤのパーティメンバーだ」

 

 

 リリに続きボシュ、アイミーが自己紹介した。

 ララと名乗った女はしきりにボシュにアピールしている。

 当然ボシュは露出度高めの女子にタジタジである。

 

 

「ねえ。アンタの兄さん、年上女じゃなくてもダメじゃん?」

「まあ…あれだけ露骨だと」

「か。だわね~。ここは免疫付けるためにほっとこ」

「そうだね。お兄ちゃん、ゴメンっ」

 

 

 

 結局タイタンという男は姿を現さなかった。

 

 

「それじゃ姉さま、私達はそろそろ発ちます」

「そうだな。日が暮れる前にこの砂地を抜けて町に入るのがよかろう」

 

 

 こう自分から切り出したものの、あっという間に訪れた別れの時にサチは涙目になる。

 

 

「サチよ。お前はもう甘ったれの小娘ではないぞ。このパーティを仕切るリーダーなのだ。そのような情けないツラは二度とするな」

「っ。…分かりました!私、逞しくなってまた戻ってきます。だから姉さま、」

 

「いずれどこかで会えよう。楽しみにしている。サチ、それまで死ぬでないぞ?」

「死にませんとも!死んだら姉さまに会えなくなるものっ、絶対死にません!」

「ははっ!その意気じゃ」

 

 

 

 

 

 こうしてサチ達が旅立ち、その姿が豆粒ほどになった頃。

 

 

「いや~、参ったぜ!クっソ、リョウの野郎、次は絶対やられねぇからな!」

 

「遅いぞ、タイタン」

「悪い、遅れた。あれ、誰もいないが?」

「もう用は済んだ。サチはすでに旅立った」

「何だ、残念。そうか、サチのメンバー集まったんだな!良かったじゃないか?で?どうイジメた、ドラちん!」

「イジメてなどおらん。それより、お前達はどんな術を掛け合っていたのだ?そういう事をやる時は俺も混ぜろ」

 

 

 強くなる事への執着は凄まじい。実は興味津々のドラちんなのであった。

 

 

 

 

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